貴族のメンツ
祭りが終わり売り上げの米俵と大量の塩を持ち帰ってくる一同。
サボって寝ていたアキトが持ち込まれたそれらを見てポカンとする。
「こりゃあ…なんだ?」
「米俵よ。フフン、この時代は物々交換が主流なのよ?」
見聞きした付け焼き刃の知識をひけらかす黒鴉。アキトは物々交換と今知ったが貰ったものは喰い物ばかりじゃないかと呆れる。
「ま、こらなら米には困らないな」
「お米だけやけどなー」
玉藻前はくすくす笑いつつ台所に米俵を並べる。
功労者の葛之葉一派は「今日も働いた」と満足気な顔をしていた。
「それじゃ後のことと玉ちゃんのこと頼みますね」
「ああ。ん?…後のこと?」
アキトは嫌な予感を感じ言葉の意味を尋ねるが葛之葉達はそそくさと帰ってしまいアキトは何なんだと翔達に説明を求める。
「あー…それは…」
困り顔をしながら葛之葉が景明をボコボコにしたと説明してアキトは唖然とする。
「遺恨をモロに残すような戦いをしたのか?!見物人が多数いる中で?!」
アキトはあちゃーと頭を押さえてヤバいなと呟く。
「安部景明って藤村氏お抱えの陰陽師だろ?マズいだろ」
「やっぱり?マズいですよね…」
翔は頬を掻くが女性二人は「ざまあみろ」と言いたげだった。
「鼻に付く態度だし、あの穏健な葛之葉と決闘したって事は…喧嘩売ったって事よね?それで負けてるんだからざまあみろよ」
「せやせや、オカンの事を怒らせたんやから当然の帰結やで」
二人の言葉を鑑みてアキトは言い訳を考え始める。
「少なくとも藤村氏には迷惑掛けた訳だし…菓子折りの一つでも持ってかないと…」
「謝罪する必要あらへんやろ」
「貴族にもプライド…メンツってのがあるだろ?宮中でも名のある陰陽師だぞ?」
何か言われてから動けばいいんじゃないかと玉藻前は口を尖らせるのであった。
ーーーーー
翌日になって藤村氏のお抱え侍の水原氏から為義がわざわざ訪ねて来る。
「これはこれは為義殿、いかがなされたか…?」
アキトが白を切りつつ挨拶をする。
「お前達が我が主の陰陽師を観衆の前で負かしたそうじゃないか」
「あー、それは…」
「しかもおなごに負けたとなると…」
殺気が漏れている為義にアキトは落ち着くように伝える。
「俺らだって喧嘩したかった訳じゃないんだ…ちょっとした食い違いがあったに違いない」
「食い違いだと…?」
アキトは身振り手振りして聞いた話をやんわりと伝える。
「ふむ、つまり此方側から喧嘩を売った結果穏便に済ませようとしたが仕方なく戦いになった…と」
「そ、そうなりますね…」
説明を聞いて為義は少し考え込んで溜め息をつく。
「しかしケジメはケジメ…此方から喧嘩を売って負けました。で終わるのは藤村として納得はいかないだろう」
「ですよねー…」
「だが俺が討ち入りするのも筋違い…これはもはや俺の手に余る問題だ。景明殿自身に決めてもらうしかないな」
血なまぐさい話は回避出来たとアキトはホッと胸をなで下ろす。
「東雲、貴様何を考えている…?」
「へ?俺は何事も穏便に話が済めばいいなーって常日頃から思ってますよ?」
「あくまで平和主義か?…タヌキだな」
狸と言われて後ろで聞いていた三人が笑いを抑えきれずに吹き出す。アキトはバツが悪そうに苦笑いして恥ずかしさを誤魔化す。
「ったく、若い衆には困ったもんだ…」
「家長ならそれぐらい束ねろ」
為義に厳しい指摘を受けて面目ないとアキトは頭を下げるとやれやれと首を振られて為義は去っていくのであった。
「まぁ、何とかなったわね?」
「いや景明殿次第だな…まだ文句があるなら面倒事は継続するぞ?藤村氏のメンツもあるしな」
「お貴族様のメンツって面倒臭いわね…」
全員が「お前が言うな」と内心でツッコミを入れるのであった。
ーーーーー
次に四ノ宮から呼び出しを受けてアキトがお叱りを受けに向かう。
「やってくれたな…話を聞いたぞ?藤村氏の陰陽師と一戦交えたそうだな?」
頼永から詰められてアキトは頭を下げて平謝りする。
「申し訳ございません!」
「しかも観衆の眼前で戦ったそうだな…はぁ、気が重い…」
一応為義に説明した通りに此方からは喧嘩を売っていない事を何度もアピールする。
「しかし妖魔がどうとか騒ぎに…」
ギクッとアキトは肩が動く。
(やっべー、そりゃ葛之葉も怒るわ。妖魔扱いされて退治してやるなんて言われたら激怒するわ…)
葛之葉の事を考えてアキトは頬を掻いてそれは誤解であると答える。
「妖魔だなんて誤解もいいところだ。外部の協力者を使って商売しただけで…」
「祭りだからと勝手に商売したのか?!…少しは相談してくれ…」
本当にその通りであるとアキトも思い返してまた平謝りするのだった。
「で、売り上げは…?」
「米俵二つ…塩も結構な量…」
「…随分と儲けたな」
ちょっとだけ羨ましそうな声を漏らす頼永だったがすぐに真面目な空気に戻って今後の事を注意する。
「外部の協力者の出頭は…?」
「あー…出来るかなぁ…?帰っちゃったし」
それは困ると頼永は頭を抱えてしまうのであった。




