侍の仕事
餓鬼退治を終えて報告に四ノ宮の屋敷に帰ってきた一行。
報告を受けて四ノ宮の者は確認の末追って任を伝えると答える。
「え?それだけ?何か無いの?」
黒鴉が物足りない反応をするが報酬は求めないというアキトの約束があって激励の言葉だけで残念そうにするのであった。
屋敷に戻った所で玉藻前も愚痴をこぼしてしまう。
「アッキーが余計な事を言うから報酬無しなんやないの?」
「今回は受け入れの試験みたいなもんだろ?多くを求めても仕方ないぞ」
「むぅ…それもそうやな」
位の低い貴族に多くの報酬を求めるのは良くないと話し合いをして暫くは無報酬が当然として食事と寝床を貰ってるだけでも有難いと思おうとなるのであった。
翌日、日の出前に四ノ宮の主の護衛をする話が降りてきて話し合いをする中でアキトが的にされる。
「なんで俺…?」
「年長者が行くほうがいいでしょ?」
黒鴉の言葉に玉藻前がウンウンと頷き翔もなあなあで同意して多数決で決まる。
「やれやれ、翔がやるのが一番だと思うが…仕方ないな、世界について調べてきてやる」
アキトは早速四ノ宮の屋敷に向かう。
四ノ宮の屋敷では主である四ノ宮 頼永が待っていた。
齢四十程の男である頼永は貴族として位は低くても身なりはしっかりしていた。
「貴殿が近頃入ったとされる我が侍か…」
「実力は保証しますよ。頼永様」
「珍妙な服装をしているな」
黒コートを指摘されてアキトは頬を掻いてそれが自分の正装なんでと笑う。
「ふむ、実力に関しては息子の頼嗣から聞いておる。鬼を切ったそうだな」
「使命とあるなら鬼でも龍でも斬ってみせますよ」
「大層な自信だな。その言葉、裏切るなよ?」
頼永に圧力を掛けられながらもアキトは平然としていた。
頼永は普段取り次ぎをしてくれていた男を息子と紹介する。
「本日は息子の頼嗣の護衛を頼もう。宮中に行事の取り決めの会合がある。頼嗣はそこで書記をする事になっておる」
(書記か、それの護衛とは結構心配性だな)
口には出さないが内心そう思うアキトであったが仕事は全うしすると胸を張るのだった。
道中アキトは頼嗣と多少の雑談を交わす。
「書記官のお仕事に護衛とはお父上も心配性ですな」
「そんな事はありません。行事の取り決めという中でそれぞれの家の思惑が飛び交います。私はそれを上手く書に纏める必要があります故にそれなりに危うい立場ではあります」
アキトは新たに得る知見に「へぇー」と感心する。
「他家を貶めたり、己に有利な内容に調整しようとしたり…その為に書記官に脅しをかけたり必要なら暗殺だってあり得ます」
「それを防ぐ為の護衛だ。任せとけ」
宮中までの護衛ではあるがしっかりと気を張るアキトであった。
頼嗣を都の中央の宮中に無事に送り届けたアキト、丁度他家の貴族と出会う。
「これはこれは藤村 政親様、ご機嫌麗しゅう…」
「四ノ宮の…しっかり頼みますよ?」
圧力をかけるように見下した視線を送ってくる政親に頭が上がらない様子の頼嗣。
しっかりとした鎧を身に纏った護衛がジッとアキトを見つめてくる。政親が自身の侍に注意をする。
「これ、為義、喧嘩を売る必要はないぞ?」
アキトは苦笑いして会釈をすると侍はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向くのであった。
頼嗣は宮中に入っていき暇になったアキトは会合が終わるまでの間、道の外れでどういう人間が宮中を訪れるのか観察していた。
(他家の貴族の他に僧侶なんかも来てるな…どっかの高僧なのか?)
そんな事をしていると先程の藤村氏の侍に声を掛けられる。
「人間観察か、珍妙な身なりのクセにやることも珍妙だな」
「これは為義殿だったかな?」
「水原為義だ」
アキトは会釈して名前を名乗る。
「アキトだ。以後お見知りおきを…」
「家名も無いのか?」
「じゃあ東雲アキトで」
いい加減なやつだと罵られるがアキトは気にしない素振りをして為義の話を聞くことにする。
「為義殿は藤村殿に仕えて長いのですかな?」
「代々水原は藤村にお仕えする身だ…お前等とは違う」
強く睨まれてしまいアキトはたじたじになる。
「そんな強く睨まないでくださいよ…喧嘩はしないって…」
「新米の侍がどの程度の力か知りたくてな…お前も疼いているのではないか?」
内心を見透かされてアキトはピクッと反応してしまう。実際相手にどのくらいの実力があるのか興味が湧いていた。しかし理性的に喧嘩は断っておく。
「力の誇示が侍の本業ではないので…」
「ふん、もう少し骨のある奴かと思ったが腑抜けだったか」
(喧嘩買ってもいいけど俺が勝って藤村氏の名前に傷を付ける事になるのは…マズいよなぁ)
争い事はご法度だとアキトは冷静に分析して罵詈雑言に耐えるのであった。
興味を失った為義はそのままどこかへと去っていく。
「主は待たないのですか?」
「公務は昼過ぎまで、その頃に宮中に迎えに行けばよい」
「なるほど。ありがとうございます」
為義はフンとまた鼻を鳴らし去っていく。アキトは昼過ぎまでまだ時間があると人間観察を再開するのであった。




