自慢の舌
アキトの作業報告を聞いて二人は難しい顔をする。
「読むと死ぬ絵本ねぇ…」
「恐ろしいな、心不全を起こすなんてな」
翔と黒鴉の反応にアキトはケラケラ笑う。
「読まなきゃいいんだ、簡単な話だろ?」
「そうね、エリスは最後まで読むように指示したの?」
「いや、最後のページは読むなって注意してたな」
消耗品扱いの囚人でも死なないように指示を出していたエリス、それを聞いて二人はホッとした顔をする。
「生命を粗末にするような人じゃなくて良かったわ」
「やるなって言われても…カリギュラ効果じゃないか?」
「それもあるけど、好奇心は猫を殺す…ね」
欲に負けるのが結局悪いのではないかと思わされるが難しい話であると三人は唸ってしまうのであった。
ーーーーー
日を跨ぎ翌朝になる。
忙しそうな研究員達を眺めつつ優雅にコーヒーを愉しむ黒鴉はふぅと溜め息をつく。
(こんな危険な世界の物品はモールでも売れないわよねぇ…中々商売のパートナーを探すのも大変だわ)
物憂げな黒鴉は何度目かの溜め息をついているとアキトがやってきて何しているのかと尋ねる。
「何って…?人間観察?」
「なんで疑問形?」
「あとは…ほら異世界モールについて」
アキトは黒鴉の目的の一つの異世界モールへの出店を増やす計画について理解して「ああ…」と色々と察した声を漏らす。
「近代的過ぎて売れそうなものないもんな」
「それよりも危険な代物ばっかりで怖いのよ」
「…それもあるか」
納得いって微妙な表情を浮かべるアキト。翔も合流してきていつもの様子で雑談するのであった。
エリスが他のエクソシストと談笑しながら現れて仲良さそうに別れて翔達の方へトコトコとやってくる。
「おはようございます。皆さんお揃いで」
三人も挨拶を返して黒鴉は今日の仕事についてエリスに質問する。
「今日も危険な仕事なのかしら?」
「そ、そうですね…研究は常に危険な事なので…」
黒鴉はやれやれと言いたげに露骨な溜め息をつくのであった。
ーーーーー
研究棟へと移動した二人、黒鴉は緊張した面持ちでキョロキョロと周囲を見渡す。
他のエクソシストや研究員、エージェントが忙しなく歩き回っていた。
「で、どんなモノを研究するのかしら?」
「今回研究するのは管理番号155、コーヒーメーカーです」
「コーヒーメーカー?とっても美味しいコーヒーでも出してくれるのかしら」
黒鴉は少しだけ期待できると喜びながら研究室へと入るのであった。
観察室に入る二人は研究室の中にあるテーブルの上のコーヒーメーカーを確認する。
「普通のコーヒーメーカー…よね?何が特別なの?」
「動かすと虚空からコーヒーを生成します」
「虚空から…?」
囚人が一人入室してきてコーヒーメーカーの前に立つ。エリスがコーヒーメーカーを起動するように指示を出す。
「ではコーヒーメーカーを使ってください」
『使った事ねーよ、どうすればいい?』
「まず電源スイッチを入れてください」
電源スイッチは下部にあって囚人は口を尖らせつつボタンをポチッと押す。
『んで、どうすればいい?豆は?』
「待機してください」
黒鴉は何が起こるのかと不安そうにするが本当に豆を入れなくてもコーヒーが作られてホットコーヒーが作られて囚人も目を丸くする。
『おいおい、水も入れてねーぞ?どうして…』
「飲んでください」
『は?飲むのか…?これ…大丈夫なのかよ!?』
当然の意見を述べる囚人だが命令に逆らうことは出来ず仕方なく作られた謎コーヒーを恐る恐る口にする。
『うげぇ、苦い!』
「ブラックコーヒー、ですか」
『ああ、砂糖が一切入ってないやつ、苦いだけだ!』
渋みや酸味もなくただただ苦いだけだと囚人は答えて舌を出して不味いと答えるのであった。
黒鴉は囚人が何ともないのを見てホッとする。
「エリス、ブラックコーヒ以外も生成されるの?」
「はい、加糖、微糖、カフェオレ…色々と生成されます」
「安全なら私も飲んでみたいわね」
コーヒーには一家言ある黒鴉は興味を引かれてそう話す。エリスは少し考えて今あるブラックコーヒーを飲むことを許可する。
「新しく淹れるのはダメですが彼が淹れたブラックコーヒーならいいですよ」
「そう、じゃあ早速」
黒鴉は研究室に入りブラックコーヒーに手をつける。
ゴクッと一口飲んで難しい顔をして腕組しテイスティングする。
「この味…ラウンジの特製ブラックね」
『…?!分かるんですか!?』
「ええ、後引くこの芳ばしい香り、間違い無いわね」
自信アリな答えにエリスはペンを走らせる。
『なるほど、少し研究が進みました』
「ふふん、私を呼んで正解だったわね!」
得意げな顔をして安全に研究を終えるのであった。
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「お前の舌も役に立つもんだな」
「何よその言い方!」
アキトの小馬鹿にした言葉に黒鴉は噛み付く。アキトは華麗にスルーして結論を述べる。
「にしても既存の製品を吐き出す…いや置換してるのか?」
「置換…?」
「呼び出してるのさ、完成品を」
ラウンジをちらっと見てそこのコーヒーメーカーを指差しなるほどなと二人は頷くのであった。




