サイレント
日付が経過し翌朝、翔はラウンジにやって来ると黒鴉が先に起きていて小さく手を上げて挨拶してくる。
翔も小さく手を上げて挨拶を返して朝食を取りに行く。スクランブルエッグとトーストとカフェオレでご機嫌な朝食を注文する。
黒鴉からはまた甘ちゃんな物をと呆れられるが翔は無視して食事を摂るのであった。
翔が食べているとアキトが呑気な様子でやって来て腹を擦って空腹感を主張する。
さっさと食べろと黒鴉はアキトを急かしてアキトは欠伸しながら注文に向かう。
食事を終えた翔は小さく溜め息をついて今日は自分の仕事の番かと天井を仰ぐのだった。
エリスと加賀美がエージェントやエクソシスト達と共にラウンジへ朝食を食べに来る。顔を合わせた一同互いに挨拶を交わす。
黒鴉は物々しい人の集まりに微妙な顔をして何か起こったのかと心配するがエリス達は特に何も問題は起こってないと笑って返す。異常が無いと話すエリスにアキトは怪訝な顔をして周囲が妙に静かな事を伝える。
それは確かに妙だと加賀美が考え顎を触りながら周囲を見渡す。ラウンジには色んな職員がいるが皆黙々と食事を摂っていて普段より静かだなと感じ何か異常が起きているのではないかとエリスと話し合う。
二人が真剣に話し合う様子を見て翔はだんだん不安になってくる。今日の仕事はイレギュラーが起きている中でやらなければならないのかと緊張もしてくる。
取り敢えず今の所問題は見当たらないと食事を取りに行く二人、残された翔達は嫌な予感を感じ取りつつも今は打つ手無しと三人揃って溜め息をつくのであった。
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食事も終わりエリスの指示で翔は仕事へと向かう。
とても静かな、廊下、エレベーター、地下の通路、研究棟と移動する。
今日の研究対象は何かと翔はエリスへと尋ねる。エリスは少し考えた上で口に指を当てて静かにする仕草を取る。意味は分からなかったが取り敢えず黙っていることが大事なんだと考えた翔は小さく頷いて一言も喋らないようにして研究室へと入室する。
すぐに観察室に入りエリスは研究レポートを手にして観察の窓から見える鉢植えを見つめる。鉢植えには一輪の白い花が咲いていて紫外線を放つスポットライトを浴びていた。
コレは一体何なのかと翔は内心で思いつつ口を自然と押さえて喋らないようにする。
エリスはレポートにペンを走らせただひたすらに花の様子を書き取っていく。
暫くペンがコツコツと走る音が部屋の中に響く。翔は花を観察してどんな特性なのかとゴクリと喉を鳴らす。
沈黙の後にエリスがようやく口を開く。しかし声は声にならず文字として翔は認識する。
あの花の特性、全てが文字になる。そして今日は花が一段と大きく開いていて特性もとても強力に働いている事を理解する。
全てが文字になるとはどういう事なのか、翔は疑問に思い口に出そうとする。しかし言葉は発することが出来ず一瞬戸惑い口に手を当てて不思議そうな顔をする。エリスはクスリと微笑み誰でも最初は困惑するものだと伝えてくる。
翔の作業として花に水をやる事になりジョウロを手渡されて水道の水を淹れる。簡単な作業で良かったと安堵の溜め息混じりに研究室入る。
ゆっくりと花に近づいてジョウロの水を花に与える。
『ご飯だ!美味しい!』
そんな花の言葉を聞いて翔は目を丸くする。
『人間さん。ありがとう』
感謝されて翔は困惑しつつ観察室の方を見て花を指差す。意図は伝わらず取り敢えず急ぎ観察室へと戻り花が喋ったと驚きを伝える。
花が喋るなんて普通じゃないが今の状況も普通じゃない事に翔は頭を抱えてしまう。
エリスはまたクスクスと笑う仕草をしてそれもこの花の特性だと話す。
翔は花を見つめて人の言葉を奪い自分は喋る花という不思議なアノマリーに微妙な顔をするのだった。
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花の報告を受けたアキト達は今日感じていた違和感の正体を知るのであった。
この異常事態はいつまで続くんだとアキトは頭を抱える。黒鴉は静かでコーヒーが美味しいと呑気な事を伝えながらパソコンをカタカタと操作する。
環境音は聞こえるのに言葉は文字として認識する。不思議な一日が続くのであった。
特殊な状況が治ったのは夕刻になってからであった。
「あ、あー…ふぅ、声が出るって良いものだな」
アキトが喉に手を当ててホッとする。
「あら、私はもう少し静かでも構わなかったのに」
黒鴉は余裕な表情でコーヒーを優雅に飲む。
翔だけは何か思う所があって難しい顔をしていた。
「どうしたのよ?アンタも喋ったら?」
「え?あ、ああ…ちょっと考え事をしていてな」
能力が弱まったという事は花に何かあったのだと翔は考えてしまう。感謝してきた時の花の声を思い出し翔は決意を持ってエリスを探す。
エリスは夕食を食べに丁度エレベーターを降りてきて翔はエリスに花はどうなったのか尋ねる。
「花はいつか散るものです」
「…つまり」
無情な話に翔は俯いてしまう。
「しかし花はまた咲くものです…迷惑ですけどね」
アノマリーとしてまた能力が開花する日が来ると聞いて翔は笑ってしまうのであった。




