伝説の剣
朝の騒動の後、午後になってエリスが黒鴉を呼びに来る。
「予定の時刻を過ぎてますが研究室へ行きましょう」
「え?マジ?今日は無いものだと思ってたのに」
黒鴉は仕方なく席を立つ。翔達に見送られて黒鴉達は研究棟へと向かうのであった。
「で、今回の調査対象は何かしら?」
「伝説の剣です」
「何それ…?どっかの伝承にある剣ってこと?」
意味の分からない説明に黒鴉は目を丸くする。とある研究室に入り観察室の向こうに展示されている錆びた剣を見て黒鴉は鼻で笑う。
「ただの錆びた鉄の塊じゃない。で?何を調べるのかしら?」
「特異性についてです。今はケース内にありますがそれを開封します」
エリスは中に居る数人の囚人達に声を掛ける。
『ではケースを開けてください』
透明な観音開きのケースに手を掛けて一人が開封する。
囚人達はケース内の剣を全員がじっと見つめる。
「どうしたのかしら…」
黒鴉はその様子を怪訝に見つめる。エリスは次の指示を出す。
『P789、剣を取り出してください』
呼ばれた囚人が一人前に出る。
何が起こるのかと黒鴉は固唾を飲んで見守る。
囚人が剣を手に取ると錆びた塊はみるみる内に美しい剣になり囚人は黙って剣を掲げる。他の囚人達は思わず剣を持った者を崇めるように平伏す。
「剣が本来の姿を取り戻した…と言うべきなのかしら?」
「凄まじいエネルギーを観測しています…周囲の人にまで影響する力です」
「皆平伏してるのはその力が…?」
強化ガラス越しには伝わって来ないその力の凄さをエリスが曖昧な言葉で語り黒鴉は目で見て実感する。
「この後はどうするの?」
「エネルギーの詳細を確認、比較、研究します」
「大変ね…私は何をすれば…?」
エリスは「もしもの時の控えです」と答えてマイクで囚人に指示を出す。
『P789、剣をケースに戻してください』
しかし囚人は動かない、仕方ないとエリスはもう一度指示を出す。
『P789!剣をケースに戻しなさい』
(嫌ーな予感)
黒鴉は目の前の剣の威光に嫌な何かを感じ取りエリスの肩を叩く。
精神汚染の文字が頭を過ぎる。
「精神汚染…じゃない?囚人達にも効果が及んでるんじゃ…」
「そんなデータは…」
エリスも困惑していたが囚人がエリスの方を見てニヤリとする。
『お断りするよ、この力は素晴らしい!』
剣を軽く振って高笑いする囚人。エリスは黒鴉を見て真実を伝える。
「あの剣は錆びた塊のままで今見えているのは幻覚です。彼等は剣の影響を受けているようですね…鎮圧をお願いします」
「えっ、真面目に言ってる?…剣折りかねないわよ?」
「そこは手心でお願いします」
やるしか無いわねと黒鴉は剣を呼び出して手に取り研究室へと入る。
「伝説の剣の威光ねぇ…私のバハムートの方が立派で素敵よ」
剣を掲げると平伏していた囚人達が立ち上がり黒鴉に向かって襲い掛かってくる。
「このお馬鹿共!反省しなさい!」
バハムートを呼び出して水流で一気に押し流す。
「グワーッ!」
「うわーっ!」
水流で壁に叩きつけられた囚人達はぐったりとする。
「囚人P789!覚悟!」
「ハッ!負けるものか!」
黒鴉は剣を握り締めて一騎打ちに挑む。
(見た目は綺麗でも錆びてるのよね…破壊も殺害もダメ…さて、どうする?)
黒鴉はジリジリと敵と距離を詰めながら戦術を練るのだった。
戦いは囚人からの攻撃で始まった。
「ガァーッ!」
「ハァ!」
黒鴉は敵の攻撃を躱し空振りさせて腕を狙って剣の峰でぶっ叩く。
「小手ぇ!」
「グッ!」
囚人は痛みで剣を手放し錆びた剣が床に転がる。
精神に作用してきて黒鴉も一瞬だけ錆びた剣に見惚れるが今は仕事を終えることが大事だと誘惑を断ち切る。
「エリス!どうすればいい?触れたら危なそうなんだけど?」
『直接触れないように囚人の服を使って持ってください』
「剥ぎ取れっての?!…あーもう!」
倒れてる囚人から上着を引っ剥がして手に巻き付けて剣を元のケースに納める。
「こんな危ない仕事、二度とゴメンよ!」
『囚人の回収とメンタルチェックをします』
黒鴉はやれやれと囚人の上着を投げ捨てて溜め息をついて観察室に戻る。
「なんでこんな危険な実験してるのよ」
「未知を知るのは大事なことなのです。ところで何故囚人を生かしたのですか?切ることも出来たでしょう?」
エリスの言葉に黒鴉はムキになって答える。
「手心加えろって言ったのはアンタでしょ!」
「それは剣に対してであって囚人達は…いえ、まあ良いでしょう」
エリスは保安部へ連絡して囚人を捕縛し連行するのであった。
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「伝説の剣ねぇ…精神汚染する危ない代物か」
「本当に厄介な代物だったのよ?…何ちょっと興味持ってるのよ?」
アキトはニヤニヤしながら見たかったなと笑っていた。一方、翔は真剣に囚人達の扱いについて考えていた。
「消耗品扱いか…」
「嫌になるわ、死刑囚とはいえ人権まで失うなんてね」
「そう、だな」
二人の真剣な表情にアキトはサバサバした感じで割り切ったような事を言う。
「それがこの世界のルールなんだよ」
二人は納得出来ない様子で口を尖らせるのであった。




