危険物
翌日の朝、優雅にコーヒーを飲む黒鴉は今日は自分の番かと憂鬱な瞳をしてコーヒーの水面を眺める。
「かわいい動物とかだと良いんだけど…そう簡単にはいかないわよね」
はぁーと溜め息をついているとアキトが起きてラウンジにやってくる。
「溜め息ついて、どうかしたのか?」
「そりゃお仕事の内容が不安で憂鬱なのよ…」
「力でどうにか出来る物だけじゃないからな」
本当にその通りだと黒鴉はから笑いして軽い頭痛に忌々しそうに虚空を睨む。
「羨ましいわね、かわいい犬と猫なんて」
「ハハッ確かに。次はウサギかな?」
黒鴉は調子に乗るなとアキトの笑い話をピシャリと咎めるのだった。
翔も起きてきて朝の挨拶をする。
「おはようございます!…どうかしたのか?」
不機嫌そうな黒鴉を見て翔は心配する。
「何でもないわよ、僻みとかそういうのじゃないから!」
「そ、そうか…」
黒鴉は大きく舌打ちしてコーヒーをグイッと飲み干すのであった。
エリスが迎えに来て黒鴉がスッと立ち上がり頬を叩いて気合いを入れる。
「さあ行くわよ!」
「はい、では付いてきて下さい」
二人は地下の研究棟へと向かう。
黒鴉は緊張した顔をしてキョロキョロと周囲の研究員や戦闘員、エクソシスト達を見てしまう。
「皆忙しそうね…」
「はい、研究は日々行われますから」
「生き物なら食事を出す必要もあるものね…」
アキトが世話したものを思い返して黒鴉は自分はどんなものを調査するのかとエリスに尋ねる。
「すぐに分かります。あ!ここです」
研究室に入る二人、観察室からは地球儀が見える。
「地球儀ね、あら?動いてる?」
「はい、あれが研究対象の管理番号8、本物の地球儀です」
「本…物…?」
ゆっくりと回る地球儀、研究室への扉を開けて黒鴉はゆっくりと地球儀に近付く。
『触れないでください、危ないので』
「うっ…わ、わかったわ」
精神崩壊でも起こしてしまうのかと思い黒鴉は地球儀から距離を取る。
『ではその距離から双眼鏡を使って地球儀の表面を観察して下さい』
「えーっと表面?…どれどれ…」
地球儀の表面なんてツルッとしてて地図が描かれてるだけでしょと黒鴉は考える。しかしその表面はすごくリアルで雲が動いていた。
「凄く精巧な地球儀ね…」
『本物ですからね』
「…つまり小さなもう一つの地球って事?」
色んな国を眺める黒鴉はそれらの様子を報告する。
「飛行機も飛んでるわね、人も沢山いるって事かしら…凄く現代なのね」
『はい、本物ですから』
「…その本物ってどういう事?現実のこの世界と同じって事?」
さっきから本物と言われてもピンと来ない黒鴉は地球儀に少し近付いて小首を傾げる。
そしてじっくりと双眼鏡で覗き込んで自転している地球儀を観察する。
「うーん、何が本物なのかよく分からないわね…」
『それ以上近づかないでください』
「わ、分かってるわ」
取り敢えず観察を終えた黒鴉は観察室に戻る。
「観察完了、何ていうか…小さなもう一つの世界?」
「いえ、もう一つの世界ではなくこの世界の地球儀です」
「…?…は?」
ちょっと何言ってるのか分からないと黒鴉は混乱する。
「え?あれが…いやいや、この世界はここにあって…あれは地球儀で…」
「リンクしてます。この世界と地球儀は同一なんです」
「じゃ、じゃあもし触れてたら…」
黒鴉はとんでもない事になると青ざめて首を横に振る。エリスは苦笑いする。
「だから触らないで下さいって…」
「軽すぎ!そんな超危険な物体なのに注意喚起が簡単過ぎ!」
「黒鴉さんは真面目ですから注意喚起で大丈夫と…」
信用のされ具合がおかしいと黒鴉は目を丸くする。
「危うく世界が終わるレベルの物体の扱いが軽い!」
「そういう事になっている物体と言うことです」
「へ?」
エリスの言葉に黒鴉はズコッと姿勢が崩れる。
「精巧過ぎ…というか私達の世界とリンクしている地球儀で触れたらどんな影響が出るか不明なんです…実験も危険過ぎて出来ないんです」
「つまり…何とも言えないと?」
「そういう事です」
黒鴉は頭を掻いてフラストレーションが溜まったと愚痴を吐いて椅子にドカッと座る。
エリスは調査報告を書き留めて双眼鏡で観察室から地球儀を確認する。
「本当、精巧に出来てるんですよねぇ…」
「触れたら世界崩壊の可能性があるとかいう危険物よ?勘弁して欲しいわ」
エリスは申し訳無いとちゃんと説明しなかったことを謝り触らなかった黒鴉に感謝するのであった。
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「サイアク…私の時だけマジモンの危険物の調査なんて嫌になるわ!」
ラウンジに戻った黒鴉は愚痴をこぼして翔達に八つ当たりする。
「まぁまぁ、何事も無かったんだからいいじゃないか」
「精神的にストレスになるのよ!はぁ、危うく世界崩壊の危機よ?」
アキトは苦笑いしてそんな危機だと救えないなと話す。
「黒鴉が真面目で助かったな。いやはや本当」
「何?アンタだったら触ってたってこと?」
「俺だって言う事聞いてたさ」
ヘラヘラと笑うアキト、黒鴉も翔も本当だろうか?と疑いの目を向けるのであった。




