第28話 また、一緒の現場になれるよう
「映画の撮影、お疲れさまでした!」
今日は、『summer Snow』の撮影がクランクアップしたことでの慰労会だ。まだ、月影たちは、編集作業が残っており、大変な時期ではあったが、顔を出してくれる。
「まずは、座長からの挨拶だろ?」と、月影が酔った勢いで、囃し立てるので、僕はその場に立ち上がる。いろいろ考えた結果、お店は、比較的、騒いでも大丈夫なように、居酒屋で開かれている。
「……もう! 監督、飲むペース、早すぎませんか? 酒に飲まれて、店で暴れないでくださいね!」
「心配しなくても、俺は理性ある酔っ払いだからなっ! 湊にしか、絡みに行かないから、だいじょーぶでーす!」
月影の冗談混じりの返答に、集まった関係者たちの笑いがドッと広まった。
「では、改めまして……、今回、僕の自主企画である『Summer Snow』の撮影に参加していただき、ありがとうございました! ほぼ、ノーギャラに等しい出演料やスタッフの報酬に加え、過密スケジュール、演者だけでなく、スタッフにも、かなりの負担をかけたことをこの場で、謝らせてください。それと同時に、このチームで、撮影ができたこと、心より嬉しく思っています。映画の放映は、スポンサーの関係上、小さな映画館で始まります。もちろん、人気が出れば、大きな映画館への配給もされる契約をしているので、みなさん! じゃんじゃん、宣伝してくださいね!」
「それって、僕らより湊くんが、誰よりも、宣伝効果があると思うけど!」
「確かに! 世界のジスペリの二人がサマスノを推してくれるのが、何よりの宣伝だよ!」
『Summer Snow』に関わったほとんどの人がいる中で、そう言ってくれるのは、とても嬉しかった。もちろん、新曲を歌うために音楽番組や昼のバラエティ番組へ出ることがすでに決まっているので、僕も隣りに座っている陽翔も、番組ジャックするくらいの勢いで宣伝をするつもりである。
「お知らせですが、監督のゴーがでたら、まずは、サマスノに関係してくださったみなさんで試写会をしようと考えています。参加されたい方がいましたら、うちの事務所までご連絡ください。チケットをお渡しします」
「それは、人数制限はありますか?」
「そうですね。一部、ジスペリのファンの方をと考えているので、4名までとさせていただければと考えています」
「分かりました! 初めて、映像として残るので、家族にも見せたくて……」
「それは、ぜひ!」
嬉しそうに話す演者。今回は、舞台からの演者が多いため、映画には、初めて出たと言う人も少なくはなかった。
「挨拶が長くなって申し訳ないのですが、最後に! これだけは、言わせてください。今回、みなさんの協力がなければ、この映画は実現しませんでした。お渡しできるギャラも少ないです。そんな中でも、頑張っていただいたみなさんには、今後、何かあったら、ぜひ、監督や僕は協力させていただきたく考えていますので、どうぞ、今後もよろしくお願いします」
僕は挨拶を締めると、その場には拍手が響く。その大きな音の中で、一人の男性が立ち上がって一礼をしてくれた。
「俺たちは、如月湊と一緒に仕事をした、月影監督から声が掛かったというだけで、すでに、充分な報酬になっています。ほとんどのものが、如月さんの発起した映画に参加していると噂が流れ、次の仕事が決まってます。より大きな仕事を得られているものが多いから、気にしないでください。また、一緒の現場になれるよう、俺たちも如月さんに負けないよう頑張るだけです!」
「そうだ、そうだ! 俺なんて、娘にも女房にも羨ましがられているんだ!」
「そりゃ、ジスペリのコンサートチケットを取るのは、かなり難しいからね。私もこうして、二人を眺められるだけで、眼福だよ」
思い思いに、撮影の話を始めた。みなの協力に対して、恩に感じている僕に、軽い言葉で「次の」話をしてくれるので、なんだか嬉しくなった。
「この撮影期間、誰よりも努力していたのは、如月さんだって、みんなわかっているんですよ! あなたと仕事ができて、本当によかった!」
「ありがとうございます」
「湊の頑張りは、みんなが気づいてくれていたんだな。本当にお疲れさま!」
「うん、僕、とても嬉しいよ」
感極まって、涙が溢れそうになったが、我慢する。未彩も凛も気がついたようだが、無視してくれるので助かった。
僕の挨拶のあと、月影からも挨拶があり、映画の編集の進捗状況や映画祭へ出品することが、みなに伝えられた。
その後は、みなが思い思いに話をして、短い時間を楽しむ。
うちの社長が、小園と一緒に遅れて入ってきた。小園の様子を見ると、少しソワソワした雰囲気が伝わってくるので、何事だろう? と警戒する。
「遅くなってすみません。会社を出ようとしたら、いろいろと大変な申し出があったので、遅れてしまいました」
社長が遅れたお詫びをつげ、僕の近くへ来ると、手をぱんぱんと2度叩く。ざわざわした雰囲気が、一瞬で社長へ視線が向けられた。
「みなさんにも、共有しておきたいと思いますので、聞いていただければと思います」
社長を見れば、にゃっとしているので、何かいいことがあったのだろう。僕らは、社長をじっと見つめる。視線を集めた社長から出た言葉にみなが驚いた。
「『Summer Snow』、大手配給会社への配給が決まりました!」
あまりの出来事に、僕はポカンとしてしまう。それは、僕だけじゃなく、この場に集まっているものは、みな同じ反応だった。
「えっ? 大手の配給?」
かろうじで、言葉が出たのは、隣に座っている陽翔だ。社長に聞き返したことで、今度は陽翔へ視線が向けられている。
「そうだ。ヒナト。この前の週刊誌の件で、噂話のように映画の話が業界以外にも広がって、どうやら、ジスペリの全国のファンたちが動いたようだ。小さい劇場だと、地方だと見れないから、どうにかならないかって、うちの事務所じゃなくて……」
「関係のない配給会社の方へ連絡が……、嘆願書が行ったってこと?」
社長が頷く。僕らは、自分のことなのに、どこか他人事のように社長の話を静かに聞いていた。
「……湊?」
「……あっ、えっ?」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。社長、今、なんて言ったの?」
「はぁ……、ちゃんと聞いておけよ? 大手配給会社との契約がまとまった。ほんの数時間前だから……、情報も他には出ていないはずだ」
「それ、本当なの?」
「もちろんだ。湊を始め、ここに集まったみなさん、それに、今日は参加できていないみんなの頑張りが、この大きなチャンスを引き寄せたんだ」
「いやや、ジスペリの力でしょう?」
「ジスペリだけじゃ、映画は完成しませんよ。皆さんの協力があってこそです。こんな無茶な撮影に参加してもらえただけでも、発起人となった湊や私にとって、感謝してもしきれないくらいです。本当にありがとうございました」
社長が、立って頭を下げているので、僕も翔陽も小園も月影も、慌てて立ち上がり、同じように深々と頭を下げた。戸惑うような空気のあと、パチパチとまばらな拍手のあと、盛大な拍手に変わる。
「……俺、全国デビューしちゃうわけ?」
「私の関わったシーンも?」
現実味が出てきたようで、それぞれが、周りの人たちと笑顔で話したり、涙したりと嬉しそうにしているのが見えた。麗月に話しかけられた日、この小説を映像にしたいと願ったことで、たくさんの人に迷惑をかけたと思っていたが、誇らしげな彼彼女たちの表情を見れば、この映画を作ることにしてよかったと心から思った。




