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第24話 君の努力が繋いだ出会いだったんだ

「ハロー」とドアを開けると、返事はなく、店の奥の方からガサガサと音がする。応対してくれそうな人はでてこず、しばらく店内で誰か店員が来てくれるのを待っていると、「手が離せないから、こっちに入ってきて」と日本語で返ってきた。僕も未彩も驚いて、お互いの顔を見合い、そのあと、声のする部屋へと向かう。部屋の中は、いろいろな生地や糸だけじゃなく、たくさんの物が所狭しと置いてある。その中で、作業している小さな男性の背中を見つめた。


「あの……」

「ごめん。今、衣装を作ってて……、そこらへんの椅子……はものでいっぱいか。どうにかして座るところを確保して、少しだけ待っていてくれる?」


 そう言われたが、僕らは、作業を見せてもらうことになった。今、手掛けている服は、なんとなく、陽翔に似合うななんて考えていると、隣から未彩が「葉月のステージ衣装みたいなだな」と耳打ちしてきた。同じことを考えていたようで、笑ってしまう。


「何?」

「今、一緒のことを考えてた。陽翔が着そうだなって」


 僕らが、陽翔の衣装の話をしていることに、作業中の男性は気が付いたようで、「ヒナトって、ジスペリの?」と聞いてくる。まさか、『ジスペリ』と言う言葉が、出て来るとは思わなかったので、二人とも驚いた。


「そうですけど……」

「そっか。ヒナトが着ていそうか。そうかそうか。なんだか、すごく感慨深い。こういう衣装が、ヒナトに定着してきたってことなのかな? うーん、いい感じだな。仕上げは、またあとでしよう」


 満足のいく仕事ができ、区切りがついたようで、男性はこちらを向く。初めに僕の顔を見て、とても驚いていた。


「如月湊?」

「えっ? あっ、はい。ジストペリドの如月湊です」

「わぁ、本物だ。採寸で見てたけど、本物って、意外と華奢なんだ」


 僕より背も小さく、女性と見間違うほどの可愛さを持つ男性に言われたくなかったが、目をキラキラとさせながら、体のあちこちを見つめられるので、言葉にはしなかった。


「あぁ、自己紹介が、まだ、だったね。僕は、小井月都。このムーンドリップのデザイナーだよ」

「えっ? あなたが、ムーンドリップのデザイナーさんだったんですか?」

「そう。みえない?」


 独特な服装をしている月都は、その場でクリっと一周して、お辞儀をする。幼さはあるものの、どこか、大人びてもいるので、実年齢はわからないが、僕とそうかわらないだろう。


「素敵な服だなと思っていました」

「そう? そっちの背の高い子のほうも、かなりセンスがいいと思うけど」


 未彩を見ながら、「ぜひ、お話してみたいよ」と笑いかけている。椅子を勧めてくれるので、僕らは、腰かけた。


「今日、社長から言われて窺ったんですけど……」

「あぁ、そうだったね。映画で着る用の衣装を送る予定だったんだけど、間に合わなくて、取りに来てもらったんだ。持ってくるから、ちょっと待っていて」


 僕は、社長に「行ってきて」とおつかいを頼まれただけだったので、まさか、自分たちが、この映画撮影のあいだに着る衣装を持ち帰るミッションだとは考えてもみなかった。


「そっちの大きい子、何て名前?」

「霜月未彩です。普段は、歌舞伎のほうで活動しているので……」

「マジで! 歌舞伎なの? うぁあ……みたいな。君の出ている演目とか、見てみたい! 映像とかないの?」

「俺なんて、まだまだですよ。映像は確か、アップされてたと思います」

「わかった! 探してみるよ! 伝統はね……、人それぞれの解釈があるから、難しいよね。決まったセリフでも、演者によってまるで違う雰囲気になる。ドラマや映画のように1回では終わらない、演者や演出、年代や背景によって、毎回毎回変わる。まぁ、そこがおもしろいところだって、僕は思うけど……、外から見てるだけだから、なんとでも言える」

「……月都さんは、歌舞伎も見るんですか?」

「うん、もちろん。好きだよ。伝統芸能も、もちろん大好きだ。湊くんのようなアイドルも、全部全部好き。僕の夢は、舞台に立つ人の衣装作りをすることだったから、正直、湊くんのところの社長に拾ってもらえたことは、本当にラッキーだったんだよ」


 そう言って、月都は部屋の奥の方へ消えていく。しばらくすると、「あった、あった」と段ボールを抱えて、戻ってきた月都。未彩と視線を交わすと、これを持ち帰るスーツケースの余裕はお互いないことに焦っている。


「月影さんに渡してくれたらいいからって、聞いてるよ。たしか、監督だよね。今日は、別の撮影に向かっているって聞いているけど……」

「あっ、そうです。今日は、僕たちは休みなんですけど、他の役者は、そちらに。あの、その、社長とのこと……」

「たまたま、湊くんのところの社長が、御用達にしているお店があるんだけど、そこへ知り合いに連れて行ってもらったことが、始まり。もう、かれこれ、2年くらい経つかなぁ? 仕事をさせてほしいって、土下座までしてお願いしてたんだよね。その日は、「考えておく」って、話は終わったんだけどさ。ある日、アイドルの衣装は作れるかって聞かれて、「もちろんだ」って返答したら、二人の写真とイメージをもらって、100枚くらいデザインを送ったら、仕事をもらえたって感じ」

「……そういえば、僕がソロで活動をしていたときと、ジスペリになってからの衣装のイメージが少し変わった気がしてたんですけど、それって……」

「あっ、僕のデザインだと思う。結構、タイトなスケジュールで作っているし、空輸だから手間もかかって、いつもギリギリで、本当ごめんね。日本で作業できればいいんだけど、もう一つ僕には夢があるからさ……、ここから、離れられないんだよね」


 謝る月都ではあるが、僕は、『ジストペリド』になってからの衣装は、どれも気に入っている。僕らに選ぶ権利はなく、いつも社長が選んでいるんだと思っていたが、どうやら、この月都が、曲を聞いて、イメージして、僕ら二人だけに合う衣装を作ってくれていることがわかった。


「いつもありがとうございます」

「いえいえ。こっちも仕事をもらえて、助かってるから。そもそも、ジスペリの衣装を手掛けるようになってから、僕自身の注目も上がって、正直、嬉しい悲鳴を上げてるところ。そろそろ、人を雇わないと、回らなくなってきているんだよね」

「……あの、もしかしなくてもですけど?」

「デザインから制作まで、全て一人で作っているよ。普通なら、パタンナーとかもいるんだけど、人に指示ができるほど、僕には実績もなかったからね。わざわざ、ヨーロッパで仕事をしているのは、わかるよね?」

「コレクションですよね?」

「そう。別に、日本でも目指すことは、できるんだけど……、甘えちゃうからさ。誰も知らないヨーロッパで、刺激をもらいながら、踏ん張っているところ」


 月都を見て、少し前の自分を思い出す。夢のために頑張っている姿はやはり眩しい。僕も、そうであってほしかったけど、腐っていたときも正直あった。今の自分が、注目してもらえたのは……と考えていたときだ。


「湊は、十分、努力を積み重ねてきていた。葉月がいたから、アイドルとして成功したんじゃなくて、努力が実って、そこに、葉月という新しい風が吹いたことで、大きく伸びただけだから」

「……未彩」

「湊くんも大変な時期があったってことは、知っているよ。同じような境遇だからこそ、僕は応援したい気持ちもあって、ジスペリの話をもらったときに、全力で二人が輝く衣装を作りたいって思ったから。いろんな偶然が重なったといえば、そうなんだけど、君の努力が繋いだ出会いだったんだと思うよ。僕も含めてね。さぁ、おしゃべりは尽きないんだけど、次のコンサートは、かなり規模が大きいって聞いているから……、ファンと特別な時間のために、僕にできる限りの魔法をかける時間をください」


 そう言って、月都は、さっきまで作っていた陽翔の衣装作りに戻っていく。僕と未彩は、おつかいを預かって、お店を後にした。この出会いは、僕の今後の活動にとってなくてはならにものとなったのである。


「湊って……本当に、いい出会いを引き寄せるな」

「そんなことないよ」

「積み重ねてきた努力をみんなが見ていたってことだな。さぁ、明日はラストの撮影だから……」

「あぁ、緊張するね……? ちゃんと、弾けるかな?」

「この映画のためだけに作られた曲だろう?」

「そう。かなり、すごいよ。作曲は専門じゃないけど、すごいなって感じるよ」


 二人で荷物を抱えながら、タクシーを拾ってホテルに戻った。月影に衣装を渡し、明日の話を少ししたあと、休むことにした。休みだったから、遊びたいと考えていたが、ラウンジのピアノを借りられないかとホテルのフロントで聞き、その日も、夜まで、ピアノの練習をしたのである。

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