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第23話 エキストラもCGもいらないな

 音楽大学で、夏休みの間、空いている部屋を何部屋か借りての撮影が多く、今は通いで撮影ができていた。撮影自体も、半分くらい過ぎたころ、ロケを行うことが決まった。元々、ストリートピアノを弾くシーンが多いので、そういった場所をリサーチして、その場へ向かうという話になっていたからだ。


「どうしても、このシーンだけは、外で撮りたい!」


 珍しく、月影が拘ったシーンがあり、僕らはそのシーンに合わせるため、僕と未彩、ルナの三人に加え、少数精鋭の撮影スタッフを連れ、そのストリートピアノがあるヨーロッパへ飛ぶことになった。


「監督」

「どうした?」

「あのストリートピアノのシーン」

「あぁ、大広場でのな。あれは、元々、麗月の小説にもあったシーンだったんだ。たまたま、インスタで見た写真が、イメージにぴったり、どうしても、そこだけは……って感じだな」

「まぁ、そのおかげで、久しぶりのヨーロッパですけどね?」

「湊でも、久しぶり?」

「湊でもって……、僕を何だと思っているんですか? ワールドツアーをしているわけじゃないんですから……」

「世界中、引っ張りだこのくせに」


 嫌味っぽくいう月影に、「学校行事が多くて、今年は何かとスケジュールが空いているんです」というと、にやっとしている。

 春には、ツアーの話もあったが、映画を撮る話や陽翔の大学生活を優先するという名目で、ズレることになった。


「それで、映画の撮影な。まぁ、俺は仕事ができて、面白い企画を持ち込んだヤツとこうして、ヨーロッパまでいけりゃ、それだけで、十分満足なんだがな」

「あぁ、そうそう。ヨーロッパへ行くついでと言ったら怒られそうですけど……、向こうに、ステージ衣装を手掛けてもらっているブランドがあるんですよ。そこに行くようにと社長から密命を受けているんで、その時間も確保してもらえると助かります」

「……み、湊?」

「社長命令なんで……、僕も逆らえません。確か、ロケに行く場所から、それほど離れていませんよ」


 ヨーロッパに着いてからは、怒涛の日々だ。滞在時間は10日間。その間に、撮影をするのだが、ピアノだけを追い求めてきた僕たちが、次々とその場その場のいい雰囲気の場所を見つけては、映像の撮り溜めをしていく。あとで、合成することになるのは、言うまでもない。


「結構、いい絵が撮れましたね?」

「ピアノだけじゃなくな。やっぱりきて、ヨーロッパまで足を運んでよかったな……」

「実際、イメージしているストリートピアノに触れることもできましたからね」

「あれは、なかなか、様になっていた」

「弾いていたのは、相変わらずの猫ふんじゃったですけどね?」

「でも、さすがだよな。ジスペリの如月湊は。猫ふんじゃったで、どえらい人数のギャラリーを集めちゃうんだから。エキストラもCGもいらないな」

「見に来てくれた方に映像を使ってもいいかの許可は取ったんですよね?」

「あぁ、とった。湊と一緒の映像に映るなら本望だってよ。偶然とはいえ、会えたことを本当に喜んでいたぞ」

「それは、とても嬉しい話を聞けました。終わったあとも、大変でしたけどね」

「集合写真な。まぁ、それもいい思い出だし、いいんじゃないか? エンドロールにそれもいれるか……」


 月影と笑いながら、この8日間を振り返る。最小限の人数でロケには来ている。過密スケジュールなうえに、実際、街に来たことで、月影にも僕にもいろんなインスピレーションが湧いてくるのだ。次から次へとやりたいことができてしまう。


「そうだ、湊は今晩、密命の方へ行くんだろ?」

「そうなりますね。社長からは、一人での行動は止められているので、未彩と一緒に行く予定です」

「まぁ、治安の問題は仕方ない。気を付けて行ってこい」

「タクシーを使うので、たぶん、大丈夫ですよ。行ってきます」


 僕は、ホテルの部屋で未彩と合流し、そのまま、外へと出ていく。夏場なので、まだ、外は明るい。

 タクシーを拾って、目的地まで向かった。


「日本の夏と違って、湿気がないのはいいな」

「それでも、ヨーロッパも異常気象だって話だよ」

「暑いのは、暑いからな……」


 観光らしい観光をすることもなく、ただ、撮影だけに街を歩き回っていたため、思い出らしい思い出はない。


「……また、こようっかな」

「葉月と?」

「うん、陽翔と。こういう街並み、たぶん、好きだと思うし」

「……本当、二人は仲がいいんだな」

「まぁ、ね?」

「一緒に住んでるんだっけ?」

「そう。一緒に住み始めた。弥生さん……陽翔のお父さんが、社長と住むことになったから、その流れで。僕のマンションの部屋は余っていたし、一人では持て余してたから、ちょうどいいよ」

「他人とだと、住みにくくないの?」


 僕は、陽翔のことを思い浮かべながら、これまでのことを考えた。アイドルとして活動している中、一緒に住む方が移動も楽だし、それぞれの面倒もみれるし、なんていろいろ考えてみたものの、1番の理由はそれらじゃないことだ。


 ……早く帰りたいな。陽翔の待つ、あのマンションへ。


「湊?」

「んー、一度も考えたことなんてないかな。ただ、陽翔と一緒にいたいだけだし」


『好きだから』とか『愛しているから』とは、言わない。僕と陽翔の関係を未彩がわかっていても、それを未彩の前で口にすることはできなかった。


「そっか。まぁ、何かあったら、相談して。24時間、いつでも、受け付けてるからさ」

「ありがとう」


 僕は、未彩の優しさにお礼をいい、目的地に着いたので、タクシーから降り、店の扉を開ける。そこは、服飾の店なのに、なんだか不思議な空間であった。

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