第17話 それが1番こえーよ
凛の紹介が終わったあと、僕はずっと気になっていた人に自己紹介が回ってきたので、そちらに視線を向ける。
キャストを始め、スタッフの名簿を見た中で1番驚いたのがこの人物だった。
「初めまして、エターナル18所属のミヅキです」
今回、この映画撮影における最大事務所であるエターナル18所属の女優であった。月影がどのような条件で、この自主制作に近い撮影現場に引っ張ってきてくれたのかは定かではないが、ヒロインではなく、ヒロインのルームメイトという役柄にも驚いていた。
「今回は、このような撮影に参加させていただき、ありがとうございます。撮影に参加できる期間はとても短くなってしまいますが、どうぞ、よろしくお願いします」
『Summer Snow』は海外留学先での話となっているので、キャストは外国人も多い。そんな中でも、目立つ存在だったので、目をひいたのだった。
「……監督」
「なんだ? 湊」
「ミヅキさんって、どうやって頼み込んだの? ほぼギャラの無い撮影に……」
「あぁ、それな。大人の事情ってやつだ。ミヅキの嬢は、次の撮影が決まっていてな。そこの監督が、ミヅキの配役でかなり悩んでいるってわけだ」
「……僕らは、踏み台ってこと?」
「まぁ、端的に言えばな。ギャラの代わりに、オーデション込みの撮影って感じだな」
「本人は知っているの?」
「いや、知らないはず。あっちのマネージャーと向こうの監督とが決めたって話だ」
「で? 監督は受けたんだ?」
僕が月影を睨むと、「断れないんだよ」とぼやいた。月影にとって、その監督はとても世話になった馴染みの人らしい。まぁ、大体は想像がつくが、あえて、誰とは言わない。そもそも、大人の事情を入れられたとしても、僕では人を集められないのだから何も言えない。その監督お抱えのスタッフが何人もこの撮影に借りだされていると聞かされれば、それこそ、好きにしてくれと言うだけだ。
「迷惑はかけないし、ミヅキの嬢も女優としては光るものがある」
「大手で、生き残れるくらいだから、そりゃ実力はあるんだろうけど、……ギャラは」
「訳アリってこともあって、今回のギャラについては、こっちも訳ありって話してある。撮影期間も集中して撮りになるから、長い時間の拘束もできないことになっているからな」
「わかった」
僕は、月影から視線をミヅキに戻し、独特の雰囲気のある人だなと見つめていた。僕の視線に気が付いたのか、ミヅキと目があったので、にっこり笑いかけておく。その間にも、キャストやスタッフの挨拶があった。社長の隣で小さくなっていた麗月に月影が声をかけた。
「今回の映画の原作者だ。西森くん、挨拶を頼めるか?」
「は、はいっ! ご……ご紹介に」
「麗月、そんなに緊張しなくていいよ。気軽に」
「……如月くんみたいには、できないよ」
「それは、できたら、困る」
はぁ……と大きく息を吐いたあと、麗月は挨拶を再開させた。
「初めまして。西森麗月です。如月くん、霜月くん、水無月くんとは、学校が同じで、よく見かけていたので知っているのですが、まさか、こんなふうに、自作を映画化していただけるとは思ってもみなかったので、とても緊張しています。みなさん、プロとして、この場に来られていることはわかっていますが、どうか、僕の書いた小説を楽しんでいただけたら嬉しいです」
ぺこりと頭を下げる麗月はしばらく、そのままの姿勢だった。次に顔を上げたときは、緊張でそうなったのか、頭を下げすぎてそうなったのかはわからないが、顔が真っ赤になっていた。
「原作、読んでみたい方がいれば、冊子として何冊か用意します。世に出回ってませんし、校正されていないものになりますので、外には持ち出さないでください」
僕が『summer snow』についてかいつまんで話をすると、読みたいという人が思った以上に多かった。僕は、製本にして現場においておく約束だけする。
「そういえば、湊」
「どうかしましたか?」
「金銭的なスポンサーがほぼ皆無なのは、皆が承知してる。衣装やメイクの関係はどうなってる?」
「そこは抜かりなく。メイク関係は、僕もCMさせてもらっているから、協力してくれることになったよ」
「あぁ、シラユキの」
「そうそう。シラユキの。あと、衣装については、最近、出来たばかりのブランドを中心にお願いしたんだ。お互いの相乗効果を見込んで、こっちは、無料提供。燕尾に関しては、取り揃えてある」
「……用意がいいな」
「もちろん、僕が自主制作に近い形の映画だとしても、持てる全てをこの映画に賭けてるんだから。僕の情熱だけしかなくて、集まってもらった皆さんには申し訳ないけど、全力でこの映画を作り上げていきたいと思っています。何か気になることとかあれば、監督にどんどん言ってくださいね!」
「ちょ、ちょっと待て! 湊、それは、流石に……」
「僕もできる限りのことはするって言ったでしょ?」
僕は立ち上がって、みなに見えるように、月影に握手を求めた。手を見つめる月影は大きなため息と共に立ち上がり、僕の手をしっかりと握る。
その力強さに微笑みながら、「よろしくお願いします」と微笑めば、「それが1番こえーよ」と返ってくる。その場は、一瞬静まり返っていたが、そのあとの監督の一言で、みなが笑い合った。




