第15話 焦げたハンバーグでもおいしいよ
「ただいま」
「おか……え……り?」
星斗さんの美容院から、マンションに帰って来ると、出迎えてくれた陽翔がこっちを見て固まっていた。
……わかるけどさ?
とても良い反応をしてくれた陽翔に、ニコリと笑いかけた。僕の髪色の変わりようにあまりにも驚いたようで、指を指しながら、「ど……どうなってるのぉ?」っと叫ぶ。
「どうもこうも……役作りだよ。金髪って、僕にとっては、トレードマークみたいなものだけど、『緋月』は違うからさ」
「それにしたって」
「何? そんなに似合わない?」
「いや、めっちゃ似合ってる。似合ってる。似合ってるんだけど。見慣れないだけで、うん、ちゃんとカッコいい」
陽翔も驚きから解放されたようで、僕を手招きして、隣に座るようにソファをポンポンしている。僕は、隣に座ると、向きを変えた陽翔に髪をグシャグシャっとされてしまう。せっかく星斗に整えてもらってきたのに、ぐしゃぐしゃにされて不服そうにしながら、髪を整えていると、見慣れない黒髪のせいか、じっと見つめてきた。
「変?」
「そうじゃなくて、なんか、ビックリしてるだけ。役のために髪を染めるとか、しなさそうじゃん?」
「……しなさそうって、……僕はするけど? 元々、黒髪だしね」
「そう、だよな。日本人だから、黒髪だけど、なんか、すごく新鮮だ!」
髪をもう一度わしゃわしゃとしたそうにしている陽翔から少し距離をとりながら、明日の予定を話していく。
「そういえばさ?」
「ん?」
「今回の映画って、スポンサーついたの?」
陽翔には知らされてなかったが、今回の映画は自主制作に近い形となった。スポンサーらしいスポンサーは、うちの社長くらいで、そんな中でも、月影が請け負ってくれた。他の役者やスタッフの話は、月影に任せることになったが、ギャラはもちろん、僕の懐からも出ていくことになるし、支払える額は多くはない。
「はっ? それ、湊は大丈夫なわけ? 採算合わなかったら……、大変どころの話じゃないだろ?」
「そうなんだよね。役者に関していえば、月影監督にお任せだからさ。どんな人が関わってくれるかはわからない。スタッフも、実はお任せなんだよね」
「社長は何も言わないわけ?」
「いや、社長もお金は出してくれているよ。役に合いそうな人にも声をかけてくれるって」
「なんか、大変なことになってない?」
「うーん」と少し悩んだふうに首を傾げてみる。なるようになるとしか言いようがない今、「なんとかなる」とだけ、翔陽に伝えた。
「自主制作だと、制限あるよな」
「そうなんだよ。だからこその社長の課題」
「あぁ、少しでもお金を浮かせるため?」
「つっきーもたぶん、声をかけられているんじゃないかな?」
「……ズルくない? 俺、あんまり貢献できないじゃん!」
「そんなことないよ。この映画製作は、ちょっとした僕のわがままだから。やらなくて後悔するより、やって後悔したいかなって思ってて。本当は将来やった方が成功する可能性があったとしても、今しかできないこととして、挑戦したいんだ。結果にもこだわりたい気持ちももちろんあるけど、麗月の書いた小説を世に出したいって思いが1番強いからさ」
「ふーん」と言いながら、陽翔は何かを考えていた。陽翔にできることはないかと、考えてくれているのだろう。
「ヒナは自分のことをまずはやらないと。もうすぐ、試験なんじゃないの?」
「そうなんだよね。勉強は嫌いじゃないけど、なかなか難しいんだよ。まぁ、湊も挑戦しているんだから、俺もしっかり挑戦しないとって思ってるんだ」
六法を手に取り、にぃっと笑うと、「勉強するよ」と床に座った。僕はキッチンに向かい、夕飯の用意を始める。映画の撮影が始まると、こんな時間は、なかなか取れないので、頑張る陽翔にご馳走と作り置きを作っていく。
始動した映画撮影。どんな最後になるかはわからないけど、何もないところから、始めることは初めてだったから、ワクワクする。月影がいるから、撮影自体は心配することはないかもしれない。でも、全てお膳立てされた映画撮影ではない今回は、苦労するかな? と、考えながらも楽しみだった。
「湊」
「ん?」
「雑用とかでもさ、手が必要なときは言って? 俺でできることなら、何でもするから」
「ありがとう。スタッフの一員として頭数に入れておくよ」
あまり映画撮影に関われないことを陽翔は残念に思っているようだ。確かに同級生がメインの役者となれば、気にもなるだろう。
「ヒナ」
「何?」
「めちゃくちゃいい歌詞を期待してるよ」
「もちろん! 乞うご期待」
僕は夕食ができたことを伝えると、机の上に広げていた参考書などを片付ける。出来上がった湯気の出ているミネストローネとサラダと一緒に盛り付けられたハンバーグ、ごはんやお茶を並べて、僕が来るのを待っていた。
「……しばらく、湊のご飯は食べられなくなるんだな」
しんみりと箸でハンバーグを割りながら言うので、クスッと笑ってしまった。
「ヒナは本当に、僕の料理が好きだね?」
「そりゃもちろんだよ。なんせ、愛情が籠っているからね。焦げたハンバーグでもおいしいよ」
「……考え事してたんから、言わないでくれる?」
「映画撮影も大事だけど、体だけは壊さないように」
「わかってるよ」
「……明日からの鬼のようなレッスン、頑張って」
切り分けたハンバーグを僕の口に押し込み、自分の口にもハンバーグを入れている。僕は、自分の分を切り分けて、陽翔のお皿に置いてやると「そこは、あーんでしょ?」と催促してくるので、切り分けたハンバーグを口に入れ、頬にキスをした。




