第6話:大規模破壊
あらゆるSNSで声明が出された。外出を控えるように、と。だが、世界の八割の人間は気にも留めなかった。
人で賑わう穏やかな一日。このまま何事もなく終わりそうに思えた。――だが、そうはならなかった。
突如、ボス11、12、13が火山から姿を現し、国家規模の破壊を始めたのだ。
キロたちはニュースでそれを知ると、すぐさま立ち上がり、それぞれヒーローとしての役目を果たすべく飛び出していった。
キロは超音速でモスクワへ向かい、ボス12と対峙する。ウォーフはメキシコシティでボス11と戦う。ソネとセバスチャンはブラジリアへ飛び、ボス13に立ち向かう。
最初に現場へ着いたのは、キロだった。
(一刻も早くボスを倒して、みんなも市民も助けないと)
そのとき、爆発音が彼の注意を引いた。急いで音のほうへ向かうと、おびただしい数の遺体が転がっていた。視線をそらした瞬間、横から衝撃が走る。ボス12――スキケの一撃だった。
「ははは、弱ぇなあ。お前は俺のオモチャにしてやるよ」
(俺が誰かも知らずに笑ってやがるのか? ……だったら、あっさり終わるぞ)
戦いが始まった。キロが拳を放つが、スキケは軽くかわす。お返しの拳が顎を捉え、キロの体は真上へ打ち上げられた。だがキロは空中で体勢を立て直し、忍者のような鋭い蹴りを叩き込む。スキケは吹き飛び、ビルに激突した。ビルが崩れ落ちる。
「強いな。……だが、俺ほどじゃない」
キロはすぐさま駆け出した。しかしスキケは起き上がり、拳を繰り出す。キロは間一髪で反応し、身をかわした。
「小細工か? ……なら、こっちも小細工で行くぜ」
キロは力いっぱい拳を握りしめた。
「フェイス・ブロー!」
拳が炸裂し、スキケの顔面は粉々に砕け散った。ボス12は即死だった。
「所詮、俺の拳の前じゃ、ただの雑魚だな」
キロは踵を返し、崩れたビルの中に亡骸を残して去っていった。
◇
その頃、ウォーフはメキシコシティにいた。ボス11に破壊された街を見渡していると、少女の悲鳴が聞こえた。ウォーフは声のしたほうへ駆けた。
だが、そこにあったのは、少女の亡骸だった。
その瞬間、ボス11が背後から襲いかかる。ウォーフは腕を取って関節技を極め、そのまま地面に叩きつけた。
「不意打ちのつもりか?」
「ははは、速いが、注意力が足りねえな」
ボス11――ディッシュが笑った。
ディッシュは手のひらから赤いエネルギー弾を放った。ウォーフは反応しきれず、直撃を食らう。吹き飛ばされた体がビル群に突っ込み、衝撃で建物が崩壊した。ウォーフは瓦礫の中から這い出す。傷を負い、全身が埃にまみれていた。
「情けねえな。一発でそんなにボロボロかよ」
そう言い放つと、ディッシュは赤いエネルギー弾を絶え間なく撃ち込み始めた。ウォーフは反応もできず、ただ浴び続ける。体はひどく傷つき、もう耐えられそうになかった。同時に、堪忍袋の緒も切れかけていた。
「くそっ! 殺してやる!」
雄叫びとともに、ウォーフは弾幕を逸らした。次の瞬間、音速で懐に飛び込み、ディッシュの顔面に拳を叩き込む。ボス11は吹っ飛び、ビルを次々と貫通していった。それでも足りない。ウォーフは地面を一踏みして背後に回り込み、両の拳で殴り始めた。止まることなく、ひたすら殴り続ける。ディッシュの体は砕け散り、あとには灰だけが残った。
「ほざくのは、勝ってからにしろ」
◇
そう言い残して、ウォーフはその場を去った。
ブラジリアでは、街のあちこちが破壊されていた。ソネとセバスチャンは、廃墟と化した街を歩いていた。
そこへ、ビルが一棟、二人めがけて投げつけられた。ソネは音速でかわす。セバスチャンは跳躍して窓から建物の中へ飛び込み、加速して反対側から脱出した。直後、ビルは地面に激突して爆発した。
「ボスはここにいるのか?」
「危なかった……。でも、ボスはすぐ真上にいるのかもしれない」
見上げると、そこにボス13がいた。黒いフードに黒いマント。その手には、ビルを一棟、軽々と掲げている。
ボス13はビルを投げ捨て、二人に飛びかかった。反応する間も与えず、腹に拳を叩き込む。ソネとセバスチャンは凄まじい衝撃で吹っ飛び、ビルを次々と貫いていった。より頑丈な建物に叩きつけられて、ようやく止まる。最初に立ち上がったのはソネだった。続いてセバスチャンが立ち上がる。ソネよりも傷は深かった。
「全然見えなかった……。それに、この傷のせいで、力が入らねえ」
「こっちのほうがひどい。体が、ほとんど動かない」
そのとき、五キロ先にボス13が姿を現した。
「情けない。私の一撃にすら耐えられないとはな」
冷え切った、侮蔑の滲む声だった。その声音を聞いたソネは、ボス13のほうへ歩き出す。ボス13は表情ひとつ変えず、冷ややかに見つめているだけだった。
ソネは走り出し、球体に姿を変えた。ボスの反応を上回る速度で突っ込み、球体のまま一撃を叩き込む。ボス13は十キロも後方へ押し戻された。だが、かすり傷ひとつ負っていない。
「弱すぎる。お前など、ただのクズだ。私と同じ土俵に立てるものか」
冷酷で、見下しきった口調だった。
「だったら黙ってろよ。何の理由もなく壊すだけのお前のほうが、よっぽどクズだ」
「理由、か。その点だけは、お前の言うとおりだ。私はただ、我が主の命令に従っているにすぎん」
「主? 誰のことだ?」
「これ以上は話さん。私は、命じられたことを続けるだけだ」
そう言うが早いか、ボス13――ウィッカは高速でソネの目の前に現れ、拳を繰り出した。だが、その拳が届く寸前、炎と水をまとった一撃が、ウィッカを横から打ち抜いた。
ウィッカはビルに叩きつけられた。目を凝らすと、そこに立っていたのはセバスチャンだった。だが、様子が違う。青いオーラをまとっている。顔を上げた彼の目からは涙が流れ落ち、瞳は青く染まり、髪は青いオーラを帯びて輝いていた。
「理由もなく、壊すというのか……。ならば、この手で殺してやる」
これが、セバスチャンの「悲しみ」モードだった。
「私を殺す? できるものならやってみろ、人間」
セバスチャンは光の速さで、ウィッカの腹に膝を叩き込んだ。ウィッカは血を吐き、吹き飛ばされてビルを次々と貫く。セバスチャンは両腕を合わせ、青い力を掌に溜めると、ウィッカめがけて放った。ウィッカは素早く反応し、ビルの高さまで跳び上がる。だが、青い一撃はビルの一つに着弾し、巨大な爆発を起こした。爆風はウィッカにまで届いた。
「くっ……この、下衆が……!」
爆発が直撃し、ウィッカの体が燃え始めた。腕で必死に身を守るが、それでも足りない。セバスチャンは片手を掲げ、爆炎の中からウィッカを引き寄せた。ウィッカはセバスチャンのほうへと引きずられていく。間合いに入った瞬間、セバスチャンは悲しみと涙の青いエネルギーを込めた拳を叩き込んだ。ウィッカは苦痛の叫びを上げる。エネルギーはなすすべもない彼を呑み込んだ。青い光が薄れたとき、ウィッカはすでに息絶え、灰だけが舞い落ちていた。
セバスチャンは目を閉じ、再び開いた。周囲を見回し、ソネに目を留める。すぐに駆け寄って肩を貸し、ソネの腕を支えて立たせた。
◇
キロとウォーフは先に帰宅していた。ソネとセバスチャンが帰ってきたのは、少し遅くなってからだった。
「何があったんだ、お前たち」
キロが尋ねた。
「ボス13と戦ったんだ。最初は苦戦した」
セバスチャンが答える。
「あいつ、速さが桁違いでさ。でも、セバスチャンが倒してくれた」
ソネが続けた。
「新しい感情が、体を乗っ取ったんだと思う。力に変わる、と言えばいいのかな。ただ、まだ制御はできない。感情のほうが、体を完全に支配してしまうみたいなんだ」
セバスチャンがそう説明すると、ウォーフが口を開いた。
「また別の感情か。ボス5と戦ったときみたいにな。お前は驚きの連続だな」
ソネはベッドに行き、横になった。キロとウォーフはリビングに残り、セバスチャンはキッチンで料理を始める。
(弱すぎた。ボス13を殴っておきながら、反撃に反応すらできなかった。少し回復したら、鍛えに行こう。もっと強くなって、自分も強いと証明するんだ)
ソネは固く決意した。置いていかれたくない。
四日後、ソネは修行を始めていた。体はまだ弱りきっていたが、構わなかった。走り出し、スピードを上げるために世界中を駆け巡る。反応速度を鍛えるため、合法の武器商人に頼んで、機関銃で撃ってもらった。大きな岩を背中に括りつけ、背負ったまま走った。サンドバッグや岩を殴りつけた。ソネは確実に強くなっていった。
日が経つにつれ、修行はさらに過酷になった。今度は、三メートルの岩を背負って走る。武器商人は、より強力で速い銃を持ち出した。反応速度が向上したソネは弾を避けられるようになったが、まだ足りないと感じていた。さらに力を使って、岩を砕き、山を殴りつけた。
二週間が過ぎる頃には、ソネはさらに強くなり、体も完全に回復していた。
「今なら強くなった。次のボスが現れて侮辱してきたら、死ぬまで忘れられない屈辱を味わわせてやる。ボスども、あの屈辱は、必ず返してやるからな!」
ソネは、新たなボスの襲来に備え、準備を整えていた。
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