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第10話 ボス15 (第2部)

戦いの続き


「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか」


 受付係は柔らかな声で尋ねた。


「『ヒーロー』と呼ばれている知り合いが、ここに泊まっていないかと思ってね」


「ええ、ヒーローといえば、この街で知らない人はいませんよ。キロさん、ウォーフさん、ソネさん、セバスチャンさんですね。そのうち三人は、二十号室にいらっしゃいます」


「どうもありがとう。助かるよ」


 受付係は階数を教えながら、そっとボス15の腕に触れた。ボスは何も言わず、まっすぐ二十号室へ向かった。着くとドアをノックする。数秒後、キロがドアを開けた。


「何か用か?」


「個人的な恨みはないんだが、お前を倒したくてね」


「ふん、いいだろう。ただし、負けるのはお前だ」


 ボス15が殴りかかろうとしたが、キロはそれを制し、人の少ない場所を指さした。ボスはため息をつき、承諾した。


 二人はその場所へ着いた。キロが拳を握りしめる。ボス15は息を吸い込み、戦闘の構えを取った。


 戦いは、キロの一撃で幕を開けた。ボスはそれをかわし、両手を地面に突き立てて岩の棘を生やす。だがキロは即座に反応し、さらに速い拳を放った。拳は頭部に命中し、胸にも少しひびが入ったが、ボスは踏みとどまった。キロはボスの周囲を駆け回り、あらゆる方向から拳を浴びせ始める。ボスはほとんど反応できなかった。だが、あるとき、耳なら弱点になるかもしれないと気づく。キロがまた殴りかかろうとした瞬間、ボスは両腕を振り上げ、キロの両耳に両の拳を叩き込んだ。


 キロは目を回してふらついた。その隙に、ボス15が顔面に肘打ちを見舞う。キロは後ろへ弾き飛ばされ、鼻を押さえた。鼻から血が流れ出す。


(くそ、めちゃくちゃ痛ぇ)


「痛いのか、お嬢ちゃん?」


 ボスは嘲るように言った。


「ちょっとな。だが、お前のその汚い口、俺が黙らせてやってもいいぞ」


 キロの最後の一言で、空気が重くなった。


「貴様、何を――」


 ボス15は言い終えることができなかった。キロのシリアス・ブローが炸裂したのだ。ボスは血を吐き、ビルに叩きつけられた。起き上がり、服の埃を払う。


 キロは冷ややかな目でそれを見つめると、高く跳び上がり、地面へ激突した。巨大な土砂崩れが起こり、あたりが揺れる。


 ボス15は石の力で身を守った。だが、キロの本当の狙いには気づいていなかった。キロは、彼を欺いていたのだ。


 キロはボスの背後に現れ、フェイス・ブローに、連続のシリアス・ブローを重ねた。ボスは背中に攻撃を食らい、振り向いたところへ、さらにもう一撃のシリアス・ブローを受ける。


 ボス15は吹き飛ばされ、地面に倒れた。起き上がろうとしたが、突然、胸が痛み始めた。


「くっ……胸が、痛み出した……ああ……」


 ボスは小声でつぶやいた。


 そのとき、突然、炎が襲いかかった。振り返ると、そこにいたのは憤怒レベル5のセバスチャンだった。


「また別のクソ野郎のボスが、邪魔しに来やがったか? この害虫が」


 セバスチャンは一瞬でボスの目の前に現れ、反応する暇も与えず、炎の拳を叩き込む。ボスは空高く吹き飛ばされたが、セバスチャンは跳躍してすぐに追いつき、両の拳を合わせて腹に叩きつけた。ボスは地面に激突し、イタリアのボローニャに、十五キロにも及ぶクレーターを作った。


「十五秒以上もべらべら喋るもんじゃねえ」


 セバスチャンはボスに歩み寄り、首をつかんだ。


「このクソ野郎が」


 ボスが吐き捨てる。


 セバスチャンが目を見開いた瞬間、巨大な岩の棘が突き出し、彼は手を放さざるを得なかった。ボス15はさらに棘を生やしたが、すぐにキロに殴り飛ばされる。


「二対一だって、忘れたか?」


 ボス15はよろめいた。セバスチャンはその隙を逃さず、腹に拳を叩き込む。今度は、さっきよりも強烈だった。ボスは血を吐き、力尽きて地面に倒れた。


「完全に殺すだけの力はまだないが、殴り続ければ話は別だ」


 キロとセバスチャンは、ボス15を殴り続けた。ボスの体は、ひび割れていく。だが突然、何かがキロとセバスチャンを、いとも簡単に突き飛ばした。


 それは、フードをかぶった人影だった。理を超えた気配をまとっている。多元宇宙が張り詰め、宇宙は無限に広がるのをやめた。人影がまばたきをした瞬間、キロは気を失って倒れた。セバスチャンの憤怒モードは、凍りついたように動かなくなった。


 ボスは顔を上げ、人影を見た。人影もまた、ボスを見て口を開く。


「あっけなく負けたな。力を与えてやろう。二対一で、どこまで耐えられるか見せてみろ」


 その声には、威厳があった。


 人影は、赤と黄色の種をボスに与えた。ボス15は目を大きく見開く。力が血管を駆け巡るのを感じていた。人影は消え、多元宇宙も宇宙も、元に戻った。


 止まっていたセバスチャンの憤怒モードが再び動き出し、彼はもう一度ボス15に目を向けた。だが、今度のボスは様子が違っていた。顔は完全な石と化し、両手はダイヤモンド、靴は石に変わっている。瞳は眩い白、ズボンは炎でできていた。ボス15はセバスチャンを見ると、ほんの一瞬で彼を吹き飛ばし、叩きつけた。セバスチャンはすぐに立ち直り、戦闘の構えを取る。


 戦いは、拳と蹴りと駆け引きの応酬になった。セバスチャンはボスの一撃を肘で受け止めると、忍者のような蹴りを頭に叩き込み、地面へ叩きつけた。ボス15はすぐに立ち直り、地面を殴りつける。巨大な岩の棘が、惑星の大気圏にまで届いた。街の一部が破壊され、空気は重くなり、動物たちは身を隠し始める。


 セバスチャンとボス15は、拳を打ち合い、防ぎ合いながら戦い続けた。ボス15はセバスチャンの腹に一撃を入れ、脚をつかんで地面に叩きつける。セバスチャンは地面に張りついた。ボスは跳び上がって両脚をぴたりと揃え、セバスチャンめがけて急降下した。腹に蹴りが突き刺さる。助走をつけたぶん、威力は増していた。


 セバスチャンは肺の空気をすべて吐き出した。ボスは彼をつかんで持ち上げ、何度も地面に叩きつけ始める。だがセバスチャンも、時間を無駄にはしなかった。地面を殴りつけ、炎の爆発を起こす。ボスが目を凝らすと、セバスチャンが荒く息をしているのが見えた。空気には煙が充満し、街の半分が蒸発した。近くにいた人々は死んだ。


 セバスチャンは目を閉じ、意識の内側へ入った。街が蒸発していくのが見える。だが振り返ると、ひどく消耗した憤怒レベル5がいた。セバスチャンの体に、かすかな震えが走る。だがすぐに、頭を振って振り払った。まっすぐ「悲しみ」の段階へ向かい、この戦いで解放された、悲しみレベル3を選んだ。


 再び目を開けたとき、体を操っていたのは、悲しみレベル3だった。ボスは少し驚いたが、黙っていた。


 セバスチャンはボスを見据え、まっすぐ向かっていく。ボス15は身構えたが、セバスチャンのほうが速かった。放たれた一撃は、ボスをはるか彼方へ吹き飛ばした。あまりの威力に、ボスはドイツまで飛ばされる。セバスチャンは時間を無駄にせず、光の速さで追いかけた。ボスはベルリンに落下する。水面がわずかに揺れた。セバスチャンはそこへ駆けつけ、顔面を殴りつけると、首をつかんで海へ投げ込んだ。ボスは海に落ち、セバスチャンも跳び込んで追う。二人は水中で戦い始めた。水中での戦いのせいで、潮位が上がり始める。


 ボスはセバスチャンの首に一撃を入れ、数センチ押し戻した。ボス15は両手を合わせ、ダイヤモンドの棘を放ったが、セバスチャンは両手で受け止め、へし折った。セバスチャンは水を口に含み、ボスの顔めがけて吹きかける。ボスは、焼かれたかのように目をこすった。セバスチャンは素早く動き、首に肘を叩き込む。ボス15は、さらに深く海の底へ押しやられた。


 海上では、潮が満ち、街がほとんど水没しかけていた。ヘリコプターが一機、レポーターを乗せて街の上空を飛んでいる。


「最新のニュースです。何かが原因で海面が上昇しており、住民が避難を始めています」


 レポーターは、カメラに向かって語った。


   ◇


 海中では、戦いが続いていた。セバスチャンとボスは互角で、互いに異なる「能力」を繰り出している。セバスチャンは、じわじわとボスの石の体を壊していった。一方ボス15は、石の力で拳や蹴りを防いでいた。


 ボス15は後方に宙返りして距離を取り、両手で山を作り始めた。だがセバスチャンが反応し、首がねじれるほどの一撃を叩き込む。ボスは間一髪で棘を生やし、セバスチャンの拳を防いだ。周囲を見回し、泳いで逃げ出す。セバスチャンはそれに気づいて追いかけ、追いつくと足をつかんで殴りつけた。


 ボス15がセバスチャンを蹴る。セバスチャンは鼻を押さえた。そして水を飲み込み、水の拳を作り出して、ボス15めがけて放つ。直撃を受けたボスの胸の石が、一部剥がれ落ちた。ボスはため息をつくと、両腕を広げ、ダイヤモンドの鎖でセバスチャンの両手両脚を縛り上げた。身動きできなくなったセバスチャンを、ボスが殴り始める。だがセバスチャンは口を開き、ボスの拳に噛みついた。ボスは振りほどこうとしたが、がっちりと噛まれていて逃れられない。頭突きを食らわせても、セバスチャンは離さなかった。ボスはやむなく、ダイヤモンドの鎖を消した。その隙を逃さず、セバスチャンは腹に拳を叩き込み、息を奪う。ボス15は海の外へ吹き飛ばされ、大量の水が水面に噴き上がった。セバスチャンは勢いをつけて海から飛び出し、ボスの高さに追いつくと、首をつかみ、街の中ほどへ叩きつけた。


「どうしてそんなに頑丈なんだ!?」


 悲しみレベル3のセバスチャンが叫んだ。


「石だからな」


 セバスチャンは耳に一撃を入れてボスを朦朧とさせ、続けて顎に拳を叩き込んだ。ボスの顎は一瞬で砕ける。セバスチャンはボスの頭をつかみ、腹に膝蹴りを見舞った。ボス15は空へ打ち上げられたが、セバスチャンは跳んで再びつかまえ、地面へ叩きつけた。何度も、止まることなく。


 ボスの体が崩れ始めた。それに気づいたボスは、苦し紛れに両手で山を作り出す。だがその山を、セバスチャンは片手で支え止めた。


「強いな。……いいね」


 ボスは笑みを浮かべて言った。


 セバスチャンはしばらく彼を見つめ、山を粉砕した。地面に降りると、こらえていた血を吐く。ボス15はその隙を見逃さず、渾身の一撃を叩き込んだ。


「ダイヤモンド・ブロー・マックスゥゥゥ!!!!」


 ボスは猛々しく叫んだ。


 一撃を受けたセバスチャンは地面に倒れ、衝撃と疲労で気を失った。


「三十分も戦い続ければ、そうなるさ。人間の性ってやつだ。力を保つには休息が要る。すぐにへばらないようにな」


 そう言い残して背を向けたとき、背中に棘が突き刺さった。振り返ると、そこにいたのはソネだった。


(もううんざりだ。同じことの繰り返しじゃないか)


 ボスは思った。


 ソネは球体に変身し、ボス15めがけて突っ込んだ。ボスは速度を上げて拳を放ったが、ソネは機転を利かせ、その拳をそらした。ボスの拳をはたくと、ボス自身の一撃が、自分の顔に命中する。ボスの顔がわずかに砕けた。その間にソネは背後に回り込み、鉄の杭を打ち込むと、球体の姿で杭を高速回転させて穿った。ボスの背中の半分が砕ける。


「くそっ、ずる賢いハリネズミめ」


 ボスは苛立った声で言った。


 言い終えるより早く、ソネの一撃がボスを数センチ押し戻した。ボス15は両腕を合わせ、これまでで最大の山を作ろうとする。ソネは即座に反応した。


「スーパーソニック・キック!!!」


 ソネが叫んだ。


 蹴りを受けたボス15は地面に叩きつけられ、組んでいた両腕がほどけた。ソネは球体の姿のまま、ボスを殴り続ける。


「ボール・ブロー」


 ボスの胸が、完全に砕けた。驚いたボスだったが、すぐに立て直し、ソネの腹に一撃を入れる。ソネはその威力で吹き飛ばされたが、すぐに体勢を立て直し、ボス15へ駆け出した。ボスは地面を殴りつけ、街を破壊する。だが、人々はすでに避難していたため、死者は出なかった。ボスは息を吸い込む。そして、ふと見上げた先に、球体になって回転するソネがいた。反応する間もなく、ソネは全力で、ボスめがけて回転しながら突っ込んでくる。


「や、やめろおおおお――」


 ボスは叫んだが、最後まで言い切れなかった。


 ソネはボスの体を完全に貫いた。球体の姿を解き、眼下のボス15の体を見下ろす。ボスの体は真っ二つに裂け、その真ん中にソネが立っていた。


 ソネはため息をつくと、セバスチャンのもとへ駆け寄って抱き上げ、一番近い病院へ向かった。病院に着くと、セバスチャンを医師たちに預けた。


 数分後、セバスチャンは、どうやって自分がここへ来たのかも分からないまま目を覚ました。そこへ、ソネが入ってくる。


「気を失ってたんだ」


 ソネは、ただそう言った。


「そっか。連れてきてくれてありがとう」


 セバスチャンは、小さく微笑んで言った。


「いいってことよ」


 二人はハイタッチを交わしたが、そのあと、セバスチャンは黙り込んだ。ため息をつき、近くにあったコップの水を手に取って飲む。


「キロは? 無事?」


 セバスチャンは、ソネを見て尋ねた。


「ああ、無事だ。目を覚ましたあと、アパートに戻った。ボスのことも話してくれたよ。それと、まばたき一つで自分を気絶させた人影のこともな」


「そっか。無事でよかった」


 セバスチャンは、ほっとした様子で言った。


 二人は病院を出て、アパートへ向かった。着くと、キロが出迎え、ボスはどうなったのかと尋ねた。ソネが、どうやって倒したかを説明する。セバスチャンが部屋に入ると、ウォーフがアパートにいた。少し傷を負ったまま、眠っている。セバスチャンは横になり、ぐっすり眠った。夜が訪れ、空気は穏やかだった。今は、ひとときの静けさが戻っていた。


   ◇


 カメラ越しに、人影はヒーローたちを興味深げに見つめていた。


「見たところ、思った以上に面白い連中のようだ。次の傀儡を送り込むとしよう」


 人影がボタンを押した。すると、家族と一緒にいた一人の男が、ウイルスに感染した。


 男は苦痛に叫び、家族は心配そうにそれを見つめる。


「ここから離れろ! 今すぐ!」


 家族は言うとおりにして、急いで逃げ出した。数秒後、男は目を開けた。瞳は紫色に変わり、首には赤い血管が浮き出し、頬には太陽の紋章が刻まれ、肌はうっすらと黄色くなっている。男はあたりを見回すと、腕に黄色いエネルギーを溜めて放った。家は完全に燃え尽き、あとには灰だけが残る。見えない力に導かれ、男はイタリアの方角へと歩き出した。


「炎を操る相手に、どう立ち向かうか見せてもらおう」


 人影の声は落ち着いていて、静かだった。


 男は歩き続け、足元から炎の板を作り出して飛び乗ると、最高速度で走らせ始めた。


 男はキロたちのアパートに着くと、片手を武器に変えて窓に近づいた。キロは、のんびりと料理をしていた。


「夕飯、いい感じに仕上がってきたな。まあ、料理は得意じゃないが」


 男は武器でキロの様子を録画し、データを保存した。武器は、キロのシリアス・ブローと連続ブローを取り込んだ。目的のものを手に入れた男は、その場を離れ、ヒーローたちを倒す計画を練りに向かった。

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