第11話:再び教室
ぜひ読んでいただきたいです。
太陽が昇り始め、月が姿を隠し始めていた。
あるビルの一室で、キロは制服に身を包んでいた。また学校に行くのかと思うと、どこか気だるそうだ。ため息をひとつついて、彼はビルを出た。
歩き出したところで、ここがメキシコではなくイタリアであることを思い出した。数秒考えた末、走っていくことにする。
全速力で駆け出すと、周囲に空気の雪崩が巻き起こった。メキシコに着くまでに十七分。時計を見ると、遅刻まであと一分しかない。キロは跳び上がり、ビルからビルへと跳び移っていった。
学校に着くと、門はもう閉まっていた。自分に毒づいたが、すぐに、もう普通の人間ではないことを思い出す。キロは門を力ずくでこじ開けて中に入り、急いで教室へ向かった。
A15教室に着くと、中からクラスメイトたちのざわめきと、授業の開始を告げる先生の声が聞こえてきた。キロが入っていくと、クラスメイトたちは妙な目で彼を見た。髪のせいだ。もともとぼさぼさだったが、ほかの毛先よりひときわ大きな毛束が二つ、以前にはなかったのだ。
「その髪、どうしたの?」
「髪に何したんだ?」
「イメチェン? それとも何?」
クラスメイトたちが口々に尋ねる。教室が静まり返る中、キロは窓際の席に座った。マテオ先生はため息をつき、厳しい目でキロを見た。
「君はこの二週間、ずっと欠席していましたね。ご両親は心配していましたし、警察も全国を捜しましたが、何の手がかりも見つからなかった……。それが、何事もなかったような顔で現れるとは。学校も捜索に協力したというのに、君は突然戻ってくる。あとで話をして、失踪の件をはっきりさせなければなりません」
キロは身をこわばらせ、小さく頷いた。授業が始まり、先生がチーム対抗戦について説明を始める。聞いているうちに、キロは緊張してきた。自分の力をクラスメイトに見られたら、怖がらせてしまうかもしれない。ため息が出た。
(力と速さを少し抑えればいい。そうすれば、みんな俺が前と同じだと思うはずだ)
十分後、先生は説明を終えた。
「では、チームを発表します。第一チームは、イスキ、フアン、アレハンドロ、マリア。第二チームは、ホセ、ルイス、アクセル、ダニエラ。最後のチームは、キロ、ジョナサン、ハイロ、スコリです」
(ちょっと待て。スコリって、スコリ・アオイちゃんのことか? 俺の友達の?)
「対抗戦に向けて、しっかり練習しておくように」
先生は真剣な声で告げた。
チャイムが鳴り、みんなが教室を出ていく。キロもすぐに立ち上がったが、誰かの手に引き止められた。振り向くと、スコリの視線とぶつかる。
「久しぶり。会いたかったよ」
スコリは柔らかな声で言った。
「俺もだ。また会えて嬉しい」
キロは、少しぎこちなく答えた。
「チームで練習しなきゃ。一緒に来る?」
「ああ、まあ、いいけど」
スコリはキロの腕をつかみ、まっすぐ中学校の裏手のグラウンドへ向かった。着くと、スコリはいったん姿を消し、スポーツウェアに着替えて戻ってきた。キロは「何事だ?」と言わんばかりの顔で彼女を見る。スコリは怪訝そうに首をかしげた。
「着替えないの?」
「え? いや、着替えない」
スコリは頷いてストレッチを始めた。キロはただ突っ立っている。しばらくして、スコリはボールを手に取り、キロに向かって投げた。キロは片手でそれを受け止める。スコリは目を丸くした。
(くそっ、たかがボールとはいえ、片手で、しかも一歩も動かずに止めちまった)
「ねえ、キロくん? どうして、そんなことができるの?」
「え、えっと……ただ、筋力、かな?」
スコリはしばらくキロを見つめていたが、やがてため息をついて、練習を続けた。キロは、内心かなり落ち着かなかった。
◇
放課後、生徒たちが学校をあとにする中、スコリとキロも並んで歩いた。沈黙が気まずい。風が二人の顔をなでていき、あたりは人々の声であふれていた。
キロはショッピングモールの近くで足を止めた。中に入ろうとした、そのときだった。一台の車が猛スピードで、バイクに乗った少年と少女に突っ込もうとしていた。二人は凍りついたまま動けない。車は、すぐ目の前まで迫っていた。衝突する直前、一本の手が車を受け止めた。少年は我に返って顔を上げ、キロが片手で車を止めているのを見て、言葉を失った。
(死ぬところだった……。この人が助けてくれたけど、あの速度の車を、どうやって止めたんだ?)
近くにいた人々が、その光景を目撃していた。スコリもまた、キロがやってのけたことを一部始終見ていた。
キロは振り向き、全員に見られていたことに気づいた。体が固まり、どうすればいいのか分からない。
あたりの空気が張りつめた。
「ま、待て。説明できる」
「どうして、あんな力が……」
スコリが、囁くように言った。
その騒ぎから十五分後、スコリとキロは家路をたどっていた。
「大会、勝てると思う?」
「たぶんな」
スコリはため息をつき、微笑んだ。キロは、心臓が速く打つのを感じ、頭を振ってその感覚を追い払う。
着くと、スコリはキロをぎゅっと抱きしめ、帰っていった。
◇
キロは自分の家に着いた。両親が自分を見てどんな反応をするのかと思うと、緊張した。だが意を決して中に入る。家の中は静まり返っていた。
そのとき、突然、年下の妹が背中に飛びついてきた。金髪に青い瞳、ピンクのシャツに黒いスニーカー。明るい性格の少女で、名前はナオキという。
「お兄ちゃん、すごく会いたかった!」
「俺もだよ、へへへ」
「でも、お父さんとお母さんは、そうでもないと思うよ」
「……だろうな。で、二人はどこだ?」
ナオキが答えるより早く、誰かの手がキロの肩に置かれた。振り向くと、目の前に両親が立っていた。
母親は金髪に緑の瞳で、メリハリのある体つき。黒いシャツにグレーのパンツ姿で、身長は百七十センチ。父親は黒髪に赤い瞳で、黒いシャツにネックレスをつけ、グレーのパンツをはいている。身長は百八十五センチだ。
「今までどこにいたんだ?」
父親が尋ねる。
「え……メキシコ、とか?」
「嘘をつくんじゃありません」
母親がぴしゃりと言った。
「……分かったよ。イタリアにいたんだ。『ボス』って呼ばれる敵と戦ってた」
沈黙が広がった。そして、笑い声が響いた。両親も妹も、キロの言葉を聞いて笑っていたのだ。キロはため息をつき、自分の部屋へ向かった。
それから数日間、キロはメキシコの実家で過ごした。
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