僕、双子エルフを覗き見る
昨日勉強会に現れなかった僕を心配してくれたゼフィア先生は、僕と分け合ったピアスと同じデザインの物が量産されているのが気に障ったらしく、ドワーフの通りへと圧を撒き散らしながら向かった。
ピアスに関しては正直僕としても思うところはあったんだ。でも御守りとしても見られていたから無理に止める様な事は僕には出来なかった。
それでも、これはゼフィア先生との大切なピアスだから……。ゼフィア先生としても誓いを軽んじられるのは嫌だっただろうし、これで良いんだ。
ドワーフ諸君にはピアスの新たなデザインを、いや、ピアスに限らずファッションの新たな形を考えて広めて頂きたい。
大事なのはオリジナリティだよね。
さて、僕は僕のやるべき事をやりに行こう。
広場を通ってエルフの通りに入り、途中で曲がって〜ジェイナ達の家に到着。
ドアノッカーでトントントンとノックする。
すぐにトタトタと駆けてくる音が聞こえ「はーい」と言う声と共にドアが開かれる。
「おはようございます! アッシュです。ジェイナとジュリアはいますか?」
「あらっアッシュくん! 中にいるから入って入って〜!」
出迎えてくれたのは、ゼガン含め三姉弟の母親であるエルフのジルレアさん。
エルフ故か非常に若々しく、前世視点で見るとJKでも通じる外見だ。
ジェイナとジュリア二人とよく似ており、髪型を変えて判別を付く様にしたと言う話も納得出来ると言うものだ。
僕を家に引き入れたジルレアさんは、口の前に人差し指を立ててしーっとしながら手招きで案内してくれる。
ジルレアさんは割とイタズラ好きで、大抵イタズラの被害に合うのはジェイナ、ジュリア、ゼガンの三人だった。
お泊まりした時はそれはもう凄かったんだ。色んな暴露話が始まったりもして三人ともが一斉にジルレアさんの口を抑えに行ってた程。
そしてそんな行動に僕も大人しく……いや、率先して付き合ってしまうのだ、大馬鹿頭領なもので。
共に息を殺し、足音を立てずにリビングにつながるドアの前に立つ。
ジルレアさんが動きで僕にドアを開けろと伝えてくるので、ゆっくり静かにドアを開けていく。
その先ではジェイナとジュリアが寛いでいる声と姿が見えた。
どうやら二人とも部屋着……と言うより寝巻きかな? 薄目の生地のワンピースの様なものを着ている様だ。
そんな無防備な状態で、椅子に腰掛けうつらうつらとしているジュリア。
ジェイナはソファに仰向けに転がり、完全にだらけている。生地が薄いのか胸の膨らみがしっかりと見えてしまって目を向けるのが憚られる。
二人の姿を確認した僕はジルレアさんに視線を戻す。
母親が率先して娘の無防備な姿を男に晒してどうするんだとジト目を向けるがどこ吹く風。
「未来のお婿さんならこう言う所も知っておいて損はないわよ〜! それに可愛いでしょう? あの子達、外では意外とかっちりしてるからね」
「確かに眠そうなジュリアは可愛いかったですし、ガードの固いジェイナの無防備な姿はドキッとしましたけど……」
「ふふふふふふふふ」
悪い笑顔してるな〜。でも確かに良いものを見せて貰ったので、後でアッシュ印の浄化水をプレゼントさせて貰おう。
その後はこっそりリビングに入り何食わぬ顔で出された紅茶とお菓子を頂いた。
二人はいまだに僕に気付くことなく、だらけている。レアな光景だ。しっかりと目に焼き付けておこう。
そう思いながら見つめているとジュリアの目が開いてこっちを見た。
「あぇ? あっしゅくんがいますね……今日もかっこいいですねぇ」
「ジュリアちゃん寝ぼけすぎだよぉ〜」
ふにゃふにゃジュリアは素直で魅力的だ。
ジェイナは体勢をうつ伏せに変えた拍子に際どいところまで服の裾がめくれてしまっている。ちらっとガン見してしまっても仕方ない!
ジルレアさんは親指を立ててニヤニヤしながら僕を見ているので親公認の光景という事で……。
でもそろそろ気付いて欲しいのでジェイナの頭上からさりげなく質問でもしてみよう。
「いま何してるの〜?」
「ダラダラしてるんだよぉ〜」
「朝はあんまりやる気でないタイプだ」
「だって眠たいし〜着替えるのめんどくさい………………あれっ。嘘……えっ?」
「おはようジェイナ。そんなジェイナも僕は良いと思うよ。僕もだらけるの好きだしね」
ジェイナはゆっくりと身体を起こして僕の顔や身体をペタペタ触った後、ゆっくりとドアの方へと下がり部屋を出てドアを閉めた。
「きゃああああああ」と言う声とドタドタと忙しない音が聞こえて微笑ましい。
ジルレアさんと目が合った僕は、同時に親指を立てる。
さて、お次はジュリアだ。未だ寝ぼけ眼を擦っているジュリアにちょっかいを出しに行く。
「ジュリアー? まだ眠たそうだね?」
「……はぃ。ねむたいですぅ。アッシュくんはどうしてここに?」
「二人に会いに来たんだよ」
「えへ……うれしいですねぇ。夢でも会えるとは……ぎゅーってしてくれますかぁ?」
すごい。此処まで会話出来るのに夢だと思っているのか。
断る理由も無いし優しく抱きしめてみる。
見守っている母親はずっと親指を立てっぱなしなので大丈夫だろう。
「ふわぁ……温かい……匂いも……好きです……」
……何処となくエレアみがある言動だな。温もりと匂いを求めるのは女性の癖? それとも二人の嗜好が似ているのかな?
って言うか、めっちゃストレートに好きって言われると流石に照れる。
ジュリアはまだ夢の中にいるのか、僕に顔を擦り付けてきたり、スンスンと鼻を鳴らしたり、普段とは真逆の積極さだ。
「もっと強く抱きしめてくださぃ。……もっとぉ。……キスもしてください……大樹の所でした以来一回もしてくれ無いから、さみしいです……」
ジルレアさんはきゃーっ! って反応をしながら親指を両手とも立てて押し出している。
流石に此処でキスは出来ないっすよ……ジルレアさん。
ジュリアを要望通りに少し強く抱きしめた後、耳の内側を優しく撫でて起こしてみる。
「ふやあ!? 耳はっ……! ……あれ? ……………………えっと?」
目が覚めたジュリアは僕の顔と全身を触って確かめた後、ゆっくりと部屋を出て戸を閉める。
ジェイナと同じ行動をとった後は、同じく悲鳴を上げながら忙しなく駆けて行った。
「後で大丈夫ですか? 二人に怒られますよ? きっと」
「いつもの事だから大丈夫っ!」
大丈夫なのかそれ? しかもいつもって凄いなこのお方。
「にしてもジュリアちゃんってば……乙女ね〜キュンキュンしちゃった! アッシュくんもキスはいっぱいしてげなさい? 好きな子とのキスなんて悪い事無いんだから!」
「まあその、そうですね……頑張ります……」
「エレアちゃんとはいっぱいしてるんでしょう? なら大丈夫よ!」
「してませんけど!? って言うかされてる側ですし!?」
「あらあらあらあら〜〜〜〜そうなのね〜!」
くそっカマをかけられたのか!? この人やり手だ!
ニヤニヤした笑みがどんどん深くなって行く……僕に逃げ場無いんですけど!? 完全アウェーだよ!
その時、後ろでドアが開いた音がした。
ドアの隙間から四つの碧色の目が僕をじっと見つめている。見つめられたら見つめ返すのが礼儀かな。深淵をリスペクトさせてもらおう。
見つめ合い続けていると、ゆっくりとドアが開き、顔をほんのりと赤くした二人が普段着に着替えた姿を見せて、いつも通りを装って席につく。
「アッシュくん……いらっしゃい」
「もう他所にお嫁に行けないので、絶対に貰ってもらいますからね……」
語尾が伸びないジェイナは不安になる……。ジュリアはね、寝ぼけすぎとしか……喜んで貰いますけども。
「お邪魔してます。お嫁には貰うよ。そう約束したしね」
「……はぃ。おねがいします……」
自分から言ったくせにジュリアは顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
ジルレアさんはあらあら〜ってしてるし、ジェイナは沈黙してるし……どうしよう。
「アッシュくん……だらだらするの好きなの?」
「えっ。大好きだよ? 魔物と戦わなくて良いならずっとだらけてたいくらい」
「さっきの私を見て幻滅してない?」
「むしろ凄く親近感が湧いたね。一緒にだらけるの楽しそう」
ジェイナはすごく真面目な顔で自分の印象を気にしている。思い詰めている、と言えそうな程だ。
「さっきみたいな私でも……結婚……してくれるの?」
「うん。さっきの姿を見て、二人の新しい魅力を知れてもっと好きになったし……逆に、僕の方が不安だけどね? 五人一緒に結婚してくれとか言ったの僕だよ?」
「はぁ。よかったぁ〜……。アッシュくんに嫌われたら私死んじゃうよぉ。……それと、ハーレムは想定内だから大丈夫だよぉ、安心してぇ!」
ハーレムは想定内かぁ……ポーラも似た様なことを言っていたな。意図して相手を恋に落とした覚えは無いんだけどね。
「これ以上増やすつもりなんて…………もうちょっと大きくなったら、一人だけ増えるかも、だけど…………」
「「「ゼフィア先生よねぇ」ですね」だよねえ」
「明言を避けた意味を考えて頂きたい……!!」
思わず、肘をついて手を組み、それを口元に持って行くゲンドウポーズを取ってしまった。
しかもバレバレっていう……気付いてない人の方が少ないんじゃ無いか?
ピアスを分けたあの日から、ゼフィア先生と話す機会は多く、向こうから僕に構ってくる事も増えた。
当のゼフィア先生は無意識なのかもしれないけど、確実に僕に会いに来てるし、物理的な距離も近くなっている。
関係性がバレない方が不思議だ。
そして何故かこの三人は、それを知った上で笑っている。
「二人とも笑ってるけど、嫌とか、取られるとか、そう言うのは思わないの?」
「そうねえ、お母さんも聞きたいわ〜!」
「うーん。私は正直な所ねぇ、一夫一妻って大変そうだなぁーって思ってたからぁ、重婚はばっちこいなんだよぉ」
「私は少し違いますね。貴方の能力や容姿、行動を鑑みれば、貴方に惹かれる人は少なくありません。今でも私たち五人で周囲を牽制して、貴方を独占している様な状態を維持しているのです」
「えっ??」
女子の恋愛って水面下でバチバチやり合うものなの?
僕は昔からエレアの手によってあまり女子と話した事無かったし、エレアが手を緩めた事でジェイナ達とちゃんと話せたらくらいだからよく分かんない。
ゼフィア先生は先生で例外だったから、数少ない女性の話し相手だったんだよね。
「少なくともこの村では、恋だ愛だで結婚を考えない打算的な子も居るという事です。戦闘能力が高ければ、それだけでも生活は安泰です。その上で容姿も良く、性格も……少し意地悪ですけど基本善人ですし、打算的な子なら唾をつけるぐらいしてても可笑しくないんですよ?」
「……ほえー……そっか、なるほどね。……僕モテモテ?」
「エレアが居なければもっとモテモテでしたね。感謝した方が良いですよ?」
「確かに……僕には今の状況ですらギリギリなのにこれ以上になっていたとしたら……悪い男になってそうだよ」
「悪いアッシュ君……いいかもぉ……」
「おほん! ですから、五、六人で済んでいるのは上々と言えます」
うわあ。うわあ。うわあしか言えない。
打算的とは言うけど、現実を見てるとも言えるし、そんな人が僕を狙うくらい僕の価値は高いと言う事。
エレアが実質守ってくれていたと言う事。
今もみんなが周囲を牽制している事。
全部知らなかった。
今世の僕はイケメン寄りだー! とか喜んでたのが恥ずかしくなる。
自分の価値を真剣に考えた事が無かったけれど、客観視してみれば、なるほど道理だ。
強さは安全と金銭を手に入れられるのがこの世界。魔物の肉や素材で金銭を稼ぎ、食べる物を買うことも狩る事も出来る。
性格も特に乱暴な訳ではなく、女性にも比較的優しいとなれば、マークしておいて損は無い。
今上げた良い所だけ見れば、狙い目の男だ。
「ハーレムは想定内……と言うより前提だった訳だ……」
「私はそう考えていましたね」
「えー。他にも奥さん居た方が絶対生活楽だーって、この前お話したの忘れたのぉジュリアちゃん?」
「……忘れていません。妊娠期間や子育てを交代出来れば母子共に負担が少ないとは思います」
「家事もしなくて良くていっぱい眠れる、でしょぉ?」
「やめてくださいー!! 彼の前でそう言うのは無しと言ったでしょう!?」
二人はやいのやいのとしているが、そう言う面もあるのか。ハーレムって男の夢かと思ってたけど、女性側にもメリット自体はあるんだな。
そのメリットのために独占をやめて共有出来るのかと言う話になるのだろうけど。
あとはやっぱり経済面は大きいか。
僕からすれば稼ぎ方は山ほどある。浄化水もそう、洗髪屋も十分にお金は取れる、戦闘もネメアみたいな規格外で無ければ余裕がある、彫像も作れるし、魔石の複雑な色付けも出来る…………魔法によってQOLをあげる方向でなら幾らでも稼げそうだな。
それもこれも前世知識のお陰か。
それもインフラが整っていて、娯楽が溢れた世界の記憶だ。
【記憶】スキルで鮮明に思い出せると言う恩恵が無ければ形にする事すら覚束無い物だった。
前世と【記憶】が今世に齎す影響力が大き過ぎる…………。
僕が思考に沈み、二人が言い合いを続けている中、ジルレアさんが場の空気を変えてくれる。
「は〜い。三人とも戻っておいで〜! アッシュ君は用があったからうちに来たのよね? ご用件は何かしらー?」
「……っ! そうでした、失礼しました。えっと、今日はジェイナとジュリアに話があって来たんだ」
「改まってなにぃ? ちょっとドキドキするよぉ?」
「婚約……はしましたし、他に何か重要な事が……!?」
「お揃いのアクセサリーを作ろうか、と言うお誘いをしに来たんだ」
「右耳のそれってぇ、エレアちゃん?」
「以外あり得ませんね」
僕は首肯でもって返す。
アクセじゃらじゃらはこの際許容するから、出来れば耳以外だと良いなと思いながら、二人に問いかけるのだった。




