僕、アイアンクローに捕まる
エレアとデートしてお揃いのピアスを作り身に付けた。
僕の恩神ことウィンドウさん由来の立体菱形の装飾が付いており、青と紫のグラデーションが綺麗だ。(自画自賛)
菱形は大きい訳では無いので、揺れても邪魔にはならない。左と右で重みが違うのは多少気になるが、これも直に慣れるだろう。
何よりエレアとのお揃いは僕自身も嬉しいので、どんなものでも身につける所存である。
エレアはと言うと、ピアスをずっと揺らしてご機嫌麗しくあらせられる。
僕と同じものを付けている、と言うのを感じられるのだろう。
ムフフっとか、でゅふっは、最早デフォルトだ。
僕の前世の友人オタク達に引けを取らないレベルの笑い声が良く漏れている。
可愛い声でソフトなものが出ているから問題無いが、文字に起こすとオタク笑いがピッタリと言えるんだ。
そう言えば、昨日のデートの帰り道。そんな機嫌の良いエレアから明日は誰とデートするの? と聞かれた時には冷や汗がどっと出たのだが、予定は未定と答えるとデートしないと駄目だと諭された。
みんなアッシュが大好きだから応えてあげなきゃ駄目っ! との事。
なんと言いますか、世の男子諸君が思うハーレムとは別の形だな〜と思ったね。
僕の想像するハーレムは、前を歩く男を複数の女性が追いかけたり、男の魅力で女性を複数囲い込んだりと言ったものだったのだが……。
僕の現状は、女性が手を繋いだ網に掛かった男、女性達に手を惹かれる男、みたいなね。
僕がぐいぐい行かない事に起因してるのかもしれないけど、こう、女性側の団結力が凄い。
まあ、なんだかんだと考えては見ても、結局デートのお誘いをかけて回るのが今の僕のやるべき事に変わりは無く、朝の日課を終わらせたら勉強会は今日もパスしてエルフの居住区の方へと行ってみようと思う。
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朝食を食べ畑いじりを終えて、訓練がてら庭で魔法で遊んでいたら後ろからエレアの気配が近づいてきた。
「アーッシュっ! 今日はどこ行くのー?」
「今日はジェイナ達のところに顔出してみるよ」
「むむっ宜しい。二人の事を頼んだぞアッシュよ……」
「ははぁ! 承りまして御座います!」
すっかり僕の変な言葉遣いを覚えてしまったエレア。
こんな感じで喋ってると、サフィー母さんからジトっとした目で見られるから普段はあまりしないのだが、僕とこんな感じで話すのがエレアは結構好きみたいだ。
僕がふかーく頭を下げて任務を拝命した所で飛び付いて来るエレアを受け止める。
「エレアの回復魔法の訓練はどんな感じ?」
「んー、回復魔法を発動させる事自体は出来るんだよ。でも、小さな切り傷一つ治す事も難しい。魔力はあるから魔法の精度の問題かな……」
「母さん、回復魔法の詠唱教えてくれないしね……イメージ掴みにくいよね」
「そうなの! 一回詠唱ありで使えたらその後は幾らでも分かるのにー!」
エレアの言いたい事は分かる。僕も思ったから。
けれど母さんのやりたい事も分かる。
詠唱は枠でガチガチに定まった魔法でもあるので考え方が狭まってしまうと思ったのだろう。
回復魔法で怪我を治すだけでなく、骨のヒビやら肌の傷を治しながら筋肉痛は治さないと言った調整。
怪我だけではなく、毒や痺れ、体力なんかも回復出来るのが回復魔法だ。…………夜がどうのと言っていたので精力も回復出来そうだしね。
恐らく詠唱の回復魔法にはそう言った使い方は無く、一度詠唱をしてしまえば感覚が鋭いエレアだからこそ、それ以外を使えなくなる可能性を危惧している。
「一度母さんの回復魔法をじっくり見ると良いよ。僕の回復魔法も母さんが村の人の大怪我を治す所を見て、ちゃんと使える様になったしね」
「……お願いしてみる。……もう行くの?」
僕の匂いを堪能しながら話していたエレアが僕を見上げてくる。
すごく寂しそうで罪悪感が湧いてくる……ずるいなあ。
「お昼までに予定を聞けたら良いかなって……」
「んんん! 一緒に居たい……」
顔を服に押し付けてくぐもった声でおねだりするのは本当にもう勘弁して欲しい。僕の精神にも限界があるんだよ……!
でも昨日デートしてからの今日だからな……側に居たい気持ちは十二分に分かる。
……今日はもうエレアと一緒に居ようかなあ……いや駄目だ! 不公平が一番良く無いんだから!
「ごめん、我儘言った……。二人のところに行ったげて。私は朝も夜もアッシュと一緒に居られるもんね。これじゃズルだよね!」
「…………今日は一緒に寝よう」
僕から言葉にする事で、エレアが僕のベッドに忍び込むのでは無く、最初から一緒に寝る。
ついでに夜の約束をする事で寂しさをドキドキやワクワクに変えてしまおうと言う作戦だ。
効果は如何に……。
「なんか……なんかえっち……でも良いよ?」
照れながらの上目遣いかぁ……あざとい。可愛い。
でもえっちなニュアンスは込めてない! のでちょっと揶揄ってみる。
「なにがえっちなの?」
「っ〜〜〜!! 知らないっ! アッシュのバカ! えっち!!」
……僕何もしてないよ。えっちじゃないよ。
エレアは走って母さんの方へと駆けて行ってしまった。
にしても、この村では性教育が行われているのだろうか。そう言った授業を受けた記憶は無い。が、エレアはそれとなく知っている感じがした。
もしかして各家庭で母親から習っている? エレアが教わっているミルの謎の知識の源ってエルさん?
でも僕、カル父さんから教わった事ない……どうなってるんだろう。
兎にも角にも僕は家を出る……その前に、エレア達に行ってきますと言ったら、ちゃんといってらっしゃいと帰って来たのでそこまで怒ってなさそう、良かった。
挨拶も終えたらようやく家を出て、目指すはエルフの居住区!
基本村の作りはどの種族も一緒なのだが、エルフの居住区を突っ切る一本の通りは家の窓際などに花々が飾られていたりととても華やかだ。
店にや木工品や花、野菜や果物なんかをよく売っている。
エルフで鍛治をしている人なんかはドワーフの方に近い所に住んでいるのでエルフの通りは金属製品はあまり並ばない。
かと言って金属を排している訳ではなく、単純に売り物の種類を統一した方が仕入れや仕込みにも便利だよねって話らしい。
他にもケバブみたいな肉を売ってる店もあったりと、この世界のエルフは肉も食べるし鉄も使う。
元々人だったんだからまあそうだよねって話ではあるか。
考え事をしながら歩いているといつもの癖で広場に出た。
広場の一角で今も勉強会が行われているのが見える。
勉強会を横目に、改めて広場を眺めてみる。
広くてでかい。
改めて思う、この村はでかい。
広場から十時に走る大きな通りがそのまま各種族の居住区に繋がるのだけど、集落が四つくっ付いた様なものだ。そりゃでかいに決まっている。
昨日の様に広場を通らずとも各通りには行けるのだけど、やはり広場を通るのが一番速くて楽だ。
魔物の氾濫が本来ならこまめに起きるのだから、解体した大量の魔物を運ぶ為にも一本の大通りが続くこの形が一番楽なのかもしれないな。物流はちょっとよく分かんないけど。
にしても、こんな大きくて立派な村で育ったら、外に出て街や都市に行っても大して感動とかしなさそうだな。
なんて思いながら広場を進んでエルフの通りへ向かおうとした所で、僕の横に腕を組んだゼフィア先生が立っていた。
…………立っていただけなので会釈してからそのまま通り過ぎる。
「……待て、何故通り過ぎたんだ?」
「腕組みして立つのが趣味なのかと……」
あっ、笑みが深まった……怒ってる!
「……勉強会に参加しないのか?」
「ジェイナ達の所に行こうかなぁ〜って……」
あっ、腕組みしてる指で腕をトントンと叩き始めた……怒ってる!!
「学びもせず女遊びとは良いご身分だなぁ……アッシュ」
「いや、これは、両親にも許可をもらっていると言うか……今もゼフィア先生とお話ししてて女遊び中? かもしれないなー!」
二倍で精密強化! すごい、ナイスだ僕! 迫ってきたアイアンクローを間一髪避けれた!
と思ったら掴まれた。
「い゛だい゛でず……ゼフィア先生……」
「右を避けても左が残っている。甘いなアッシュ」
「なんでづがむんでずが…………」
「昨日は私が授業していたのに来なかったからだ。……心配したのだぞ」
アイアンクローが緩まる。
無断欠席は良くなかったか、眉を寄せながら心配してくれていた様だ。
仕方ない、それなら昨日なんで休んだかをちゃんと言っておこう。
「昨日はエレアとデートしてて——い゛だい゛!」
「今日は別の女とか。良い度胸だな?」
逃げ場無いじゃん!
どうしたら……はっ! そうか!
「ゼフィアぜんぜいもデートしますか!?」
「なっ!? ばっ馬鹿なことを言うな! 馬鹿者!」
ゼフィア先生が動揺したおかげで手が離れた! 生還した! 僕の頭蓋歪んで無いかな!?
「…………馬鹿者なら馬鹿を言ってもおかしく無いのでは?」
「……もう私は君の先生だ。そう言ったろう」
先生か……果たして周囲はどう見ているのか。
少し寂しそうな表情をしているところ申し訳ないのだけど、昨日知った驚愕の事実を教えてあげよう。
「……ゼフィア先生。先生と分け合ったこのピアス、今どんな扱いを受けているか知ってますか?」
「……待て……どう言う意味だ?」
「最前線に居た二人が生きて戻った誓いのピアス。今、村で空前のブームが起きているそうなんです。多分色々バレてますよ」
ゼフィア先生の顔が赤くなったり青くなったり忙しい。全身をぷるぷると震わせたと思ったらピタリと震えが止まり、圧を振り撒き始めた。
「…………どこだ、言え。どこで売られている」
「あー、えっとぉ……ドワーフの通りで昨日は見ました……」
「…………行ってくる」
ごめん、売り子のドワーフさん含めドワーフのみんな、必要で尊い犠牲だったんだ……。
ゼフィア先生が殺気とも呼べそうな圧を振り撒きながらズンズンとドワーフの通りへと向かっていった。
「ふぅ。一難さったら次の一難が来る前に、目的地に向かってしまおう!」
僕は小走りでジェイナ達の家を目指す。
……ゼフィア先生にも、近いうちにデートのお誘いをしに行こう。やっぱ不公平は良くないんだよ。




