僕、エレアとデートする 後編
お昼はカンロ村の数少ない食堂で食べる事にした。
「ご飯の事すっかり忘れてたね」
「うん! でも楽しかったから良いよ! それにお腹空いてる時に食べるご飯が一番美味しいんだから!」
エレアのこう言う気持ちの良い所、人としてすごく好きなんだ。
エレアの周りに人が集まる理由はきっとこう言う所にあるんだろうな。
食堂のピークは過ぎたのか人は疎で席は選び放題。
此処の食堂には時々食べに来るのだが、いつ来てもメニューが違う日替わりメニューと言うやつで、どうやら今日のメインは四種類ほどある様だ。
一つは、アルクトス定食。ネメアの取り巻きに居たでかい熊か。
一つは、ステュム定食。申し訳無いけど食べ飽きる程に食べたから今日はパスかな。
一つは、ヒュドラ定食……!? 可食部が有るとか無いとかで凄く議論されたらしいけど、やっちゃったのか!
最後の一つは、ルフ定食。成長した個体はロック鳥になると言われているのだが、ロック鳥は凄く美味しいらしい。その幼体、あるいは進化前なら美味しさも保証されていそうだ。
「僕はアルクトス定食にするよ。食べておきたかったんだ」
「私はね……ヒュドラ行こうかな」
「……一口もらって良い?」
「あーんしてあげる!」
僕らは目当ての定食を頼んだのだが、アッシュとエレアが来たと言う謎の報告の後に出された定食が凄かった。
僕に出されたアルクトスの部位が熊の手の平の煮込み。前世でも珍味とか言われてた気がするけど……アルクトスの討伐者としてお肉が駄目になる前に来たら食わせようと思っていたらしい。
エレアに出されたヒュドラ定食は唐揚げと鍋だった。
エレアは最後まで油断せず声掛けをしてくれたとの事で感謝の料理を振る舞ってくれた様だ。
にしても…………熊の手でかっ。僕の頭ぐらいある掌がぷにぷにぷるんぷるんで皿に乗ってるんだけど……。
ちょっと食べるのを躊躇ってしまいそうになるビジュアルだ。
「アッシュ……それ、食べるの……?」
「こいつの頭を潰したのは僕だからね……たっ、たべ、食べるよ!!」
味は……美味しい。よく熊肉は臭いと聞くけどほとんど臭みは感じない。しかもプルプルはゼラチン質なのか食感も不思議。
ぷるぷるのところとお肉のところをソースを絡めて一緒に食べると絶品だ。
手のひらそのままで出てきて流石に動揺したけどちゃんと美味しい!
「エレア……食べてみて。いけるよこれ」
「え゛っ…………いやあ……ちょっと……」
「あーん」
「あーん!」
ちょろい。あーんと呼び掛けるだけで簡単にしかも食い気味に口を開くエレア。すっと口に入れてあげるとゆっくりと咀嚼し始める。
「んー! 不思議な味ー! でも美味しいよ!」
「美味しく調理出来る腕が必要だろうけどね? 此処の料理人は相当な凄腕だよ」
「ねねっ。私のヒュドラ唐揚げ食べる?」
「貰うよ。あーん」
「っ! あっ……あーん!」
正直、先んじて【浄化】しようか迷ったけど、異変が起きたら使う事にして、今はそのまま頂く。
意外と淡白な味わい。しつこくなくて食べ易い。しかも肉汁が出てきてジューシー。
「シンプルに良い肉だ。そして美味いし上手い。肉汁を漏らさず閉じ込めて揚げている……凄いよこれ」
「鍋のヒュドラも一口どーぞ! はい、あーん!」
今度は鍋を食べさせて貰う。
こっちは多少なりとも出汁としてスープに味が溶けているのか、肉の味は薄い。
でもその分他の野菜の甘味や旨みを感じる事ができて美味しい。
「スープももらって良い?」
「あーん?」
「スープは流石に自分で飲むよ。熱いだろうしね?」
やっぱり! この鍋の出汁にされたかヒュドラよ! スープがメインの鍋とは恐れ入った!
「エレア……スープだ、汁だよ。そいつは汁が本体だ……」
「すごく美味しそうに飲んでたね? じゃあ一口…………ヒュドラって美味しいんだ……。唐揚げも…………ヒュドラって美味しいんだ……!」
こんな風に調理出来るとは思えないし、毒の有無も見分けがつかないだろう。
此処の料理人が規格外の腕を持っていると言うことだけはハッキリしたね。
「外でヒュドラを倒しても食べちゃ駄目だよ? 毒の見分けつかないし、せめて僕がいる時だったらなんとか出来るかもしれないけど……」
「じゃあずっと一緒にいるから平気だね! あっでもちょっとの間は離れ離れになるんだもんね……今から寂しいよ」
「寂しくない様にピアスを作るんだよ。着けてて思ったけど凄く相手のことを感じるから、きっとお揃いのピアスがあれば寂しくないさ」
「……うん!」
その後は食事を楽しんだ。あまりの美味しさに黙々と食べた。時々食べさせあったりしながらも完食した。
「「ご馳走様でしたー!」」
「よく食べたな。また来い」
髪を料理に落とさない様になのか、、深く被っていた帽子を外してそう声をかけてきた一人の人間。
帽子の下の頭は刈り上げられており、目付きは鋭く、額に古傷が見える。
厳つい印象だけど、きっとこの人が僕らの料理を作ってくれた人なのだろう。
なんとなくそう感じた僕らは、一度目を合わせた後同時に言う。
「「また来ます!!」」
「……ふっ」
僕らは機嫌良く食堂を後にする。
次に此処に来た時には他の物も頼んでみたいな。
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食で大冒険を果たした僕らは、本来の目的を見失う事なくグロックの家へと向かう。
家の横にあるグロック用の小屋でいつも作業をしている事を僕は知っているので、迷わず小屋の戸をノックする。
中からくぐもった声で入室の許可が聞こえたので、エレアと手を繋ぎながらお邪魔する。
「いらっしゃーい。ようこそ僕の工房へー。なんてね? 土台はいくつか作っておいたよ。今からはアッシュに石の加工を教えてあげるねー?」
「よろしく頼むよ」
そこから教わったのは、とてもファンタジーな事だった。
キラッと半透明に輝く水晶っぽい石の殆どが魔石と言う代物らしいのだ。
魔石は魔力石から魔力が抜けた、空の石らしい。
その空の石に各属性の魔力を込めると色が変わって行くのだとか。
複数の属性の魔力を込めると色が混ざって別の色になったり、マーブルになったり、グラデーションになったりとその時々で変わってしまうらしい。
だが、これは一般論。
ここカンロ村では、それは魔力操作が下手くそな奴がそう言ってるだけで繊細に丁寧に魔力を込めれば思いのまま。好きな色味を出せるそうだ。
まあ、前提となる属性の魔力の適性を持っているかどうかと言う部分で躓いていたらしいのだが。
そこでグロックから齎された意識の問題というフィーリングの話によって適性論をブレイクスルー。
全ての職人とまでは行かないが、順調に多くの人達が新たな属性魔力を身につけ始めているらしい。
そして何より、そんな不思議な魔石と魔力石は一体何処から手に入るのかと言うと、実は無機物やアンデッドのモンスターかららしいのだ。
生物は体内で魔力を生み出し用いる事ができるが、無機物やアンデッドには魔力を貯めおく体内がない。
そんな存在が魔物化する時に作り出されるのが魔力石。
そして討伐されると、落とし物——ドロップするのだそうな。
そしてそんな魔石も、宝石の代わりと言う用途を見出され、職人の魔力操作訓練に使われたりもしているらしい。
その魔石をグロックにエレアの望んだ形にカットしてもらって、そこに僕が求める色味の魔力を注いでみようと言う訳だ。
「エレア、どっちもエレアの瞳の色で良いんだよね?」
「うん! 私のはアッシュの色が良いけど……それだとお揃いにならないと思って」
「…………なるほどね。僕の腕の見せ所って事か」
「うん? どうするつもりなのアッシュ?」
「二色をうまい具合に混ぜながらグラデーションで青と紫を出してみる」
「……紫って至難の業だよー? 対応する属性の色が無いんだ。闇は紫と言うには濃いし、火と水を混ぜながら、反対に水を配置するのは僕でも難しいかもー……」
やってみなきゃ分からないし、出来るまでやってみるのがアッシュ君クオリティなもんで。
まずはこの小さな魔石に無属性の魔力を込めてみる。グロックの口から唯一説明されなかった無属性は白色だ。綺麗な白が魔石に入って行く。
次に闇の魔力を込める。そこにあるのは濃い紫。アクセサリーにするにはもっと明るい紫が欲しい所。
丁度良いので白と濃い紫を混ぜてみる。あれ、思ったより良い感じかも。
綺麗に混ざったのか鮮やかな紫が残った。これを右半分に寄せて、左半分に水属性の魔力を込める。
中央に無属性を薄らと込めて浸透させると良い感じにグラデーションになった。
簡単に出来たんですけど……。魔力の二倍圧縮よりも簡単だね。
「個人的には結構良い色合いになったと思うんだけど?」
「きれーい……それにちゃんと青も紫も入ってる」
「魔力に関してはアッシュの右に出る人はいなさそうだよー。まだまだ僕も鍛錬あるのみか……」
先の要領でもう一個作ったら完成。
「それじゃあグロック、取り付け頼むよ」
「任されたよー。僕にとっても良い勉強になった。お代は銀貨三枚で良いよー」
「ありがとう、グロック」
そうして出来上がったピアスは、耳につけるリングの下に小さなリングが一つついて、そこに立体の菱形がぶら下がるデザインだ。
この立体菱形にはウィンドウさんもニコニコだろうね。
◇綺麗です。良いと思います◇
あら、久しぶりのウィンドウさんだ。
神像の方は時々文字が変わってたけど、最近は【記憶】スキル経由で話す事が少なくなった気がしてたんだ。
褒めてくれてありがとうね。
◇順調にアクセじゃらじゃらに近付いてます◇
それを言うのはやめてーー!!
久しぶりなのにしっかり揶揄われてしまった。ウィンドウさんは相変わらずだな。
僕がそんな事をしている間に、エレアは右耳に穴を空けてピアスを取り付けていた。
急いで【浄化】して、今回は僕が回復魔法を使わせてもらう。
「いった〜い……アッシュってば良く穴あけたね……回復ありがと〜」
「どういたしまして。でもなんで右耳? 僕も右につけるんだけど?」
「なんかねえ、女性が左だけにつけると意味が変わるんだって。だから一応右にしたの」
「なるほどね。それじゃ僕も付けさせてもらいますねっと……痛ぅぅ……両耳に別々の付いたけど変じゃない?」
今僕の左耳には、リングに棒が下がってるやつ。
右耳にはリングに立体菱形が下がってる。
似合わなかったらどっちかネックレスにするかもしれないな……。めちゃくちゃ申し訳ないですけど、見栄え大事……。
「そんなに変じゃ無いよー?」
「良くもない、と?」
「そこはエレアさんに聴きなよー」
「どう!?」
「…………お揃い。アッシュの手作り……」
ぽーっとしてらっしゃる。
これはあれだ、戻って来るまでちょっと時間かかる奴。
先にグロックの工房と言う名の小屋からお暇するとしよう。
「とりあえず、ありがとうねグロック。また、ピアスに何かあればその時にくるよ。今日はこれでお暇するとします」
「はーい。ご来店ありがとうございましたー。お幸せに〜」
エレアの手を引いて小屋を出て、ほっぺを引っ張ったりしながら正気に戻す。
「戻っておいでー?」
「ふぁっ! 私っ……ピアス! アッシュが作ったピアス! 一緒でお揃いだよ!」
「そうだね。一緒でお揃いで、魔石だけ手作りって言うか僕が魔力を込めたね?」
「大事にする……絶対外さないから……」
「うん、僕もそうするよ……。それじゃあそろそろ良い時間だし、今日は帰ろうか!」
「うん! また、デート。しようね?」
「約束の指切りする?」
「するっ」
指切りをして手を繋いで、家路に就く。二人の瞳と同じ色の耳飾りを揺らして。
僕たちのつけた菱形の飾りのグラデーションが輝いて見える。
それをエレアは何度も何度も触りながら頬を緩ませて、意味もなく名前を呼び合い、軽く跳ねながら飾りを揺らす。
そんな風に楽しそうなエレアを隣で見る事が何よりも楽しくて幸せだ!




