僕、エレアとデートする 前編
イチャイチャと髪を梳かし合って、朝ご飯を食べたら畑に水やり。
実験的に、僕が魔法で耕して僕の水で水やりをする畑を一個丸々任されたので、少し時間がかかる様になってしまった。
父さんと一緒に畑の手入れを終わらせたら、父さんと母さんにエレアと買い物に行く事を伝える。
「勉強会はどうするんだい?」
「今日はお休みしようかな。勉強はエレアと同じくらいには出来るし」
「アッシュが勉強会に通う意味あんまり無いよね? すぐに憶えちゃうもん……羨ましい……」
「勉強会は学ぶだけじゃ無くて、他の子ども達との交流を図る目的もあるのよ? でも……十歳まで通ってもらう予定だったけど、その十歳からアッシュは学園に行くのよね……」
カンロ村では十歳まで勉強会に通わせる様にしているのだが、コミュニケーションを取らせる事と、沢山の刺激を受けて欲しいと言う目的があった様だ。
実際、コルハとゼガンとグロックとは勉強会で出会って打ち解け、遊んだり競ったりする様になったのだから通う意味も価値もある。
だが、今となっては共にいる面子が固定されて来ており、あまり交友関係が広がる事はない。
勉強会に来ている子どもの中に話した事がない子は居ないけれど、ミルや馬鹿三人以外に特別仲が良いと言える子もいない。
勉強はエレアが言った通り【記憶】があれば聞き齧っただけで憶えておける。
学園には受験の様な入学試験がある様だが、【記憶】スキルのある僕に恐れるところは何も無い、と言っても過言では無いだろう。
きっと今ならどんな問題を見ても「ここ村の勉強会でやったとこだー!」って言える。ビバ! 【記憶】スキル!
とまあ、以上の事から毎日律儀に通う必要はもう無い。友人達との合流場所として使える程度の認識で良いかも。
「スキルの影響もあってアッシュは賢いからね、好きにしたら良いと思うよ。交流に関しても、アッシュを知らない人はこの村に居ないだろうし。色んな意味で……」
「まあそうよね。そうなるわよね〜……。それに今日はデートみたいだし。うん! 好きに行ってらっしゃい!」
「っ!? なななんで、でっデートとか分かるのお母さん!?」
「分かりやすかったわよー? 目は泳ぐし、手をいつもよりソワソワさせているし、機嫌が凄く良いし、エレアの醸す空気が甘々だし……これから良い事があるんですって丸分かり!」
エレアは愕然としていたが、僕でも分かるレベルで幸せオーラが漏れていた。
僕は隣でずっと苦笑いするしかなかったね。
こんなにあからさまで隠し事が出来ないとなると、ポーラ達にも直ぐにバレて無言の圧力を掛けられるかもしれないな。……覚悟はしておこう。
「耳飾りをね、買いに行こうかなって。まだ右耳には何もついてないからね……」
「だって! ゼフィア先生だけずるい! 私もお揃いしたい!」
「と言う事でドワーフの家のある方を見て回ろうかなーって」
「お金は……心配要らないか」
「折角なら好きなデザインで作って貰うのもありね……よーく見て考えるのよエレア! オーダーメイドするにしても既製品を買うにしてもね!」
「はいっ!」
「ご飯も外で食べてらっしゃいね〜!」
それじゃあ母さんからのありがたいアドバイスを胸にデートに向かうとしよう。
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家を出てからはいつも通り、手を繋いで歩いて行くのだが。折角なら恋人っぽくした方が良いと思うので、指を絡ませて手を繋ぐやつ。俗に言う恋人繋ぎと言うのをやってみる。
一応この世界でも同じ用途で使われていたので大丈夫なはず……。
「…………この繋ぎ方、好き。いっぱい触れ合ってる感じする」
「前に見たカップルさんがやってた繋ぎ方でね? 恋人っぽいのかなーって思って……」
「……恋人っぽい……です」
「それは……良かったです……」
……中学生の初恋同士のカップルか?
年齢はほぼ一緒だし、エレアは初恋だった。
僕は前世込みだと初恋とは言えないけど、こんなピュアなメンタルでの恋愛はやっぱり未経験で初心でしかない。
周りから見たら焦ったいし甘ったるいしで、もどかしい奴らに見えるかもしれないな。
実際さっき通りかかった畑でいつものおいちゃんが「よっおおばk……ヒュー!」って口笛で煽ってきた。
水をぶっかけてやりたくなったけど堪えたよ。デート中だもん。エスコートするんだもん。
ただ出来る限り早くあの場を離れたかった。
ところが、エレアがおめかししてお気に入りのスカートを履いてくれているのであまり走らせられない。お姫様抱っこは余計に目立つしで、結局ジト目を向けながら歩いて過ぎ去るのを待つしか無かった。
「エレア、大丈夫?」
「……うん。ちょっぴり恥ずかしいけど、嫌じゃないよ?」
「良かった……。そうだ、広場は避けていこう? まだ勉強会してるだろうしね」
「そうだねっ。いっぱい見られちゃいそうだもんっ」
僕たちは遠回りしてドワーフの住んでいる方へと向かう。
どうかこの遠回りの間にこの空気感に慣れる事が出来ます様にと祈りながら。
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そうしてやってきましたは、カンロ村のドワーフ居住区を突っ切る様にある通り。通称ドワーフの家の方!
此処ではドワーフの自宅兼工房や店だったり、露店だったりがよく並んでいる。
露天の商品は見習いの子が作った品や、時々職人が手隙に作った趣味の品が並んでいる事がある。
と言ってもいち村の通りでしか無いのだから、そんなに規模が大きいものでは無い。その上ほぼ顔見知りばかりだ。
さっきから「エレアちゃん見てってよ!」とか「頭領! ドライフルーツどうだい!?」とか「デートの邪魔するんじゃ無いよ!!」とかって声が耳に届いてしまう。
僕らも苦笑いしながら挨拶を返し、露天を冷やかしてアクセサリーを見て回る。
耳飾りとなると、基本は輪っかだったり綺麗な石が嵌っただけのものだったりが多い筈なのだが、さっきから目にするのは輪っかに細長い棒がぶら下がってゆらゆらと揺れるデザインのものばかり。
露天の売り子のドワーフさんにアクセサリー事情を聞いてみよう。
「あのー。耳飾りのバリエーションが一種類だけ増えた上に、そればっかりになってるのはどう言う事で?」
「……ん」
そう言って僕を指差す売り子のドワーフさん。
「僕?」
「ん」
僕……正確には僕の左耳……えっ。
ゼフィア先生のピアスを掴みながら再度聞いてみる。
「これ、ですか?」
「そう。みんな生きて帰ってきた。左右で分け合う誓いのピアス。空前のブーム」
ドワーフさんの独特の喋り方とかどうでもよくなる情報が出てきた…………どうしよう。耳飾りを探しに来て首がしまり始めたんだけど?
確かに未曾有の規模の魔物の氾濫が起こって、死者無しな上、僕とゼフィア先生も終始無傷だったけど……動く度に揺れるピアスを常に感じてはいましたけど……! まさか此処までの事になっているとは!?
仮に同じデザインを買う場合、左右のバランスは良い。でも他の女性と同じ種類のお揃いでエレアが喜ぶか? 否である。オリジナリティが欲しいに決まっている。
自分達だけのお揃いじゃ無いとお揃い足り得ないのだ!
仮に僕が他の男と同じ女子を追いかけて、別の男のお揃いを見たとしたら………………嫉妬心で醜い感情を剥き出しにするか、心折れるかもしれない……。
思えば僕のハーレムって、いつの間にか結成されていた『対アッシュ同盟』があったから出来てるんだよな。
それを考えるとこの場所に胡座をかいている訳には行かない訳で。いっそ不格好でも自作の方向に乗り出すか? そうなると左右の出来までアンバランスになってしまうか……難しい。
エレアはこの最悪のタイミングのブームの中どうするんだろう?
「……んー。アッシュ、作ってもらお。それぐらいは良いよねっ? 諦められないから」
「……うん、もちろん。耳飾り以外も見て回って参考にしよう!」
「なるほど。別の人とのお揃い。バリエーションの追加を検討しておく」
「ありがとうね、ドワーフさん!」
僕らは冷やかしは冷やかしだが、どんなデザインで、どんな形で、どんな意匠がされているのかを具に見ていった。
そうして辿り着いた先に居たのはまさかのグロックだった。
「いらっしゃ〜い。幾らでも見てってよ〜。カップルかなー? 耳飾りなんてどうだろー。色々取り揃えてみたんだよねー」
「うわー! 今までの所よりもいっぱい種類があるよ! グロックくんすごい!」
「お前商売上手いね……見て行くよ。って言うか勉強会は?」
「そんなのとっくに終わってるよ?」
僕はすぐに空を見上げる。すでに太陽は中天を回った所にあった。
どうやら二人して食欲そっちのけで見て回っていた様だ。
一段落ついたらご飯を食べに行こう。一段落がどこでつくのかはまだ分からないけど。
「途中から見てたけどさー。すごいよね、手が絶対離れないんだもんなー」
「離れないと言うより、もはや離せないんだよ。そしてそれに違和感も無い。こうして繋がってるのが当たり前になるくらい繋いできた手だもんで」
「惚気? それともシスコンブラコン自慢ー? って言うかさあ、僕が耳飾りの土台作ってあげようかー?」
「「作ってくれるのグロック!」くん!」
完璧に同じタイミングで僕達に詰め寄られたグロックが限界までのけ反ってしまった。
一旦顔を離して、グロックの手を引っ張って姿勢を戻すのを待ってから、改めて質問する。
「土台って言うのはあれ? 耳につける部分と装飾に繋がる部分?」
「そうそう。アッシュが今付けてる金の輪にするなら、加工賃込みで一セット銀貨五枚は飛んでいくかもねー?」
銀貨五枚……五千円!? 仮にみんなが金のピアスにした場合、大銀貨二枚と銀貨五枚で二万五千円!?
たっっっか! そんなするの金の耳飾りって!
ゼフィア先生のピアスはプラス翠色の宝石が嵌ってる…………最低でも大銀貨五枚はしそうだな……。
「金で細かい細工って結構難しいんだよー。金自体はあるんだけど加工の手間って奴がどうしてもね〜」
「……アッシュ……?」
「出すよ。必要とあらば出しますとも! 大銀貨一枚までは出してやるさ!」
「毎度あり〜!」
でも、まずはデザイン案を詰める必要がある。
金になるのか銀になるのか、それとも他の鉱石で作るのか。
ピアスの先に装飾が揺れる様に垂らすのなら、その装飾の案も詰めないと!
「エレア! とことん詰めていこう。最高の耳飾りを作るんだ!」
「んー! うん! 私ねピアスが良い! ピアスなら戦闘中でも落ちないでしょ?」
「戦闘を考慮するなら揺れにくい耳のほど近くに装飾を置いた方がいいかな?」
「そうする! 肝心の装飾なんだけどね、実は決めてたんだ————」
僕達はグロックの露天の前で蓄積してきた付け焼き刃の知識でデザイン案を煮詰めて行く。
グロックも僕らの話を聞きながら、土で模型を作ってくれてとても参考になった。
結局、ピアスは銀で作ってもらう事になって、装飾に関しては僕が手掛ける事になり、グロックが手解きをしてくれるとの事。
デザインは決まったので、泣き始めた腹の虫を静める為にも僕とエレアは一旦昼食を取ることにした。
食後にグロックの家に向かってそこで仕上げる予定だ。




