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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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僕、誘ってみる

 解体が終わり、霊獣が戻ってきた事で僕らも非日常から日常へと戻って行く。


 だが、非日常の中でも日常を忘れずに鍛錬をし続けていた人たちもいるのだ。

 今日はそんな頑張り屋さんの一人であるエレアを買い物に誘う事にした。


 以前から言っていた僕の右耳を予約していた件だ。

 イヤリングなのかピアスなのかカフスなのかは分からないけど、同じデザインのものを物作りの得意なドワーフの人に頼みに行こうと思う。



 お金はあるんだよね。僕の水を大きい水瓶いっぱいに対して銅貨一枚を貰ってる。

 スパアッシュをご利用頂いたお客様が大変お綺麗になり過ぎた結果、他のご婦人方からの隠れ蓑としてアッシュ印の『浄化水』を販売したら、村中のご婦人に爆売れ。

 ドライフルーツをどんなに買っても、お金が溜まる速度の方が速い程だ。


 村をヒュドラの毒から助けたとか、ステュム達を全て地に叩き落としたとかで感謝されるよりも、『浄化水』を売っている時の方が感謝されている。


 隠れ蓑とは言ったが、一応ちゃんと効果があるのが爆売れの原因。僕の水は詐欺商品では無く、ちゃんとご婦人の身体や髪をただの水より確かに綺麗にしているのだ。


 その結果、販売日には銅貨五十枚くらいは儲けている。今も売れ行きは伸びているのが恐ろしい。


 でも儲け過ぎてアッシュ印の『浄化水』は一週間に一度の限定販売になったんだ。父さん達がそう決めてくれた。


 銅貨は十枚で大銅貨一枚。大銅貨十枚で銀貨一枚。

 銀貨十枚で大銀貨一枚。大銀貨十枚で金貨一枚。

 金貨も大金貨も十枚で次の貨幣に移るのだが、一般人が使うのは大きくても大金貨ぐらいとの事だ。


 前世換算するなら銅貨一枚十円って感じ。物価が違うので中々換算しにくいのだが、それぐらいが妥当だろう。


 話を戻すが、一週間に一回、多少前後はあるが五十枚近く稼いでいれば、僕の貯金は相当な物だ。


 一年が十二ヶ月、一月が三十日。一週間は五日間で、一月に六週ある。

 つまり六かける十二かける二で……最低でも百四十四回くらいは売ってきた。


 百四十かける五十で七千。銅貨七千枚。前世換算でおよそ七万円。


 アクセ一個買うくらい余裕なわけだよね! しかも自分で稼いだお金! プレゼントを買うのにこれ以上相応しいお金は無い!




 と言う事を早朝ベッドの上で、エレアの腕に身体を拘束されながら考えていた。


 最近のエレアは僕が目覚めると少し遅れて起きてくる。僕が動かなくても起きる。最早僕に合わせて起きている。


 僕としては、毎日頑張っているエレアにはしっかりと睡眠を取ってほしいからこそ、呼吸の深さを変えず、気配の質を変えずに、気付かれない様に先に起きている。


 僕の努力の甲斐あってか、今日はエレアが目覚めた様子は無い。

 気配を消して拘束から逃れたら良いと思うだろうが、気配が薄くなった時点で起きるのがエレアだ。直感と感覚がスキルのせいで鋭過ぎる。



 動けないし、暇つぶしに【記憶】シアターでもしていよう。


 【記憶】シアターとは、最近聞いた情報を改めて思い出しておく事で、情報が詰まった引き出しを引くための取手を付ける作業だ。


 【記憶】は思い出したい事はすぐに思い出せるが、思い出そうとしなければ思い出させてはくれない。

 つまり知識とし、僅かでも僕自身が覚えて置かないと行けないんだよね。


 最近聞いた話で面白かったのは、魔物を率いてきた三種類の魔物の事かな。


 まずネメア。


 今回の個体は人生経験豊富なフェーグさんやゼフィア先生ですらあまり類を見ない程に狡猾な個体だった様だ。


 まず、あらゆる魔物を率いて来た点。

 本来ならある程度は獣系の種族で固めて来る所を、何でもありの混成群。使える物はなんでも使うタイプの思考と言える。


 次に、余力を残したり、手加減をして戦う様な知性。

 先を見据えた行動を取れると言う時点で、あのネメアは森の奥地で支配者として長く君臨していたと言えるそうだ。


 最後に、最後の技。

 あれは全身に帯電するのでは無く、自分を雷やそれに近い状態に置き換えていた可能性があるとのこと。

 つまりあの状態は常時雷速で移動する可能性があり、あの力に絶対の自信があったからこそ、人類を嘲笑い油断していたと考えた様だ。


 総評、歴代の魔物の氾濫の中でもトップクラスに強く賢い厄介な敵だった。


 次にヒュドラ。


 真っ先に言えるのが残忍で無慈悲で狂っている。

 率いて来た魔物達を自らの毒で敵諸共殺そうとしていた事、その後の誇る様なあの行動も含めて頭のおかしい個体だったそうだ。


 次に、報告では小型だったが、現れた時の大きさは観測時よりも巨大化し、本来なら胴体から九つに別れる筈の所を異形化。攻めてくるまでの間に同族以外を喰いまくった結果、短期間での爆発的な成長と変化を遂げたと見る。

 それを加味すると、もう少し時間が空いていればさらなる成長あるいは進化を遂げた可能性があったそうだ。


 最後に、あの毒性の強さ。

 毒に耐性を持つ魔物の耐性をぶち抜いての毒殺。空気中に滞留する誰も知らない毒。

 あの毒は本来なら高位の神官らによる浄化でも無ければどうにもならないレベルの毒だったと分かった。

 逆説的に僕はその浄化をぽんぽん使える、教会関係者が喉から手を伸ばす様な人材であると証明された。

 だが僕が惜しみ無く浄化を振り撒いたお陰で死者無しで突破した事実を鑑みて、秘匿を決定。


 ……僕はまたしても大人達に守って貰っている。そうやって守ってくれるから、僕も守るんだよ。堂々巡りだ。


 ヒュドラの総評、急成長したおかげで戦闘経験が浅く、毒を無視出来た時点で特別強敵では無かった。

 だがその毒で一時は存亡の危機に陥ったので、ヒュドラの毒の研究はこれからも厳重に行っていくとのこと。


 最後にステュム。


 哀れで可哀想で悲しき怪鳥。

 本来なら圧倒的な数と高度差、そして統率力で厄介極まりなかった筈が、一人の馬鹿のせいでその全てを発揮する事なく全てが墜落し網にかかり、凍死した。


 本来なら上空から鋭い羽根を飛ばし、絨毯爆撃の様な攻撃をする……らしい。

 いっそ美しい程に一糸乱れぬ動きで、羽根を飛ばす奴らと、空中から鋭い爪や嘴での急降下攻撃を行う奴らで別れては合流、援護射撃に直接攻撃などを繰り返す……のが本来のステュムだとか。


 なんか……ごめんね?


 ただ今回のは、ステュム以外の鳥類も指揮下に加わっていた事が異常だったみたいだ。

 解体していく中で分かったのが、ステュムの中で最も大きい長らしき個体と、次いで大きい指揮官の様な個体が複数あった事から、指揮系統が出来上がっていたと考えられる。


 こちらももう少し後に戦う事になっていたら相当に厄介…………となったかは定かでは無い。

 僕が居てテラホンを使える限り、ステュムや鳥類がこの村を攻めることは出来ないとされた。


 総評、本来なら厄介オブ厄介。ただ一人の馬鹿頭領との相性の悪さから悲しき怪鳥の烙印を押された哀れな鳥だ。


 余談だが、今回のステュムの嘴や爪は希少金属であるミスリルで出来ていた様で、村の武具を少しではあるがアップグレード可能になり、防衛戦力が増した。


 僕ら子どもに贅沢な武器は使わせられないと言われたが納得している。

 まだまだ身体が成長するのが分かっているのに、功労者と言えどわざわざ希少金属で武器や防具を頼む事はしない。


 後、鳥の魔物の羽を大量に手に入れた事で、村中の布団や毛布の質がグレードアップした。これには僕もニッコリ。

 また、良い風切り羽や尾羽が手に入った事で、より良い矢羽をつけれるとかでゼフィア先生が嬉しそうにしていて可愛いらしかった。弓矢好きなのかな?


 他にはフェーグさんの技も面白かったな。

 『我流・重殴』。獣人の長と掛けてるのかと思った様なネーミングだったが、フェーグさんの技にこれほど相応しい名前も無いと今なら思う。


 どうやらフェーグさんは【荷重】と言うスキルを持っているらしく、戦闘で大剣をぶつける際に本来よりずっと重い力をかけられるそうだ。

 逆に軽くする事も出来、大剣を限定的に素早い取り回しをする事も可能で、基本大剣を振り切った後に使うらしいが、軽くすれば攻撃力も防御力も下がるからあまり使わないらしい。


 『重殴』は【荷重】と身体強化と大剣術を合わせた面によるぶん殴り技。


 『重殴無刃』は、文字通り刃の立っていない刃で以て『重殴』を行い、攻撃を一点集中する技の様だ。

 ただこの技は正確に振り抜く技術もいる様で、その際に僕の精密身体強化が役に立ったとか、めっちゃ役に立ったとか、役に立たない事なんてないとの事で…………いやあ照れますなあ!


 あの時のフェーグさんの顔は今思い出しても飯が美味い! 傲慢悪戯小僧に隙を晒したらこうなるって訳ですよ!



「ふっふふ……気分が良いよね〜……」

「……もっとぎゅってする?」

「……ん?」


 あれ、いつに間にかエレアが起きてる。

 隣で僕の横顔を眠そうに、でも楽しそうに見つめている。


 しかも気付いたらハグに気を良くした事になっている……僕、もしかして声に出して喋ってた? 【記憶】では……無意識で喋ってた……。


「悔しそうなフェーグさんを思い出してたんだよ。だからぎゅーはしなくて良いかな?」

「……しないの?」


 なんでそこで悲しそうな顔するの!? 僕悪く無いよね……?


「……したいの?」


 僕の問いに、こくんと頷く寝ぼけたエレアは破壊力が凄い。仕方が無いので……とっても仕方が無いので、ぎゅっとする。


 ソフトな「でゅふ」って声が聞こえた気がするけど、気にしない。胸元でスンスン匂いを嗅いでる気がするが気にしない。


 ……いや気にするよね!?


「ちょっとお下品じゃありませんこと?」

「そんな事御座いませんわ……」

「じゃあ僕がエレアの頭の匂い嗅いでたらどう思う?」

「…………綺麗にした後なら……良いでざます?」

「そう言う事じゃ御座いませんのよ〜〜!」


 何故か似非お嬢様言葉で会話してしまったが、エレアが僕に対して開いてる扉が広すぎる。

 実はこんなもんなの? 世のカップルって匂い嗅ぎ合ったり、胸元で「でゅふっ」とか言っちゃうもんなのかな!?


「取り敢えず、起きたんなら顔洗いに行くよ?」

「もうちょっとこのままが良いでござんす〜」

「んー。もうちょっとだけで御座いましてよ?」

「恩に着るでござる〜……幸せ……。アッシュが生きてて良かった〜……」


 急にしんみりする事言うの辞めてよね……ふざけた言葉で喋ってた軽い気分が吹っ飛んじゃったよ。


 エレアにはネメア戦で一度、命を助けられてる。

 つまりエレアは僕が死にかけた所を一番はっきりと見ているんだ。


 婚約をした数日後にそんな姿を見たら、それこそトラウマになっててもおかしく無い。

 それでもエレアは僕が戦場に立つ事を止めなかったし、助ける為にも隣に居てくれようとしていた。


 ……僕を守る為に、僕の全てを超えるとまで言った。


 僕にエレアの気持ちは推し量れない。推し量ってはいけない。

 償いでは無いけれど、僕はこれからも強くなり続けてエレアの隣に立って居られる様にがんばるんだ。ずっとずーっとがんばる。

 それが僕に出来る最低限のお返しなんだ。


 感謝と謝罪と、沢山の愛を込めて、強くぎゅっとする。


 言葉にしたくない感情と言うものがあるんだなぁ。

 行動で伝わると良いなと思いつつ、蒸し返さない様に、僕はちゃんとここにいると感じて貰える様に抱き締める。


「ちょっと苦しいかも……でも、嬉しいかもっ」

「うん……」

「えっへへ。アッシュもまだまださみしんぼさんかな? お姉ちゃんもぎゅっとしてあげるね」


 僕はもう、姉としても、女性としても、エレアが大好きなんだ。

 僕の事を僕よりも知っている唯一の人。たった一人の姉にして、許されない想いを抱き続けた強い人。弟と結ばれる為に心血を注ぎ、男女としての関係を進めながらも同時に姉としても居てくれる人。


 魅力的にも程がある。肉親じゃ無くても惚れてしまうよ。……肉親でも惚れるんだから当たり前か。


 家族愛も、親愛も、恋愛も再確認出来たら、そろそろ顔を洗いに行こう。


 起き上がって靴を履いていると後ろから乗っかってきたので、そのままおんぶしながら庭に向かう。


 歯磨きや顔を洗って、いつもの髪の梳かし合い。


「ねえエレア。今日さ、お買い物行かない? 二人で」

「…………」


 エレアの髪を梳かしながらさりげなく聞いてみた。


 反応が返ってこないどころか、顔を真っ赤にして全身が緊張して硬直していた。


 さっきまでのイチャイチャの方が難易度高いはずなんだけどね。家族としてのスキンシップの要素が強く残ってるんだろうな。

 その分、お付き合いしている男女っぽい事には不慣れと……。


「僕の右耳。まだ空いたままだよ?」

「あっ、やっ、うぅ……」

「……一応、デートのお誘いなんだけど……」


 顔を両手で覆ったエレアはヘッドバンキングの様に縦に何度も頷く。


 こんなにも可愛らしい反応をされるとちょっとだけ悪戯したくなってしまう。


 エレアの両手を持って顔から外し、上からエレアと目を合わせる。


「……恥ずかしいから……見ないで、アッシュ……」


 真っ赤な顔に、泣きそうな目、弱々しい口調。


 庇護欲と嗜虐心が同時にくすぐられて…………。


 気持ちが溢れてしまいそうだったので、エレアの額にキスをして誤魔化す。


 危ない、危ないところだった。

 良くない方向に動いてしまいそうだった。エレアなら受け止めてしまいかねないから余計に怖い。


「うぅ〜……意地悪ぅー。意気地なしー」

「堪えたんだけど!? 意気地で堪えたはず!?」

「女の子を待たせちゃダメって言ってた……」

「……誰が?」

「ミルちゃん」


 ミルちゃんさあ……いっつもいっつも気付かないうちに、うちの姉に何を教えてるんだ??

 それに待たせるのは……加護とか色々あるし……突っ込んだ話しするなら子作り以外は別に構わない……のか?


 こう言う所で引っ込み思案をして不安にさせるのは違うとは思うけど。

 ……傲慢で強欲か。守りたいから守る、他人の気持ちは無視する。自分の思いを貫いてこそ、ではあるか。


「……目、閉じて」

「はっはい……」


 僕の指示に弱々しく応えるエレアに普段の快活さは見えない。今はたった一人の恋する乙女だ。


 僕はゆっくりとエレアに顔を寄せ、間近でエレアの顔を見る。

 緊張と照れと恥ずかしさで、エレアが少し震えてる。あー……違うな、こうじゃ無い。


「……エレア目を開けて」


 ゆっくりと不思議そうに目を開けるエレアに、僕のアルカイックスマイルをプレゼント。


「ぷっふふっ……ちょっとアッシュ……もーやめてよー!」


 いつも通りの楽しそうで気楽なエレアがようやく現れた。


 こっちだ、こっちが良い。少なくとも今はこっちじゃ無いと駄目。さっきのみたいな空気はもう少し大人になってからの方が良い。


 いつも通りに笑っているエレアの顎を、クイっと持ち上げて優しくキスをする。


「うん。大好きだよ、エレア」

「……………………ずるい。その顔も声も、全部ずるぃ……ずるぃよぉ……」


 優しく笑い掛けてるだけでずるいと言われるのだけは未だに納得いかないが。


 なんにせよ、僕らの間にはロマンチックやドラマチックはまだ合わない。その時が来たら必ず応えるから、それまではこんな感じの空気感で居たい。

 さっきのしっとりした感じのままだったらきっと変な空気漂わせてただろうしね。



 エレアは顔を再び赤くしながら僕の胸を叩いているけど、達成感に満ちている僕には通じない。大らかな心で受け止めようじゃないかー。


「次、アッシュも目を閉じて!」

「えー。しょーがないなー」

「早く閉じて!」


 キスの仕返しでもするんだろうな〜。まあ、エレアとのキスなんて数え切れないくらいしてるって言うか、されてるからね。


 僕からするのは珍しくても、エレアからのキスには特別何か反応する事は無いかもしれないな!


 案の定、エレアの唇と触れ合ったのがわかる。

 だが、そこから先があった。唇を舐められた。


「……なめっ……」

「んふふ〜ちょっとえっちで大人なキスだよ! ミルちゃんが教えてくれたんだぁ〜? ドキッとしたでしょ?」


 そう言う本人も顔が赤いんですが……僕ももちろん顔が熱いんですけど。


 て言うか…………ミル!!!! 何やってんの君!? 何教えてるの!? どこでそんな情報仕入れて仕込んでるんだよ!! おかげで小悪魔なエレアが出てきたじゃないかありがとうございます!!


 精神的には嬉しいしドキッとするし大人な僕が喜ぶけど、肉体的には心臓に悪い、脈拍速くなってしんどい。


 はぁ〜、これまだ早朝なんだよね? デートなんかしたら死んでしまうかもしれない。


 でも、久しぶりの二人きりの時間がやっぱり少し楽しみだ。

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