群にして個の鳥 ステュム 決着?
東の氾濫が始まった。
空を覆い尽くさんばかりの無数の鳥の群れに対するは、遠距離攻撃が可能な戦士が百名前後。
圧倒的に劣勢。圧倒的に不利。覆えしようが無いと思える。
が、そこで立ち止まれないのが僕だ。
精々悪足掻きし続けてやろうじゃないのよさ!
発声に関係すると思しき箇所の精密身体強化は完了。後はテラホンの準備をして空へと向けて声を発するだけ。
「ゼフィア先生! 耳の保護お願いします!」
「準備は出来た! いつでも良いぞ!」
ゼフィア先生の声が聞こえたすぐ後に、全ての音が消えた。
僕はすぐに四倍圧縮でテラホンを準備、山彦の手を口の前に持って行き、お腹、胸、背中に息を溜め込んで、いざ行きます。
『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
空中へと向けて放射状に放たれたテラホンは、確実に鳥の群れ全てに届いた。
その成果は、すぐにわかるだろう。
効果があれば一気に鳥が落ちてくる。
効果が無ければ、村中が鳥に覆われてしまう。そうなったら僕のこれまでの苦労が水の泡だ。
村を守りたい、その為には鳥達には死んでほしい。
だから————
『————落ちろおおおおおおおおおおおお!!!!』
息が続く事で言葉を発する事も出来た。
あと何故か魔力がゴッソリと減った。
意思が乗ったのかな……三倍圧縮で貯蓄してた魔力が残り三割ほどしか無い。ゲージ三本に増えたうちの二本を持ってかれた。燃費悪っ。
だが結果は明らかだった。鳥達の翼の動きが悪くなり、続々と落ちてくる。
落ちてきた鳥達は受け身をとることも、翼を広げて落下速度を軽減する事も出来ずに落ち続ける。
落下速度や位置エネルギーやらで落ちてきた鳥は尽くが潰れて、ひしゃげて、死んでいく。
その中には嘴や足の爪が金属の様な光を放つ、人と同じくらいの大きさの鳥が多くいた。恐らくこいつらがステュム。
前世の神話でいうところのステュムパーリデス。
神話では青銅の嘴を持っていて、羽根を飛ばして攻撃してくるらしいけど、どうやらこちらのステュムは青銅よりも硬く鋭そうな嘴や爪を持っているらしい。
…………にしても落ちてくる。黒い鳥の影が丸ごと落ちて来ているみたいだ。
…………落ちてきてるんじゃね??
…………落ちてきた。全部。
下敷きになった奴は確実に息の根が止まっているのだろうが、鳥達の上に落ちた鳥は翼や脚が折れながらも鳴き声を上げ、飛び立とうとしている。
中にはピクピクと痙攣して気絶している健康そうな個体も居たが…………やるっきゃ無いでしょ?
鳥が落下してくる間に、風の防護は無くなっていたので急いでゼフィア先生に呼びかける!
「ゼフィア先生!! ゼフィア先生!! 今です!」
「……あっ、ああ! 皆の者ーーー! 仕留めろーー!!」
『うぉおおぅぅ…………うぉおおおおおおお!!!!』
僕もそうだったけどあまりの光景に思考が止まってしまった。
鳥達が落ち切った辺りで僕らは得物を弓や投擲物から剣などに変えた。
…………変えたのだが、その前に風魔法使い達が鳥達が再び飛び立とうとするのを抑え付け、グロック仕込みの土魔法の網で、落ちた鳥達を完全に拘束してしまった。
『うおおぉぉぉぅぅぅ…………』
ゆっくりと上がった戦士達のテンションは、ゆっくりと下がっていく。
僕も短剣片手に構えていた手を下げざるを得なかった。
ナイス判断だよ? エクセレントでマーベラスでファンタスティックな結果だけど……拍子抜け……。
ヒュドラとネメアを思い出して?? それで良いのかお前達!
…………ギャアギャアと鳴くだけで網を脱する事は出来ないらしい。
「勝利……で良いのか?」
「一応……仕留めといた方が良いのでは?」
「それもそうなのだが……どう仕留めれば良いんだ?」
ゼフィア先生の戸惑いも分かる。
まだ生きている鳥も含めた網で抑えつけている現状、どう仕留めたものか……。
「……焼く?」
「素材が駄目になってしまうだろう?」
「一体ずつ……ですか?」
「……やりたく無いな」
「やりたく無いですね……」
あの真面目なゼフィア先生でも嫌がるレベル。
まあ実際鳥って大変なんだよな。首落として血抜きして、茹でて羽根を毟って、それが人間大のサイズのやつがうじゃうじゃといる。
考えるだけでも精神的に宜しくない……。
「おい……傲慢ちき小僧……」
フェーグさんが歩きながらやってきた。
頭を手でガシガシとかいていて、どこかやるせなさそう。
「なんですか?」
「ヒュドラと一緒で、冬球置いて凍死させとけ。保存も効くし傷みにくい。氷使えるドワーフのノルザンも呼んで手伝わせる」
「……了解です」
成る程凍死。それなら素材も駄目にはなりにくいのかな。とりあえず言われた通りに冬球を作っては網の上にポンポン投げていこう。
「ゼフィア、土魔法使い達には当分これを維持させろ。この気の抜けた状態で動き出されちゃ堪らねえ」
「ああ……そうだな。呼びかけておこう」
「……アッシュ、良くやってくれた。やってくれたが……何だろうなあ……このやり場のねえやる気をどうしたら良いか分かんねえんだが!?」
「僕だって分かりませんけど!? 何でこうなったのかも分かってませんし!!」
「うがあああああああ!!!!」
フェーグさんがおかしくなった。
でもおかしくなったのはフェーグさんだけで無く、他の村人達も棒立ちしてたり、トボトボと帰って行く人が居たりと、場が混沌を極め出している。
みんながどこか消化不良な顔をしていて、良い仕事したわ〜って言ってるのは魔法使い組。
僕はひたすら冬球を作って土の網で押さえつけられた鳥達に向けて投げ飛ばして行くだけ。
「戦いって……虚しいものもあるんだな……」
こうして、直近の危機であった三方向からの魔物の氾濫は幕を閉じた。
悪辣なネメア、凶悪なヒュドラ、なんかよく分かんないステュム。
これらの魔物達が率いた魔物との戦いは終わったが、村人達の戦いはまだ終わらない。
そう、解体だ。無数の魔物の死骸。
解体せずに放置してしまえば腐食して健康に害がある。
全て燃やせば解決と言う話でも無く、殺した命は出来るだけ丁寧に頂くのがこの村のやり方。
僕らの本当の戦いは今この時から始まったのだ。
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ドワーフの氷魔法使いノルザンさんと、僕が個人的に呼んだゼガンの三人で、数え切れない鳥達を冷却、冷凍、冬球で環境を極寒に変えた。
ノルザンさんとゼガンの目が死んでいく光景を僕は同じ顔をしながら眺めていたよ。
ゼガンは氷魔法の使い方が凄く上達していたな。良い事だ……良い事なんだよ……。
鳥の冷凍保存が終われば、今度は南の平原に出向いてネメアが率いて来た魔物達の解体だ。
南も西も解体はまだまだ終わっていない。
僕達は定期的に各平原を回って冷却、冷凍を維持し続ける役目と解体を仰せつかった。
解体免除してくれても良いのにね? ……良くないか。
解体は恐らく一月近くは村人総出でし続ける事になるだろうと言われており、日が落ちたらやけ酒なのだろう宴会が毎日広場で開かれる事になった。
その日捌いた新鮮なお肉にがっつき、酒で流し込み、飲めや歌えや馬鹿騒ぎと言った風で、なんか中世でファンタジーって勝手に感じてた。
……宴の開かれた理由が、氾濫を乗り越えたおめでとー! じゃなくって、解体なんてやってられるかコンチクショー! な所だけリアルで悲しかったけど。
何はともあれ魔物の氾濫は終わったけれど、霊獣が、狐さんが帰って来るまではまだもう少し掛かる。
それまでは、大規模では無くともちょっとした魔物が山を降ってくる事も予想されており、哨戒任務に就きたがる人が殺到しては殴り合っていた。
みんな解体地獄から抜け出したかったんだ。
最終的には訓練場の方でトーナメント戦が開かれて、フェーグさんやイールさん、おいちゃんなど、精鋭部隊や強い人だけが哨戒任務を総なめしていて世知辛いと思った。
氾濫が終わったらと約束していた僕とのお揃いアクセサリーの話もこんな状況じゃしていられないとなって、婚約者のみんなは解体のスピードを高めていっていた。
目から光を消しながら、ライン作業の様に役割分担を始めて、最高効率を求め出した時には流石に休ませたし、回復魔法を掛け続けさせてもらったね。
そんな事もありつつ、村人総出でも一月は掛かると思われた解体は、想像以上に殺気立った者達の頑張りもあって二十日程で終わった。
氷魔法と氷を生み出せる三人の魔法使いは、村の至る所に氷室を作らされて、魔力を絞り出させられたけど、これで食糧に困る事は当分無いだろう。
……これから夏を迎えると言うこともあって、氷室に張り付いて涼を取る人が増えた事だけは心配だけど……。
そして僕らの解体が終わった頃には狐さんも帰って来ていたらしく、霊獣の魔力が再び盆地中に満ちていくのを村のみんなが感じて、今度はちゃんとお祝いの宴が開かれた。
ステュムの焼き鳥や、ステュムの煮込み、ステュムのシチュー、ステュムのつくね、ステュムの…………鳥ばっかりだったね。美味しかったんだけどさ。流石にね……。
地獄のステュム料理を幾つか影皮袋に入れて、今度狐さんに食べさせよう。
出来れば狐さんの巨体でいっぱい食べてくんないかな?
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氾濫を乗り越え、解体の地獄に呑まれ、霊獣も帰ってきて、ようやく村には平穏が訪れた。
平穏が訪れたなら、自ずと意識してしまうのはエレア達が学園へと向かってしまう事。
そしてアクセサリーじゃらじゃら男になる事。
それと、僕の魔力圧縮技術をエレア達に教える事。
エレアは座学も、父さん直伝の属性纏いも、母さんからの回復魔法も、僕の魔力圧縮も、全部を並行して鍛えた。
そしてそんなエレアを助けるのが【超感覚】。
魔力や魔法と言った技術は個人の感覚に左右されるもの、それを言葉に出来ない感覚で持って掴み離さないのが【超感覚】。
未だ身に付いてはいないけれど、どの技術も発動させる事には成功している。
あとは反復練習と慣れて行けば勝手に使える様になる、と言うのが僕含めた家族の総意だ。
ジェイナとジュリアとポーラにも圧縮技術に関しては優先して教えたのだけど、やはり【超感覚】と言うセンスそのものと言える様なスキルが無くては簡単には辿り着けないらしい。
こちらの三人も、僕の技術だけで無く様々な技術を並行して学んでいた様で、ジェイナが目を回していたのが少し意外で驚いたな。
今は七の月初めの方。
学園の入学試験が八の月の終わり頃に行われ、合否は即座に出され、合格した者から入寮し、九月から学園生となるらしい。
四人と一緒に居られるのは、王都への移動時間を考慮したら一月半ぐらいだろうか……。
三人にはそれまでにエレア同様、感覚は掴んで欲しい。
それと出来ればアクセサリーも見に行かないとだ。
じゃらじゃらするのは嫌だけど、みんなとの縁を感じる物は持っていたいと言う我儘を僕も持っているのでね。
頭と身体を休めると言う建前で一人ずつお誘いしてデート的な、そんなニュアンスと雰囲気の何かが出来たら良いよねって……思わなくも無い、です。
戦いに行くよりもドキドキするのはなんでだろうね?




