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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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僕、自論でも助かる

 西の氾濫は負傷者は多数出たもののやはり死者は無く、南に続いて破格の戦果を挙げた。


 ヒュドラの血から毒の研究も始まった様で、もの好きな者たちが各種族から集まって研究チームを作っているらしい。


 さらに大人達は、ヒュドラの巨体とネメアの刃を通さない体、これらに対抗する術を持てていない事を実感。

 フェーグさんの打撃特化の技や、エルさんの衝撃を通す技、父さんやゼフィア先生の様な斬る技。そしてイールさんの遠距離から斬る技を教える会が開かれた。


 どうやらあの技と言うのは、スキルと魔法と武器術の合わせ技の事を言うらしく、名称を付けるのは身体に動きを刷り込ませる為なんだとか。


 ちなみにゼフィア先生の光を纏った剣による斬撃は『輝光剣きこうけん』と言うらしい。

 光属性の与えると言う特性を活かした技の様で、剣術、槍術、斧術、双剣術などなど、数多の斬る技をまとめて纏わせて斬るからスッパスッパと斬れるらしい。


 身体の使い方や、武器の構造やリーチも違うのにそれで良いのかと思わなくも無いが、斬る概念や意思を集約して高めているのだとすれば僕でも納得出来る。


 イールさんの『遠斬とおぎり かさね』も光魔法と剣術の併用技で、斬る動作を光でなぞらえる事で光に斬撃を与えて、魔法として相手にぶつける技らしい。


 父さんの『闇纏い『斬首』』と言う技、こちらは闇魔法の特性を使っている。

 闇魔法は奪うと言う力がある事から、技の用途を「斬首」と言う、首を落とす事に限定し、他の使い方を自分から奪う事で力を強めているんだとか。


 制限をかける事で強くなるとか……少年漫画の主人公みたいだ!

 一応他にも闇纏いの技はあるらしいけれど、基本闇は使いたくは無いらしい。ヒュドラの時は使うしか無かったんだって。



 でもじゃあ、どうして皆んなはそんな技をネメア戦では使わなかったのかと聞いて回ったんだ。技を使えば斬れた可能性があるのにーって。


 答えはみんな一緒。「そんな暇も余裕も隙も無い」それぐらいネメアは厄介で強かったとの事。

 技を発現させる間に距離を詰められて攻撃をくらうよりも、技術のみで相対した方が戦いやすい相手もいると言う話だ。


 身体もヒュドラほど大きいわけでは無く、身軽ですばしっこく、さらには頭も回る。確かにヒュドラとは比較にならない戦闘センスを持っていた。


 さらにはあの雷速での移動に、奥の手だったのだろう全身を青白く発光させた最後の状態……どんな力があったのか見る前に殺したけど……それだけの技も力も隠しながら戦っていたのがネメアだ。


 ……再びネメアが現れた時、あの雷速に対応出来なければ僕で無くとも誰かが死ぬ。

 対処できる可能性があるのはエレアと、【韋駄天】を使いこなせる様になればポーラもだろうか。


 器用貧乏寄りの僕では、一つを極めんとする相手には相性が悪いのだろう。

 加えてヒュドラ戦で自覚したが、僕の強さの秘訣はやはり【記憶】。相手の動きや思考を憶えて対処する、要は後手の後に後の先を取るスタイル。つまり初見や一撃必殺には弱い。


 僕はお茶濁しを習得する必要がある。その場凌ぎの誤魔化しで命を繋ぎながら、学習とアップデートを繰り返し対応する動きを戦闘中に構築。これが必要だ。


 だがこれには圧倒的に戦闘経験が足りていない。ここだけは年齢と時間の問題だ。

 それまでにやっておくべきは、色んな技術や魔法を習得する事。数多の手札を持ち合わせて、常に有利に戦いを繰り広げる事を理想としよう。




 とまあ、ヒュドラ討伐の翌日は解体班と戦闘訓練班に分かれて一日が経過して、さらに翌日の早朝。


 ステュム率いる東の氾濫発生の合図が出された。

 鳥型の魔物は飛行する為、移動速度が速い。故に光と音を出せる火魔法を空中に打ち上げ、それを合図とするのだ。


 そして合図が出たら、そこから数時間、或いは一時間もしないうちにやって来るだろう事は確実。


 今回も僕が開幕の狼煙役を務める事になっているので、急いで準備を始める。

 護身用の短剣に、母さんが作ってくれていたブーツや革の胸当てなどを身に付け、最低限の準備を終えたらみんなよりも先に家を出る。


 道中装備を着込んだ人達が、家の屋根や建物の間に立っていたが、平原には向かわないのだろうか……?


 東の平原に辿り着いたが、空にはまだ魔物は見えない。どうやら出遅れると言う特大の失態はせずに済んだらしい。


 戦場には既に待機している人や、昨晩からここで警戒していた人などもおり、段々と人が増え殺気立ち始めている。


 僕はそんな人達を通り抜け、今回も最前線へと向かう。


 そこには、拳ほどの石を山の様に隣に積んでいるフェーグさんと、弓と矢筒を装備しているゼフィア先生がいた。


「おはようございます」

「おう、来たかよ傲慢坊主! 今日は焼き鳥だぞ! 楽しみだぜ……」

「おはようアッシュ。今回の敵は空を飛ぶ。遠距離の攻撃法が無くては戦いに参加する事すら難しいだろう。村への被害は出るものとして覚悟しておくと良い……」


 遠距離の攻撃って投石でも良いんだ……。


 でもそうか、遠距離攻撃となると弓か魔法に限定される。と言う事は迎撃に参加出来る人は必然少なくなる。なら投石でもやらないよりはやった方がマシか。

 で、村の中で待機していたフル装備の大人達は、村や家屋を狙われた時に迎撃する為だったんだね。


 僕の『テラホン』で今回もショック死あるいはパニックになって落ちてくれると良いんだけど。



 続々と戦士となった村人達が平原に集い、その多くは弓と矢を手に持ち、魔法使いが杖を構えている。


 そう言えば……杖って何のためにあるんだろう。いるのかな?


「あの、フェーグさん。魔法使いの杖って何か意味ってあるんですか?」

「俺に聞くなよ、横の鬼エルフに聞け」

「ゼフィア先生?」

「私は鬼エルフなのか……良い度胸だなアッシュ?」

「誘導尋問……!? いやいやいやいや! ゼフィア先生が鬼だったら実際の鬼は何になるって言うんですか〜もう〜」

「そりゃ小鬼だろ?」

「なるほどね?」

「…………ほぉ?」

「違いますからね!?」


 誘導尋問ばっかりだ! て言うかフェーグさんって死にたいのか!? 何でこんなに真っ直ぐ煽るんだよ!


 ゼフィア先生の額に血管浮き出てるし、口元ヒクついて……僕達はやっぱり灰になる運命なんだよフェーグさん……。


 ゼフィア先生は特大の溜め息を吐きながらも、杖の意味を教えてくれる。


「……エルフの祖達は混沌の世を乗り越えた後、世界樹とも精霊樹とも言われる大き過ぎるほどに大きい樹木を守り、自然と共に暮らしていたそうだ。その樹木の葉や枝や実はとても強い力を持っていたとも言われている。世界樹の大きさの枝ともなると、普通の木の幹程もあり、枝を削り色々な物を作ったらしい」

「その一つが魔法使いの杖だった……と?」

「そうだ。そしてその枝には魔法の威力を増幅する効果があったんだ。清らかな水はより清らかで滝の様に。地面を動かせば大地が動き、風を吹かせば嵐を呼び、火を出せば業火となった。余りにも強大すぎたので抑制するための加工を施して人類の規格に合わせた物を使っていたそうだ。それを見た人間が真似た結果広まったと言われている。実際世界樹以外にも効果のある木材はあるしな、意味のある道具だぞ?」


 世界樹ってそんなに自重しない存在なんだ……。


 でもゼフィア先生ですら断言せず伝え聞いた事の様に話していることから、若干の誇張や脚色は入っているのかもしれないな。


 それでも杖という存在は魔法の効果を増幅させてくれると…………ふぅん。


「僕も杖を借りて魔法使った方が良くないですか?」

「「絶対にやめろ!!」」

「二人一緒に言わなくても……ちぇっ。分かりました」

「お前の音は俺の耳が死ぬ!! 抑えろとは言わんがこれ以上上げるな!」

「君は自分の音で耳を壊したのを忘れたのか! さらに出力を上げてみろ! 今度はどうなるか分かったものでは無いのだぞ!」


 まあ……その通りですけど。

 四倍圧縮魔法の維持は【記憶】したから脳みそ以外は余裕があるし、今度は自前の風で耳を保護出来ると思うんだけどなあ。

 二人とも目を剥く様にして怒るんだもんな、杖はだめかぁ。


「君の耳は私が守る。風魔法は使えるからな、私自身と君の耳をしっかりと保護させて貰うぞ」

「左耳だけで無く右耳も守られるとは……贅沢ですね」

「軽口を叩く余裕があるなら保護は要らないか?」

「ごめんなさい、お願いします!」


 自前で出来るとしても、負担が大きい事には変わり無いし、やってくれるならやって欲しい。のでお願いします。


 南と西の氾濫を越えて僕も肝が据わったのだろう、緊張感ゼロの会話を繰り広げながらも空へと注意を向け続けていると、チラホラと空を行く影が見え始めた。


 段々と姿を現すその影の数は悍ましい程。

 遠目で見ると影がうじゃうじゃと蠢いている様に見えて気持ち悪い……。


 サイズの大小は分からないが、相当な数の群れになっている。ネメアの時よりも圧倒的に数が多い。

 雷でも落とせたら感電を繰り返して落下して即死したかも知れないな。


「…………おいアッシュ。杖使ってみるか?」

「手首ぐらぐらじゃないですか……」

「……アッシュ、私の腰の杖を使ってみるか?」

「掌が軽いなあ〜……気持ちは分かりますけども」

「ステュムと言う魔物は通称こう言われている。『郡にして個の鳥』と。あれが全てステュムであるとは思いたく無いが、万が一がある……」


 ゼフィア先生まで若干引いてるし。


 あの群れが個の様に統率されて動くって事? ステュム以外も統率されるのだとしたら超危険なんですが……。


 杖がどうのこうのとは言ってもぶっつけ本番で使う物では無いだろうし、テラホンを【記憶】して出来た余裕で他に出来ることと言えば……。


「テラホンとは別に、喉を身体強化しようかな……」

「自前でまだ上げれんのかよ……何でも良いから全力でやれ」

「獣人には固まって貰って二重に風の膜を張ろう。フェーグは呼びかけに行け」

「流石にお言葉に甘えるとするか」


 フェーグさんは後ろに向けて声を張り上げながら獣人を集めて、風魔法使いに頼みに行った。


 僕は今のうちに精密身体強化で腹筋と声帯、口腔内や横隔膜、ついでに一応背筋や胸筋、肺なんかも強化していく。


 そういや、前世の俳優を目指した友人が何か言ってた気がする……。


『吸った息は感覚的にお腹にも胸にも背中にも入るんだ。空気を大量に吐きながら発声すれば、声の音量は大きくなる! 自論だけどね?』


 ……自論かよ!! だがやるに越した事はない!


 腹式呼吸と同時に胸式呼吸、背中にも溜めるイメージを持って息を吸う。

 そして魔法を使わずに発声してみる。


「あーーーーーーーーーーーーーーーーー。“自論”ナイスかも……」


 今のを【記憶】! これと精密強化と魔法を合わせる!


 鳥達の影がようやく見切れるが、総数は何羽いるのか数えられない。少なくとも万は超えていそうだが……。



 鳥には基本、目のすぐ横に耳の穴がある。そして小鳥なんかは繊細な生き物で簡単な事でショック死してしまうものもいる。

 小鳥でそれなら、でかい鳥でもそこそこショックは受けるでしょうよ。


 魔物は思ったより頑丈みたいだけど、声帯を強化し呼吸法まで改めた今なら、悪く無い結果が出せそうな気がする!


 いっちょやったりますか!

 俺の声を聞けーーーーー!!

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