僕、イチャイチャの代償を知る
ジェイナ達の母親であるジルレアさんに唆され、二人の朝の様子を観察した。
その後ちょっとばかり二人の価値観やハーレムについての話を伺った後、僕はようやく本題を切り出した。
二人は、すぐに僕の右耳のピアスをエレアとのお揃いだと見破ってくる。
バレる事自体は問題無い。これを見て二人がどう思うかだ。
「これは魔石……ですか?」
「こんなに綺麗な色合いの魔石初めて見たぁ〜!」
「そうなの? グロックも難しいとは言ってたけど、そこまでだったか……」
「この魔石を使った物とか良いかもねぇ!」
「確かに……これをアッシュ君が作ったのなら、色合いは自由度が高そうですね」
二人の瞳の色は碧色。
この色は緑と青を混ぜた様な色だから、水と風の属性魔力を混ぜれば作れるかもしれない。
「このピアスはエレアと僕の瞳の色がイメージなんだ。二人の綺麗な瞳の色も多分作れると思うよ」
「わぁ〜! ほんとぉ!?」
「ですが、姉さん……」
「あっ。そうだったね……」
「アッシュ君、ごめんなさい。私たち肌が金属と合わないらしく、長時間触れていると肌が荒れてしまって……」
あぁそうか、金属アレルギー! 金とか白金はそう言ったアレルギー反応は出にくい筈だけど、金額は相当なものになるだろうな。
「魔石は大丈夫だよね? 金属じゃないし」
「魔石は何ともないよぉ。何がダメなのかは色々触って確かめたもんね?」
「ですので、無理にお揃いをしようとは思いません。アッシュ君がアクセサリーだらけになってしまいますしね……?」
二人は申し訳無さそうにしながらも、少し残念そうにそう言う。
隣のジルレアさんもこれには流石にちょっかいをかける気も起こらないらしい。
でも、昨日のグロックの加工の手つきを思い出すと、魔石の加工はそんなに難しく無さそうだった。
少し脆いのかもしれないが、供給量もあって、多少大きい物でも安価だし、提案だけでもさせてもらおう。
「……魔石の内側をくり抜いてもらって、指輪の様にして貰うのは? 指輪が困るなら首飾りにしてもいいしね!」
「そんな事できるのぉ?」
「魔石で作る指輪……耐久性は無いかも知れませんが、私達でも身に付けられますね……」
「僕は武術を使うから首から下げる事になるけど……良ければどうかな?」
二人は輝く様な笑顔を見せてくれた。
これが見たいんだ。その笑顔が何よりも力になる。原動力になる。
この笑顔を守るために戦って生きて、これからも守りたいと思うんだ。
二人の笑顔を見て、気付けば僕自身も笑ってしまっていた。
「でたぁ……でたよぉジュリアちゃぁん……」
「これですよ……この顔駄目なんです……ちょっと向こう向いて下さい……」
「なんか汚い物みたいに扱わないで!? 流石に僕でも傷付くよ!?」
ジェイナもジュリアも顔を手で覆いながら目の所だけ指を開く、古典的な見る気満々の目隠しをしている。
釣られて笑っただけでこの扱いは酷いのでは無いだろうか。
みんながずるいと言う顔を自分で見た事が無いのでどうにも感覚が分からない。
客観的に見た感想を求めてジルレアさんへと視線を飛ばす。
「そうね〜。穏やかな笑顔、と言うのが手っ取り早い表現になるのかしら? 向けられた当人からすると、目に籠った感情が伝わるんだと思うわよ?」
「目に籠った感情……?」
「目はね、時に口よりも沢山語るのよ〜! うちの旦那もいっぱい語るんだから〜!!」
…………惚気話が始まりそうな気配がする。
二人もそれを感じ取ったのか、すぐさま立ち上がり、僕の腕を両側から掴んで強制的に立たされる。
「早く行くよアッシュ君……!」
「母の話はすごく長いんです……!」
「あっうん……」
部屋から引きずる様に連れ出される時、こちらに向けて穏やかな笑顔で手を振るジルレアさんが見えた。
母親の顔をしていた。
少し困った様な、でも嬉しそうで、寂しそうで、…………色んな想いが詰まった顔。
その姿に僕は《《お母さん》》を重ねてしまった。
……お母さんもよくあんな顔をしていたな。
目頭が少しだけ熱くなって、目が潤むのが分かった。
僕は誰に言うでもなく、小さな声で「行ってきます」と呟いた。
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二人に連れられて家を出た後、ドワーフの通りまでやって来た。
二人と両手を繋ぎながら歩いていたのだが、不思議な感覚だった。
右手も左手も埋まっているから何処となく不安で、でも満たされる感じもしていて。
こうして二人に引っ張られるのは初めてで面白い。
「あれぇ……??」
「……おや??」
「どうしたの二人と……も……」
何かに気付いた前の二人に目を向けると、その先の光景も当然視界に入る。
そこには、閑古鳥が聞こえて来そうな通りがあった。
普段なら鉄を叩く音や、売り込みの声が聞こえてくる筈のドワーフの通りが……一体何事?
いや違う、あれだわ。ゼフィア先生だわこれ。
虎の尾……ネメアの尾を踏んでしまったドワーフが叩き潰されたんだ。御愁傷様だ。
「心当たりはあるけれど、僕らの目的地はグロックの家だからね。問題ないよっ!」
「問題しか無いのでは?」
「大丈夫かなぁ……こんな通り初めて見たよぉ……」
僕らは通りを見回しながらグロックの家へと向かう。
どうやら食料や木工品や一部の金細工やアクセサリーの店は残っている。
だが、昨日見た輪に棒が下がるデザインのピアスを誓いのピアスとして売っていた店は一つ残らずもぬけの殻だ。
そんなの関係無しにいちデザインとして売っていれば問題は無かったようだが。
気配を軽く探ってみると、通りの先の平原近くに数十人の気配を感じる。一つだけ物凄い力を纏った気配があるのでおそらくそれがゼフィア先生だろう。
灸を据えている真っ最中かな?
物悲しい通りを早々に折れて、ドワーフの畑の程近くにグロックの家はある。
そこに向かう道中は少し長いので、気になっていたことを聞かせてもらおうかな。
「ねえジュリア」
「なんですか? 手は離しませんよ?」
「僕も離さないよ?」
「…………話はなんですか……」
圧倒的に攻めに弱い。
顔を赤くして、ぎゅっと手を握りしめて来るジュリアが可愛い。
横でブーイングするジェイナの手もぎゅっと握らせてもらってから話を続ける。
「斬ることに特化した風魔法……すごいね」
「……っ! やっと、やっとですかアッシュ君! 私、沢山頑張ったんですよ! 風で斬る、普通に考えればありえません! ですが貴方に教えてもらった、強い思いと想像と繊細な魔力操作で成し得たんです!」
そこからは僕と目を合わせ瞳を輝かせながら、それはもう楽しそうに話すジュリアが可愛らしくて、僕とジェイナで一緒に頭を撫でながら褒め称えた。
「本当に頑張ったね。虎の首もヒュドラの首も切り落としてたの見てたよ!」
「よく見ていますね? ……あと撫でるのはもう充分です」
「ジュリアちゃんずぅーっと風魔法を使い続けてたもんねぇ? 私も頑張ろうって思えたよぉ!」
「そう言うジェイナも凄かったよ! あの土魔法で作られた大槌! 土がしなってた! 一発限りの使い方だけど想像以上の威力だった!」
今度は二人でジェイナを褒める番。
ジュリアと二人でジェイナを撫でて褒めた。
風で斬ると言う出来ない事が出来るかもしれないという挑戦に触発されて、ジェイナも土に想像を重ねた魔法を練習していた様だ。
「魔法は私たちが思うよりずっと自由でした。とてもワクワクします!」
「あの感覚は今でも忘れられないよねぇ……私達がんばったなー!」
「そうですね、結構がんばりました。ご褒美くらいあっても良いですよね?」
「ごっごほう……び?」
二人が僕の前に立って振り返り、そのまま動かず僕を見つめる。
これは…………ジルレアさんにも言われたな。悪い事では無いか。
前世の価値観ではキスって結構重い行為に感じていたけど、こっちではもっと気軽にしても良いのかもしれない。
…………一応周囲の気配を探って人目がない事を確認しておく。
「二人とも、よくがんばったね……」
身長が僕の方が高いので、ジュリアの顎を少し上げて、唇を重ねる。数秒の後離れる。
ジュリアの赤らんだ顔とほっと吐いた息が艶っぽい。
その表情があまりにも魅力的で、最後に不意を突いて啄む様なバードキスをさせてもらった。
これには流石に照れを隠し切れなかった様で、僕の服に捕まりながら顔を隠してしまった。
そんなジュリアの頭を撫でながら、ジェイナの様子を伺う。
待ちくたびれたジェイナがほっぺを膨らませていじけていた。
「お姉ちゃんもしてほしいんだけどなぁ……」
「アッシュ君のせいです……アッシュ君が悪いんです……」
まあ確かに僕が悪いのかもしれない。ジュリアは離れてくれそうに無いのでジェイナを手招きして抱き寄せる。
気配と人目は未だ無し。
左手でジュリアの頭を撫でつつ、右手でジェイナの顔に手を添えてキスをする。
すごく贅沢をしていると共に悪い事をしている気がしてくる。
それでもこれが僕が選んだ道なのだから向き合わねば。
ジェイナは一回でも十分そうな顔をしていたので、悪戯込みで唇を食んでみた。
「ふわあ!? ちょっっっ……アッシュ、くん……」
「ご褒美だからね!」
「悪い人だね……そんなとこも好きだけどぉ?」
これ以上の屋外でのイチャイチャは僕の精神に限界が来るので手を叩いて空気を変える。
「はい! おしまーい! これ以上は外でする事じゃ無い気がするので!」
「じゃあ、帰りは少しうちに寄っていって下さい」
「せっかくだしね? もうちょっと一緒に居たいかなぁ?」
この双子……やりおる!
ジルレアさん……僕が食われる前に助けて下さい。
ご褒美の後から二人はニヨニヨえへえへし続けていた。
そして二人を褒めたのだから今度は僕の番とばかりに褒めちぎってきたんだ。
ヒュドラ戦の時の、目を光らせて大量の浄化の光を生み出した瞬間なんて神々しくてまるで神様みたいだったとか。
ネメア戦の時の涙を流しながら魔物を倒す姿に胸を打たれただとか。
もはや痘痕も靨。悪い所もよく見えるし、良いところはもっと良く見える様になっている。
途中からはずっと足元見ながら歩いたよ。両手はしっかりと繋がれているから、下を向くしか顔を隠す方法が無かった。
早くグロックの所に着け!
なんやかんやありつつもグロックの小屋に辿り着いた。非常に長い旅路だった……。
双子エルフは連携がスムーズで付け入る隙が無かったんだ。
僕は素早くノックを三回する。ドアはすぐに開いた。
「はーい、ってアッシュじゃん。昨日の今日でなんか不具合あったー?」
「いや不具合は何も。今日は相談と出来れば新しい依頼をと思って……」
「ん? ああ、今度はその二人か〜。全員分は覚悟しておくよー。とりあえず入って入ってー」
非常に理解の早いグロックこそが僕にとっては神に見えた。ありがたすぎる。君は心の友だ!
四人も入ると少々手狭な小屋ではあるけど、作業をするには支障は無さそう。
「そう言えばグロック、勉強会は?」
「今日は不参加ー。昨日、アッシュの魔石を見てから火がついちゃってねっ。ずっと魔石で遊んでるんだ〜」
「じゃあちょうど良いかも。今日は魔石の中心をくり抜いて指輪に出来ないか相談に来たんだ」
「……ふーん。面白そうだね? 魔石を指輪に嵌めるんじゃなくて、魔石そのものを指輪にする訳だ……良いねえ〜。魔石は通常サイズがそこそこ大きいから丁寧に削れば行けるかもね」
「それを首飾りにも出来たら良いなって思って」
「良いんじゃないー? お値段も手頃だし、三人で魔力を込めればオンリーワンだよー」
そこからは速かった。
適当な魔石を四分割して、それぞれ中心に穴を空けてそこから大雑把に削って行く。
魔石の面白いところは、割っても魔力を溜め込む性質は持ち続け、魔力が入った状態で割っても込められた魔力が漏れる事が無い事。
魔物という生命の神秘と言える。これをドロップするのは無機物とアンデッドなんだけどね……。
大雑把に削りながら指に嵌めて大きさを調整して、今度は外から削って行く。
微調整はグロックに頼むけど、それまではみんなで一個づつ削らせてもらった。
ちなみに何故四つなのかと言えば、僕とジェイナ、僕とジュリアの四つだ。
「うん、悪く無いんじゃなーい? 一応本来の指輪みたいにデザインも付けて、ただのリングじゃなくて宝石っぽい部分なんかも作って見たけど」
「さっきの研磨とかって魔法使ってた?」
「おっ、鋭いね〜! 魔石って石だからさ、土魔法でちょこっと干渉出来るんだよね〜! だから思った形作るのもそんなに難しく無いんだー」
「綺麗……これに魔力込めるのかぁ……ちょっと怖いなぁ」
「一発勝負ですからね、気を引き締めましょう!」
……一発勝負? 魔力を抜けば良いのでは? もしかしてみんなには出来ないのか? 魔力を込めるんじゃなくて魔石の中で自分で動かせない?
「魔力を魔石の内側で動かすことって出来ないの?」
「アッシュってそこまで緻密な事してたのー? 僕でも出来ないよそんな事。どんだけ魔力の線が細いのさ〜」
線か、線で見てるのか。僕の魔力の捉え方は粒子だ。微細な粒子だから石の中に入り込んで動かせて当然だと思ってた。
常識や前提知識の違いが魔法や魔力に与える影響はやはり馬鹿に出来ないな。
「グロックの遊んでた魔石の魔力、僕に抜けるか試させて」
グロックも興味があるのかすぐに僕に手渡してくれる。
黄色い魔力がみっちりと詰まった魔力石になっている。おそらくこれは土属性かな。
どの属性にも干渉出来る無属性の粒子を魔石内部に行き渡らせて、引っこ抜く。
ズボッと抜けた瞬間魔力は色が見えなくなった。だがちゃんとそこにあるのはわかる。
ふと気になって魔力視で見てみると、色が視える。今までは属性ごとの色なんて無かったのに…………色があると言う前提で見たからかな?
魔力の制御を外すと僕の魔力もグロックの魔力も霧散して行く。
「うーわ。ほんとに出来ちゃった……すごいや〜。良かったね二人とも〜。これで失敗しても良くなったよ?」
「ジュリアちゃん……」
「魔力操作にはもっと上がありますね。あとで教えてもらいましょう」
「うん!」
その後はカラーリングで躓きながら何度も僕が魔力を抜いて、やり直した。
ようやく出来た頃には太陽がまたもお昼を少し過ぎていた。
ジェイナの指輪は宝石の部分に僕の紫、その紫の中心に無属性の白を置いた物になった。ぱっと見ると、光の反射の様にも見える白だ。
ジェイナはそれ以外の色は要らないと言った。
なので僕もそれに倣い、透明なリングと宝石の部分にジェイナの瞳の色と得意な土属性の黄色を配色してもらった。
ジュリアもジェイナと同様のカラーリングだ。
ただ間違えない様にと、リングの部分に淡く風の魔力を風の流れの様に流しておいた。
僕のジュリアとのペアリングもそれに合わせて風の流れを入れ、宝石の部分には瞳の色と中央に風の属性の緑も足して貰う。
その二つを首から下げる用の紐ももらった。
「魔石の透明なリングが想像以上に綺麗で良いね! それに指輪は宝石みたいなワンポイントの色が丁度良いんだろうな……リング全体に配色していたら色がうるさくなる所だったかも」
「風の流れか〜……勉強になるね〜」
「ありがとうねぇグロック君! お陰で素敵な指輪が出来ちゃった! 戦う時は首から下げておかないとだけど」
「身体もまだ大きくなるでしょうし、いずれ入らなくなるかも知れませんね……そこだけ残念です」
指輪はね、太ったり痩せたりするだけでも合う合わないが出るのが難しい所だ。
首から下げる分には特に支障は無いからいいね。
ちなみにお代は二人が魔力を込めるのに集中している間に支払い済みだ。
「キリもいいし一旦家に帰ろうか? もうお昼過ぎてるしね」
「お昼食べた後は家に来てね!」
「さっきの話がまだですからね!」
「これが一夫多妻の大変な所か〜、勉強になるよー」
グロックに礼を言ったら二人を家まで送る。
二人との別れ際に両頬にキスをされた。
この後また会うんだけどなー。
……家に着いてもキスの感触がなくならなくて悩ましかったとだけ言わせてもらおう。
エレアには色々とすぐにバレた。【超直感】と【超感覚】の使い方間違えてるよ……絶対。
お昼を食べた後にはまたすぐ家を出るのだけど、エレアが中々離してくれなかった。
ジルレアさんの言葉を胸に、行ってきますのキスをして家を出て、ジェイナ達の家へと向かう。
ゼガンも居るかと思ったのだが、どうやらゼガンはゼガンでデートに向かったらしい。
ゼガンも顔は良いからな、ハーレムは気をつけろと言いたい。
二人の家では、ジェイナの私室に連れ込まれひたすらイチャイチャする事になる……と思いきや、魔法や魔力の練習が始まったのだった。
常に二人がベッタリとくっついて来て、僕は二人の魔力を視ながら超近距離でアドバイスをした。
上手く出来たらご褒美を強請られ理性がガリガリと削られる音がしたよ。
帰る頃には気持ちやつれていたかもしれない。対照的にジェイナとジュリアはツヤツヤしていた。
キスは悪い事では無いのだろうが、何かを吸われるものだと知った。
その日の晩は約束通りエレアと一緒に寝たのだが、二人の匂いがすごくすると半泣きで文句を言われた。【浄化】して消臭したらやっぱり怒られた。
僕の選んだ道は、茨まみれの崖の道かもしれない。
エレアを抱きしめて宥めながらそう思ったのだった。




