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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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死を齎す蛇 ヒュドラ 決着

 ポーラに運ばれながら俯瞰視点でヒュドラの動きを【記憶】し続けた結果、ほぼ完璧なサポートを持続的に実現出来ている。


 今は魔法使い達が散発的な攻撃を止め、一斉にヒュドラの動きを拘束する手段に出た。冷気でヒュドラの動きが鈍ってきたからこそ取れる手段だ。


 ネメアの側近だったろう猪を一人で拘束したグロックの魔法を参考に雁字搦めにする様だ。

 合図の様なものは以前から決められているのか、一発の火魔法による軽い爆発が空で起こると、ヒュドラと相対していた者全員が一斉に後退する。


 ヒュドラは二本の首が爆発による振動を感知したのか空中を警戒し、他の五本が毒を喉に溜め込み出した。


 だがその量はこれまでの毒とは一線を画す魔力量。魔力視で見ると、うじゃうじゃとした魔力が喉で蠢いている様だ。

 僕はすぐに全ての口の前へと浄化の光を三つずつ集め対処に動く。



 だがそこでヒュドラはこれまでにない行動を取る。

 ヒュドラが浄化の光を認めた瞬間、喉に溜めた毒を呑んだのだ。


 膨大な魔力が凄い速さで五本の喉を通って上を見上げている二本の首へと集まっていく。


「……っ!? お前えええ!! やめろおおおおお!!?」


 奴は僕らに向けて毒を吐くのでは無く、空中にその毒を吐いたのだ。

 首五本分の毒を二本の首で圧縮して放たれたそれを僕の浄化の光では浄化し切れなかった。


 その結果大量の毒が空を覆う。


 三メートル程の高さにあった首を目一杯空に伸ばした事でその高さはおよそ五メートルを越え、そこから噴き出す様に放たれた毒はエルフ達の風魔法の範囲を超えて広域に散布された。

 その高さはおよそ数十メートルは上。


 僕の魔力操作の範囲外でもある。


 この攻撃でもっとも危ない場所はカンロ村。

 重みで滞留する様な毒が降り注いでしまえば、村の作物は腐り落ち、木造の家は腐食、人に至っては全身が爛れて……死ぬ。


「ポーラ!! 僕を上に蹴り上げて!! 今!! すぐに!!!!」

「……くっ、うぅあああああ!! 分かった!! 全部浄化して来てくれアッシュ!!」


 ポーラの脚で僕を空中へと押し上げて貰う。


 空中の毒を浄化する前に、奴の口に浄化の光を突っ込んで口内に残る毒を浄化する!!


 実益を兼ねた腹いせだボケええ!! その汚い口から二度と吐かせない!! 吐く首を移し替える技があるのはもう分かった、次は無いぞ! クソ蛇があああ!!


 空中に浄化のヴェールを張る! 同時に僕自身も浄化で覆う! 僕が毒でやられたら一貫の終わり。ここでそんなヘマはしない!


 空中でヴェールを何度も飛ばして、辺り一体の毒を出来る限り浄化した。少なくとも魔力視で見える場所に毒の魔力は視えなかった。


 身体強化に回す様な無駄な魔力は無い、ポーラかミルに僕の着地も委ねて、すぐにあのクソ蛇の毒の無効化に入る。



 僕が上空で浄化している間にも、戦況は動き、編み込む様な土魔法によって全身と首一本づつを地に縫い止められたヒュドラ。


 その首には再度毒が充填されていたが、僕がそれを許す訳ないだろうが!!


 即座に【浄化】を叩き込む。


 一瞬、中央の首と目が合った気がした。


 ……違う! 気がしたんなら目が合ったのだと思え! 奴に認知された前提で思考を回せ!


 切り替えた頭で再度やつの全身を魔力視で視認。尻尾に魔力が集まっている事を確認。


 穴が空いてるとしても口ほど大きな噴射口は無いとするなら、相当な勢いで毒が噴射される。僕は新たに浄化の光を無数に出して、それを全て尻尾へと向かわせる!


 読み通り、奴の尻尾の先から毒液が鋭く噴射された。

 全身を拘束されても、尻尾の先まで筋肉で覆われているのだから、空中にいる僕を狙う程度の角度は付けられる。


 幾つもの浄化の光を毒の量で圧倒し突き抜けて来るが、僕の魔力はまだまだあるぞ!


 毒液が落ちない様にヴェールを下にも張り、僕の方へと光を突き破ってくる毒を余す事なく全て【浄化】する!


「負けるかばーか……お前には誰も殺させない。それは僕すらもだ!」


 落下を始めていた僕の身体は徐々に地面へと近付いていくが、脱力して上を向き、抱えて貰いやすい体勢を取る。


 信じた通り、ミルが僕を抱えて受け止めてくれた。

 着地の心配が無くなれば、首を斬りに動き出した皆んなが血を浴びない様に浄化の光を追従させる。


 父さんが、謎の闇を纏わせる剣で追加で二本の首を落とし、残り五本。


 イールさんとフェーグさん、エルさんでさらに一本落として、残り四本。


 三本の首の断面六つに浄化の光を当て続ける。


 ゼフィア先生が武器を剣に持ち替え、滑らかに一本落とす。光魔法が宿った二本の剣はとても輝いて綺麗だった。


 見惚れながらも首と血の浄化は忘れない。


 一気に首を落とされた事で大量に出血している。これは流石に浄化が追いつかないので、敢えて僕の雑な回復魔法を【浄化】同様、光にして首の断面に当てる。


 瘡蓋かさぶたが出来て中途半端に皮膚が戻り出血が止まる。雑回復で再生の抑制は出来そうだ。


 再生と言えば、父さんが最初に斬った首は今や徐々に長さが伸びて来ており、もう数分もしたら首が生えそうな勢いなのが少し怖いな。


 だがもっと怖いのは一番重要そうで知能が高そうな中央の極太の首が落とせていない事。

 残る首は左右と中央に一本ずつ。



 この勢いのまま全て切り落として欲しい所だが、激しく暴れるヒュドラの動きに土魔法の拘束も解けてしまう。

 自由の身になったヒュドラは尚もめちゃくちゃに動き周り近寄る事もできない。


 のたうち回るせいで土煙が起こり視界が悪くなる。魔力視で大凡の動きは分かるが、悪知恵の働くこいつの事だ、絶対に何かする。


 他の風魔法使いは戦場の空気の循環を今なおやってくれているので、自前の風魔法で風を起こして土煙を晴らす。


 土煙が晴れた先ではヒュドラが穴を掘っていた。既にその巨体の三分の一が埋まろうとしている。


「グロックーーーー!!!! 奴を逃すなああああ!!」


 僕の声が届いたのか、グロックが此方を振り向き頷き返してから、すぐに動き始める。


 グロックは地に両手をついて……変化が起きない?

 何をしているんだ!? このままじゃ逃げられる!


 ……だがグロックが変化を起こさないのと同じ様にヒュドラもまた一向に埋まっていかない。


 そうか……! 奴が掘れない固さにまで周囲の土を固めたのか!


 奴を地面ごと持ち上げるのでは無く、逃げられない状況を作り上げる……クレバー過ぎるでしょ!


 他の土魔法使いは再度拘束に臨み取り押さえる事に成功した。

 そしてその隙を逃す人達はこの村にはいない!


 父さんとゼフィア先生がさらに一本づつ落とし、最後の中央の一本に皆んなが殺到する!


 僕も断面の【浄化】を行いながら皆んなに光をつける。


 ヒュドラの最後の首は諦める事なく毒を放とうと魔力を喉に溜めて口を大きく開いた。


 この期に及んで、こんな分かりやすい動作を取られたら逆に怪しんでしまうが、それでも口元に光を集めて対処する。


 その時、僕をポーラに預け直したミルが残っていた冬球をヒュドラの口へ目掛けて豪速球で投げ込む。


 その冷気を体内から浴びせられたヒュドラは動きを止め、首を伸ばして細かく震え始める。


 伸び切った首ほど斬りやすい物は無いと、魔法や斬撃が中央の首へと向かい、ジュリアのものと思しき一陣の風が駄目押しとなり首を切り離した。


『うおおおおおおおおおお!!!!』


 だが歓喜に沸いた空気を打ち破るエレアの声が響き渡る。



「だめえええええええ!!!! 首が斬れても油断しちゃだめええええええ!!!! 動かなくなるまで気を抜いちゃ駄目ええええええ!!!!」



 そうだ、そうなのだ。僕は《《憶えているよ》》。


 エレアの腕に出来た痣を。いつも首に掛けている牙の本来の持ち主がどんな最期を遂げたのかを。


【存在霧散】で命を感じる、浄化の光を断面と切り離された首に尚も飛ばし続けていた僕に油断は無い。


 最後の首は切り離された後も、のたうち、這いずり、何度も地面を跳ねながらこちらへと向かってくる。


 僕と目が合う。僕と言う存在を喰らおうとしている。道連れにしようと、喰い殺そうとしているのが伝わる。


 でも、お前が僕に辿り着く事は無いよ。お前と違って僕には仲間がいるからね。


 ヒュドラの前にコルハとエレアが立ちはだかる。


 二人ともが剣を寝かせて、側面から同時に剣の腹で上へと打ち上げる。


 ヒュドラが落ちてくる前に、周辺に居た全員が油断無く大きく距離を取り、グロックがネメアの時同様、首が余裕で入る大きさの穴をあける。

 穴に落ちたヒュドラの首にゼガンが上から烈風を叩きつけ、これ以上動くことを許さない。


 ジェイナがさらに上から岩を落として数分……。


「命が消えた。体からも首からも命が消えたよ……勝った……」


 僕は守り切れたんだ。今回は詰めの甘さを出す事無く、守り切れたんだ……。


 ポーラの背中に乗ったまま、酷い頭痛に顔を顰めながら僕は意識を手放した。



 目が覚めた。明るい光が部屋に差し込んでいる。


 またしても倒れたのか、僕は。東の氾濫がいつ起こるかも分からないのに……間抜けだ。まだまだだ。


 守り切れても、守り続けなきゃ意味が無いのに。


 腕で目を覆いながら反省を終えて、一旦身体を起こす。


「ここは、何処? 僕はアッシュ。記憶はある。知らない天井だけど……」


 真四角の部屋。装飾や日用品は無く全てが土で出来ている。ドアは無く、光が部屋の入り口から差し込んでいた。

 僕が寝ていたのは地面に布を折り畳まれて置かれた簡易的なベッドだった。


 まだ頭が痛むが、現状の確認が最優先なので立ち上がって外へ出る。


 外の光に目が慣れず、一瞬目を瞑ってからゆっくりと開いていく。


 ここは戦場だった。そう、戦場だった場所。

 その場所で多くの人が座り込んで食事を取ったり休息を取っている。……季節外れの厚着のままで。


 …………あれ? 命を感じる。魔力が見える。あっそうだ、【記憶】で視える状態を身体に馴染ませたんだっけ。

 無意識で存在を消して、魔力を目に集めてしまっていた様だ。とんだ副作用だな。


 とりあえず存在を戻してっと——


「——アッシュ!!」


 うぇっ? この声……ゼフィア先生? 抱きしめられてる? 頭が痛くて思考が回らない。


「えーっとどうしました? もしかして僕、凄く長い間寝てましたか?」

「時間は大して経っていない。そうでは無く、突然意識を失ったと聞いて……心配ばかりかけるな馬鹿者っ」


 時間は経ってないのか安心した。

 でもそうか、そりゃあ心配もするか。こう言う時は目を見て誠実に謝るのが一番だ。


「ごめんなさい。ちょっと頭が痛くて……でも大丈夫ですから」

「…………綺麗な瞳」

「えっ?? あっ」


 そう言えば魔力視を切るのを忘れてた。

 すぐに魔力を元に戻して、戻した状態を【記憶】し直そう。また無意識で光らせてしまいそうだからね。


「あっ……おほん。その無事なら良いんだ。誓いが守れた様で何よりだ!」

「ふっふふ。僕の目なら幾らでも見せてあげますよ? あ、ピアス。とっても力を貰えました。これからも大切にしますね」

「……ばかものっ」


 ゼフィア先生が顔を少し赤くしながら僕のピアスを掴んで撫でる。

 お返しにゼフィア先生のピアス触って撫でておこう。ついでに耳も触ってみよ。


 おぉ〜スパの時は布越しだったけど、素手で触るとスベスベで軟骨がコリッとしていて……良い耳だ。


「ちょっアッシュ……あまり触るなっ……くすぐったい!」

「ああ、すみません。つい……ちょっとぼーっとしてて、すみません」


 駄目だな、頭が痛い。ふらつく。知恵熱ってやつかな。身体が僕のやりたい事に追いついて無いのだろう。無理を通し過ぎた。


 思わず後ろに倒れそうになってしまう。


「アッシュくん大丈夫ぅ? 無理は良くないよぉ?」

「貴方、まだ休んでいた方が良いのでは無いですか? 身体がふらついていますよ」


 気づくとジェイナに支えられていた。ジュリアも後ろに居た様だけど、気付けなかった。


 よっぽど身体が疲れているのか。体力が足りて無いのかペース配分が出来てないのか……どっちもか。


「そうだ、ヒュドラの死体は? 【浄化】しなくても大丈夫?」

「それに関しては大丈夫みたいだよぉ!」

「血にはまだ毒が微かに残っていた様ですが、それ以外に毒は見当たらないみたいです。ヒュドラの毒は魔法や魔力によって作られるものと言うのが今この村で一番有力な説ですね!」

「……確かに魔力に毒が宿ってた。それを目で視て対応したからね、正解に近いと思う。……そっか、僕の手が要らないなら、もう少し休もうかな」


 ジュリアが瞳をキラキラ輝かせて居るけどごめんね、話す気力があんまり出ない。

 ジェイナにお姫様抱っこをされてさっきの部屋に戻された。


 二人が部屋を出る前に、お疲れ様と、がんばったねと褒めてくれた。すごく嬉しかった。

 ゼフィア先生は僕が触った耳を自分でさすりながら二人と一緒に部屋を出ていった。


 もう少し寝させてもらおうと思ったら、どんどんと人が入ってくる。


 父さん母さん、エレアにポーラにミルとエルさん、フェーグさん、おいちゃん、色んな人が僕に感謝を述べて心配して、部屋を出ていく。


 最後に残ったのは家族のみんな。


「アッシュ、頑張りすぎなのよ。もっとゆっくりして良いの。休んで良いの。頑張り過ぎなくて良いのよ?」

「お父さんも同じ意見だけど……僕個人としては、アッシュの頑張りのお陰でヒュドラを誰の犠牲も無く倒せたと思う。だからありがとう。でも父親としては不甲斐無いし、少し辛いよ……」

「アッシュはいっぱい出来るから、出来る事全部やろうとしちゃうんだよね。これまで出来てきたし、今日も出来ちゃった。お姉ちゃん……もっとがんばる。アッシュががんばら無くても良いように、もっとがんばるね?」


 みんな辛そうに笑う。お姉ちゃんは泣きそうだ。そんな顔しないでよ。悪い事をしたみたいだ。

 僕は間違っているの? 僕が皆んなを追い込んでいるの?


「僕は、どうしたらいいの……?」

「っ! ……今は休みなさい。お母さんは休んで欲しい。もたれても良いから楽な姿勢で休みなさい……」


 エレアの鼻を啜る声が聞こえる。どうして泣くんだ。どうして……。


 僕はまた意識を手放した。



◇ ◇ ◇ ◇



 アッシュがまた眠った。


 『僕はどうしたらいいの?』って、アッシュは私をどう見てるんだろう。まだまだ頼り無いのかな……?


 今日の戦いで私は大して役に立たなかった。最後にアッシュ達に迫る蛇の頭を上に打ち上げただけ。

 ネメアとの戦いでは少しは力になれたけど、アッシュ程の影響力は無い。


 アッシュは出来る事を全部やってる。皆んなを守るために、命を投げ打ってる。


 さっきの戦いでもそうだ、上に吐き出された毒の勢いが強すぎて、アッシュでも咄嗟に浄化し切れなくて、放って置いたら村にまで流れていきそうな毒の息をポーラに蹴り上げて貰ってまでして全て浄化してた。

 それまでも、その後も、ずっと浄化し続けて、誰かが毒を受けてもすぐに回復魔法で治せる程度の傷で済ませて……このままじゃアッシュが死んじゃうよ。


 まだ東の氾濫が残ってる。きっとアッシュはまた全力を振り絞るに決まってる。

 アッシュが頑張らなくても良いように私がもっと頑張るんだ。


 今日からでも魔法の訓練をもっと増やそう。お父さんにあの魔法を使った技を教えて貰おう。


 何も出来ないのは嫌だ。見ているだけなのは嫌だ。アッシュに守られるだけなのは嫌だ!


 涙を拭いて、顔を上げなさいエレア! すぐにがんばれ! 今すぐがんばれ! アッシュを支えるお嫁さんになるんでしょ!?


「お父さん! 魔法を剣に使うあの技教えて! お母さん! 魔法をもっと教えて! もっと強くなりたい、もっと色んな戦い方が出来る様になりたい! アッシュが頑張る必要が無くなるくらい! 強くなりたいの!」


 私は決めた。もっと強くなる。アッシュよりも強くなる! 私は賢く無いし、今は剣でしか戦えないけど、アッシュみたいに……ううん。アッシュよりも上手く戦える様になるんだ!


「お父さん達も同じ思いだよ。この子に無茶をさせたく無い。戦う度に倒れる程に消耗させたくない。この子はまだ幼いんだ。本来ならこんな戦場に立つ様な歳じゃ無いんだよ。……エレア、一緒に強くなろう。僕の持つ技術を出来る限り教えよう。エレアが村を去るまで二月程しか無いけれど、それまでに沢山教えるよ」

「お母さんは二人ともにもっと気楽に生きて欲しいのだけどね……。強さを持った弊害なのかしら。エレア、回復魔法を死に物狂いで覚えなさい。自分で自分の傷を癒せる様になれば、訓練でも多少の無茶は効く。この大馬鹿息子を支えてあげて?」


 やる事沢山だ。武術も回復魔法も剣技も教わらないとだ! もちろんアッシュと同じように魔力操作も続ける。私はもっと強くなれる。


「見ててねアッシュ。お姉ちゃん——私、頑張るよ」



◇ ◇ ◇ ◇



 うちの子達は、良い子過ぎるのよ。自分に優しく無さすぎる。どうして、どうしてここまで無茶するのよ……。


 アッシュが最善を尽くしてくれたおかげなのは分かってる。それでも倒れてしまう程がんばらなくたって良いじゃない!

 私の息子なの! 大切な家族なの! どうしてうちの子ばかりがいつも満身創痍になっているの!? どうしてこの子は何度も何度も狙われて、ギリギリで生き残る様なそんな戦いをしているの!?


 どうしてよ……どうしてなのよ……。


 アッシュは誇るべき事をしたのに、私は喜べない。村を救った英雄の様なものなのに、私は悲しくて仕方がない。


 死にそうな戦いに身を投じても生き残れる様に鍛えるんだと、アッシュに怒った事があった。

 それなのに、この子は自分で身を投じて、投じざるを得なくなり、いつも命からがら……私はこんな思いをさせる為に貴方達を鍛えたんじゃない。


 幸せになって、幸せで居続けて欲しかったの!


 英雄になんてならなくて良い!!


 強くなんてならなくて良い!!


 ただ幸せに生きて欲しい……それだけなのよ。



 はあ。感情ばかりが先走ってしまう。この子は褒められるべきなのよ。そこを間違えてはいけない。


 それでも、起きたら文句の一つや二つや三つは聞いてもらうわ。

 私達の気持ちを痛い程に知りなさい、馬鹿息子。



 だから今はただ、ゆっくり休みなさい。アッシュ。

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