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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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死を齎す蛇 ヒュドラ

昨日投稿出来なかった……申し訳ねぇ、申し訳ねぇっ!

 かまくらみたいな小さな氷室を幾つか作って冬球をパンパンに入れ、平原の前に土の看板を「対ヒュドラ兵器保管所」と銘打って立てて置いた。


 家に帰るとエレアとサフィー母さんにピアスが即バレした。ゼフィア先生がいつも付けてる物と言う事まで一目でバレた。


 女性は良く見てらっしゃるよね……。


 エレアはピアスを左右で分ける意味を知っていた様で、僕の右耳は先約を取られてしまった。


 でもこの流れは後四つ何かを身に付ける流れなのだが……前世で苦手だったアクセサリーじゃらじゃら男に僕自身がなるとはね。とほほ。

 耳は一個限定にして、何か他のブローチとか腕輪とか……腕輪は近接戦闘の邪魔になるかな。いや困った。


 ……角度的に見えないはずの僕の左耳で燦然と輝く金と緑が少し眩しかった。



 翌日の昼。蛇達が動き始めた知らせが届いた。


 今回は最初からクーアを村長に預けて、家族みんなで出陣だ。

 父さんも母さんも鬱陶しそうにしながらも厚着をしており、前に出過ぎない様に言われたエレアと僕もモコモコした服を着ている。


 戦場の冷気で汗が冷えて風邪を引いてしまいそうなのが心配だけど、冷えて動きが悪くなるのは人間も一緒だからね。対策出来るならしておかないと。




 西の平原には厚着したむさ苦しい戦士が集っていたが、僕の作った対ヒュドラ兵器こと冬球のお陰で驚くほど寒い。


「あっアッシュ……この幾つかの氷室にある冬球? だっけ。それのせいでっこここの寒さなのかいぃぃぃ」

「いやぁ〜……そそそ想像以上にさささ寒いね? こっこっここれなら蛇も凍死するんじゃない!?」

「お母さん眠たくなってきちゃった……」

「私も……」

「死ぬよ!! 起きて!! 寝たら駄目ー!!」


 ちょっと作り過ぎてしまったかもしれないが後の祭り、走ったり素振りしたりで身体を発熱させるしかない!


「おうおうおおぉおおお前らああぁあぁあぁあ! かか身体あぁあ動かかかして!! あっためろぉおぉおぉお!!」

『うぉ〜〜い……』


 士気の下がりっぷりが凄まじい!

 フェーグさんなんて声が震えすぎて何言ってるか分かんないし。……寒くしすぎたね、やっちまった。


 僕のテンションも下がってきた所で、後ろから頭を優しく撫でられた。

 この優しくて硬い手は——


「——やり過ぎたな?」

「ゼフィア先生……反省してます。冬球を作るのは知らせが来てからでも良かったかもしれません」

「それで間に合わなかったら元も子もない……。だから良くやってくれたと言わせてくれ。だが、これでヒュドラに効果が無かったら……ぷふっ。その時は笑い者にしてやろう!」

「ふふっ、はっはは! その時は指さして笑って下さい! 一発芸でもヒュドラ退治でもなんでもやってやりますよ!」


 片耳づつ同じピアスを揺らして笑い合う。不思議な繋がりを感じる。ゼフィア先生をピアスからも感じる。

 少し照れ臭いけど、心地良い。


「……先生ずるいです。いつの間にピアスあげたんですか!」

「すまないなエレア? だがそれは内緒だ。私とアッシュ、二人の秘密……と言う奴だ」

「……アッシュ。……私とも秘密作って」

「んな無茶な……。でも僕とエレアしか知らないお互いの事ならいっぱいあるでしょ?」


 どうやら納得行かないらしい。

 頬をぷくっと膨らませている姿はただただ可愛らしいのだが、珍しく嫉妬してくれているのが僕としては嬉しかったりする。

 対アッシュ同盟仲間に対抗心はあっても嫉妬を向ける様子は無かったからね。


「アッシュお前、ネックレスとか付けるか?」

「私とはどんなお揃いをしてくれるのか楽しみにしていますね?」

「私聞いてなぁーい! それに先生の顔が乙女だよぉ!」

「まさかの同盟外からの刺客ですね……とりあえずアクセサリーを考えないと行けません! 姉さん、戦いが終わったらドワーフの所を見て周りましょう!」


 あーあぁ、みんな集まって来ちゃった。そして予想通りの展開。

 じゃらじゃら男になるのは既定路線かもしれない。


 ヒュドラと戦う前の空気感も無くなっちゃった。アクセ一つでこうなるのが複数の婚約者を抱える男事情と言う事か……。


「それもこれも、氾濫が終わったらね!? その時は幾らでも付き合うから! 今は戦いに備えよう!?」

「言質は取りました、お義姉様方!」

「私もこの耳で確と聞き届けたぞ!」

「逃がさないよぉ?」

「決定事項ですからね」

「約束だよっ!」

「モテると大変だな? 私としてはこのピアスを外さないでいてくれたら嬉しいのだが……」

「……絶対外しませんから安心して下さい。後あんまり揶揄わないで下さい! 身が持たない!」


 ゼフィア先生はクスクス笑いながら先頭へと歩いて行った。


 お姉様方はやる気十分と言った風でポーラはジャンプして、みんなもストレッチしながら身体を温める中で、ミルだけは大きなモフモフの尻尾を僕に巻きつけてくる。


「知ってますか? 狐の尻尾は毛布代わりになるんです。私が温めてあげるので、アッシュくんは私を人肌で温めて頂ければ……」

「確かにめちゃくちゃあったかい……でも凍て付くような視線が痛いから、今はやめておこうかな?」

「それは残念です。ではまた道場で二人きりの時にでも——」

「——あー早くヒュドラ来ないかな!? 今なら幾らでも相手してあげるのになー!!」


 不謹慎なのは承知の上でヒュドラが待ち遠しい。

 こんな状況じゃなければ喜んで尻尾に包まれましたけれども! 戦の前にイチャイチャは出来ないだろう!?



 僕の不謹慎発言が合図だったのかと言う程のタイミングで森から蛇達が姿を現した。

 いや、蛇だけじゃない。爬虫類系も多くいる。


 ネメアの率いて来た魔物は獣系が多かったが、それでも多種多様、言い換えれば雑多な混成群と言った具合だった。


 だが今回現れた魔物達は毒々しい色合いの魔物や、爬虫類系。

 毒に適応したものと同種族と言った形で纏まっている。


 ヒュドラに冷却戦法が通じなくとも、それ以外の個体には上手く作用してくれそうでホッとする。


 そしてやはりヤツは最後尾に居た。

 九つの首の位置がブレる事なく、ゆっくりと山の木々から姿を見せる。


 だが、あまりのその姿に僕は絶句する。


 一体の蛇の胸から首が三又に別れ、中心の首はそのまま一本。

 残りの二本の首からさらに二本づつに別れて、その首がさらに二本に別れ、片側四本づつの系九本の首を持つ異様。いや、異形だった。


 一体の蛇の翼の様な八本の首。

 別れた先でさらに枝分かれしたような首。


 胴体から九本に分かれるのでは無いその首達は、およそ想像の付かない姿だった。


 さらにはその大きさ。報告では小型のヒュドラとフェーグさんは言っていたが、これが小型??

 僕の目測になるけれど、首の位置は高さ三メートルはある。

 全長になれば何十メートルあるんだあの巨体は!?



「怯むなあああああああ!!!! 蛇やそれに属するもの達は皆寒さに弱い!!!! その為のこの格好と、その為の後ろの対ヒュドラ兵器だ!!!! あの異形にビビらねえ肝の据わった戦士は氷の球をあいつらにとことん投げ込めええええええ!!!!」

『うおおおおおおおお!!!!』


 冬用装備でグローブをはめているのでそのまま手で冬球を投げ込んでいく皆んな。


 冬球を投げ込むと同時に、風が後ろから強く吹き、冷気を向こうへと送り込むのと共に毒の息がコチラに来ない様に押し流していく。


 僕は僕でやっておくべき事を見つけた。


 あの毒々しい魔物達の体が少し歪だ。

 そういう風に進化したと言われたらそれまでだが、そうでは無いならあれは…………。


 僕の軽い【浄化】でヒュドラの毒の息は余裕で対処出来た。だから【浄化】を魔力と一緒に前方に放ってみようと思う。


 魔力感知の時のソナーの様に、ぽーんと浄化を魔物達に向けて放つ。


 効果は絶大だった。


 一部の毒々しい魔物達の色が変わったのだ。

 【浄化】の説明は確か、『汚物を殺菌、分解、浄化する』だ。

 つまりあの毒々しさは毒によるコーティング! あるいは体表に毒を持つ形で進化したか、ヒュドラの毒が混じってそうな糞などを纏わせていたのか……。


 なんにせよ、『浄化』飛ばしは一旦全魔物にぶつける意味がある。

 幸いこの方法は魔力消費もそこまででは無いし、敵の【浄化】は最優先事項だ。軽度の毒なら軽い【浄化】でも対処可能なのは判明している。


「父さん! 魔物達は毒を纏ってる! 僕の【浄化】ならそれを無害化あるいは消滅させられる! 今から敵を浄化していくよ!」

「分かった! ポーラちゃんとミルちゃんを必ず連れて行きなさい!! 二人とも! いざと言う時はアッシュを引き摺ってでも連れて帰って来てくれ!」

「言われなくとも!」

「怪我一つさせません!」


 僕は二人を連れて前線手前を横断する様に走りながら、【浄化】の波動を前方にどんどん打ち出していく。


 魔物の群れの色が変わる。赤や黄色や紫の体表が迷彩柄や緑や茶色と言った本来の色味へと戻っていく。


 元々そう言った毒々しい色合いの魔物達も多数いたが、表面の毒素を排除出来ただけでも良しとする。


 怪我に毒や汚物が入って破傷風にでもなってみろ、目も当てられない。最悪身体の一部位切断なんてこの世界じゃ致命的だ。


「二人とも! 粗方浄化し終えた! とりあえずはこれで最後方に戻るよ!」

「何も起きなさそうで良かったぜ……」

「あとは冷気で魔物の動きが鈍ってくれると良いのですが……」


 僕の用意した冬球は、どれも命中する事なく避けられているが、着実に敵の群れの中に落ち冷気を放ち続けている。


 僕の【記憶】で出現時と今の状態を照らし合わせれば一目瞭然、確実に侵攻スピードが落ちている!


 僕は最後尾へと戻りながら効果有りと告げて行く。

 魔物の蛇の中には既に動かなくなったものも見受けられる事から、ヒュドラにも効果はあるだろう。


「これなら南の氾濫よりも大分楽かもしれない!」


 そう思ったのも束の間、ヒュドラが大きく息を吸い込んだ。


 ……まさか、嘘だろ? 前には魔物達も居るのに毒を放つのか……!?




「GISYAAAAAAAAAAAA!!!!」




 一目で毒とわかる濃い紫の毒を敵味方問わず吐き出すヒュドラ。

 それも九つの首全てから前方百八十度に撒き散らされた。


 僕は反射的に浄化をヴェールの様に味方の前に広範囲に展開する。

 僕の魔力操作が届く範囲で良かった……最後方に戻る前で良かった……。


 エルフ達も風魔法で毒の息を追い返すが、重みでもあるのか空中に滞留している。


 僕は前線に向かい、【浄化】の範囲を広げて安全地帯を押し上げる。


「アッシュ! 待て……って言っても聞かねえのは知ってる! その為の私らだ!」

「前に進んでほしくありませんが、今はこうするしか無いのも分かります。なので、お二人を私がお守りします!」

「うん、信じてる。みんなは強い。だから信じられる。だからこそ、僕はもう少し前に出る! 最前線には出ないから許してほしい!」


 最初は【浄化】を高濃度で広げていたが、そこまでする必要が無い事に気付いたあとは徐々に【浄化】を薄めていく。


 ……相当に薄めてもこの滞留する毒の息は浄化できることが分かった。

 おかげで魔力の消費も抑えられる。昨晩からは魔力の圧縮貯蓄を三倍にして耐えていたお陰で魔力はまだ一割程しか減っていない。


 胸はぽっかぽかで熱いが、やってて良かった圧縮貯蓄!


「アッシュ!! すまねえが、グワっと押し上げられねえか!? このままじゃ敵の様子すら確認出来ねえ!!」

「フェーグさんに頼まれちゃ仕方ないですね! グワってやってやりますよ!」


 最前線で未だ剣を構える事しか出来ないフェーグさんからの催促だ。応えないと我儘を聞いてもらった恩を返せない!


 イメージ……イメージしろ……このヴェールを一気に外側に解き放つ。

 毒を浄化しさっきまでの平原が広がる様子を!


「解き放つ? 違うな……吹き飛べ!!」


 ヴェールに追加で【浄化】を込めてそのまま波動の様に飛ばす!


 ヴェールに触れた毒はみるみるうちに消え去って行き、やがて毒の息は全て浄化された。



 毒の息が消え去った後に見えたものは…………



 平原の緑が消え、草木が枯れ落ち見るも無惨な景色。


 そしてヒュドラ以外の魔物全てが地に倒れ、痙攣し、泡を吹いている姿だった。


 この惨状を作り出した張本人たるヒュドラは全ての首が忙しなく周囲を見渡し……そして一斉に天を仰ぐ。




「SIYAAAAAAAAAAA!!!!」




 まるでこの光景に歓喜しているかの様だった。



 ……強い魔物には知性が宿るのか? ネメアにも笑っている様な瞬間があった。

 それなのに、魔物はこんなにも残虐で残酷で非道なのか? まるで世界を壊すためだけに生きているみたいじゃないか……。


 先ほどの浄化の光を見て、危惧を抱いたのだろうゼフィア先生が下がってきた。


「死を齎す毒を味方諸共振り撒くヒュドラとはな……ここまでイカれている魔物はそうはいないぞ……。アッシュ! 浄化のための魔力はどれほど残っている!?」

「魔力はまだまだ有ります! 僕は毒を受けた者を治療するのではなく、毒を受ける前に奴の毒を浄化するべきだと考えます!」

「……分かった。…………だが、前線が壊滅するようなことがあれば、ポーラ、ミル……アッシュの手足を折っても良い。撤退しろ」

「「……はい」」


 はっ……? ふざっ……けてないのは分かっている……。

 それなら僕が前線が崩れない様に全力で浄化と回復に回れば良いだけだ!


 僕はピアスを握りながら告げる。


「死なせませんから。誰一人。ゼフィア先生、僕の魔力操作と魔法の練度を舐めないで下さい。守りますから……!」

「……ふっ。そうだったな。では毒の処理は任せるぞ! 私たちはあのイカれた蛇の首を切り落とす!!」


 ゼフィア先生は臆する物など無いかのように飛び出していく。それに釣られて多くの人が気勢をあげる。


 あの背中が数多の人を引っ張る背中なんだ。戦う姿で魅せて来た人の背中なんだ……。


「ポーラ! ミル! 僕は浄化一本に集中するから、ヒュドラからの妨害があれば移動と護衛をお願い!」

「私の背中に乗れ!」

「私の武術と魔法で出来る限りは。基本回避で行きましょう」


 ポーラに背負われながら、僕は【浄化】の光を周囲にいくつも浮かせる。

 プラネタリウムと同じだ。幾つも幾つも浮かせてストックを作る。


 奴の毒攻撃に合わせて浄化し、苦しむ戦士に浄化を当てるんだ。

 多少の傷で狼狽える人達じゃ無いのは憶えている。きっとすぐに前線に戻るだろう彼らを信じる。


 そして【存在霧散】を発動。

 熱や振動を察知する筈の蛇の癖に、視覚を持っている素振りを見せたお前に対しては有効だろう。



 ここからが正念場だぞ僕。命を感じろ。魔力を感じろ。この戦場を僕の手中に収めろ。



 イカれヒュドラ、お前には誰も殺させないぞ。

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