僕、ピアスをつける
南の平原での解体はなかなか終わらず、貴重な魔物や素材は村唯一の氷魔法使いのドワーフの人が氷室を作ってそこに保管していく事になった。
氷魔法使いがまさかのドワーフな事にカルチャーショックを覚えてしまったが、授かったのか素質があったが故だろう。
それにドワーフとして育ったお陰で作られた氷室は非常に頑丈。これ以上無いくらい保管に適した建物が多く作られた。
残念ながら解体が間に合いそうに無いものや、すでに痛み始めているものはまとめて焼却。灰になるまでしっかり燃やし尽くす。
その時にはしっかり立ち会い黙祷を捧げさせてもらった。
解体にあまり顔を出していなかったポーラは早速ミルに武術を教わっていたらしい。
後、二人は解体を免除されるだけの役目を任されていたんだそうな。
それは何かと言えば……アッシュのお目付け役!
なんでー!? お目付け役の為に解体しなくて良いとはどういう事!?
と言う文句をこの指示を出したゼフィア先生に尋ねてみたらこう返ってきた。
『双子とエレアは君に流されかねん。その点、ポーラとミルはある種の強引さを持っているから適任だと思った。それに君はよく倒れるからな、いざという時の撤退用の足と護衛だ。そして生存率を上げるために少しでも鍛錬を積ませていると言う訳だ』
との事。
「ぐうの音も出ないよ……」
「うぅぉえぇ〜」
「そこは『ぐう』だけで良いんだよ〜」
「うぅ!」
出ちゃダメなんだけどね。
僕は今クーアを抱っこして庭を歩いている。
父さんと母さんは明日に迫ったヒュドラ率いる西の氾濫に備えた作戦会議。エレアはミルの家に武術を習いに行っている。
どうやらネメア戦で見せた、ミルのお母さん——エルさんの「崩掌」が注目を浴びた様でミルの家の道場は今多くの戦士が詰めかけているらしい。
そんな訳で、手の空いている僕が可愛い可愛いクーアの面倒を見させて頂いてるんですね、はい。
「クーアは将来どんな美人さんになるんだろうね〜。彼氏が出来たらぶん殴ってやろう……。結婚する時もぶん殴ろう……。いや、クーアは結婚しなくても良いかもしれない……なんなら僕が……いやいやそれはダメだろう……はぁ。可愛いなあ」
妹ってこんなに可愛いんだな。大きくなったらなんて呼ばれるんだろう……ハッ!!
「クーア? にぃって言ってごらん? にぃ。にぃだよ〜?」
「い〜い」
「…………」
ずきゅーん……って音がした。
「もう一回。もう一回言ってごらん?」
「にーい」
「っ!! ……クゥアァァ……! にぃは幸せだよっ!」
この子の為ならヒュドラとかワンパンだわ。弱点突きまくってさっさと倒してクーアとお喋りするんだ!
きっと他所の人が見たらシスコンだとか言われるんだろうな…………それが何か? シスコン上等だが? お姉ちゃんを嫁にする弟ですけど?
「クーア、明日は村長さんの背中で待っててね。家族みんなで迎えに行くからね」
「あーい。やーあ」
クーアが僕に向かって手を伸ばしてくるので、指を掴ませてあげる。
僕の指をそのまま口に持っていってしゃぶっているが、汚いとか思わない。
なんなら僕が汚いかもしれないから、しゃぶられる前に【浄化】しておいたくらいだ。幾らでもしゃぶってくれ。
これが父性……なのかな。
そろそろお家に戻って僕も使っていたベビーベッドにクーアを戻して寝かせよう。
懐かしいな。ベビーベッドに居た時はまだ俺って言ってたっけ。アルカイックスマイルもその時つくったんだよな。
僕ももう八歳か……まだ八歳か。八歳で五人のお嫁さん候補って異世界感じるなあ。
部屋に戻ってクーアを寝かしつけていると、カル父さんが部屋に入ってきた。
「おかえりー作戦会議終わったの?」
「アッシュ、すぐに来て欲しい。クーアの面倒はお父さんが見るからすぐにフェーグさんの家まで向かって……!」
「……わかった」
父さんの様子は落ち着いているけれど、酷く痛ましそうな顔をしている。
僕を必要とする案件が発生したのだろう。出来る事ならなんでもしてやる。
「クーア、行ってくるね……!」
クーアの額にキスしてから僕は家を出る。
そこからは二倍精密強化でひた走る。
間も無くフェーグさんの家に着き中に入ると、そこには顔の半分が爛れたエルフさんが一人倒れていた。
皮膚が爛れるって事は毒……か?
僕が呼ばれた理由はなんと無く察したので、他にも何か情報が無いか魔力視で傷を見る。
爛れた場所にうっすらと魔力が纏わりついているのが見えた。纏わり付いた魔力が徐々に肌を侵蝕していってるのも分かった。
「来たか。サフィーでも治しきれなかった。お前なら可能性があると言っていたがどうだ?」
「多分行けます。魔力由来の毒? の様なものみたいですし……でもこれって?」
「ヒュドラの偵察に行っていたエルフの斥候の一人だ。風向きが突然変わって、ヒュドラの息を軽く浴びただけでこれだ。西の森は毒で汚染されているだろうな……厄介になってきた。一先ずお前に治せるかどうか試してもらいたい」
「息で……分かりました」
ヒュドラもヒュドラで神話通りか。この世界おかしいよ。ヘラクレスを作りたいのか? 最終的にはヘラクレスも毒で死ぬんだけど……。
とにかく、魔力視でこの毒と思しき魔力の状態を確認しながら【浄化】を当てる。
【浄化】の光が触れたところから蝕んでいた魔力がスッと離れて消えていく。……これすごく軽い【浄化】だったんだけどな。効果覿面、エルフさんも痛そうだけど呼吸が安定した。
その様子を見た他の大人達が少しどよめいていたが、またしても僕は特効を持っていたらしい。
「母さん、あとはお願い。僕にはまだこの怪我をすぐには治せないから」
「ありがとうアッシュ。よく頑張ったわねっ! あとは任せなさい」
なーんにも頑張って無いんだけど、否定する事でも無いので神妙な顔で頷いておく。
にしてもあの魔力、回復魔法を阻害しながら体を蝕んでいたのか……どう言う魔力だったんだろう。
そもそも蝕む魔力って……いや魔法は自由なんだ。よくわかんない力を付与出来るのかもしれない。
母さんの回復魔法を受けたエルフさんは徐々に皮膚が戻っていくが範囲が広いので暫くかかりそうだ。
「こうなるとアッシュを前に出すのは悪手か……? 現状ヒュドラの毒の対処が出来るのがこいつだけだぞ?」
「私としてはアッシュが後ろに居てくれるのは安心するがな。先日のネメアの時は流石に肝が冷えた……あんな思いは二度とごめんだ」
「頭領とサフィーさんがいれば、少なくとも死ぬ事は無いんでしょう? 冷めた言い方するなら、頭領が死んだら戦いに勝っても村の損害はデカいですぜ?」
「うちの義息子になる子を失うのは本意ではありません。アッシュくんには今回は後ろに居てもらいましょう?」
ゼフィア先生もおいちゃんもエルさんも僕を後ろに下げたがってるな。
まあ今の毒を見たらそうなるよね……。
開幕のテラホンも大量の魔力を使ってしまうし、蛇は振動や熱を感知する筈だけどテラホンの振動が全身関節と筋肉で構成されてる様な蛇に効果があるか分からない。
他の蛇の弱点と言えば、サーモグラフィーで世界を見ている事とか、寒いと動きが鈍ってしまうとかかな。
氷室を作ったドワーフの人でも流石に広範囲を一気に冷やす事は出来ないだろうし……どうしたものか。
「冷気……氷……寒い……冷やす……あっ」
「……はぁ〜……今度は何思いついた? 言ってみやがれ馬鹿たれ小僧」
「あー……えっと。母さん、前に作ったすごく硬い氷覚えてる? 僕が木剣を叩きつけて木剣が折れちゃったやつ……」
「えっ? ……あぁ! 懐かしいわね! 夏も近かったのに周辺一帯が凄く冷えたのよねあれ。それがどうしたの?」
「蛇って冬は冬眠するらしいんだよ。同族以外を殺してるって話だし、冷気で戦場全体を冷やせれば動きを鈍く出来るかもって思って」
「…………その氷は今作れんのか?」
「作れますけど……訓練場で出す事をお勧めします」
僕らは一旦訓練場へと場所を移した。
大人達に見守られながら魔法を使うのはなんだかやりにくいけど、久しぶりの三属性を重ねる魔法にちょっとワクワクしている自分がいる。
早速あの時を【記憶】で思い出す。
先ずは水球を作ります。そこから闇魔法で熱を奪い運動を止める、と同時に闇魔法の効果を無属性で増幅させたら——三秒クッキング終わり。
「出来ました。素手で触るのはよしたほうが……皮膚がくっつくので」
僕が三秒で作った冷気と言うか寒気を振り撒く氷球ならぬ冬球をみんなの前に魔法として浮かせたまま持っていく。
「いやマジで寒いんだが……」
「この距離で寒さを感じるのか。アッシュ……君には驚かされてばかりだよ」
「おいちゃん風邪ひくわ……」
「うちも流石にこの寒さはきついです。アッシュくん、温めてもらえますか?」
「なっ!? エル殿!?」
「ん? どうされましたゼフィアさん?」
「あっいや……なんでもない。気にしないでほしい」
さすがゼフィア先生だ。可愛いポイントを逃さない。
エルさんの言い方は確かに悪かったかもしれないが、このお方は基本こんな感じだ。
おっとりまったり、僕に慣れてきた頃のミルがそんな感じだったな。
クーアが生まれる前後で道場にお世話になっていた時はよく惑わされたものだ。
最初は物理的な距離感も近くて本当に戸惑った。後ろから抱きつかれる——あすなろ抱きをされた時なんて心臓バクバクだったよ。色んな意味で。
当人はただのスキンシップだったみたいで、後でミルがいっぱい怒ってた。
そんな事を思い出しつつ僕は黙って冬球を消して火球を幾つか作る。
ピュアなゼフィア先生は黙って楽しむのがマナーだ。
気付いた素振りを見せると怖い笑みで脅してくるからね。
今は大袈裟な咳払いをしながらそっぽを向いている。
「ふふっ……」
やばっ堪え切れなかった。
気付いたらアイアンクローをかまされていた。
「あっ、あっ、ちょっまって。ゼフィ、まって先生、ゼフィア……待って痛い痛い……」
「笑ったな? ……何について笑ったんだ? うん? それに……呼び捨てにするのは早いと思うのだが……おほん!」
照れるくらいなら頭掴む手を離して!! しかも呼び捨てにしたくてしたんじゃないですし! 早いも遅いもないですしー!!
「わざとじゃない……! 呼び捨てしませんから! 解放してー!」
「……仕方あるまい。呼び方は好きにしてくれて構わないぞ? 呼び捨てにするならそれ相応の覚悟はして貰うがな?」
「いったた。どういう意味の覚悟ですか……? 結婚は後七年は待ってくださいねー?」
「…………」
「あれ? また? 痛い! さっきより痛い!! ゼフィア先生!? 痛いです!! イタタタタタタ!!」
無表情でアイアンクローは怖いです!!
あっ耳の先っぽ赤い。ちょっと照れてる……。あっ気付いたことに気付かれた!?
「この騒動が終わったら、たっぷり扱いてやるからな。覚悟しておけアッシュ……!」
「死なない程度にお願いします……」
「イチャイチャは終わったか?」
「あのゼフィアさんにも春がねぇ……頭領なのは意外だが」
「あぁ! アッシュくんに温めてって言ったのに驚いてたのね〜!」
「嫁が六人って……うちの子、干からびて死なないかしら?」
あれぇ? 嫁にする流れなんですか? さっきの冗談と言うか、そういう揶揄い合いなんだけどな。
ちょっと前に、孤独だったら貰ってくれるみたいな話はしたけど……。
そう言えば南の氾濫で僕が先頭に出た時、ゼフィア先生ぼーっとしてたっけ。
みんなを先頭で守り続けてきたゼフィア先生が、僕の背中を見たから……?
「今はそんな話をしている場合では無い!! 対ヒュドラの作戦会議だ。アッシュは後方。冷却による蛇の行動力低下を狙った戦法はどうする!」
みんなゼフィア先生に微妙に生暖かい視線を向けているが……僕はどうしたら良いんだ?
ゼフィア先生の勢いに乗っかって真面目に話を戻すか……。生きて乗り越えない限り未来は無いんだしね。
ゼフィア先生の横に立って意見を一つ言わせてもらう。
「僕がさっきの——」
「——っ! …………」
「……まだ何もしてないのに頭掴まないで下さい?」
「……すまない。少し距離を取って貰えるか。今は少し……その……すまない」
ああ、そうなのか。流石にね、ここまで来て鈍感はやれないので。
これ完全に意識されてますね。手が出るタイプなのがちょっと怖いけど。
でもそれなら尚更隣に居た方が良い気がする。
ヒュドラを封殺出来る自信なんて正直無い。それならお互い悔い無く生きないと勿体無いよ。
「頭掴まれない様に手を繋いでおきますね」
「……」
ゼフィア先生が借りて来た猫みたいになっちゃった。
数年前は見上げていたゼフィア先生の顔が、今は少し上にあるだけと言うのが感慨深いと思いつつ、冷却作戦の概要を話していく。
「僕がさっきの冬球をいっぱい作るので、それを蛇達が平原に出てきてから投擲して貰えればそれで良いかと」
「頭領質問だ。なんで平原に出てきてからなんだ? 事前に仕込んでおけば良いだろい?」
「蛇って温度にも敏感らしいんで、すでに冷たい所は避けて通りそうだなって」
「なるほどねー」
投げられても避けるだろうけど、避けようが無いくらい冬球を作って投げて貰えば良いだけだ。
「でもそうなると戦場全体が非常に冷えるので、冬に使う様な装備があると良いのですが。ついでにヒュドラ程では無くても普通の蛇の牙も通りにくくなりそうで丁度良いですし」
「それなら各人が持ってるはずだぜ。霊獣が居なくなるのに季節は関係無かったらからな」
「それは良かったです。あとは毒の息が村や戦場に充満しないように、常に風魔法で空気を循環させないといけませんね……」
「そっ、それは、エルフの方でやっておこう。……もう大丈夫だから手を離せ……恥ずかしい……」
乙女だ……。だが断る。折角なのでね。
ヒュドラ対策はこれ以上の情報が僕に無いので出来る事はここまでかな。
あとは冬球を今から沢山作って置かないとだ。
「僕に出せる案はこれくらいです。お役に立てたら幸いです。それじゃ、冬球作りに入るので一旦失礼します!」
「東の平原に自分で氷室作ってそこに溜め込んどけ! お前なら出来んだろ!」
「りょーかいでーす!」
可愛いゼフィア先生はこれで見納めだな。
手を離そうと力を抜くのだが……離れない。
ゼフィア先生の方から掴まれてるな、これ。
すると突然ゼフィア先生に手を引かれて皆んなから見えない場所に連れて来られる。
「君は……君はどうしていつも私を……。どういうつもりなんだ?」
「真面目な話、死ぬかもしれない戦いの前で悔いを残すのは勿体無いと思ったので。ゼフィア先生は控えめだから……」
「私は頼んでいない……私は恋などしていない……君は八つなのだぞ!? 私よりも身長も低くて、戦闘能力も私より無いのに……どうして何時も隣や前にいるんだ!?」
「……いつかの話を思い出しますね。僕らはお互いが守るべき対象なんですよ。大切だから守りたいんです。きっと、それだけなんですよ」
そうなんだよ、僕まだ八歳なんだよな。
でも生きた年数は三十年近いんだ。分かるものは分かってしまうし気付いてしまう。
それに前世基準で見たらゼフィア先生なんてスーパー美女なんだよ? 格好の一つや二つ付けたくもなるものだよ。
「…………私のピアスを片耳やる。戦いが終わったら返してくれて良い。だが、それまでは……君が持っていてくれるか?」
ゼフィア先生が左耳のピアスを外して僕の手に握らせる。
持っていてくれるか? って聞いてるのに握らせるのは拒否権ないじゃんね。
「ふふっ、折角なのでね、つけておきます。痛っ、くぅぅ〜……浄化してから回復〜……どうですか? 似合いますかね?」
ゼフィア先生のつけていたピアスは、金のリングに緑色の宝石が輝く細い棒がぶら下がっている様なデザインだ。
オシャレさん……結構良いお値段しそうじゃね? つけてよかったのかなこれ……?
「意味を分かっているのか君は……? 全く……良く似合っている。私とお揃いだな?」
「ちゃんと受け取りに来て下さいよね?」
「すまん、それは無理そうだ。そのピアスは君にくれてやる。だから肌身離さずつけていろ、私と同じピアスをな」
ゼフィア先生が顔を寄せて来てピアスどうしを打ち合わせる。
すごく近い。すごく綺麗な顔だ。普段はキリッとした目が優しくなっている。口角が緩やかに上がっていて穏やかな表情をしている。
鼻の頭がぶつかる。額もくっつく。
「アッシュ……将来君が一人だったら私が君を貰おう。いつか君がこの地で腰を落ち着ける時が来て、他に嫁がいても私を求めてくれるなら、その時は君が私を貰ってくれ……。それまでは私は先生だ。先生として君を守る」
「……っ……はい。僕も、先生を守ります」
「ああ。私と君は互いを守り合う。このピアスは誓いだ。愛する人を守ると言う誓い。ふっ……君の左耳だけは今から私だけのものだ……」
ピアスを分け合う事にそんな意味があったのか……。
と言うか乙女チカラがすごい。この人クール美人に見えて実は可愛いの権化なんじゃないか?
左耳のピアスを渡されたから左耳につけてみたけど、ピアス打ち合わせる為にこんな顔を寄せるとかキスより恥ずかしいよ!? 左耳くらい幾らでもあげますから十センチ離れてほしい! 顔が熱い!
「すっかり誑し込まれてしまったな。思えばよく口説かれたものだ。大きくなったら貰おうかと言われた事もあったな?」
「……ありましたね、そんな事も。半分冗談で叶う訳無いと思ってましたけど……なんか僕って存外モテるらしいですね?」
「モテない方が不思議だな。それに今もこんな距離で喋っているのに何故か落ち着く……不思議な男だ。確かジェイナとジュリアも君の近くは落ち着くと言っていたが……今なら良くわかる」
浄化された魔力の副次的な効果だな。ポーラは力が漲るとか言ってた気がするけど、少なくともエルフは落ち着くらしい。
「僕は心臓が口から飛び出そうですけどね……」
「そうなのか? ……では、出ないように塞いでおいてやろう」
唇が重なり、数秒経ってから離れる。
唇が小さく震えていた。瞳が潤んでいた。とても長くて短い数秒だった。
……八歳にガチ恋するのはショタコンだけだと思ってたけど、ショタが好きな訳じゃ無いのは見てたら分かるし、誰も好きになれなかった理由は知っている。
そして何より僕がこの人に幸せになってほしい。幸せに出来る人がいないなら僕が幸せにするしか無い。
その為にも受け止められる器のデカい男になろう。いつか必ずゼフィア先生を迎えに行こう。
…………後、皆んなに話だけでも通しておきたいかな?
「これって秘密ですか?」
「あぁ、そうだな……秘密が良いな。君と二人だけの秘密が良い。特別で良いだろう?」
「……分かりました、僕とゼフィアの秘密という事で」
「……今だけだぞ? ここを離れたら先生だからな?」
「はい! でも今はそろそろ戻って下さい。これ以上は怪しまれますよ?」
「うむ。名残惜しいが……そうだな。いつかの為にも……必ずヒュドラを退治しよう」
「ええ。死力は尽くせないので、生命力を尽くしますよ」
「それは良い、私もそうしよう。ではまた明日、頼むぞアッシュ!」
「任されました!」
僕たちはそこで別れ、そのあと僕は走って西の平原へとやってきた……左耳のピアスを揺らしながら。
一先ず穴を作ってそこに向けて……
「惚れてまうやろーーー!!!!」
……惚れたんだけどさ。
ピアスが揺れるのを感じながら、冬球をいっぱい作った。それはもう沢山作った。
僕の心の熱を少しだけ冷まして欲しいと思いながら。




