僕、全力で魔法を放つ
きっと魔物の氾濫以外で使う事は無いだろう魔法の練習は一日で終わった。
その後は呼び出しや相談でも無い限りは大人しく過ごした。
みんなの家に行って遊んだりもした。
コルハは俺と戦えって煩くて、ずっと組み手をした。
ゼガンとは風魔法を教わったり魔力の使い方を教えたり。
グロックには最早僕が教わっていた。今ならもっと良いウィンドウさん像が作れそうな気がする。
ポーラとは手を繋いで村中駆け回った。大馬鹿頭領が既に広まっていたので、今度おいちゃんに水をぶっかけてやろうと思った。
ジェイナとジュリアとは休耕地に咲く花で花冠を作ったり、花で指輪を作ってプレゼントしたりした。
いつか枯れてしまうけれど、またあげられるならその時にもう一度作って贈ろうと思う。
ミルとは道場でゆっくり過ごした。特に何をするでも無く、ただ一緒に時間を過ごしただけ。でもそれがとても楽しかった。
エレアとはいつも通り。毎朝髪を梳かして、一緒に寝る。いつも通り側に居て、一緒にクーアの世話もした。ちょっと夫婦気分が味わえた気がする。
魔法の練習を終えてから三日後、父さんと一緒にフェーグさんの家に向かう事になった。
そこで伝えられたのは南のネメア率いる魔物の群れが動き出したと言う事。そしてその群れは翌朝平原に到達すると言う予測だった。
それを僕に伝えたのは、僕が勝手に動く可能性を危惧しての事。
だから僕は逆に伝えた。一度だけ魔法を使いたいと。最初の一発。平原に魔物が見えたら、たった一発だけ撃たせて欲しい旨を伝えた。
その際には、僕より前方に村人を一人も配置せず、後ろで風の膜を張って貰う事も。
僕と視線をぶつけ続けたフェーグさんはこれを認めてくれた。認めたからこそ、それ以上の行動は許さないとも釘を刺されたが。
大人達はまだまだ言いたい事、思う事が沢山ありそうだったが、フェーグさんが黙殺してくれた。
その帰り道、カル父さんに一発だけ殴られた。父さんは泣いていた。
僕も泣いていた。この痛みも僕は《《忘れない》》。
父さんには、母さんとエレアに絶対に秘密にする様に言われたが、言われるまでも無い。
エレアの【超直感】が怖いくらい仕事をしてきてその日の晩は生きた心地がしなかったよ。
翌朝、父さんとは別で【存在霧散】を使ってから村を出て南の平原へと向かう。
平原に出る前から山から出てくる無数の魔物の影が見えた。
少し足が竦みそうになるが無視する。僕の魔法は目の前で相対して使う魔法じゃ無い。遠方から使う魔法だ。死んだ魔物を至近で見るわけでも無い。
怖がるだけ無駄、無意味。竦む足には勝手に竦ませておく。
平原には武装した村人達が既に集まっていた。
いや村人じゃ無い。戦士達がそこに居た。
殺気と闘気を肌で感じる。
高まる魔力。抜き放たれる剣。掲げられた槍。地を打つ足音。
……強く命を感じる。
空気に呑まれ高揚する身体とは別に、心が引き返せと冷静に警鐘を鳴らす。
死ぬ為に生きるのではなく、生きて死ぬ為に生きるのだろうと。
心も身体も当てにならない。
だから【記憶】を頼る。僕が積んできた訓練や鍛錬を。数日前に練習した魔法の感触を。
…………。
嗚呼、圧勝だ。何も恐れるものは無く。殺せなくても動けない魔物の山が出来るだけ。
僕の魔法はファンタジーじゃない。
ファンタジーの力で使う、《《あり得ない物理》》だ。
僕は気配を漏らさず歩いて戦士達の横を抜け、先頭に立つフェーグさんとゼフィア先生とカル父さんの前に出る。
振り返って存在を戻して挨拶をする。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「「「っ!?」」」
「つぁー!! 気付かなかった! 仕上がってんなお前? 見た事ねえ顔つきしてやがる」
「アッシュ! …………親子では無く、漢の約束だ。一発で戻るんだよ」
「うん。父さんとウィンドウさんに誓うよ」
「…………」
「ゼフィア先生……?」
「……あっ、あぁ。どうしたっ?」
「いえ……なんだかぼーっとしてたので」
「っ! もっ問題は無い! 君こそ大丈夫なのだろうな!? 情けない姿を見せてくれるなよ!」
今回はフェーグさんから気配を隠し通せた様で安心した。
天才を負かす天才で申し訳ないですねー!! 言わないけど。
そして父さんがまさか漢の約束を持ち出すとは……今世の僕はそう言うの弱いんだよ。
絶対に守るから安心してよね。
最後に、ちょっと心配だけど、ある意味いつも通りのゼフィア先生。
でも今回ばかりは何もしていない。本当にどうしたんだろう。
まあでも、そんな事は後で幾らでも聞けば良い。僕はただいつも通り、そしていつも以上の威力の魔法を楽しんで放てば良い。
気負うと失敗するからね。今回は魔物を生物では無く木人形として処理させて貰おう。
さあ、最高の的どもが歩いて来てくれる。一発だけの試射をどうか受け止めてくれ!
「お前らあああああああ!!!! 今から戦士アッシュが魔法を放つ!!!! それが戦いの狼煙だ!! 得物を抜き放て!! 気合を高めろ!! 久しぶりの大戦だああああ!!!!」
『うおおおおおおおおおお!!!!!!』
「アッシュの魔法には余波が伴う!! それを軽減する為に風魔法使いは前に出ろ!! 風の膜をアッシュの後ろに張り巡らせろ!!」
「アッシュ……! 思いっきりやりなさい」
「……! うん! 父さん!」
ああ! 気分が良くて困る! 張り切ってしまいそうだ! 僕の魔法はまだ本気で撃ったことが無いから冷静に撃ちたいのになあ!
「すぅー……はぁー……リラックスだ。空を見ろ。綺麗な青空だ。平原を見ろ。綺麗な緑だ。踏み荒らされてるけど。うしろはすごく静かだな。音が途絶えてる。良い風の幕だ。これなら大丈夫だろう」
魔力を二倍で圧縮貯蓄する様になって、魔力量は純粋に二倍に増えた。
その魔力の半分。本来の魔力全部を使って一発の魔法を放とうか。
魔力を圧縮。四倍にまで圧縮。
今回はこれを四つの魔法に使う。
一つは増幅。一つも増幅。もう一つも増幅。さらにもう一つも増幅だ。
全部増幅。でも増幅する対象が違う。
「音を増幅……振動数を増幅……音を増幅する魔法を増幅…………振動数を増幅する魔法を増幅…………」
あっはは。増幅がゲシュタルト崩壊しそうだ。でも崩壊したら魔法も壊れるからダメ。
二つの増幅魔法を二つの増幅魔法でそれぞれ強化した魔法。これを口の前に発生させる。
名前を付けるなら……『テラホン』かな?
メガより大きい、ギガよりも大きいからね、きっと。
僕は両手で円を作り、そのまま口に当てがう。端的に言えばやまびこをする時の手。
あぁしんどい……四つの四倍圧縮魔法の維持は頭がおかしくなりそうだ。
魔法の指向性は魔力操作で前方に放射状に固定する。
木人形《魔物》の波が押し寄せる。地響きが聞こえる様だ。ネメアと思しきデカい猫科の姿も見えるな。
……さてさて、準備は整った。これ以上は僕も限界が近い。
あっ、一個忘れてた。シャドウウルフの皮袋……影皮袋から千切った布を二つ取り出し耳に差し込む。
これで準備万端! 手を挙げて魔法を使う合図を出す。
それでは息を大きく吸いまして…………口に両手を添えましたら…………
「あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
雷魔法は雷速では無い。だがこれは魔法だけれど魔法では無い。だから僕の声はそのまま音速で響き渡り届く。
僕の声が通った地面が捲り上がり平原が荒地になっていく。
音が、振動が、空気を揺らし、世界が震えている。
魔物の波に届いた声は一瞬にして波を越えて過ぎ去って行く。
そして音が全て止んだ時、魔物の波は止まり、その全てが地に伏した。
同時に、僕は耳からの出血を感じながら前のめりに倒れた。
あーあ。また格好がつかないや。
でも僕らしくって良いか!




