僕、ばれる
村の外への外出が禁止されてから三日目、カル父さんが家を出る時に僕もついて行くことにした。
気配を世界に紛らせながら。
これはおそらくスキルに合った【存在霧散】。恐らく狐さんも使っている技。
これを見破られたのはフェーグさんに敵意が漏れた時だけ。つまり平常心を維持していればフェーグさんですら僕を見失う技術なんだ。
これを用いて父さんの後をつける。
どうやら父さんはフェーグさんの家に向かっている様だ。
隣の訓練場からは大人達の野太い声が聞こえる。子どもの使用を禁じたから何事かと思ったら、戦闘訓練のためだけに使っていたのか。
おっと、父さんを見失う所だった。他所見せず、物音を立てない様、慎重に、慎重に。
父さんが向かった先は居間だった。
そこにはフェーグさんを始め、ゼフィア先生、村長さん、他にもミルのお母さんや、霊獣と出会って鍛えたと言う人、良く子どもと遊んでいるお兄さん、僕を馬鹿頭領と揶揄ってくる近所のおいちゃんまでいた。
村中の様々な有力者が集まって、会議を開いていた様だ。
「ん……?? ……ああ、カルか。アッシュとエレアはどうだ。うちのコルハは戦わせろって煩くて敵わん」
「あはは……うちは煩くない分余計に怖いですよ……」
「あの二人は聡いからな。アッシュが大人しいのが少し怖い所ではあるか…………。さてカル殿、今朝魔物達の動向をエルフの斥候部隊が掴んできた。どう見る?」
コルハらしいな。この家に気配を感じないから追い出されてるんだろうけど。
今はそれよりもゼフィア先生の言っていた魔物の動向だ。氾濫が起こるとしたらどの方向から来るのか、予想がつくなら防備の仕方も変わってくる。
「これは……! ……ここ数年間、霊獣が住処を離れなかった代償ですかね。この規模は中々お目にかかれない……」
「霊獣も気を利かせてくれたのか、どうやら一日ずつ魔力を各方向に振り撒いていった様でな、今の所、最も氾濫が起こる確率が高いのが真南だ」
「だが、厄介なのはそこじゃねえ。南には雷を纏う獅子ネメアがボスとして君臨してやがる。東には怪鳥ステュム、西には小型ではあるがヒュドラが居たらしい。盆地の外で何があったらこんな化け物どもが頻発しやがるんだってんだ!」
そう言えばそうだ、僕が六歳の時に霊獣が住処を離れてから一度もそう言った話を聞いた事がない。
それにあの時も結局氾濫は起こらなかった。それが溜まりに溜まったとでも言うのか?
しかもなんなんだその伝説のラインナップは……。
ネメアーの獅子にステュムパリデス、ヒュドラーと言えば、まるで神話じゃないか。
神話ではあいつら全員相当厄介だぞ。
異世界でも神話通りの権能を持ってるとは思わないが面倒な想像しかできない。
……でもなんで三方向? 北には居ないのか?
「北には特筆すべき魔物は居ねえ。数少ない街道に通じる道があるからな、定期的に魔物の駆除を行っていたお陰だな」
「えっ? はあ、そうですね。どうしたんですか急に?」
「お前の息子が知りたいかと思ってな?」
「「……はっ!?」」
あっやば……驚きすぎて声が出た。父さんと被ったし誤魔化せないかな?
て言うか何でバレた、気配を漏らした覚えはないんだけど!?
「アッシュの声……ここか!」
「あいた!? なんで!?」
「くっはっはっはっは! カルが来た辺りからなんとなくお前の魔力をうっすら感じてな? しかも大物の名前を聞いた瞬間ブレたし。にしても、してやられたなカル!」
「アッシュ!? どうしてここに、いやどうやって……はぁ。こう言う時だけ子どもっぽいよね、アッシュは……」
「だって子どもだし……って言うかブレたって言うほどブラして無いのに……フェーグさんおかしいよ」
「お前の隠密には危機感を覚えたからな。俺も鍛錬を積んでみた訳だ。天才ですまんなあ!? はっはっはっは!」
僕より子どもか!? 煽ってきやがったこの人! むかつく〜〜!!
フェーグさんにはバレるし、父さんには叩かれるし、他の人達は半笑いだし、恥ずかしい……。
「全然呼ばれないし相談もされない。壁とか堀とか作ってる癖に手伝う事もさせてくれないなら盗み聞きして現状を知るしかないじゃんか……」
「適度に発散させてやれば良いって俺は言ったぞ?」
「私もそう言ったのだがな?」
「この子は加減を知りません。皆さんが思う数倍はやり尽くすタイプの子です。凝り性な所もあるので、そこにドワーフの方々が触発されたらどうにも出来ませんから…………」
「「なるほど、それがあったか。真似するな、くっ」」
フェーグさんもゼフィア先生も納得するのか喧嘩するのかどっちかにして下さい…………まるでコントだよ。
そして流石父さん僕の事をよく分かってる。
壁は圧縮して強固に作るつもりだったし、堀の下には棘でも生やそうと思っていた。
これに他の人達まで触発されたら作業が遅々として進まなかったかもしれない。反省はしないが留意しよう。
「馬鹿頭領もここまで来たら大馬鹿頭領にしねえと行けねえなー!」
「馬鹿頭領のままでお願いします……」
「あいよっ大馬鹿頭領!」
人の話聞く気無いじゃんおいちゃん。小馬鹿よりはマシかもしれないから諦めよう。
「おいアッシュ。お前ならこの局面どうする? カンロ村は全方位を平原が囲い、平原の周りを盆地の山が囲ってる。そしてその山の周りを森が囲ってる訳だが、何か案はあるのかよ?」
「平原に来るまで待つしか無いのでは? 数が凄いのは聞いてましたし、森でも精々罠を張るのが精一杯。それなら平原に出てきた所を広範囲の魔法で滅ぼすしか思いつかないです」
「まっそうなるわな。平原に出てくるまでは森での局地戦闘しか出来ねえ。それもエルフ頼りになる。一部の獣人はやれるが、絶対数が少ねえ」
「戦地を広げない様、野戦も場所を使って行えない上、この数を見るとジリ貧も良い所だ。私達エルフにも限界はあるぞ」
「僕たちに出来るのは迎え撃つ事だけ……ですか。子ども達には壁を作って貰うから、アッシュはそれで我慢しておくれ?」
結構切羽詰まった状況だな。
一方向に存在する魔物数はおよそ数千体。知能が発達した個体が種族関係なく率いている様で恐怖で散る可能性も低い。
この世界では平和には代償が付き物なのか……。
僕らが力を蓄えた様に、魔物達も力と数を増やしていただけなのだろうけど。これがこの世界か。
村近辺の魔物は駆除していたが、その先にまで出て駆除する事はそうは無い。
何故かと言えば、こちらから見れば盆地を越えた先の森だが、平野から見れば森の奥地。
強い魔物は魔力濃度の濃い所を求める習性があるらしく、霊獣の魔力は格好の餌。
だが、霊獣があまりに強大で山を越えようとは思えないらしい。つまり山を越えて森に入ればそこは屈強な魔物の巣窟。
そんな強い魔物を霊獣が抑えて、内側には弱い魔物だけが生息し、それを駆除しているのがカンロ村と言う訳だ。
…………その弱い魔物も一般的な魔物より比較的強いみたいだけど。
「罠で南の魔物を足止めしても、東西の奴らと被ったら終いだ。今考えるべきは、速攻で大群を仕留める方法。大物には少数精鋭でぶつかるしかねえな」
「私もその意見に賛成だ。長らく生きてきたが、魔物達がここまでの規模に成長した事は無い。霊獣には、一日だろうと氾濫をずらしてくれた事に礼を言いたいな。全方向から来ていたら村を放棄する以外に手立ては無かっただろう」
「精鋭部隊には……僕とサフィーを入れて下さい」
「えっ……父さん……?」
「例え大群を制する事が出来たとしても、強大な魔物一体に滅ばされる可能性がある。迅速に仕留める事を求められるんだ。サフィーの力があれば誰かが戦闘中に大怪我を負っても即座に復帰できる」
「良いのかカル? 最悪の可能性を考えておけよ?」
「エレアもアッシュも十分に強い。末の子のクーアが心配ではありますけど、カンロ村の皆さんなら安心して任せられます!」
…………。
……………………。
「僕、外すよ。ちょっと魔法の練習してくる」
「アッシュ! カル殿、良いのか!? アッシュのあの様子は……」
「僕に出来るのは信じる事だけですから……」
僕は存在霧散を再度発動させて村の外に出る。
村の南側に広がる平原に出た僕は、宣言通り魔法の練習を始める。
ずっと考えていた魔法だ。殺傷能力が高い上に広範囲に影響を及ぼしてしまうから碌に練習も出来なかった魔法の練習。
…………僕が全部殺す。ネメアとか言うでかい猫も殺してやる。
蛇も鳥も殺す。他の魔物も出来る限り殺せる魔法を作ろう。
それから数日後、魔物の氾濫が始まった。




