僕、未来の話をしたいんだ
皆んなと気持ちを通じ合えた。
だからこそ、僕は皆んなを家に帰して村長さんに霊獣が住処を一月去ることを伝え、僕を使う様にお願いした。
その後、家に帰った僕は、おねえちゃ……エレア達との事をカル父さんとサフィー母さんに報告する事にしたんだ。
「——と言う訳で、将来五人をお嫁に貰おうと思います」
「…………」
「…………」
二人は黙ったままで、エレアはクーアにご飯を食べさせている。
楽しそうにお世話をしているのできっと将来良い母親になると思うよ。
「お父さんとしては、正直構わない。アッシュは考え無しにこう言う事をしないのは知っている。でもね、僕個人としては心配だよ……(主に夜の方が……)それにミルちゃんはともかく、他四人は学園に行く上に加護を貰いに旅に出る事になる筈だ。その辺りはどうするんだい?」
「お母さんは心配していないわよ。うちの子は何でも出来るけど、全てを出来る訳じゃないもの。きっと女の子達も精一杯支えてくれるわ。元々そういう子達でもあるしね。でも私から一つだけアドバイスをさせて……回復魔法を上手く使いなさい。パートナーと上手くやって行くためには必須の魔法よ!」
二人の言っている事は十分承知している。
と言うか加護の事は知っている前提で進むのか。流石の理解力だな。
夜の方は……まあ、正直当てはある。母さんの言うとおり回復魔法もあるし。
取り敢えず夜の方は僕の身体が成長してからかな? まだ精通とかもね、してないのでね、ええ。
ただ一つ、父さんの指摘した旅に出る所が問題だ。
「少なくとも私はアッシュを待たないよ! アッシュが成人する頃には私たち十九歳なんだよ? 急いで加護を貰わないと可愛くなくなっちゃうよ!!」
「そうね〜そうなのよね〜…………ん゛? お母さん可愛くな〜い? エレア? お母さん三十二歳だけど? 可愛くないのかしら!?」
「ひぃっ……とっても綺麗で可愛いです」
「エレア、気を付けなさいね? 歳の話は時に命に関わるからね」
ひゃ〜最終兵器母さん、久しぶりに見たなあ。
衰えない迫力とお肌だ。ピチピチで凄い。
エレアはすっかり萎縮してしまったけれど、僕はエレアの意見に賛成だ。
今のエレア達は滅茶滅茶強い。僕が戦うとしたら殺す方向に意識をシフトしないと戦いにならないと思う程だ。
エレアの【超直感】と【超感覚】の前ではこちらの作戦や思考なんてそもそも役に立たない。パワーとテクニックとスピードの真っ向勝負を強制的に強いてくるのが今のエレア。
ジェイナはすっかりパワーファイターだ。精密身体強化した際の強化項目が僕とは少し違うらしく、僕はスピード寄りなのに対してジェイナは膂力に寄っている。
一撃必殺とはまさにこれと言いたくなるような土魔法の槌を振るうんだ。そこに我が家仕込みの魔法での妨害で逃げ道を塞いでくる。厄介極まりない。
ジュリアは魔法特化と見せかけて杖術も上手い遠近隙が無いタイプ。
魔法は僕が教えた自己操作の魔法と、エルフ特有の半自動の魔法にフルオートの精霊魔法の合わせ技。
一人だけ弾幕ゲームの敵側やってるんだ、おかしい。
しかも近寄ったら、杖であしらわれながら魔法も込みで滅多撃ちにされる。怖い。
ポーラに関しては、スピード超特化型。【韋駄天】と言うスキルの効果で、スピード、スタミナ、脚力、有りとあらゆる速度に関する項目のパラメーターが振り切れてる。
撹乱もいけるし、追いつけない速度で圧倒も出来る。速度を乗せ、【韋駄天】による脚力強化も乗せ、精密身体強化も乗せ、馬の獣人としての脚力も乗せた蹴りは正直死ねるね。
まだポーラが制御仕切れていない所はあれど、充分すぎる戦闘能力と生存能力だ。
とまあ、単体でも心配する必要が殆ど無いのではと思えるのに四人での団体行動。負ける未来が見えない。故に安心出来る。
若干十二歳にして我が村のエースの座を背負って立てるね。
「僕は大丈夫だと思う。皆んな十分強いし、数年も有れば加護なんて簡単に貰ってそうだよ」
「…………甘いわねアッシュ。お母さんは加護を貰えなかったわ」
「えっ、嘘でしょ? そんなに厳しい試練を課されるの?」
「試練……それは人それぞれに与えられるの。お母さんの場合は友達百人作る事だったわ」
「なっ!?」
「あはは…………」
「とっても簡単そうだけど、お母さん出来なかったの?」
エレア? かん、たん? 簡単と言ったか今……?
百人の友達とか……人生二回合算しても居ないんですけど……??
「…………なんて厳しい試練なんだっ……!! そんなのあんまりだよ!!」
「アッシュ……貴方は分かってくれるのね!」
「無茶にも程がある……友達なんて十人も居たらそれだけでもう充分なのに……」
「そう! そうなのよ! そもそもそんな数の人覚えられる訳ないじゃ無い! 友達ってあれでしょ、遊んだり、お茶したり、なんか……なんかするのよね!? 居たことほとんど無いんだからわかる訳ないのよ!」
「母さーん!!」
「アッシュー!!」
親子ではあれど、今は心の友。
僕と母さんはお互いを慰めるように抱きしめ合う。
そうだよね、母さん実家では閉じ込められてたんだもんね、交流とか無かった筈。
回復魔法も途中からは自己流に切り替えちゃうし、冒険者になってからも風来坊だったんだろうな〜。
僕は前世ではコミュニティを限定していた。バイト先でもビジネスライク。大学でもビジネスライク。友人と言えたのは、今世と同じ馬鹿なやつばっかりだった。
でもそれが心地良かったし楽しかったんだ。
大勢の友達なんて居てみろ、SNSが鳴り止まず、自分の時間を取れなくなり、他者と触れ合い続ける……アニメ小説漫画を追っていた僕にそんな時間は無かった。
一度だけ付き合った彼女ともそこで決裂したし。
やりたい事がある奴にとって沢山の友人は足枷……そう! 僕らは必要無いから作らないんだ!
それなのに……なんて試練だしてやがる!!
「お父さん、そんなに難しい事なの? カンロ村って凄くおっきくて、種族ごとに百人くらい居たよね?」
「認識の問題って言うやつかな? きっとあの二人にとって友達はすごく大切な人になるんだと思うよ……多分……」
認識? 一言会話すれば友達なのか? だとしたら何十人の友達が……いや無理無理。
友達ってあれでしょ? お茶したり遊んだり……推しの議論したり、フェチの議論したり、作画の意図を議論したりする……出来ないが??
こっちにサブカルチャーは無いって言うか、この世界こそがサブカルチャーって言うか。
エルフにエルフとは? とか問えないよ。僕はある意味で孤独……他にも転生者とか居るのかな?
悪い事出来そうなスキルは転生特典スキルには無かったけど、居るならオタク談義出来るやつが良いなぁ。
「はいはい。そろそろ話を戻すよ! アッシュは他の皆んなが三年間で先に卒業して加護を貰いに行くのは問題無いと思ってるんだね?」
母さんと抱き合うのをやめて何事も無かった様に席に戻る。
黒歴史ってやつはほじくったら負けだ。触れず近づかず。ただお互いを慰める……それで良いんだ。
「うん。ミルと加護を貰いに行くその時はみんなで一緒に旅すれば良いし、旅の途中も案内して貰えそうだし、良いんじゃないかな?」
「アッシュ……四歳差があるから学校は一緒に通えないけど……私頑張るよ!」
元気よく喋りながら優しくクーアのお口を拭いてるエレアはやっぱり良いお母さんになりそうだ。
「うーん……アッシュが十一になる年度に入学すれば……二年差に出来るのかな?」
「カル? それってどういう事なの?」
「あぁえっとね……平民の中には正確な年齢を知らない子もいるから前後一歳の誤差は認められていた筈でね——」
父さんはこう言いたいらしい。
エレアが今年、十二の歳に通い始めると、一年生の間に十三歳になる。三年生になった時十五歳になる。
そこで誤差一歳を許容する施策を拡大解釈して僕の入学を二年早めさせようとしているらしい。
要は十一歳になった年に入学するのでは無く、一年生の間に十一歳になる年に入れば良いのでは? と。
「この子は頭も良いし、試験さえ合格すれば問題は無いんじゃないかと思ってね。十三歳で卒業する事になるけれど、成績が優秀すぎて飛び級する人は僕の時も居たし……それなら飛び入学も良いよね?」
父さんって意外と狡賢い? しかも図太い。僕は構わないけど、これ大丈夫なのかな……。
「アッシュ、結果で黙らせるんだ。入れなかった時は……仕方無い、冒険科の事ならお父さんが教えてあげよう。それで将来のお嫁さん達と旅に出れば良いさ」
「父さん……ワイルドだね……」
「アッシュが入学できたら一年は一緒に通えるって事!? やったー!」
「こういうちょっと強引な所が良いのよね! 普段は大人しい癖に大事な時にはとっても力強いんだから……」
コルハ達にも声を掛けて置こうかな。打倒僕を掲げるコルハ達はどうせついてくるだろうし。
…………ここでエレア達が一年遅らせたら二年は一緒に通えるよって言ったら駄目なんだろうな。
ミルはどうするんだろう。
僕が二年早めたらミルと同年代に混ざる事になるし……今度話を聞きに行こう。
何にせよ上手くいけば二年の差になる。みんなに早く合流出来る。その為なら二年差ぐらいちょちょいのちょいで超えてやろう!
……ちょちょいのちょいって死語かな?
我が家の食卓が盛り上がっている時、ドアを強く叩く音が聞こえる。
父さんがドアを開けて話を聞いているが、表情は徐々に険しくなっていく。
あぁ、情報が流れてきたか。一ヶ月住処を空ける事も伝わっているのなら……さてどうなるか。
顔を険しくしたまま扉を閉めて席に戻った父さんが僕に詰め寄る。
「アッシュ。さっきの事も大事だ。でもっ、それよりも大事な事だったよね。どうして黙っていたんだい?」
「……僕が伝えた事も言ってたの?」
「家族だから教えてくれた様だよ。ねえ、真っ先に伝えるべき事だよね? アッシュ、優先順位を違えてはいけない。分かって欲しい。村のみんなの命が懸かってるんだ」
「少なくとも、今から出来ることは無いと思った。もう日が傾いてる。明日の朝になれば自然と話も回ってくるとも思った。何より、未来の話は今しか出来ないと思ったんだ」
「…………ふぅー……。賢過ぎるのも困り物だ。子ども達には最悪村を出て貰う事になるかもしれない——」
「それは嫌だ。守らせてほしい。手伝わせて欲しいよ。僕も弱くない。罠を作ったり、防衛のための壁を築いたりぐらい出来る。それに、殺す覚悟も出来てるよ」
沈黙が降りる。
痛いくらいの沈黙だ。
僕らの危機迫る空気を感じたのかクーアが泣き出す。
エレアと母さんがあやしているが、クーアは泣き止まない。
「父さん、二年前から僕には守りたいものがあった。今日、守りたいものが増えた。僕の持つ魔力や魔法は多くの命を守れる筈だ。戦わせたくないなら、戦う前の段階で手伝わせて欲しい」
父さんの頬を涙が伝って床へと落ちる。同時にクーアが泣き止む。
「……親の気も知らないで…………。分かった、手伝ってくれ、アッシュ」
父さんの涙を僕は《《忘れないよ》》。
生きる気で生きてやる。死ぬ気なんて出してやるもんか。
母さんとエレアに今何が起きているのかを説明した後、父さんは話し合いに行くと言って家を出た。
母さんから明日に備えて今日は早く寝る様に言われた僕らは、エレアと二人でクーアを挟む様にして眠りに着いた。
・
・
・
・
翌朝、戦闘能力の無い者や幼い者は村の外への外出を禁じられた事を教えられた。
これは村の未来を守るためのものであり、守る覚悟を決めたと言う宣言でもあった。
それから二日は村中の空気がヒリつきながらもいつも通りに過ごす事になる。
不安は徐々に広がっていくが、それで気持ちが破裂してしまう様な弱い人は居なかった。
村の外への外出を禁じられてから三日目、村の周囲には壁がそそり立ち、堀が出来始めた。
防衛の準備は着々と進んでいるが、カンロ村は四種族が暮らす村。ある程度の棲み分けをしている分、村というには広過ぎる。
今のペースで壁と堀を作っていたら間に合わない所の話では無い。
父さんの表情はどんどん険しくなって行くし、母さんも不安感を拭えていなかった。
……我慢が出来なかった僕は気配を消して、話し合いの場へと足を運ぶ。
今一体どの様な情報が集まって、どんな話し合いが行われているのか。
どのような策を練っているのかを確かめに行くんだ。
僕も……村を守りたいんだ。




