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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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僕、想いを結ぶ

 狐さんに爆弾を落とされてパニックに陥りかけたが、何とか冷静さを取り戻す。


 みんなが向かってきてるんだ、形だけでも落ち着いてる風を装っておかないと!


 これからするのはとても簡単な事だ。


 ただ気持ちを伝える。

 好きだと言う。

 結婚を約束する。

 僕は出来る限りその約束を守り続ける。


 たったこれだけ、これだけで良い。

 真剣に、本心を、大切に伝えよう。



 みんなが丘を登ってくる。

 呼び出した五人が横一列なのが不思議だけど。


 その時、横から強い風が吹く。


 みんなの髪や服が風に流されてはためくが、鍛えられた重心で身体を微動だにさせず真っ直ぐ歩いて来る。


「なんだか……ザッザッザッって効果音の文字が見えそうな雰囲気出てるんだけど……」


 戦隊か? 戦隊モノなのか? 後ろで爆発演出が起こっても違和感がないくらい威圧的で堂々とした空気を纏ってるんだけど!?


 みんなが僕の前に並んだ。それも一斉に。


「あれ……皆さんこれから戦ですか……?」

「アッシュ……」

「これは戦だよぉ!」

「負けられない戦いです」

「私も今回は負けらんねえな」

「皆さんより一歩も二歩も遅れをとっていますが、勝ちに来ました」


 あれぇ……戦だったんだぁ……いや違うんですけど!?


 みんなすごいキメ顔で覚悟決まってる。今なら劇画調でも似合いそうだ。

 ……ただ一人、エレアお姉ちゃんを除いてだけど。


「アッシュ、私……私は……」

「お姉ちゃん。ごめん、僕が待てない。僕は伝えなきゃいけないんだ。早いうちに伝えて、未来に向けて動き出さなきゃいけない。だからちゃんと聞いて欲しい」

「…………」


 エレアお姉ちゃんは俯きながらスカートの裾を掴んでいる。

 姉である自分を受け入れてくれないと思っているのかもしれないな。


 僕は改めてみんなの顔を見回す。


 みんな僕が今から何をするつもりなのか察しているからか何処か不安そうで、拳を固めていたり、口を引き結んでいたり、肩が強張ってたり…………こんなに思われてるんだ、僕は。


 みんなの顔を見ていたら、自然と背筋が伸びる。肩の力も表情筋も無駄な力が抜けた。


 ガッチガチのみんなに僕は脱力しきって笑みを浮かべながら、一言言わせて頂く。


「とりあえず皆さん、お座りになって下さ〜い」


 マジックな皮袋から寛ぐ時用に入れていた敷物を出して叩きながら、みんなを座らせる。

 コップなんかも出しちゃって、一人ずつ白湯を手渡しちゃったりなんかして。


 みんなポカーンとしながら言う事を聞いてくれている。優しいお姉さん方だ。


「いやね? 僕もみんなが来るまでガチガチだったんだけどね? みんなの顔見たらなんか違うなぁって。もっといつも通りで良いのかもって。それが僕らしいやり方な気がしたんだ。ごめんね? なんか気、抜けちゃったよね?」

「「「「「…………」」」」」


 一人がふっと吹き出すと、そこからは笑顔が広がった。


 そうだ、これが好きなんだ。ピリピリギスギスは似合わない。僕は皆んなに笑っていて欲しい。


「アッシュ……ごめんなさい……私は、やっぱり……帰る」


 手も声も震わせながらエレアお姉ちゃんはコップを置いて立ち上がるが、僕が逃さない。

 手を掴んで行かせない。一番伝えなくちゃいけないのはエレアお姉ちゃんなんだから。


「聞いてほしい。僕はね、みんなが好きだ。ジェイナもジュリアも、ポーラもミルさんも、もちろんお姉ちゃんも」

「でも、その好きは————!!」

「————結婚したいの好きだよ!!」

「っ!?」

「僕さ、これからエレアお姉ちゃんの事をお姉ちゃんって呼ばないよ。エレアって呼ぶ」

「……あっしゅっ」

「僕らは家族だ。お姉ちゃんと弟だ。でもそれ以上に恋人で家族になろう。その為に加護を貰うんでしょ?」

「でも……でも゛! 貰えるか……わがんないし……私とアッシュは!! 姉弟……だからぁ…………だからあぁぁ……」


 エレアの瞳が潤んでいく。涙が溢れて、零れていく。

 抑えきれない思いが、小さなその胸に押し込めていた想いが漏れ出している様だ。


 怖いよね、不安だよね……加護を貰えなかった時、僕らは絶対に結ばれない。仮に共に暮らすとしても子どもは作れないし、公的にも認められない。


 でもね、とても都合の良い話があるんだ。

 僕は神様を助けられるらしい……恩を売れるんだ。

 加護の一つや二つ、もぎ取ってやる。加護を貰えるまで一緒に足掻いてやる。


 こんな僕を愛してくれたお姉ちゃんに報いたい。

 こんな僕を愛してくれるエレアの助けになりたい。



 だからね…………



「僕も一緒に加護を貰いに行く! 加護が貰えるまで一緒にいる! 一緒に足掻くよ!」

「うぅ……ひぐっ、えぐっ……あっじゅっぅぅ……」

「エレアは……僕がエレアの事を好いてないって思ってたでしょ。気付いたらね、絆されてたよ……誰にも渡したくないって思った。傷つけたくないし、傷ついてほしくもない。僕が守りたいって思った。……母さんには一度それで怒られたんだけどね」

「うっ……うぅ……」

「僕ね、すっかりお姉ちゃんだけじゃ無くて、エレアも大好きになってたんだ! だから、一緒にいて欲しい。加護を貰うのも一緒に頑張ろうよ! 加護が貰えないから一緒に居れないんじゃない、加護をもらうまでずっと一緒だ!」

「うん……うん……一緒にいる……」

「加護を貰った後も一緒だけどね?」

「……うんっ!」


 涙を流しながら、それでも笑顔を浮かべてくた。


 うん、そうだ、これで良い。この笑顔が好きなんだ。


 いつも笑いかけてくれて、僕を抱き締めてくれて、僕が怖い時も心細い時も、いつも一緒にいてくれた。

 いつも笑いかけて励ましてくれた。


 僕はこの笑顔を守りたい。この笑顔を独り占めしたい。僕だけに向けていて欲しい。


 エレアを抱き寄せる。強く抱きしめる。


 不思議だ、今までだった何度も抱きしめあってきたのに、感じ方が全然違う。

 これがエレアの熱なんだ。熱くて小さくて華奢で、力を込めたら壊れてしまいそうに脆く感じる。


 弟としての時はぶっとい大樹なんじゃ無いかってくらい安心感があったんだけどな……。


「二人の空気なんですが……」

「しっ! 折角良い雰囲気なんだからぁ〜」

「あいつ、みんな好きって言ったよな?」

「言いました。絶対言いました。ですがきっと順番です。そう信じます」


 ……あっ。えぇっと、どうしよう。


「エレア……お姉ちゃん……くっ呼び捨て慣れない……一旦離れよっか? みんな見てるし」

「いやっ! ずっと一緒って言ったのアッシュだよ! 私は離れないよーだ!」


 目元を真っ赤に腫らしてる癖に、なんて素敵な笑顔なんだ……うちのお姉ちゃん……いや、僕のエレアが可愛い過ぎる……!


「もうちょっとだけ、このままで……」

「にへへ……アッシュの匂い……独り占め……」


 あっはい。しゅーりょー! しゅーりょーでーす!


「よし、離れようかお姉ちゃん!」

「いや! いーやーだー!!」


 くっ!? なんて力で引っ付いてるんだ!

 僕の地力じゃ剥がせない!?


「だって匂い嗅いでるじゃん!! 変態チック! 感動の抱擁だったのに! 下心丸見えで心が冷めたー!」

「だって!! だってー!! 良い匂いなんだもん! 好きなんだもん!」

「後で! 家帰ったら幾らでも好きにしていいから!」

「乗った! 約束だよ? 破ったらやだよ?」


 なんだこの人! なんで急にこんな強かなの!?

 さっきまで流してた涙は嘘じゃないよね!? 本気の涙だったよね!?


 ようやく僕から離れたエレア……お姉ちゃん……エレアは、離れたと言っても僕の真横数センチの距離いる。


 実質密着だよそれ……。


「えぇっと……改めて皆んなにも言うね? おほんっ……僕はジェイナ、ジュリア、ポーラ、ミルさんの事が好きです。僕が成人し、皆んなで加護を貰ったら結婚したいです」

「「「「…………」」」」


 あっあれ? なんか、空気が……。


「なんか軽くね?」

「エレアとの落差のせいですね」

「正直エレアさんがずるいです」

「ちょっとねぇ……羨ましいよねぇ」


 …………どうしろと? 今から僕のテンション上げるのか? 一人で? 無理じゃね?


「あの、ですね、こう序列とかつけたらダメかなって思ってみんな一緒に……一緒に言えてないじゃんっ! お姉ちゃん帰ろうとするんだもん仕方ないじゃーん!」

「お姉ちゃんじゃなくて『エレア』でしょ? みんながくっつかないなら私がくっつくね!」

「あっちょ! 待って、まってまって! 一人一人ちゃんと気持ち伝えるから! エレ、ア待って……」


 もう一度離れたエレアがぶーぶー言うがまだもうちょっと待ってて欲しい。

 後あんまりぶう垂れてると豚になるよ?


 一度深呼吸をして落ち着いてから、改めて一人一人に向き合う。


「まずは、ジェイナ」

「っ! はいっ……」


 ジェイナと初めてちゃんと話したのはここ、大樹の根元で遊んだ時。


「ジェイナが僕を意識したのって一緒に四角い土を作った時だよね? 少し懐かしいよ」

「そうだねぇ……私は魔法なんて使えないって思ってたのにぃ……アッシュ君が居たから今、私はこうして笑えるんだよっ!」

「前の笑顔は貼り付けた様な笑顔だったもんね?」


 そうだ、あの時はずっと硬い笑顔だった。力持ちだーってアピールしてたっけ。


「っ! もうっ忘れてよぉ……」

「無理だよ……僕は一度憶えたら忘れないんだ。あの時のジェイナを知ってるから、今のジェイナの気持ちが分かるんだ。だからどんなジェイナも忘れないよ!」


 そう、僕は忘れない、忘れられない。

 どんなジェイナも全部刻みつけていく。


「……ぅん……」

「これからも、色んなジェイナを見せて欲しい。僕と一緒に居て欲しい。寿命の違いもあるけれど、僕が生きてる間は幸せにするよ!」

「寿命……そっかぁ……私達は長く生きちゃうんだもんねぇ……」


 種族差における最も大きな障害。隔たり。それが寿命。

 正直僕が死んだ後はジェイナの好きに生きて欲しいとは思うけれど、優しいジェイナは僕を思い続けてくれそうだから……。


「そうだね、そこだけはどうしようもない。……でもね、僕らの子どもは長生きすると思うんだ!」


 子どもなら、ジェイナのエルフの血を受け継いで寿命も長いはず。子どもがいれば寂しさも紛れるはずだ。


「……っ! そっそれはぁ……うん、そう、かもぉ……」


 ジェイナは顔を真っ赤にしてしまったけど、割と真面目な話だ。

 だからお願いだから、そんな恥ずかしそうに僕を見ないでくれ……!


「だからね、その……うん。まあ。そう言うことで……」

「はっはい……喜んで……はうぅ……」

「僕と結婚してくれますか……?」

「……うんっ。アッシュ君……大好きだよぉ!」


 顔を真っ赤にさせたまま飛び込んでくるジェイナを抱き止める。


 間延びした喋り方も、積極的だけど実は恥ずかしがり屋なところも、魔法を楽しそうに使うところも大好きなんだ。


 今はこの気持ちを抱きしめる強さでしか伝えられない……。


 いつか手紙でも認めよう。文字に起こせば僕の気持ちをもっと伝えられる気がするし、何より永く残せる。そうだ、たくさん手紙を贈ろう。


 離れ際、目尻に涙を溜めたジェイナにキスをされた。

 唇と唇のキスだ。その時のジェイナとても幸せそうな顔をしていた。


 【記憶】に刻んでおこう。大切に。大切に。



「はい、ジェイナちゃんもこっちにおいで〜」

「えぇ〜もうちょっと一緒が良いですぅ」

「駄目だよ! ずるい! 私我慢してるのに!」

「私だってまだ匂い嗅いでないぃ〜!」


 あぁ……良い空気がぶち壊れていく……僕ららしいと言えばらしいんだけどね。


 ちょっと空を見つめて感傷に浸るくらいは良いよね?

 さっきのジェイナは何処にいっちゃったんだろう……少し寂しいよ。


「で、お馬鹿二人は置いといて、次は誰ですか?」

「次はポーラかな? 順番的に」

「……惚れた順、か?」

「まあ……一応、その方が良いかと……」

「お前のそう言うところ、好きだけど嫌い」


 出たな、ポーラの口癖!

 僕が気を遣ったりするといつも矛盾をぶつけてくるんだ。なんとなくは分かるけれど、なんとなくしか分からないのがムズムズする。


「私は別に特別どうこう言わなくていいっ。アッシュが私を大事に想ってる事なんて日頃から伝わってる。私と遊ぶ時も、絶対私を傷つけない様にするし、汚れたら洗ってくれるし、いっつも優しい目で見てくるんだ……伝わるに決まってるだろ…………」

「おぅ……嘘、そんな目してた?」

「無自覚、ですか……貴方という人は……」

「あの目は凶悪ですよね〜目を合わせられなくなります」

「お前のあの目は他の女には絶対向けるなよ! 約束しろ!」


 約束しろと言われても、ほんとに自覚無いんだもんな……。

 ジュリアもミルさんもポーラも知ってるみたいだし、確実にやってるんだろうけど、分からない。


「善処します……」

「約束だぞ。じゃないと、四六時中お前を捕まえてないといけなくなるからなっ」

「あっはは。ポーラになら幾らでも捕まったげるよ!」

「「「それだ!」です!」」

「えぇ!? これ!?」


 これは気を抜いて本心から思った事を言う時になる顔なんだけど…………厳しくない?


「この顔は、封印は難しいかも。気を抜いたら出ちゃう顔だよこれ」

「……じゃあお前は私が捕まえとく。何処にも行かないように……」


 そう言ってポーラが抱き付いてくる。

 さっきも言った通り、ポーラになら嫌じゃ無いので好きなだけ捕まえていて欲しい。


「ポーラみたいに可愛い子に独占されるのは逆にご褒美だね?」

「またその顔……今は私にだけ向けてて……」


 そのまま唇を塞がれるが受け止める。

 皆んなの想いが詰まってるんだ。全部受け止めて、僕の想いに変換して返すんだ。


「ポーラ、これから先もずっと、僕を見てて、そして結婚してください」

「獣人も人間よりちょびっと寿命長いから、アッシュが死ぬまで見続けてあげる」


 ポーラともう一度抱きしめ合う。


 少しすると僕の胸に顔を埋める様にポーラが体勢を変える。


「うわっほんとだ……良い匂いする……」


 ……匂いのくだりは入れないといけない決まりがあるんですか??

 情緒は何処に行くんですか??


「馬鹿が三人に増えましたね……」

「あはは……気持ちは分かりますけどね?」

「ポーラちゃんようこそ〜〜!」

「もうイチャイチャの時間はぁ終わりですぅ〜!」

「うあっやめろ! まだ堪能してない! アッシュ〜!!」


 嗚呼……僕の感情の行き先は……。


「さあ次です! 早く言っちゃって下さい! 待つのも大変です!」

「ゆっくりで構いませんよ? どうやら結婚を誓うと向こうのお馬鹿達に引きずられる様なので、結婚どうこうの前から引っ付いて置けば良いのです」

「ジュリアさん……天才ですか?」

「ミル、照れます、よしてください」


 お馬鹿ウィルス蔓延してんじゃない? ココ。 普段のクールで冷静なジュリアが頭真っピンクなんだけど?

 お淑やか担当のミルさんまで知能レベルが下がってる様な……。


「くそっ! 気付かれたぞ二人とも!」

「さすがぁジュリアちゃん……賢すぎるねぇ」

「私は別に良いけどね? お家でいっぱいアッシュ吸うから」


 吸わせないぞ?? 二度と吸わせないぞ?? どんどんお馬鹿が移ってない? 皆んなの頭もどるよね!?


「それでは、お先に失礼しますねミル」

「行ってらっしゃいませ、お姉様」


 いつの間にお姉様になったんですかあ!?


 ジュリアは全く気にせず僕に近寄ってきて……止まった。


「どっ……どっどどどどうしたら良いのでしょうか!?」


 ピュア! 初心! ここに来て目を回すんかい!!

 ……はあ。可愛いが過ぎるでしょ、もう。


 僕からジュリアを抱きしめる。


「ふぁっ! ひゃっあの……うぅ、お恥ずかしいです……」

「時々こういう事あるよね? 普段はキリッとしてるのに……可愛すぎない? 正直、僕の優しい顔ってやつよりずるいよ」

「いえ、それは無いです。アッシュ君の優しい顔の方がずるいです」

「あっはい。すみません」


 一体どんな顔したら良いんだよ僕……。


 ふぁっ、とかひゃっ、とか言ってたのに僕の言葉を否定する時だけめっちゃ素だったよ。ちょと怖かったよ。


「でも、一歩引いた所に居たジュリアがこんなに積極的なのは少し意外だったね」

「いつもは、皆んなも姉さんもいましたし…………無愛想な私よりも可愛い人達と居る方が楽しいでしょう……?」


 そんな事を思っていたのか。

 確かに表情がコロコロ変わる訳じゃ無いけど、ジュリアの綺麗な顔は眺めるだけでも眼福だ。


 何より好きなのは、僕と目が合うといつも微笑んでくれる所だ。

 ジェイナの笑顔を取り戻した頃からかな? ジュリアも一緒に良く笑う様になったんだよね。


 でもジュリアはそういう事を言って欲しいんじゃないよね……いや、この事は手紙として渡そう。


 今はただ、僕が楽しいと思うかどうか——


「どっちも楽しいね。忘れてる? 僕はここに居る皆んなと結婚したいと思う程に好きなんだ。ジュリアにも惚れてる。惚れた女の子と一緒に居て喜ばない訳ないでしょ」

「むぅ……ストレート過ぎです……顔が見れません……」

「今のうちに匂い嗅いじゃえば?」

「匂いもわかりません……」

「じゃあ、もうちょっとこうしてよっか?」

「……はい」


 こういう時って味だけじゃなくて匂いも分かんないのか……大変だ。


 落ち着くまで頭を撫でてあげよ。


 優しく抱きしめられたり、頭を撫でられると、凄く気持ちが柔らかくなって落ち着くんだ。

 これは家族に沢山教わった。たくさん抱きしめられて、撫でられた。


 だから僕も、ジュリアを抱きしめて撫でよう。落ち着くように、大丈夫だよって教えてあげるように。


「……もう、大丈夫です。ありがとう、ございます」

「そう? もうちょっとくらい良いよ?」

「いえ、これからはいつでもしてくれるのでしょう?」

「っ! そうだね。うん、いつでもしてあげる。甘え下手なジュリアは特別多く甘えにおいで?」

「貴方は変わらず意地悪ですね? ふふっ、私ともたくさん子どもつくって下さいね?」


 不意打ち二連続は厳しいって!!

 表情コロコロ変えちゃってさっ……悪戯っぽい顔……ずるくない?


「うっ……その顔ずるいよ……子どもつくる前に結婚してね?」

「約束ですよ?」

「約束です」


 僕らは互いに顔を近づけて口づけを交わす。

 チロっと唇を舐められた。悪戯っ子が目の前にいた。


 ジュリアが僕の耳元に顔を寄せて囁く。


「唇って味はしないんですかね? 今度私の唇で確かめて下さいねっ?」


 ジュリアの言葉が耳に残って離れない。思わず唇を目で追ってしまう。


 あっ舌舐めずりした! 魔性の女だ!? 

 【記憶】は忘れられないんだぞ!? リフレインも消えないんだけど!? 


 悪い女だジュリア!


「あいつハレンチだ……ひっ捕えろー!」

「ジュリアちゃん最後何言ったのぉ?」

「舐めた……唇舐めた? 私した事ないのに……」

「内緒です。あっ味はしないんですけど、病みつきになりそうですねっ」


 まずいよ……おねえ……エレアが暴走しそう……今夜は警戒を厳にしておかなければ。

 て言うかあの一瞬が見えたのかよ……凄すぎでしょエレア。


 ポーラには囁きが聞かれてるし……ミルさんは……顔が真っ赤だ!


 そうだよね! ちょっと破廉恥ですわよね! かく言う僕も顔が熱いんですけれども!


「ミルさん……その、ジュリアはあまりお気になさらず……」

「ひゃい……無理です……」


 すごく分かります。今もミルさんの唇見ちゃうもんな。


 前世でこういう経験はあった筈なんだけど……なんかレベチでダンチです。あっレベル違くて段違いです。死語じゃないよねこれ?


 すぅ〜はぁ〜。まずは僕が落ち着こう。

 僕が落ち着いたら、ミルさんを落ち着かせよう。


「ミルさん、失礼するね?」

「きゃんっ」


 軽く抱き寄せたんだけど、悲鳴が可愛い……。

 そういえば狐ってワンって泣くらしいね? コンコンとは言わないんだ。


 …………


「ミルさん、一回だけで良いからコンッて言ってみてもらって良い?」

「え? はい……こんっ!」


 ぐほあぁっっ!? 破壊力ぅ……。


「もう一回……」

「……こんこんっ」


 狐ってコンでも良いんじゃないか? 

 コンが正しいんじゃないかな?


 他にもミルさんとうどん一緒に食べたいな……きつねがあったらなお良し。


「好きだ……」

「はっ……私も……好きです……」


 ちょっとニュアンスがおかしかったかもしれないけど、本心です。


「ミルさんにはたくさんお世話になってるね。訓練場で武術を教えてもらって、道場でも面倒を見てもらって……妹のクーアが生まれる時もお泊まりさせて貰ったり」

「そうですね、なんだかんだ二週間の十日のうち七日は会ってますもんね? だから、アッシュくんの顔が見えないと寂しさすら感じます……」

「僕もミルさんが居て当たり前って感じがする。ミルさんの綺麗な型を見て、真似て、道場では一緒にご飯作って食べたり、縁側に腰掛けて休んだ事もあったなぁ」

「私は魔法を教えてもらって、今ではだいぶ上達しましたよ。相手を傷つけない魔法の使い方。あれで私は変われました。命を奪うだけが戦いじゃ無い。妨害をし足を止め、脅す事だって出来るのだと」


 衝拳や衝脚という命を奪う技を修めるからこそ、ミルさんは自分の力を人に振るう事が苦手だった。


 これから起こるだろう魔物の氾濫……ミルさんは戦えるのだろうか……

 そして何より、僕らが村の外に出た時、人の命を奪わざる終えなかったら……僕らをどう思うんだろう。


「ミルさん、僕が、僕らがもし、人の命を奪う事や、魔物を大量に殺す事があるとした……ミルさんは——」

「アッシュくん。大丈夫です。振るうべき時に振るえない力に意味も価値もありません。それは私も同じです。実は先日、魔物の駆除に同行したのです。殺されると思いました。命を奪うのが怖いなどと思う暇もなく、私は魔物の……敵の命を呆気なく奪いました。少しだけ怖かったですけど、敵に対する心は決まりました。なのでもう大丈夫です」


 ミルさんも十歳。既に魔物を殺す経験をしていたのか。

 そして心は決まった……敵と見做せば容赦はしないと……そう言う事なんだろう。


「あなたはとても優しいです。その優しさが私は好きです。優しいあなたをいつまでも側で感じていたいです」

「……多分、僕は一番手を汚すよ。ミルさんと一緒の思考をすると思う。敵なら殺せる……僕が優しくなくなったらどうする……?」

「側にいます。私の優しさを上げます。私が死ぬまで支えます。ただ隣にいますから、ね?」

「うん。一生一緒に居てください。大好きなミルさんが居てくれたら優しく居られる気がする」

「では、せっかくなので、どうぞ呼び捨てて下さいな?」

「……ミル」

「……はい」


 ミルさんにキスをする。

 ミルさんは静かに受け入れてくれた、ただそこに居てくれた。それがとても嬉しかった。


 前の四人と違って、すごくしんみりとしてしまったけど、ミルさんとはこれで良い気がする。


「ふふっ。良い匂い、ですっ。ずっとこうして抱かれていたいですね……」

「僕もずっとこうしてたい気分だよ」


 まあ、そんな事を許してくれる四人では無いだろうけど。


「イチャイチャしゅーりょーだよ!」

「一番長かったかもぉ」

「まあミルなら良いんじゃねえか?」

「可愛い妹分なのでね、仕方ないですね」


 若干二名、ミルに激甘だけど良いのか?


「ふふふっ今度道場に来る時は是非お一人で……ね?」

「イチャイチャしゅーりょー! もー!」

「ジュリアちゃんの悪いところがぁ、移っちゃったねぇ」

「ミルは可愛いから良いんだよ」

「仕方の無い妹です、えぇ」

「あっははは! あー幸せ一杯だ! 皆んな、今日は集まってくれてありがとうございました! 今日はそろそろお開きにしよっ?」

「どうしたんだよ急に?」

「ちょっとね、大事なことを忘れてたんだ。村長に話があってね。急ぎだから早く帰りたいんだよ。余韻も何も無くて悪いんだけど、これからはいつでもイチャイチャ出来るからね?」


 いつでもイチャイチャ出来ると言う発言に皆んなして顔をニヤけさせて、帰る空気が出来上がった。


 幸せだから、大切だからこそ家に帰したい。出来るだけ早く。何があっても守れる様に。魔物の氾濫があったとしても、守れる様に。



 みんなで村までいちゃつきながら歩いて帰った。


 そのまま村の広場で別れて僕は教会へと入る。

 隅にあるドアをノックするとすぐに村長が出てきた。


「村長。狐さんが、霊獣が住処を出ます。今から一月後に戻ると伝えてくれました」

「……真か」

「ウィンドウさんに誓って嘘ではありません」

「分かった。アッシュよ、お主は早急に家に帰り大人しくしておるのだ。良いな?」

「……僕の魔力量と魔法制御はカンロ村の中でも飛び抜けて優秀です。戦いに参加出来ずとも、その準備ぐらいは手伝えるでしょう? 何でも言って下さい」

「……まずは長を集めての話し合いをする。明日の昼までには纏める。それまでは大人しくしておれ」

「はい」


 真剣な顔だった。これまでに見た事が無いくらいに。

 だから僕も真剣に提案した。村長も僕の規格外さはある程度知っている筈だ。僕を使ってくれ、僕を利用してくれ。


 僕の大切が詰まったこの村を、僕は守りたいんだ。


 どんな手を使っても。

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