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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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僕の逃げ場は無く/そして時は経つ

 本日のお客様全員を夢の国へご招待し、起きてくるまでにエレアお姉ちゃんの蛇の牙入れを作った。


 しばらくして、最初にリビングに入って来たのはゼフィア先生だった。


「すまない、いつの間にか眠ってしまって……」

「おはようございますゼフィア先生〜。気にしないで下さい。眠ってもらった方がやりやすいですし。それより、身体の調子はどうですか?」


 体力が気力と一緒に無くなってしまったので、机に上半身を乗せたまま受け応えする。


 寝起きのゼフィア先生は僕の問いに、頻りに髪を触りながら恥ずかしそうにしているが表情がとても柔らかいので聞くまでも無さそうだ。


「その、とても良い。髪もこんなに綺麗な上に、身体も軽い。一体何をしたんだアッシュ?」

「んえ? 筋肉とかを揉みほぐしたんですよ。手足のマッサージはついでで、メインは髪や頭部なんですけどね?」


 マッサージにこれほど効果があると思わなかったのか、ゼフィア先生の真面目スイッチが入ってぶつぶつと考察を始めてしまった。


 カンロ村のエルフの寿命がどれほど長いかは知らないが、是非研究していって欲しい。

 筋肉のこりや血管の詰まりは健康に大きく影響を及ぼすからね。


「あらあら、スイッチ入っちゃったわね」

「先生はこうなったら中々戻って来ないんだよね〜どうするのアッシュ? 聞きたい事あったんでしょ?」

「お姉ちゃんに僕の思考が筒抜けな件について……まあそうだね……弱点でも突いてみようか」

「「弱点?」」


 ゼフィア先生の弱点は耳。それも外側を覆われるのが弱いと見た。

 気配を感じるのに耳からの情報がウェイトを占めているのだろう、ジェイナとジュリアと比べても敏感だった。


 ので、一応気配を紛らせそっと横に立ち、指で耳の裏を付け根から先に向かって優しく撫でる。


「ひやぁぁあ!?」

「「「かわいい……」」」


 想像以上に高くて可愛らしい声が漏れた。


 その直後には顔を赤くしながら笑ってない笑顔でゼフィア先生が僕の頭を鷲掴んでいた。


「……どう言うつもりだ?」

「いだっいだい……あの、思考に沈んでたので……戻ってきてもらおうかなって……いだだだだだだだ」

「こんなやり方をする必要があったか? ん?」

「ごめんなさい、すみません、申し訳ありませんでしたあああ!!」


 頭が割れる様な痛みってこんな痛みなのか……!!


 ゼフィア先生の手が離れた瞬間、頭を抱えて蹲るほどの痛みだ。

 この人はやっぱりオーガかもしれない……握力が破壊的だ。


 一度息を吐いて落ち着きを取り戻したゼフィア先生が僕が座っていた椅子に座って僕の復帰を待っている。


 ……なんだかまるで僕が悪いみたいだ。


「アッシュ……逆らっちゃだめだよ……死ぬよ?」

「こう言う時だけ恐れ知らずなのよね、この子。不思議だわ……」

「ゼフィア先生を怖いって思った事無いから仕方ないね? そんな事よりゼフィア先生に聞きたいことがあるんですけど」

「……君は……いや良い。何を聞きたいんだ?」


 母さんもお姉ちゃんも怖がり過ぎだ。

 ゼフィア先生は目つきは少し鋭いかもしれないが怖さを感じる要素がない。

 今の僕には褒められ慣れてない不器用可愛い凄腕お姉さんにしか見えないしね。


 そんなゼフィア先生が何かしら言い淀んだのが気になるけど今はミルさんの事を聞かせてもらおう。


「どうして今日ミルさんを連れて来たのかなーって思いまして。そりゃ、毎週お世話になってますし全然構わない所か恩返しくらいになれば良いなとは思いますけど。流石に唐突ですし」

「……あぁ。伝えるのをすっかり忘れていたな……すまない。実はアッシュと、望むならエレアに提案があって彼女を連れて来たんだ」

「僕と……」

「……私?」


 ミルさん関係で僕とお姉ちゃんに話……駄目だ。全く想像がつかない。

 僕が武術を教わってはいるけど、お姉ちゃんは訓練場ではあまり関わりが無かったはずだし。


「そうだ。ミルの家は武術道場をやっていてな。フェーグの訓練場は隔週だろう? 休みの週にミルの家で教わってみてはどうだと思ってな。アッシュは今、ミルに積極的に教わっているだろう? 実際体捌きも格段に良くなっている。だからこその提案だ」

「わお……とってもありがたいですけど、ご迷惑なのでは?」

「私も一緒に行ったらもっと迷惑にならないですか?」

「其処はすでに話を通してある。向こうは是非来てくれと歓迎ムードだったぞ?」


 根回し済みとは手が早い。

 断る理由も無いので、是非お世話になりたい……が。


「母さん」

「行ってきなさい」

「まだ何も言ってないよ?」

「分かるわよ。今のあなたにはミルちゃんの所で学ぶのが大事だと思うし、お父さんもきっと快く送り出してくれるわよ」

「……うん! ねえ母さん」

「何かしら?」

「母さんも直感系のスキル持ってない??」

「これは娘と息子限定の直感スキルよ! 凄いでしょう!」


 世界は違えど母さんに隠し事は出来ないらしい。


 ……自慢の両親だよ。精々強くなって驚かせてやろう!


「私は……出来れば剣をもっと学びたいから、時々教わりに行くとかでも大丈夫ですか?」

「いつでもきてくれて構わないと言っていた。詳細はミルに聞くと良いだろう」


 僕らが少し真面目に話し合っていると、寝室の方からぞろぞろと人が出てくる。


 みんな何処となくスッキリとした顔をしている。ツヤツヤでサラサラな髪も靡かせている。


 圧縮【浄化】はしていないから、お馬鹿メンズ達程のサラサラでは無い。

 何事にも限度と言うものがある。あのトゥルットゥルの髪よりは今の方が程良い。


 にしても…………。


 サラサラヘアーが部屋を埋めると壮観だな。

 心なしか部屋が良い匂いに包まれた様な、皆んな家に来た時よりも魅力的な様な、謎の光の粒子が舞っていそうな……なんかそんな感じ。


「あっ! みんな起きたね! 気持ち良かったでしょ〜!」

「クッキーを作ってあるのよ、良かったら少しお茶して行って!」

「…………」


 なんだろうね……女性用の店に入った時のちょっと気まずい感じに似てる。

 こう、気後れすると言うか、謎に緊張すると言うか。


 僕の気持ちもいざ知らず、みんな口々に好評をくれる。素直に嬉しい……嬉しいのだが、距離が近いから余計に困る。


 改めて見渡すと顔面偏差値が高過ぎるんだよ。

 浄化ぱぅわーで髪だけじゃ無くて肌艶も良さそうに見えるし……うぅん、恥ずかしい。


「ちょっとね、ちょっとだけ距離を取って頂けますか? みんなほら、とても素敵になられたのでね。距離が近いと困っちゃいますね、ええ」


 僕の発言を聞いた女性陣が顔を見合わせてからニヤニヤしだした。


 ……それを見た僕は二倍精密強化で早急に家からの脱出を試みる!


 僕のいる場所からだと玄関ドアが一番近い。天井に当たりそうになりながらもドアの前に全速で向かう。


 が、ドアの前には既にゼフィア先生が居た!


「そんなバカな!?」

「ハーレムと言うやつだな? 良かったなアッシュ。精々揶揄われてくると良い!」


 振り返るとエレアお姉ちゃんとジェイナが僕を囲んでいた。

 ポーラは庭に続く道を封じ、中間地点に武術を修めているミルさんが配置されている。


 サフィー母さんとジュリアは二人で《《人数分》》のお茶を淹れている。そう、人数分だ。


 僕が逃げられないのを前提として淹れている……薄情だ。


 状況を認識して固まった僕を後ろから抱き上げるゼフィア先生はそれはもう良い笑顔だった。


 僕とゼフィア先生の揶揄い合戦はいつも手打ちで終わらせていたつもりなんだけどな……どこで間違えたんだろう?


「ミルと話をしたかったんだろう? 丁度良かったじゃないか。 じっとしていられないなら私の膝の上に乗って貰うが……どうする?」

「大人しくします…………膝の上は勘弁して下さい」



 見る人が見れば、この世の春とか、爆発しろとか、色々言われるかもしれないけれど、こっちは気が気じゃ無いのだ。

 母親同席なんだよ? 絶対幼い頃のあれこれを話の肴にするんだ。


 そんなの僕が恥ずかしいだけじゃんね?


 しかもそれをこの人数が知るだけじゃなくて共有されるのだから当分はネタにされる事は確実。


 さらにはみんな髪も身体も調子が良くて上機嫌でテンションが高い。


 ……忍耐。精神力。これを身に付けろという神様の思し召しかもしれない。


◇思し召していません。……自業自得です◇


 うん、思し召してはおられない様だがやる事は変わらない。

 不動の精神。明鏡止水。穏やかな心で全てを受け止める。アルカイックスマイルを久しぶりに使う時が来たようだ。




 そのあとの事は良く覚えていない(完璧に憶えている)。

 ただ気付いた頃には表情筋が攣っていた。


 ミルさんのお家にお邪魔する件は全く問題なく、いつでもどうぞと言っていた事だけ覚えている(全て憶えている)。


 お茶とお菓子はとっても美味しかった。

 あーんとかさせられた様な気もする(した)。接待だったかもしれない(だった)。


 エレアお姉ちゃんはいつも通り僕の顔を見てずっと笑っていた。


 ……空気感に慣れた後は楽しかった、とだけ言っておく。



 そんな騒がしくも楽しい日々から二年が過ぎた。


 十二歳になったエレアお姉ちゃん、ジェイナ、ジュリア、ポーラが学園に向かうまで、もう数ヶ月と言った所だ。


 訓練場で訓練をこなし、魔物の駆除に積極的に参加し、半泣きで座学を頑張っていたエレアお姉ちゃんと、少しの間お別れする時が近づいてきていた。




 僕は八歳になって身長がお姉ちゃんを超えた。

 前世に換算すると小学三年生くらい。身長は百五十はあるかな。


 とすると、十二歳のエレアお姉ちゃんの身長が百五十弱なので、もう少し伸びる事を考えるとモデルさんの様になりそうだ。


 コルハは僕よりも頭ひとつ分はさらに大きく、ゼガンも顔つきが変わり始めて、グロックは……ゆるふわ眠たげボーイと言った風。



 女性陣はどんどん綺麗になっていったな。

 エレアお姉ちゃんを筆頭に身体が女性らしくなっていって、前世の女性よりも成長スピードが速い様に感じるくらい。


 それに伴って乙女になっていく人も居たのだが、僕の周りの人達だけは堂々とした男前な人が多かった。


 好意をストレートに伝えてくる様になったし、逃げも隠れもしない潔さ、精神的に逞しいのだ。


 そしてそんな彼女達に応えるべく、僕も日々努力を惜しまなかった。

 魔力と体力を使い潰し続け、武術を触り程度は修めた。


 お陰様で、身体は少しづつ貧弱さを忘れて強靭さを手に入れ始めていると思う。


 他にも皆んなに僕の技術を大公開した。

 魔法の自由さと体の作りを活かした身体強化などを詳しく教えて村の地力も底上げした。


 一応スパもワンシーズンに一回のペースで開店しており、その度にいつもの七人で満員御礼だったのだが、アッシュ周りの女は綺麗で何かをしていると村の女性が嗅ぎつけ始めた時は焦った。


 僕の浄化水を安値で売りつけて、これで髪を洗うと綺麗になると咄嗟に嘘にならない嘘をついて凌いだけれど、そのせいで謎の収入源が出来てしまい、懐に入ったお金を村に還元するのが大変だった。



 そして一番大切なのが一年前に妹が生まれた事。

 妹が生まれる前後は、良くお世話になっていたミルさんの家で僕ら姉弟は寝泊まりさせてもらった。


 生まれて来た妹はひたすらにちっちゃかった。

 僕の指を手で握るのが精一杯な手のひら。

 産毛が多く、歯も生え揃っておらず、よく泣いていた。


 赤ちゃんをあやすのは人生初だったけれど、笑いかけると笑ったり、誰かが不機嫌だと愚図ったり、よく周りを見ている子で、それが分かってからは簡単だった。


 ……一つ、言わせてもらうとするなら、この子はエレアお姉ちゃんに似ていると言うことだな。

 何故かって? 僕のアルカイックスマイルを見るとめちゃくちゃ喜ぶのだ。…………解せぬ。


 そんな可愛くて愛らしい妹の名前はクーア。

 家族からはクーやクーちゃんと呼ばれている。


 僕だけは、名前を覚えるまで呼んであげたいと思いクーアと呼んでいる。

 生まれたばかりの頃は両親の名前が分からなさ過ぎて怖かったんだ。名前大事よ〜!


 離乳食を作って食べさせてあげたり、おしめを変えたり、首が据わった後は良く遊んだりもした。


 僕がクーアに構い過ぎてエレアお姉ちゃんがぶう垂れてきた時は笑ってしまったな。



 そんな僕たちの二年間はとても穏やかで温かいものだった。


 そんな穏やかな日々も終わり、お姉ちゃん達が村を出るまで後もう少し。


 みんなが学園に行くのを契機に、何があっても良い様に、悔いを少しでも残さない様に、僕も今までよりももう一歩深く歩み寄ろうと、そう思ったんだ。

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