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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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僕は今日も泣き虫だ

投稿時間がブレブレで申し訳ないです!

 カル父さんとエレアお姉ちゃんとポーラを見送った後、すぐに家に帰って家の用事を済ませてしまう。


 じっとしていられなかったので、魔法を使ってお手伝いしながら時間を潰す。


 晩御飯の下拵えを終えたら、防具の事を聞いていく。


「思ったよりパパッと片づいちゃったし、さっき言ってた防具の作り方教えてよ!」

「……落ち着かないわよね。良いわ、教えてあげましょう! 魔物の素材と裁縫道具を取ってくるから少し待っていなさいね?」

「はーい」


 母さんが部屋を出て倉庫に向かっている間、僕は天井に無数の光を張り付けてプラネタリウムを作る。


「お姉ちゃんに初めて見せた時はまだ十数個ぐらいしか出せなかったんだよね……今じゃ流れ星も天の川も作れる様になったのに、見せた事無かったなあ……」


 前世の星座も今世の星座も分からないけれど、星を眺めるのは好きだった。


 前世の街中じゃ大して見えなかったけれど、カンロ村では電気の光も無ければ、空に横たわる電線も無いので本当に良く見えるんだ。


 どれが一等星だ、六等星だなんて頭に残らない。一番星なんて見つけた事すらない。


 陽が沈めば宙を埋め尽くす星々が視界を埋める。

 頭は思考を止めて、意識が自分から離れ宇宙に行く。

 口は開くし、瞬きも忘れる。ただ見惚れる様な宙がそこにある。


 前世の物悲しい夜空も嫌いでは無いけれど、カンロ村では宇宙に覆われて圧倒される。


「今度、お姉ちゃんと一緒に星を見よう。魔法じゃ描ききれない本物を一緒に見よう」


 あぁ……思った以上に……。



「あら! すごい綺麗……まるで星空みたいね……これって前にエレアが言っていたアッシュの魔法かしら?」

「うん。魔法で家の中でも星が見えたら良いなーって思ってずっと練習してたんだ。お姉ちゃんにももう一回見せてあげないとね……」

「ずっと一緒に居たものね? …………アッシュ、貴方寂しいんでしょ」

「……うん。寂しいね。後ちょっと怖いかな」


 そう、寂しい。

 目の届かないところに居る事が寂しくて怖い。僕ってこんなに独占欲強かったかな……。


「んーとね〜、こう言った事を戦う前から伝えるのは良くないんだけど、一つ教えてあげるわ」

「なに?」


 不甲斐ない僕を見かねたのだろう母さんが何かを教えてくれるそうなので、魔法を消してきちんと体を母さんの方に向けて聞く体勢を取る。


「あなた達二人とも、既にこの村では強い部類に入るのよ。二人が殺し合いに対して耐性を持てるかは別だけれど、あなた達がその気になって戦った時、村の人間で二人を抑えられるのは十人も居ない。だから安心なさい!」

「…………母さん、お姉ちゃんを僕が守りたい。そう思うのは我儘かな」

「エレアを戦わせたく無いと言う意味なら……それは我儘よ。どうして二人を、村の子ども達を鍛えていると思ってるの? 一人一人が戦って守る力を持つ為よ」

「…………《《死ぬかもしれないのに》》?」


 僕の言葉を聞いて、母さんが手に持っていた皮や裁縫道具をその場に落とす。

 裁縫道具が散らばるのも気にせず、母さんは俯きながら僕の方へと歩いてくる。


 ……僕は母さんがどう思っているのか知りたくて、聞きたくてそう問うた。


 …………僕は聞き方を間違えた。配慮が足りなかった。

 異世界だから価値観が違うと、殺し合いの世界だから命の価値が軽いと、そう思い込んでいた。



 僕は、母さんを初めて本気で怒らせた。



 母さんの顔は怒っているのに泣きそうで、歯を食いしばったまま口を引き結び、拳は硬く握られている。


「……はあ? ……そんな事、承知してるわけ無いでしょうが!? それでも、例えこの村じゃ無くても、街や国が違っても、戦わなくちゃ奪われるの。力が無くちゃ手に入れられないのよ。…………私もカルも、強くならなくちゃ手に入らないものが沢山あった。強くなってその末に手に入れた、お金よりも、高い装備よりも、宝石よりも、私やカルの命よりも……大切で、大切で、大切なモノ。それがエレアとアッシュ、あなた達なのよ!? 死ぬかもしれない場所に送り出す為に鍛えてる訳無いでしょうが!! 例えそんな状況になったとしても、生きて帰って来れる様に鍛えているの!!! 死なせる積もりなんて毛頭無いわよ!! 《《憶えておきなさい》》、私とカルがあなた達を死なせない……そしてエレアに、大切な人に生きてもらうためにもアッシュの我儘は認めないし許さないわ。あなたもエレアも死ぬ程鍛えて……生きなさい!!!」



 サフィー母さんの感情をぶつけられた。

 怒りも悲しみも……愛もぶつけられた。


 怒られたのに怖くない、なのに涙が出てくる。

 胸が苦しい……息が漏れる。


 息が詰まって、言葉が出ない。

 言葉の代わりに思いと一緒に涙が出る。


 母さんが掴んだ肩が痛い。熱い。

 母さんが向ける視線が優しい、温かい。


 僕は……僕は……。


「あっ、ぐ、があざん、ごっごめん…んぐっなさい。ごめっなさい。ぼく、つよく、なったっで……戦い、じてほじく……な゛くで……ずっと、みん゛な゛……一緒に……」


 言葉が、想いが、紡げない。


 謝りたい。気持ちを伝えたい。


 この村での生活が大好きで、楽しくて、大切で……だから失うのが怖くて。


 僕が守れば……少しだけ特別な僕が、みんなを守れたらって……。


 でもこれは我儘だから、独りよがりで勝手できっと間違ってるから、怒ってくれた。


 いっぱい想うのに、言葉が出ない。


 怒っていたのに抱きしめられてもっと声が出ない。


 涙も、鼻水も、止まらない。


 言葉は出ないのに、声は出る。


 泣き声だけは沢山出る。まるで赤ちゃんみたいだ。


「泣きなさい、アッシュ。もっといっぱい泣きなさい。もっとお母さん達を頼りなさい。あなたがどんなに大きくなっても、強くなっても、お母さんはお母さんなんだから…………あなたやエレアに何かがあれば飛んで行くわ。この村だって絶対に守る。だから、もっと自由に生きなさい。ねっ? アッシュ……」


 泣く事しか出来ない。


 息が詰まって、胸が苦しくて、身を預けるしか無い。


 しがみつきながら、涙と一緒に気持ちを吐き出さないと死んでしまいそうで……。



 今日も僕は泣き虫だ。




 僕の涙が止まるのにそう時間は掛からなかった。

 ただ、ごめんなさいをいっぱい言った。酷い事を言ってごめんなさい、と。


 母さんは許してくれなかった。

 その代わりに、みんなを信じなさいと言われた。みんなを信じられたらその時には許してくれるそうだ。


 僕にとってはとても難しい事に思えて少し悩んだ。

 悩んで思ったのは、僕もみんなを鍛えようと思った。


 きっと父さん母さんも同じ事を思ったんだと思う。


 結論を出した僕は、時間がかかるけど頑張ると答えたのだけど、苦笑いされてしまった。

 どうやら息子の頭が良過ぎたらしい。


 そんな頭の良い息子も、母の前では子ども扱いで膝に乗せられている……現在進行形で。


「どうして、このまま裁縫するの??」

「教え易いからよ? 他意は無いわ」


 そう言いながら頬擦りをして来るのできっと他意しかない。


 ……母は強い。僕が思うよりもずっとずっと強い。


 娘や息子を真に想うからこそ、鍛えて鍛えて鍛えまくる。

 死なない為に。死なせない為に。幸せになってもらう為に。

 死ぬかもしれない、なんて生易しい。死ぬ事を許さない勢いだ。


 そんな両親に鍛えられ、今なお強さを求める僕達姉弟を父さんと母さんは信じたのだろう。

 僕も、そんな両親に鍛えられた僕とお姉ちゃんなら信じられると思った。


 だからこそ、みんなを信じる為に僕の持つ技術をみんなに広めたい。精密身体強化を当たり前に使える様になって欲しい。魔法を自由自在に操って欲しい。

 そしたら僕もきっと信じられる。


 こんな我儘なら、許してくれるよね?



 ……そんな事を考えている僕はやはり抱きかかえられている。


 身長も百三十はあるだろう僕を平然と足に乗せ、後ろから僕の手を掴みながら布に針を通している。


 先ずは縫い方を教えてくれているのだが、落ち着かない。

 と言うか、母さん妊娠してるのに怒らせちゃったし、お腹が出てないとは言え膝の上に乗るのは大丈夫なのか!?


「母さん! やっぱり降りる! お腹に子どもいるんでしょ? もう負担かけちゃったけど……さらに負担かけたく無いし……」

「ふぅ。仕方ないわね。じゃあ床でやりましょう! 床なら膝に乗らなくても良いものね!」


 ……母は強い。いや、強かだ。


 結局、床で頬擦りされながら裁縫を教えてもらう事になったのだった。


 床は僕が【浄化】で綺麗にしたので衛生面も問題は無かった。



 一通りの縫い方や、仮縫い、まち針、玉留め、玉結びを教わった。


 母さん曰く、とにかく作って慣れて行くのが一番らしい。

 今回は簡単だけど実用性のある小さな袋を母さんと作っていく。


「どうして小袋なの?」

「ドライフルーツを入れるのに丁度良いでしょう?」

「……うん……ありがとう」

「照れちゃって可愛いわね〜! アッシュの好きな物くらいちゃーんと知ってるんだからね?」

「うん……」


 ありがたいけど、こそばゆい。少し恥ずかしくて、頬が熱い。

 素直になるにはもう少し時間がかかりそうだ。


「今回作る袋は口を縛る紐を長めに取ってベルトや腰紐に結べる様にしましょうか」


 そう言いながら、倉庫から持ってきた素材達を物色する母さん。

 正直どれがなんの物なのか全く分からない。

 角や牙、毛皮に革、爪? 他には骨なんかもある。本当に何が何やら……でも分かるのはどれも凄く大きいか、手触りが驚くほど良いって事。


 僕が適当に触って見ていると、母さんが鞣してある皮を一つ持ってきた。


 なんでもシャドウウルフの皮だとか。

 体が大きく動きは速い上に影に潜んだり、影を渡ったりする面倒な狼だった様だ。


 普通鞣す工程で色が付いてしまうらしいのだが、シャドウウルフの皮は色が黒から変わらなかったらしい。


 そんなシャドウウルフの皮は、母さんが黒をあまり使わないと言う理由だけで捨て置かれていたらしく、今回丁度良いから試しに使ってみたいんだと言っている。


 面積が大きいから僕の袋を作るために三十センチ四方で切り取っても十分の一も減っていない。


「さてと、この布を合わせて縫っていくわよ! 力がいるから身体強化を忘れずにね?」

「わかった!」


 すぐに精密強化を二倍で発動させる。

 ついでに魔物素材に何か無いかと魔力視で魔物の皮を見てみる。


「えっ? 魔力が残ってる……」

「ん? どうしたのアッシュ?」

「母さん、あのね? このウルフの皮と向こうの幾つかの素材に魔力が残ってるのと残ってないのがあるんだ。これってなんの違い?」

「ふむ……あぁはいはい。恐らく、強かった上に長生きだった魔物の素材ね」

「強くて長生き?」

「そうね……簡単に言うと——」


 母さんから語られた内容はとても重要な事だった。

 魔物は動物が魔力を溜め込んで進化あるいは変化して生まれるものと、魔力がひと所に凝縮して生まれるものが居る。

 進化や変化した魔物は兎も角、魔力から生まれた魔物は少し特別で、生まれて間も無い内に倒すと死体も残らず消えてしまうのだ。

 魔力から生まれた魔物は長く生きるほど体が定着するのか、倒した後に定着した場所を残してそれ以外は消える。

 もっと長く生きると全身が残る様になるが、そう言った魔物素材で作られたアイテムは不思議な力を持つ事があるらしい。


 つまり、今回のシャドウウルフの皮はとても貴重な皮と言う事になる。


「えっ。それってこの皮凄い物なんじゃ……」

「でももう切っちゃったし。遠慮せず使っちゃいましょ!」


 軽っ……良いのかそんなノリで……。


 母さんはすでにニコニコで切り出した皮をさらに切り分けていた。

 でもまああの大きさに切った皮なんて一体何に使えるんだと言う話だし、今回はお言葉に甘えようかな。


「はーい。アッシュ〜こっちおいで〜。一緒にやるわよ」

「はーい」


 念の為、魔力視を使ったまま縫って行こうと思う。


 シャドウウルフの影、闇の属性と母さんが身に纏い続ける回復魔法が干渉しないか確認しておきたいしね。


「それじゃあこの二枚に切り分けた皮を……あら? 白くなってる?」

「母さん、ちょっと皮から手を離してみて」


 光と闇がぶつかりあって闇が呑まれた。


 母さんが持っていた部分が再び徐々に黒くなっていく。


「これ影っていうか闇属性の魔力が染み付いてるみたいだね。母さんの回復魔法は光属性で、しかも常に纏ってるから闇属性が押し負けて消えちゃうのかも?」

「それってお母さんが触ってるとこの皮についてる魔力も消えちゃうかもって事?」

「白い皮が見えた時は、光の魔力が流れてたから上書きされてたかもしれないね?」

「お母さんは隣で魔力の宿っていない皮で作るからそれを参考に作って見てちょうだい……ちぇっ」


 ちぇっとか聞こえたけどスルーして、魔物の皮に試しに闇魔法を使う時の魔力を流してみると、面白いくらいスルスルと流れ込んでいく。

 逆に光の魔力を流そうとすると、ぶつかり合う感覚がある。

 面白い。何の役に立つのか分からないけれど。



 そのあとは普通に皮袋を作った。

 横で実際に作っているところを見る事が出来て非常に参考になったね。


 縫った面を裏返して縫い目を内側に隠すのは特に勉強になった。

 僕なら縫い目なんてそのまま丸出しで作ってた可能性があったからね……。


 前世でも裁縫は授業であったけれど袋なんて作った事無かったから、本当にありがたかった。

 これからは袋ならなんでも作れそうだし、服の補修くらいは自分で出来そう。


「初めてなのに上手いわね……もっと歪んだりズレたりすると思っていたのに……ぐぬぬ」

「上手に出来たんだからぐぬぬってしないでね? それでも、母さんが作った物よりは不格好に見えるし言う程上手く無いよ。これからも何か作っていかないとだ!」

「ふふっそうね。次は服とか作ってみる? 縫い物も色々あるけど生活に役立つ物を作れた方が良いものね!」


 もうちょっと小物を作りたい所だけど、お金無くて装備を自作してた母さんが言うと説得力が違うや。

 大人しくおすすめを縫わせてもらうとしよう。


 僕らが次の予定を立てていると、カル父さんとエレアお姉ちゃんの気配を察知する。


「帰ってきた!!」

「そう、家の前でお出迎えしましょうか!」


 母さんが立つ時に手を差し出してフォローしてから、素材や裁縫道具を手早く纏めて脇に避けて置く。


 家のドアを潜って気配の方へと顔を向ければ無傷のカル父さんと泥で汚れたエレアお姉ちゃんが見えた。


 特に大きな怪我も傷も無さそうだけれど、エレアお姉ちゃんに元気が無い。

 何かあったのだろうけど、信じるって決めたんだ。

 今はただ出迎えて、美味しいご飯をすぐに作ろう。


 お腹が減ってちゃ、出る元気も出ないからね!


「「おかえりなさい」」


 僕と母さんが二人を出迎える。


「あぁ。ただいま」

「…………うん」


 カル父さんは普通に返してくれたが、エレアお姉ちゃんは相当に参っている。


 きっと、生き物を殺したんだろうな……。


「ご飯の支度、直ぐにするから。その間に二人とも汚れを落として着替えてらっしゃい」

「そうさせてもらおうかな、エレア、庭に行くよ?」


 お姉ちゃんは無言でトボトボと付いて行くだけ。


 僕がかける言葉は無く、ただ待つ。

 頼られた時に受け止めてあげるのが僕の役目だ。


 日は傾いて、みんなで家を出た頃から数時間は経っている。

 この数時間で何を経験したのか、聞かせてくれると良いんだけど……。


 僕はエレアお姉ちゃんを見送って、母さんの手伝いに向かう。


 何はともあれ、みんなでご飯を食べる事が出来る……今はそれが嬉しいんだ。

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