僕、覚悟を決めても格好がつかない……
更新遅れました!
ポーラを家に招待して、ゼガンとグロックに魔法の手解きをしてあげてから今日も訓練を開始する。
グロックは走るのが苦手なので先に行ってて欲しいとの事だ。
ついでに魔法の練習もするみたい。
意欲的で大変よろしいと思います。
コルハとゼガンは僕と並走。
ゼガンはさっきの感覚を忘れない様に何度も光の粒をつくっては消してを繰り返しているが、その表情はとても楽しそうだ。
楽しく魔法を使えるゼガンはすでに立派な魔法使いと言える。
『好きこそものの上手なれ』と言う素晴らしい言葉があるんだから未来は明るいね。
じゃあコルハはと言うと
「なあ、今更なんだけどさ。記憶スキルを持ってるって言ってたけど、どうやって自分のスキルを知ったんだ?」
そう言えばそうだ。
スキル確認の儀は十歳からなんだもんね。ここは適当に嘘をついておくか。
村長さんなら許してくれるでしょ!
「ん? あー。僕霊獣を見たんだよ。それで村長さんに呼ばれて像を作ったりしたんだけど、そのお礼にスキルを確認してくれたんだ。他にも色んなスキルを持っててね? 僕頑張ったなーって思った」
「霊獣……神獣か。ほーん。でもそうか、俺もなんか恩を売ってスキル見てもらいてぇな」
「そうだよねえ……何か特殊なスキルを持ってたら鍛え方とか変わって来るもんね」
「お前の記憶は良い事も嫌な事も憶えちまうんだっけ? 忘れないのは良いけど、忘れられないのはしんどそうだなー」
「コルハ……。でもね、しんどいけど楽しい事や嬉しい事の方が多いから、僕は【記憶】スキルがあって良かったと思うよ」
僕の【記憶】の面倒な所にさらっと触れて気遣ってくれたのかな?
将来イケメン間違いなしの顔で気遣いまで覚えたら女の子が放って置かないぞ、気をつけろ?
「お前が良いんならいいか。なんか嫌な事あったら言えよ……気晴らしにだらだらするのも悪くねえからな」
「コルハ……お前本当にコルハか? 偽物だろ! 本物を何処にやった!」
「いや本物だけど!? 人が折角心配してやってんのにその反応は失礼だろ!」
「スキルの話したの一週間前なんですけど! 今さらなんですけど! ありがたいけど! 似合わなーい!」
「んだとコノヤロオオオ!!!」
今日の訓練場百周も盛大に追いかけっこした。
走り終わった後、僕とコルハはスタミナ切れでしばらく動けなかった。
これも込みでいつも通りだ。
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今回は回復魔法を使わずに息が整うのを待ってみた。
五分ほど経ってようやく肩で息をしなくなった。
想像以上に時間がかかったけどこれが本来の僕の心肺機能なのだ。
魔法と同様、身体だって使わなきゃ鈍っていくし衰える。筋肉も使って壊して、壊れない様に回復するんだ。
出来るだけ自分の身体の力だけで頑張ってみようと思う。
僕が立ち上がって、身体を浄化して汚れを落としているとジュリアが話しかけてきた。
「アッシュ君。私決めましたよ。貴方に教えてもらいたい事」
「おっ! なになに、なんでも良いよ!」
「貴方が最も強いと思っている魔法を教えて下さい」
「最も強い……それなら無魔法になるかな」
無魔法を使っていて思うのは、この魔法は他の魔法と反発しにくいと言う事。実体を持たないと言うか、それ単体での役割はほぼ無いと言うか。
でもその代わりに、あらゆる魔法の効果を増幅出来る。魔法での身体強化もできる。全ての魔法の効果を一段階引き上げる無魔法は魔法使いなら使いこなしておくべきだと思う。
「無魔法? 無魔法と言えば、障壁や身体強化、固定、振動と言ったどうにも纏まりのないイメージがあるのですが?」
……障壁? 固定に振動? なんでそんな増幅に関係のないラインナップが?
「僕は母さんから無属性の魔法の特徴はおそらく増幅だって言われたから、それを前提にして詠唱を組んで魔法の効果を増幅させる魔法をつくったんだよ」
「魔法を増幅させる魔法!! そんなものがあるのですか!?」
おおう、突然距離を詰めないで! あとで僕がエレアお姉ちゃんに詰められる……!
にしても食いつきが良い。ジュリアも魔法が好きなんだろうな。
目をキラキラ輝かせてる所なんて初めて見たかもしれない。本当に珍しい。
「えぇっとね、僕が使った時はね? 火魔法で出来る限り熱量を上げた後に、光魔法でさらに熱を与えて、最後に無魔法で増幅させたんだけど……大惨事一歩手前だったよ」
「三つの魔法を同時に操って火の勢いを強める事だけに特化させたんですね! すごい技術ですアッシュ君! エルフは精霊にイメージを伝えて祈る様な魔法の使い方をするのでそこまでの制御となると中々……ですが……でも……であれば……」
ジュリアがすごいいっぱい喋ってる。
本当に珍しい。でもやっぱり楽しそう。
何かに夢中になっている人って何故か魅力的に見えるんだよね。
身体から熱を放って、キラキラと輝くんだ。この熱と輝きを大人になってもずっと持っていて欲しい。
……前世の僕が手放したその熱を、ジュリアには絶やさずに熱いままでい続けて欲しいな。
そのためにも、魔法の可能性をジュリアに伝えたい。魔力の底知れなさを知ってもらいたい。
「ねえジュリア」
「……なんでしょうか!」
「無魔法も凄いけど、魔法を使うための力そのものである魔力ってどう思う?」
「魔力、ですか? 姉さんからアッシュ君の精密身体強化を聞いているからこそ思いますが、魔力という力は魔法と言う形を取る必要は無いのかもしれませんね……」
僕もそう思う。魔力そのものにイメージを流し込むだけで、ある程度は力を発現するんだ。
そしてその究極系こそが僕が四倍に圧縮した魔力で成した、実質魔力で斬る技なのでは無いかと思う。
魔力とは未知の塊。恐ろしさと同時に神秘を感じさせる存在。
探究心の強そうなジュリアには打って付けの題材と言える。
「僕もジュリアと同意見だよ。実はね、この間の模擬戦でフェーグさんの剣を斬った技、あれは恐らく僕の魔力が成したんだ。ただ一つの意思、斬る意思だけを高密度の魔力に伝えたから起きた現象」
「意思に反応する魔力……イメージを具象化する魔法……まだなんとも言えませんが……確かな事が一つだけ。貴方は凄すぎますね。……(姉さん達の気持ちが少し分かってしまいましたね……)」
「最後、なに? 聞き取れなかった!」
「ただの独り言です! それよりも、まずは無魔法の増幅を教えて下さい!」
ジュリアの心に勝手に薪を焚べておいて何だけど、好きな事には前のめりなタイプみたいで、いつもとは違う距離感に少し戸惑う。
とりあえず無魔法の説明をしたいんだけど、どう説明するべきだろうか?
無魔法というより増幅させるイメージを先行させた方が良いかもしれない。
僕と違ってジュリアには無魔法の事前情報がある。障壁とか振動とか固定とか……。
興味深い!! 僕も知りたいよそれ!
……一先ず実演して見せよう。増幅は説明しにくい。
ジュリアに分かりやすいのはやっぱり風かな。
「まず、右手でそよ風程度の魔法を発動させます。そこに左手で無魔法を魔法の風に重ねて、『エンハンス』!」
僕なりの『エンハンス』と言うキーワードを告げて魔法の効力を増幅させると、そよ風が突風へと変化した。
そこから無魔法を消すとそよ風に戻っていく。
魔法に干渉する魔法ってところかな?
「今みたいな感じで、増幅の魔法を使っている間だけ対象の魔法の勢いや効果を増幅出来るんだ」
「これは一時的に限界を超える力を得られるんですね。制御を誤ればこちらまで傷つきかねない……人間の魔法の使い方も学びたいですね……エルフの魔法は精霊に祈ると言う形を取るだけあって自律した様な魔法が多いですが、それではこの増幅は扱えないです」
「なるほど、魔法任せの魔法がエルフの魔法なのか……魔力の操作や制御は直ぐに上手くなる訳じゃ無いし、それならもう一個教えるというか、検証して欲しいんだけど……」
これは僕以外にも出来るかの検証なんだ。もしこれが出来るなら、魔法は真になんでもありになってしまう。
ジュリアに出来て欲しい思いと、出来ないで欲しい思いが同居する。
「魔法にも意思が通じるのか確かめて欲しいんだ。風魔法でも木人形や剣が斬れるのか。それ以外の魔法はどうなのか。どうかな?」
「そんなもの……頼まれなくてもやっていましたね! 貴方から聞いた話は興味深いものばかりです。ありがとうアッシュ君!」
本当に良い顔をする。クール系お姉さんの緩んだ顔は眼福です。
年相応な笑顔に思わず笑ってしまった。
「その顔はやめて下さい」
「えっ!? どの顔!」
「あの顔は毒です……(勘弁して下さい……)」
「……僕の顔がポイズン?」
言いたいことも言えないそんな顔ってこと?
冗談は置いといて、本当にどの顔だよ! アルカイックなスマイル出たのか!?
顔をパタパタ手で扇いでいるジュリアが咳払いをして真面目な空気に戻そうとする。
「おほん! とにかく、今回教えて頂いた増幅や意思の事は慎重に実験して行きます! ふぅ。次は私が教える番ですね。魔力感知の習得方とその所感やちょっとした推測などもお伝えしましょう」
「そうだった! それ知りたかったんだ! 持つべきものはジュリアだよー!」
「そっそうですか。……私もアッシュ君が居て良かったですよ?」
「両思いってやつだね〜。それじゃあ早速ご教授願います!」
「………………」
僕は聞く体勢に入ってジュリアの説明を待っているのだが、中々話し始めない。どうしたんだろうか。
どうやら深呼吸と、また手で顔を扇いでいるらしい。
そんなに緊張しなくても良いのだが……致し方ない、ここは大人しく待とう。
大人の余裕を持たないとね?
「……アッシュ君」
「はぁい?」
後ろを向いたまま声をかけてくるのはどう言った意図なんだろう。
「……不用意に喋らないでもらって良いですか?」
「えっ。あの、ごめんなさい」
「貴方には魔力感知よりも教えなければいけない事がある気がします……」
「魔力感知よりも大事な事!? そんな技術があるの!?」
「あります、女心です!」
決め台詞の様にこちらに向き直りながら少し赤い顔でそう告げるジュリアは此方を睨んでいた。
……おんなごころ?
「貴方、気付いていますか。今何人の女性に懸想されているのか」
「……程度の差はあれ三人程かと……」
「今、もう一人増えそうです。何故か分かりますか?」
「……身に覚えがありませぬ」
ジュリアは静かに語っているだけなのに、僕の背筋が思わず伸びる。
恐怖を感じてる訳でも無いのに、ヒヤリとした汗が伝う。
一度大きく溜め息をついてからジュリアが僕に説明してくれる。
「貴方と言う人は、意識的か無意識的か知りませんが! 相手の望むものを与えているのです! それも優しく、時には強引に! 私たちは四つも歳が上なのに、まるで貴方に手を引かれている様です! それを心地良いとも嬉しいとも感じてしまうのです!」
「望むもの……」
「姉さんには魔法の手解きと努力の肯定を、ポーラには対等或いはそれ以上の存在でありながら女性としての扱いを、エレアには常に隣に居続け構い続けているでしょう!」
「身に覚えが御座います……」
「私の抱く劣等感や魔法に対する意欲にすら手を差し伸ばして……調べて欲しいと頼ってもくれて……狙ってやってますか!?」
「いえ……狙ってません」
「でしょうねっ! だからこそ嬉しいのですから!」
なんちゅーこっちゃ。それらがトリガーになっていたと、そう言う事ですか。
ちょっと……頭が上手く動かない。
「貴方は女心をもっと知って下さい! 出ないと村中の女が貴方に落とされてしまいます! この女たらし! ……私まで落として、どうするつもりなんですか……?」
「あっ……その。成人したら、迎えに行きます……」
「っ……あー……言ってしまいました……色んな事を、必要のない事まで……姉さん達にも悪い事をしてしまいました……」
勢いに飲まれて言ってしまった。
もちろん嫌では無いけれど、荷は重い気がする。
ジュリアは目に涙を溜めながら、落ち込んでしまった。
どう声を掛けたら良いんだ……この状態で僕が慰めていいのか?
僕が悩んでいる間にジュリアは切り替え終わった様だ。
「はぁぁ。さっきの言葉、他の三人にも伝えてあげて下さい。正直、まだ若い私たちの心がどう動くかわかりませんけど、それでも伝えてあげて下さい。貴方から離れない様に、貴方が掴んで離さないでくださいねっ」
「っ! ……そっか、そうだよね。その通りだ。なんだか今すごく頭がスッキリした気分だよ。幸せって掴み続けて、守り続けないといけないんだね…………」
嗚呼、それなら分かる。
僕が守りたい人達を守る。それで良いなら僕が死ぬまで守る。みんなの笑顔が好きだから。笑い合う時間が大切だから。
家族も、エレアお姉ちゃんもポーラもジェイナもジュリアも、お馬鹿の三人も僕にとって既に大切なものなんだ。
大切なもののために、自分を使えるなんて有り難い事だよ。
誰にも何も出来ず残せず死んだ『俺』からすれば、誰かの中に僕を残せるそれは願っても無い事だ。
そして、いつか僕が死ぬその時に、側に悔やんでくれる人がいるなら僕は生き抜いたと胸を張って言える。
……何処までも自分本位。自己中心的。自分が満足するために誰かを使うクズだ。
でも、それが僕だ。自分の為に誰かを守りたい。自分の為に誰かを幸せにしたい。自分の為の行為が他者に向いているならそれで良い。
僕のために、みんなを幸せにしよう。
こんな僕でもそれくらいならやれそうだ。
「ありがとうね、ジュリア……」
「その顔が毒なんですよ……私達の心を蝕んでいく……酷い人ですね?」
「……顔に関しては流石に僕にもわっかんないかな〜」
鏡がないから表情を正確に見れなくて、どんな顔してるのかわかんないんだよ!
……だからこれからも不定期的に僕の毒を味わってください。
「ジュリアのおかげで覚悟は出来た。まだ十年は先だけど、みんなに愛想尽かされない様に頑張るよ!」
「人が精神的に一皮剥ける瞬間と言うのでしょうか……貴方のその瞬間に立ち会えたのは私だけの様ですね。今度自慢します」
「波風立たせないで!? ってそうじゃなくて、話がすごく逸れた! 逸れて良かったけど、魔力感知だよ!」
「そう言えばそんな話をしていましたね? 今日はもう良いのでは?」
「良く無いが!? 教えてよ! 僕だけ教えて不公平じゃ無い?」
「そんな事ありません。貴方は強すぎるので丁度良いですよ。貴方が守るというなら、私だって貴方を守りたいですからね? はあ〜惚れると言うのはこんな感覚なんですね〜」
さっきまで怒ってた人の態度じゃない……。
余裕綽々で僕を揶揄ってくるんですけど? 強かと言うか図太くなったんですけど?
自分の感情を分析しながら、伸びをしてリラックスしてる今のジュリアに僕が敵う未来が見えない。
今の僕は乞い願う側で、ジュリアに恵んでもらう側なのだ。
彼女の胸先三寸で踊らされる存在が今の僕。
「アッシュ君から貰った情報と、私が教えた女心で等価です。さて、貴方は次に何をくれますか?」
なんなんだ、その妖艶な微笑みは! 十歳がして良い顔じゃ無いよ!!
「何か欲しいものは御座いますか……?」
「では今度アッシュ君が髪を洗ってくれるそうですが、それに参加させて頂きたいです。姉さんも一緒に」
「……仰せのままに……!!」
「うっふふ。では情報をお渡ししましょう」
手を口元に当てて笑うその仕草自体はいつも通りなのに、見え方が全く違う。
しかもすごく楽しそう……女の子って不思議だなぁ……。
今日も空は晴天。新緑が陽に照らされて青々と茂る今日この頃。
僕の目の前では、燦々と降り注ぐ日の光を金の髪に反射させ、大輪の花を咲かせて笑うエルフの女の子が輝いていた。




