僕、適性論を論破する
魔力四倍圧縮精密身体強化……かいおうけ……四倍精密強化の詳細を何となーく理解した僕は、今絶賛魔力不足で悩んでいる。
【浄化】が魔力を良質なものにしてくれているのは良いが、漏れた魔力の影響力が強すぎて、魔力を纏って漏れを防いでいる今現在。
正直、頭がしんどいし、魔力が目減りする。
そう言えば、この状態を【記憶】してなかった気がする……こう言う時には便利だな。
身体に憶えてもらいましてっと、頭はともかく魔力の減り方がよろしく無い。
やっぱり余剰魔力をどんな形でも良いから制御するか貯蓄したい。もしくは孔を塞ぎたい。
でもなあ……この孔があると、恐らく魔法がもっと楽に使える。
足でも、背中でも、お尻からでも魔法を放てるから死角が少なくなる。手数を多く出来る。
メリットが多すぎて塞ぎたくない。
でも漏れる魔力が……思考がループする〜。
魔力消費で浪費を無くせたら良いけど、それを延々とやっていられるのかという問題が……【記憶】で身体に憶えさせる?
それとも魔力を圧縮して貯蓄するか? 単純に四倍の魔力を器に貯めれるのでは? 魔力の器壊れないかな?
試しに今ある魔力を二倍圧縮して器に収める。この状態を【記憶】する。
これで変化が無ければ、少しづつ圧縮率を上げていこう。
現状でも魔力容量が倍になった様なものなんだ。そうそう溢れないだろうし、精密身体強化である程度は消費されるから釣り合いは取れるはずだ。
……胸が少しぽかぽかする。魔力が目覚めた時と似ている。魔力が貯まると熱を感じるのかもしれない。
当分は二倍で身体に慣らしていこう。
訓練場を百周走って乱れた呼吸を寝そべって整えてながら、そんな風に悩んでいた僕に影がかかる。
落ち着いて走り終えたエレアお姉ちゃんだ。
「アッシュ、大丈夫? 勝負も良いけど後先考えるのも大事だよ?」
「仰る通りです……返す言葉も御座いませぬ」
差し出された手を取って起き上がると、汗で濡れた服に砂がベッタリと張り付いていた。
魔力消費も兼ねて【浄化】しておく。
汚れも汗もさっぱり落としてくれるこのギフトは素晴らしい。選んで良かった。流石、僕。さすぼく。
「お姉ちゃんも綺麗にしてほしいなー!」
「はぁい。綺麗になぁーれっ」
その言葉と同時に【浄化】を使うと共に、光魔法でキラキラ演出を追加しておく。
「ほあ。キラキラしてる! なにこれ!」
「光魔法で演出してみましたっ!」
「アッシュの魔法は綺麗で良いよね。私ね、天井に光をいっぱい浮かべるやつ好きだよ」
鼻高々に演出自慢をしたのだが、素直に褒められると調子が狂ってしまう。
プラネタリウムくらいいつでもやったげるから不用意に褒めないで欲しい。照れてしまう。
「おーい! そこのガキどもー! 走り終わって休憩取れたならこっちきて訓練に参加しやがれー!」
僕が照れ照れしながらキラキラを振り撒いていると、フェーグさんからお呼びがかかる。
昨日の様な模擬戦では無いみたいだけど、今日は何をするのだろうか。
息も絶え絶えなコルハも綺麗にしてから三人で向かう。
「お前ら体力お化けすぎねえか?」
「走る時は使わなかったけど、休憩中は回復魔法使ってたからね。魔法使えると楽で良いなー!」
「ずりぃ。光属性に適性無えから俺には無理だ」
「え? ……適性ってなに?」
「は? ……知らねえのか?」
「お姉ちゃん、魔法の適性って知ってる?」
「えっとー、憶えてないかも? えへへっ」
笑顔が可愛いから許す。コルハも良く頷いてる。
と言うか、僕ってば氷と雷以外は全部使えるんだけど。適性とか関係あるのか?
「んーとな。簡単に言うと、使える属性に偏りがあるらしいぞ。属性に相性があるとか何とか」
「ゼフィア先生は四属性使ってたけど?」
「そうだよなー。どうなってんだろうな?」
エレアお姉ちゃんは頭にはてなを浮かべているが感覚派なので理論は要らないだろう。
今度身体が理解するまで魔法を叩き込んであげよう。
コルハは割と理論と実践を重要視するタイプなので、少し彼で実験してみようと思う。
フェーグさんにはもう少し待って頂こう。
「コルハ。今から僕が光で地面を照らすから、そこに手を出して光を感じて捉えるんだ」
「おっおう?」
太陽に背を向けて屈んで身体で影を作る。
そこに小さな光の玉を生み出し、闇で一方向以外を包む。
「僕の影に丸い光が差してるだろ? そこに手を割り込ませて魔力で光を掴め。掴んだ感覚を魔力で再現するんだ。詠唱はしないで」
「お前が言うならやってやんぜ。全力で掴んでやる!」
「魔力に対する感覚を研ぎ澄ますんだ」
「……なんだ、動いてる感覚がある。常に動き続けてるような、温かいような……」
コルハが右手で光を感じているので、その感覚を左手に再現して出すように言う。
「うぐぐ……細かく動くあったかい光……地面をちょっと照らす光……」
「あっ出た!」
「うぉっ出た」
「ナイスだよコルハ。適正なんてなかったんやー! って事が今証明されました!」
「うがああああ!? お前と居ると常識がぶっ壊れるううう!!?」
「認識の問題とイメージの問題なんだよ。うんうん! 出来ると思うやつにしか出来ないって意味では適性はあるかもね? 魔法自体にだけど」
適性とかいう出来ない事を正当化しようとする自己弁護は許さないんだぜコルハ君!
属性に相性なんてあるもんか。そんなの人間の定義でしか無いんだ。
体質で魔力の属性変換が上手く出来ないとかなら仕方ないけどね。
「はあっスッキリした。改めてフェーグさんとこへ行こう!」
「おー!」
「おぉ……」
コルハが光魔法を鍛錬し続ければ回復魔法も使えるようになるだろう。
敵に塩を贈ってしまったが、好敵手と書いてライバルと読むので問題無し。
若干一名力無く歩いて居たが、無事到着。
そこで告げられた訓練は……なんと個別メニューだった。
コルハは自分に合った武器探し。
エレアお姉ちゃんはゼフィア先生の所で戦いに幅を出すための魔法訓練。
僕はフェーグさんからの聴取。
……僕だけおかしくない?
聴き取りたい事と言うのは、昨日の模擬戦で見せた剣を断ち切った時のことの様だ。
僕は既にあらかた感覚の精査を終えているし、再現性もあるので詰まる事無く答えていく。
「そりゃもうあれだ。魔力の深淵だな。言われても分かんねえし、出来る気もしねえ。感覚的ではあったが、トンデモ坊主は説明出来てる自信があるんだろ?」
「説明出来てます。魔力を大量に精密に動かして身体強化した状態で、さらに魔力を全身と武器に纏わせ、ただ一つの意思の下に武器を振るう。それだけです。魔力は強い意思で力を発現するので、僕の斬りたいという意思に反応して魔力が剣に合わせて斬ったんだと思います」
「はぁぁぁあああ……わっかんねえ。魔力の事なんざそんなに知らねえんだよなあ」
フェーグさん的にはあの技を理解しているのか、再現性があるのか、危険度はどんなもので、自分にも扱えるのかを知りたかった様だ。
流石に僕でも簡単にほいほいとは出来ないが、やろうと思えばやれるだろう。
昨日は無意識に全魔力を使ってしまったが、今なら三分の一くらいの出力で何処まで出来るか試せると思う。
「もっかい出来るんなら、ちょっとばかし見せてくれ。昨日のボコボコの剣で、そこにある木人形を切り裂いて見せろ」
「やってみます」
そういえば、外から剣に纏わせてたけど内側に魔力って通せないのかな?
それこそ組成に干渉出来れば、斬る意思を宿した魔力の刃を部分的に作れてローコストなのでは?
気になったのならやるしか無い! 好奇心は止められない! オーダー通りでは無いけど許してください!
剣を構えて魔力をこれまた精密に通す。小さく細く、剣の内側を埋め尽くすように魔力を広げていく。
剣の中で魔力を四倍圧縮して、昨日の斬るだけの意思を【記憶】で呼び起こす。
全身でただ、斬る。この剣の刃に斬る魔力を作り出し、木人形に袈裟斬りに振り下ろす。
木人形は滑るようにズレていき崩れた。
今の……すごく良い。保有魔力の十分の一も使っていない。手抜き斬りアレンジ成功だ!
「フェーグさん! 見ました!? アレンジ出来ましたよ! これなら幾らでもとは行きませんけどいっぱい斬れますよ!」
「お前……何やった? 昨日ほどの危険は感じなかったが、今のも十分危ねえよ」
「昨日は僕が丸ごと斬る魔力に包まれて居ましたが、今のは剣の刃の部分だけに斬る魔力を出したんですよ!」
「こんの……自重しろクソガキ坊主があ!! 何で言ったことと違うことやってる上に、改良してんだよお!! 器用悪戯斬る斬る坊主があ!!」
頭をゲンコツで両サイドからぐりぐりと押し込むのは本気でやめて下さい。
頭蓋骨が凹んで変形しちゃう……悪く無い顔なのに縦長頭になっちゃう……。
斬る斬る坊主もなんかヤダ。
フェーグさんのネーミングのバリエーションが適当な癖に豊富なのなんなんだよ。
「僕の訓練これで終わりですか? ……頭いたい……」
「はあ……お前と居ると溜め息でるぜ。次は体術やりな。お前は体の動かし方に無駄が多いからな……ゼフィアから教えてもらえ」
「は〜い……まだ痛い」
にしても体術か、よく見てらっしゃる。
身体を鍛えるばかりで、身体の動かし方にはあまり頓着していなかったな。
昨日の模擬戦で三十人分見極めて、足りないものや、伸ばすべきものをを鍛えさせてるのだとしたら、僕らはフェーグさんとゼフィア先生に一生頭上がらないんだけど?
……でも頭痛いからフェーグさんには素直に感謝出来ない。まだ痛いんだもんな。
「ゼフィア先生。体術教えてもらいにきました」
「アッシュは体術か。では、柔軟と身体を正確に扱うことから始めよう」
それから教えられたものはすごく簡単なものばかりだったが、思った以上に僕の身体の使い方はズレていたようだ。
柔軟も割とやってたはずなのに、体術をやる上で必要な柔らかさでは無かったらしく、痛気持ちいいの少し先に行かされた。痛かった。
身体を正確に扱うのは少し面白かった。
例えば、両手を地面に平行に広げた場合に、外から見てもちゃんと平行なのかどうか。
そしてそれを維持出来ているのかどうかだ。
これが意外と難しい。
筋肉もぷるぷるしてくるし、体術の訓練は身体作りの側面から見ても良い鍛錬かもしれない。
ちょっとだけ嬉しいのが、ゼフィア先生が僕の身体を動かして正しい動きを教えてくれるんですけどね? 色々当たるんだ。そう色々ね?
やましい気持ちを出すのは失礼なので、【記憶】に留めて置くだけにしますよ。
ええ、【記憶】にね?
まあ、それはともかく良い訓練が出来た一日でした。
父さんと母さんはうちでやってる事とあんまり変わんなかったけど、他の子達からすると結構厳しい印象だった様だ。
エレアお姉ちゃんは魔力が無くなる寸前まで追い込まれた様で、半泣きで泣き言を言っていた。
「一緒に頑張ろうね、お姉ちゃん……」
「うぅ……がんばる〜……」
お互い前途多難だね……。




