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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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コルハの叫び。僕はかく語りき。

「どけ!!!!」


 僕の周りに集まって来ていた人達を押し退けながら、牙を剥いてこっちに向かってくるコルハ。


「ミルさん、もう離して良いですよ。ありがとう」

「っ! はぃ……」


 僕はコルハから目を逸らさずにミルさんの手を解き肩を押して下がらせる。


 ミルさんから解放されて、立ちあがろうとしていた僕の胸ぐらをコルハに掴まれて持ち上げられた。


「アッシュ。お前はすげえよ。本当にすげえ」


 言葉だけを見れば僕を褒めているのに、コルハの声は分かる程に震えていて、目はも大きく揺らいでいる。


「でもさあ。俺たちと居てお前は楽しかったのか? 俺たちと手抜いて駆け回って楽しかったのか? 俺たちと一緒に居たのになんでお前はそんなに強えんだ? なんでそんなに強くなろうとすんだ? …………お前は、なんなんだ?」

「コルハ……」


 先程までの楽しげな空気は一瞬で消え去り、みんながコルハの独白を聞いていた。


 何故なら、コルハが声に出しただけで、きっと皆んなも似たような事を感じて思っていたからだろう。


「俺はお前に負けたくねえってずっと思ってた。俺はお前に追いつきてえってずっと思ってた! お前に勝ちてえってずっと思ってた!! でも……あんな戦い見せられたら、俺はどうすりゃ良いんだよ!? ……俺なんてお前の足元にも及ばねえじゃねえか!! 俺は!! いつかお前に勝てるのか……? 追いつけるのか……? 俺は……ッッ……俺はああああ!!!」


 コルハにとって僕はライバルだったのだろう。競い合い、高め合うライバル。

 でも、今日の模擬戦で僕らの間にある距離を明確に感じ取ってしまった。



 理解、してしまったのだろう。



 どうしたって追いつけない。

 いつも手を伸ばしていた姿はまやかしで、本当の僕はコルハのずっと先に居て……。


 悔しくて、悔しくて、悲しくて、腹立たしいんだろう。


 僕の胸ぐらを掴むコルハの拳は硬く握られているのに、弱々しく震えている。


「コルハ。僕はね、みんなと一緒に居るのも、遊ぶのも、これ以上ないくらい楽しくて大好きだよ」


 言葉通りには受け止められないよね……でももう少し話を聞いてくれ。


「だからこそ強くなりたいんだ。みんなを守りたいから。みんなとずっと一緒に遊んでいたいから。だから強くなりたいんだ」

「……ッッ」

「先に言っておきたいんだけど。僕にはね、【記憶】って言うスキルがあるんだ。このスキルは凄くてね。その時目で見たものも、耳で聞いたものも、鼻で嗅いだものも、口で味わったものも、肌で感じたものも……心が感じたものすらも、はっきりと記憶するんだ。良いスキルでしょ?」

「……そうだな」


 ぶっきらぼうな返事を返しているが、大事な話なんだ、ちゃんと聞いててくれよ。


「……少し前にさ、霊獣が数日間だけ住処を離れた事があったよね? あの時、僕の父さんと母さんは晩御飯の途中で家を出た。その後、エレアお姉ちゃんからその時何が起こっているのか簡単に聞いたからさ、どうして父さん達が家を出たのか納得出来たんだ。だからその夜は大人しく眠ったよ」


 カル父さんもサフィー母さんも居る場でこの事を話すのは二人を傷つけてしまいそうだけど、今は話さなきゃいけない時なんだ。ごめんね。


「翌朝、目が覚めるとね、昨日と変わらないベッドが隣にあってね。父さんも母さんも戻っていないってすぐに分かって……なにかっ、あったんじゃ無いか、って……っ……泣くのをこらえながら家中探したんだ。何処にも居なかったし、帰っても来てなかった。僕はその時、二人が……死んじゃったんじゃないかって……思ったんだよっ」


 コルハの手が緩んでいく。

 コルハの目と、涙を溜めた僕の目がようやくぶつかる。


 僕はもう少し語る。

 今の僕を型作る、核となったあの日の事を。


「すごくね……怖かったんだ。手が震えた……足も震えた。背中が冷たくってっ……目の前がっ、暗くって……何とかエレアお姉ちゃんと広場まで出て、二人の姿を見つけた時、心底安心した。でも、ずっと怖かった。僕の恐怖と悲しみは消えなかった」


 泣き言を言っていたコルハはもう居なかった。

 僕の話を真剣に聞いてくれている。


 だから、僕も鼻をすすって、涙を流しながら、それでも話そう。


「僕の持つ【記憶】スキルはね、全部……憶えてるんだ。今も話しながら、怖くて堪らない。あの時の感覚が鮮明に蘇ってくるんだ。心が痛くて、寒くて……苦しいんだっ。……この記憶が僕から消える事は無いんだよ」


 僕の裏返りそうな声が、何度も詰まる声が、広い訓練場によく響く。

 鼻を啜る音も響いて恥ずかしいから、誰か喋ってても良いのに。


「もうこんな思いをしたくないから強くなりたいんだ。僕の強さを望むきっかけが、僕からは色濃く残って消えない。だから、僕はずっと強さを求めてる」

「…………」

「僕がもう《《二度と》》大切なものを失わないためにも。僕を大切に想ってくれる人に、僕を《《失わせない》》ためにもね」


 僕の核は話した。僕の強さへの執着はある程度わかって貰えただろう。


 鼻を啜って、涙を拭って、気持ちを落ち着かせたら……質問の続きにも答えていくとしよう!


「さて他には、コルハが僕に勝てるのか、追いつけるのか、だっけ?」

「いや、それはもう良いって、当たっちまって悪かったし……」

「いーや、ちゃんと聞いていけ。良いかい? ……コルハは僕に既に勝っている。追いつくどころか追い越しているよ」


 コルハの目に怒りが浮かび、胸ぐらを離した手をまたしても硬く握る。


「流石に限界ってもんがあるぞ、アッシュ……揶揄うのがそんなに楽しいか?」

「気になるなら、試してみる?」


 僕は模擬戦をしていた場所へと出るとコルハを十メートル先に立つように促す。


「ルールは簡単だよ。魔力と魔法を使うのは禁止。使って良いのは自前の筋肉と技のみ」

「いいぜ、やってやるよ」

「でも一個だけルール追加。僕の最初の攻撃を避けずに受け止めてくれ」

「はあ?」

「コルハが既に僕に勝ってる事を証明する戦いだよ? それでも怖いの??」

「くッッ……わぁーった! 受けてやるよ!」


 きっと今の僕は、情け無く笑ってるんだろうな。


 きっとコルハには僕が笑ってる意味も伝わってないだろう。

 それもこれも、僕の拳を受けるまでは、だけどね。


「それじゃあ行くよっ!!」

「こいやおらああ!!」


 僕は全力で駆け出す。

 十メートルという、とても……とても長い距離を。


 フェーグさんとの模擬戦では一息で、数歩で跨いだ距離を、今度は十歩以上もかけて距離を詰める。


 ふふっ。コルハが信じられない様な顔で見てる。


 油断しまくっているコルハのお腹へと、全体重と力を乗せた拳を、腰の回転も加えて、全力で思い切り放つ。


 僕の拳はコルハの身体を揺らす事なく、大した痛みを与える事もない。


「ふぅ。わかった? これが僕の全力で本気だ」

「なんだよ……それ」

「僕はね、なかなか力がつかなくってね。三歳の頃、父さんが作ってくれた僕用の小さくて短い木剣すら持てなかった。それからは走り込みをして、畑を耕したり、筋肉を鍛える鍛錬をしたりして、今ようやくこんなもんさ」


 僕が殴った場所を撫でて驚いているコルハ。

 今の一幕を見ていた僕の家族以外はみんな驚いたような顔をしている。


 無理もないよね。


「僕の力はね。ほぼ全て、魔力を使ったものさ。魔力頼りなんだ。フェーグさんが今日の訓練で魔力や魔法を禁じていたら、僕は未だに百周を走ってるんじゃないかな?」

「……」

「だからねコルハ。君は僕よりちゃんと強いよ。本当なら僕じゃあ勝てっこ無いんだよ。沢山鍛えてもコルハみたいに分厚い身体にはならないし、筋肉もあんまりつかないし」


 全然言葉が返ってこない。ちゃんと聞いてるよね?


「でも僕には魔法があった。だから魔法を上手く使うために魔力を鍛えた。魔力を使えば、僕もそこそこになれた。そうして鍛えてたらフェーグさんとちょっとは戦えた。……ねえコルハ、君が魔力も肉体も鍛えたなら、もしかしたら簡単に僕を超えてしまえるかもしれないよ?」

「んなこと言うな!!!」

「!?」

「お前だって努力してきたんだろう! 尋常じゃないくらい鍛えたからあんな動きが出来たんだろう!? 簡単に超えてしまえるなんて言うなよ!」


 追いついて勝ちたい癖に、どっちなんだよお前は……ああでも、お前の言う通りだよ。


 沢山鍛えた。ずっと鍛えてる。今だって回復してきた魔力を動かしてる。

 さらには【記憶】までつかって、【魔法の才】も合わさって今の僕があるんだ。

 簡単に越えられてたまるか。



 ……でも、元の筋肉量が違うだけで、身体強化は効果量が変わるんだ。

 僕が通常の身体強化をやってようやく素のコルハ達に並ぶかどうかなんだ。

 みんなが身体強化をしたら、僕は精密身体強化をしなくちゃいけない。


 みんなが精密身体強化が出来ないから、僕にアドバンテージがあるだけ。

 魔力圧縮技術があるから、強引に出力を上げられるだけなんだ。


 ……もう既に裏技を使ってる気分なんだ。これ以上どう魔力を扱っていけば良いのか、僕にも分からないんだよ。


 僕が頭打ちなのに比べて、皆んなにはもっと伸び代がある。鍛えれば伸びる余地がある。

 そんなみんなが僕と同じレベルまで来たのなら、その時僕に勝ち目があるのかどうか……。


 はぁ。……今更気にしても仕方ない、か。


 僕は……僕に出来る事をするんだ。出来る事しか出来ないんだから。それだけやってりゃ良い!


「僕は僕の弱さを知った上で、強くなりに来た。他者を寄せ付けない強さを、圧倒する強さを得て、全てを守れるようになる為に。きっとコルハに超えられる様な強さじゃあないね!」


 そうだ。負けないよ。絶対に負けないよ。僕に魔力や魔法しかないなら、それを極めてしまえば良いだけの話だ。


「僕の力は努力と技術の結晶だよ。これからもどんどん鍛えていく。コルハが身体と魔力を鍛えるなら、僕は魔力だけでそれを上回る程に鍛えよう。魔力無しでは勝てなくても、魔力があれば圧勝出来る様に強くなるよ。だからさ、足掻いて見せてよ、コルハ!」

「はっはは……はっはっはっは!! おうよ、真正面からぶっ潰してやるよ。その喧嘩、高く買うからよ! ずっと喧嘩してくれよ!? そんでいつかお前に俺の喧嘩を買わせてやるからな!」


 やっぱり、僕とコルハはこうでなくっちゃ。

 ずーっとバチバチやり合うんだ。コルハが追い上げてくるから僕もさらに上に行ける。


 これは亀と亀のレースだ。先に兎になった方の負け。手を抜いて楽をした奴が追い落とされるレースなんだ。


「面白そうですね? 僕も混ぜてもらって良いですか? アッシュ君をぶっ潰すんですよね? やってやりましょう!」

「アッシュにはいつか一泡吹かせたいと思ってたんだよね〜。覚悟してよね〜?」


 ゼガンとグロックの声を皮切りに、皆んなに熱が戻り始めた。

 ゼフィア先生とフェーグさんも、追加で軽く指導してくれるみたいだ。



 みんなが盛り上がる中、エレアお姉ちゃんが泣きそうな顔でこっちを見てくるので、ワシャワシャと頭をいっぱい撫でる。

 撫でたら泣いてしまった。


 エレアお姉ちゃんだけは、僕の全てを知っていたからね。

 僕の絶望も非力さも、全部隣で見ていた。傍に居たんだ。


 きっとその全てを僕がこの場で打ち明けざるを得なかった事が悲しかったんだろう。

 でも、僕も誰も止まる事なく、前を向いて進もうとする結果に繋がった事が嬉しかったんだろう。


 優しくて、強くて、綺麗で、僕の事が大好きな、どうしようもないお姉ちゃんだ。

 ……僕も大好きだよ!



 でも一番の問題は、父さんと母さんだ。

 僕が怖かった時の話を始めた時からずっと泣いてる。

 今日は二人を精一杯慰めないといけないだろうな。


 魔力もまだまだ少ないし、今日はもう帰ろう。

 家に帰ったら二人が泣き止むように沢山話をしよう。


 楽しかった事も、怒られて怖かった事も、身体強化の実験で身体を壊した事を父さんのせいにした事も……。


 馬鹿話と笑い話で、悲しい思い出は覆ってしまおう。



 その日の晩は久しぶりに家族四人で一緒に寝た。

 あの日よりもベッドが手狭に感じて、少し懐かしい気持ちと共に、少し嬉しかった。

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