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2.


 コンコンとドアをノックする。


「ニーナです。セドリック様、よろしいでしょうか?」


 声をかけると、ガタっと物が倒れる音がした。

 その後すぐ、慌てたような小さな足音がパタパタと音が続いてドアが勢いよく開いた。


「ニーナ!」


 そう私の名を呼ぶセドリック様は深紅の瞳に水のまくができていて、いまにもこぼれそうになっていた。


「はい。セドリック様。ニーナでございます」


 安心させるように腰を落として、目線を合わせる。


「ご心配おかけして申し訳ありません。ご無事でよかったです」

「なっ、も、あ」


 口をぱくぱくと開くがうまく言葉が出ないようだった。

 当然と言えば当然。つい体が動いてしまったとは言え、自分が原因で人が倒れてしまったなんて7歳の子供には重い話だ。公爵の息子とは言え、子供は子供。よほど心配だったに違いない。


「失礼しますね」


 廊下とドア。外とも室内とも言い難い中途半端な場所にいた私は立ち上がる。

 それからセドリック様の手を引いて、室内に入ってドアを閉める。

 そして、こわばった表情を浮かべるセドリック様と向き合って私は笑った。


「セドリック様、頑張った私を褒めていただけませんか?」


 そう言うと、セドリック様は目を大きく開いて、私の腰に抱きつく。


「ニーナはすごい。僕を助けるなんてすごい。本当に本当にすごい」


 貴族の息子と侍女しては、本当はよろしくない行動ではあるけれど、これに関しては免じてあげてほしい。

 小さいながらもギュッと抱きしめる力は強く、エプロンに顔をぐりぐりと擦りつけながらしゃべるセドリック様は年齢相応の子供だ。

 そう子供なのだ。

 働く大人として、子供は守ってあげたいし、こんな時ぐらい甘えさせてあげたい。


「褒めてくれてありがとうございます。とても嬉しいです」


 よしよしと、頭を撫でる。

 ピクリと頭が反応し、それからおずおずと頭が上がって、顔が見える。

 目元に滴が残っているのが見える。エプロンは湿っていることだろう。


「……ニーナ」

「はい」

「あ、ありがとう」


 人に手伝ってもらったり、なにか困って助けてもらった時、そう言う時、つい「すみません」「ごめんなさい」とつい出てしまう謝罪の言葉より、感謝の言葉「ありがとう」と言う言葉を返してもらうのが、私は嬉しい。と話したことがあった。


「どういたしまして、です」


 たとえ、セドリック様が私の話を覚えていなかったとしても、そのたった一言で、私の心は、ぽっと焚き火のように暖かくなった。


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