1.お仕事再開
「ニーナ、もう起きて大丈夫なの?」
「メアリー。おはよう」
自室から出て、廊下を歩いていると同僚のメアリーが心配そうに声をかけてきた。
「おはようって……もうお昼だけど?」
メアリーのじどっとした目は「その”変なクセ”はやめなさい。だから”変わり者のニーナ”と呼ばれるのよ」と語っている。
変なクセというのは、どんな時間帯でも自分より早く働いている人に「おはよう」と、つい私が挨拶してしまうことだ。幼い頃から言っていたので、染み付いているこのクセ、ここ最近は注意して出ないようになっていたけれど、休みボケかもしれない。
だけど私は気づかないフリをして、会話を続ける。
なぜなら、メアリーは家令と同じくらい説教が長いからだ。
「そうだった! 朝はありがとう。助かったわ」
「はぁ。体調が万全でないなら、もう1日ぐらいしっかり休めばいいじゃない」
「ごめんごめん。朝ゆっくりさせてもらったから大丈夫」
実のところ、しっかり療養させてもらったため、朝はただ単に寝坊してしまったのだ。
メアリーが叩くドアの音で目を覚ましたこと、口が裂けても言えない。
「心配してくれてありがとう」
それでも準備が多い朝に声をかけるなんて、軽い気持ちでできることじゃない。
「ばっ! べ、別に、無理して倒れでもしたらノルマン家では侍女の扱いが悪いと風評されてしまうからよ!」
メアリーの顔が真っ赤になった。
新人メイドたちはメアリーのことを厳しくて怖いという子もいるけれど、ただ単に素直になれないだけで、その実、心配してあえて厳しく言っているのだ。
「メアリーは本当にツンデレよね」
「ニーナ! またその変な言葉を使って! ほかの子が覚えてしまうでしょ」
いままで、なんとなく頭に浮かんだ言葉で使っていたけれど、もしかしたらこの”ツンデレ”という言葉はもしかしたら乙女ゲームの言葉だったのかもしれない。
こうして考えてみると、他の人が使っているところを見たことがない。
でも、メアリーは普段ツンツンと冷たくしているけど、時々こんな風に照れて、デレっとその冷たさが溶ける時があるので”ツンデレ”は本当にぴったりな言葉だと思う。
「その、ゆるんだ顔をやめない。と、とにかく体調が良くなったのならいいのよ」
ふんっと顔を逸らしたメアリー。
「それに何より一番心配していたのはセドリック様よ。早くその変わらず元気な姿を見せて安心させてあげなさい」
真面目で優秀、いつもの澄まし顔になったメアリは、そう口早に言い切ると、用件は終わったとばかりに歩き出した。
本当にメアリーはツンデレだ。
この時間、この廊下は用事がなければ通らない位置になる。
仕事場に戻るであろうメアリーの去り際、その頬がまだ赤かったのを私は見逃さなかった。
私は思わず、ふふっと笑みが溢してしまった。
静かな廊下なため、その溢してしまった笑い声を拾ってしまったらしいメアリーが振り向く気配がした。
私はスッと姿勢を正して、セドリック様の部屋に向かう。
セドリック様にお話しするネタができたとほくそ笑みながら。




