070 めい探偵ホープの事件簿 そのろく!
◇
冒険者たちを広間に集め、ホープは会議に入った。
住人たちは食堂で待たせ、マリオに側についてもらっている状態だ。
「これにボク独自に調べ上げたものと、先程の聴取で得た情報を記してある。みんなも目を通してくれ。それぞれが集めた情報と合わせ、補足や気になった点があれば発言をして欲しい」
ホープは情報をまとめたメモをメンバーに配り、口を開いた。
メンバー全員がホープのメモを読み終えたところで、ミラが手を挙げる。
「順番的に私からかな。私はほとんどゴードンさんの側にいたけど、今夜の行動はホープのメモで合ってるわ。日によってお酒の量なんて変わるし、怪盗が来るとなれば、お酒でも飲んで気を紛らわせようとしてたのかもね。久しぶりに友人に会ったら嬉しいものだし、親友なら尚更よ。ブロッコリーだって、大人になるにつれて昔は嫌いだった物が食べられるようになるなんてよくある話だわ。……まあ、宝石を諦めるってのが気になるけど、保険に入ってるから、盗られてもいいって思ったんじゃない? 個人的な意見としては、ゴードンさんが怪盗と入れ替わったとは思えないかな」
「それじゃあ、次は私ね。私もライザの側にいたけれど、ホープのメモに間違いはないわ。ライザが隠したのなら私も詳しくは言わないけれど、夕食前に泣いたのは本当よ。夕食の時に跡が残っていたのが本人だという証拠だし、夕食後は私が片時も離れず常に気を配っていたから、怪盗が入れ替わるチャンスはなかった。……私はライザが怪盗ではないと断言するわ」
「レベッカも怪盗じゃない。行動はホープのメモの通り。レベッカが寝る時に側を離れたけど……メリーがいたから怪盗と入れ替わってたら気づくはず。今夜体調が良かったのもホント。ずっと笑って楽しそうだった」
「アタシもセバスチャンは怪盗じゃない……と思う。ああ、今夜の行動はホープのメモで間違いないよ。このメモの――どれも気のせいだったってのが気になるけど、気のせいくらい誰にでもあるしな」
「メリーさんの行動もホープさんのメモ通りです。今夜の行動や、先程聴取に立ち会った時の発言からしても、メリーさんは怪盗ではありません。私が保証します。故に、レベッカさんも怪盗ではありません。メリーさんもレベッカさんが入れ替わっていた場合、絶対に気づく自信があると言っていましたしね」
「最後はワシじゃな。ハリーの行動もメモに嘘偽りはない。ワシも一緒に酒を――おっと、ワシが見張っておったから間違いない。ブロッコリーが嫌いなのはたまたまじゃろ。ハリーは怪盗某ではない」
揃いも揃ってほとんどの時間を誰か一人についていたとは予想外だが、人数的にちょうど良いと思ったのかもしれない。冒険者たちがそれぞれの担当した住人の弁護をしたところで、ホープは問い方を変える。
「では、次に移ろう。……君たちは、誰が怪しいと見ている? 今と同じ順で答えてくれ」
先程は皆が皆、自分が見ていた住人が怪盗ではないと言ったが、今度は逆に、誰が怪しいと思っているかを聞いて回ることにした。
「んー、ライザさん……かな? 盗んだ方法はわからないけど、ライザさんしかいないと思う。アルマリーゼはずっと見てたって言ったけど、ライザさんならゴードンさんに捜査打ち切りの助言をできる唯一の人だしね。ちょっとくらい目を離した時だってあるでしょ?」
「ないわ。言ったでしょう? 片時も離れなかった、と。トイレに行くのだってついて行ったわ。個室の前までね!」
ミラの発言にいち早くアルマリーゼが反論したが、他のメンバーは若干引いている。
「……マジ? あんた、ちょっとはライザさんの迷惑も考えなさいよ」
「そのおかげで怪盗ではないと私が証言するのだから、ライザも文句は言わないわ。私に言わせれば、怪しいのはゴードンよ。盗難保険に入っていたならお金は入ってくるって建前が使えるし……昔はブロッコリーが嫌いだった? 怪盗が嫌いな物を知られているとわかっていれば、人前では無理をしてでも食べるでしょうね」
「はぁー!? ありえないし! 私が――」
「待て待て! 言い争いをしろと言っているのではない。自分の怪しいと思う人物をあげてくれと言ったんだ。隣の食堂には住人が集まっている。あまり大きな声は出さないでくれ。夜も遅い」
二人が言い争いになりかけたところでホープが割って入った。誰が聞いているともわからないのだ。住人の耳に入れたくない話も出るかもしれない。
「……わかったわよ。アルマリーゼはゴードンさんね。じゃあ、次はサーシャ」
「ん。私は……セバスチャン。この館に一番詳しいだろうし、隠し扉とかある……かも。怪盗がセバスチャンを捕まえれば、聞き出すことができるはず」
「アタシは……んんー、わかんねぇ。話を聞いてたら、全員が余計怪しく見えてきちまった。でも、あえて言うなら……レベッカかな? 宝石があった部屋とも近いし、盗まれたのがわかった二十三時から零時の間で自由に動けたのはレベッカだけだと思う」
「ふふっ、皆さんわかっていませんね」
セラフが自分の順番になったところで手を口に当て、笑う。
「皆さん前提からして間違っています」
「と、言うと?」
「宝石部屋はマリオさんが守っているんですよ? よって、マリオさんが犯人の一味であることを前提にすれば、怪盗はハリーさんです」
「……ん? マリオが怪盗の共犯って言いたいのはわかったけど。なんでハリーが出てくる? マリオがそのまま怪盗じゃダメ?」
セラフは自信を持って言ったようだが、サーシャの疑問もわかる。
全員がセラフに注目したのを確認したのか、セラフがまた口を開く。
「忘れたのですか? マリオさんは元Bランクの冒険者です。ホープさんが言っていたように、傷一つ負わせずに通り抜けることは不可能でしょう。怪盗が入れ替わるにも、戦闘があれば必ず誰かが気づくはずです。となると、マリオさんは怪盗ではなく、怪盗の仲間。ハリーさんを選んだのは、唯一、仕掛けに登録されていない人物だからです。マリオさんが盗み、ハリーさんに渡してしまえば、登録していないハリーさんが容疑者から外されるのは必然。二階にも行き来したなら、マリオさんから宝石を受け取る時間は余裕でありますしね。心優しいゴードンさんは怪盗と入れ替わっているとは知らず、ハリーさんが盗んだと思い、捜査の打ち切りを言い出したのです」
セラフは立ち上がり、拳を握って力説。ホープ、ルシード、ベルを除いた他のメンバーが感心したように拍手している。
できればセラフの言葉は自分が言いたかったと、ホープは思う。セラフと同じ答えに辿りつけていたわけではないが、これではホープの順番で目立てなくなってしまうではないか。正直言って羨ましい。
「ふむ。筋は通っておるように思えるが、ハリーは怪盗ではない」
セラフが勝利を確信したように頷いたところへ、幼女が口を挟んだ。
「……賢者様はハリーさんを弁護されていましたね。根拠をお聞きしましょう」
ホープはセラフが賢者と呼んだところに疑問を覚える。そういえば、ゴードンの聴取の時にもミラが賢者という単語を出していたような気がする、と。
だが、サーシャはルシードのことを神様と呼んでいたのだ。新しい遊びか……あだ名だろう。まあ、気にすることでもないと無視することにした。
「うむ。ホープのメモにもあったな……トランクケースの中身だ」
「確か……お酒が入っているんでしたね。最初はゴードンさんとの思い出の品が入っていると答えたようですが……それが?」
セラフがホープのメモへ目を落とし、トランクケースの件について確認後、幼女へと顔を戻した。
「クハハ、それは示し合わせたのじゃ! ハリーは最初、確かに子どものころの品が入っていると言うておった! その時にルシードに言われ、ハリーと二人きりになったところで誰にも聞こえぬよう、ワシがトランクケースの中身に触れたら、中身は酒じゃと言うようにし仕向けたんじゃ! 夕食前と夕食後……事件が発覚した今になってもハリーは中身を酒じゃと言いおった。よって、ハリーは怪盗ではない!」
幼女の発言に、ホープは慌ててルシードに声をかける。
「お、おい、本当か!? ボクは聞いていないぞ!?」
「……ああ、本当だよ。こういうのは知ってる人が少ないほど良いと思って、ホープにも黙っていたんだ。誰が聞いてるとも限らないからね」
ルシードの言葉にホープは一瞬固まり、椅子にドサッと倒れこむようにして座ったセラフのおかげで我に返る。
ホープは内心で不満を感じつつも、自分を謀ったルシードを責めるような真似はしない。名探偵であり――現在の相棒と言っても過言ではないホープに黙っていたのは許せないが、敵を欺くにはまず味方からとも言う。今回は見逃してやることにしたのだ。
「で、では、賢者様は誰が怪しいとお考えですか?」
「そうじゃのう……セラフには悪いが、メイドのメリーじゃな。ワシが気になったのは、ここ……皿を割ったというところじゃ。夕食後、皿を洗っていた時は手馴れたものじゃったんじゃろ? それをマリオのところへ皿を回収したのち、割った。おそらく入れ替わったのはこのあたりじゃな。ホープが二十一時に宝石を確認しとるようじゃから……二十一時以降じゃろう。正体を隠そうと厨房に戻り、皿を洗ったまではよかったが、手が滑り割ってしまったといったところか。マリオが共犯というのは否定せんよ。おおかた食器を運ぶワゴンに入れて厨房に戻ったんじゃな。……これで決まりじゃ!」
今度はベルが椅子の上に立ち、拳を突き上げて宣言、ホープ、ルシード、セラフを除いたメンバーが拍手した。
ルシードとセラフはメリーの話を聞いた手前、素直に拍手に加わる気にもなれないのだろう。セラフに至っては反論できない悔しさから、歯を食いしばっている。
となればホープの出番だ。ホープは立ち上がり、ニヤリと笑う。
「残念だが幼女……君の話にも穴はある」
「……ほう? ワシを幼女呼ばわりできるほどには、面白い話が聞けるんじゃろうな?」
「も、もちろんだ」
幼女に睨まれ、ホープはどもってしまった。
この幼女……稀に常人にはない凄味を出す時があって怖い、とホープは秘かに震える。
そもそもBランクとAランクに壁があると言うが、AランクとSランクでは絶対に超えられない壁があるのだ。Sランクは人外、つまり人では到底到達できないとされた者にのみ与えられる称号。その力はあまりにもかけ離れているため、ギルド諜報部ではSランクにリミッターをつける必要があるのではないかと議題に上がっているほどで、事実上はAランクが最高位とされているのである。
視線だけで自分を脅すとは、幼女も伊達にSランクというわけではなさそうだ、とホープは気を引き締めなおす。
しかしそれも、天井を見上げ、自然と幼女から目を逸らして今の心境を悟られないようにしたのでは、意味がなかったかもしれない。
「ボクのメモにあっただろう? メリー嬢はレベッカ嬢が誰かと入れ替わっていた場合、必ず気づける自信がある……と。逆に言えば、レベッカ嬢もメリー嬢が誰かと入れ替わっていたとすれば、気づくとは思わないか?」
「そ、そうです! メリーさんが気づくように、レベッカさんだって気づくはずです! 二人の絆は、たとえ怪盗でも誤魔化せるものではありません! どうですか賢者様!? ホープさんの言葉を覆せる確かな証拠がありますか!?」
セラフは再び勢いよく立ち上がり、ホープの言葉に賛同するとともにベルに向かって勝ち誇った笑みを見せた。
「……むぅ、それは盲点じゃったな。セラフの言うように、二人の信頼が確かなものならば気づくやもしれん」
「ふふふ、これで話は振り出しに戻りましたね」
セラフはベルに向けていた視線をホープに向け、拳をぐっと突きつけてくるが、なんだろうか……ホープが言ったはずなのにセラフが一番勝ち誇って見えるのは……。
ホープは納得いかないものがあるが、反論するわけにもいかない。
「……そうだな」
「それで、ホープさんは誰が怪しいとお考えですか? そろそろホープさんのお答えをお聞かせください」
「えっ?」
「……え?」
ホープは考えを聞かれ、思考が止まる。誰が怪しいかなど、まったく考えていなかったのだ。
セラフにもベルにも良いところを取られ、正直なところ手がない。全員の意見を聞いてからゆっくりと吟味し、誰にすれば名探偵っぽく見えるだろうかと考えるようにしていたことからも、今聞かれてはとても困る。
「……ホープさん?」
「あ、ああ、聞こえている。ボクの考えを言う前に……一つ言い忘れていたことがあってな」
「言い忘れ? なんでしょうか?」
ここは話題を変えて話を濁そうとホープは考えた。別のことに意識を向けさせていれば、その間に何か良いアイディアが浮かぶかもしれない、と。
「先程、セラフはマリオ氏が怪盗ディセプションの仲間だということが前提だと言ったが……それは間違いだ。怪盗ディセプションに仲間はいない。常に一人で犯行に及び、例外はない。故に、共犯というのはありえない」
今までも怪盗ディセプションは一人で犯行に及んできた。今回に限って仲間を作るなどありえないのだ。
「は? それっておかしくない? ならどうやってマリオさんの目を盗んで部屋に入ったっていうのよ」
「そうだぜ、部屋の仕掛けだってある。アタシが部屋に入った時は動作してたし、登録者じゃないと部屋には入れないだろ?」
「ホープの言葉が本当なら、まずはどうやって宝石を盗んだかという問題を解くのが先ね。方法によっては誰が怪盗か、特定できるかもしれないわ」
ホープは上手く自分から話を逸らすことができたようだと内心で笑い、次の手を考える。
「難しい問題ですね……ホープさんはどうやって盗んだとお考えですか?」
宝石を盗んだ方法に話題が集中したところで、皆があっと驚く話をどう切り出そうかと考えようとしていたホープに、セラフはまたしてもホープの意見が聞きたいと言う。
流石に二度も話題を変えては不審に思われてしまう。ここは取っておきの方法でみんなの度肝を抜こうではないかと、ホープは腰掛けていた椅子から立ち上がる。
「ふっ、仕方がない、とっておきの面白いアイディアを聞かせてやろう。そうだな……宝石部屋にはドアと床に電気の仕掛けがあった。ならば、手は二つ――いや、三つだな。それは……」
ホープはあえて言葉を溜め、みんなの注目が集まるのを待ってからセラフへと視線を送る。
「そ、それは?」
ホープの狙い通り、セラフが続きを促してきたことに満足し、口を開く。
「一つは……床だ。床を破壊し、一階から宝石を奪ったのだ! そうすればドアから部屋へ入る必要もなく、宝石を手に入れることができる! 床の仕掛けも、床を破壊することで回避可能だ!」
ホープの声に、みんな驚きで声も出ないのか固まっている。それを見たホープはここぞとばかりに二つ目の手を教えるべく口を開く。
「二つ目は……天井だ! 天井をくり貫き、屋根裏から紐で宝石を奪ったのだ! 床を破壊するより簡単かもしれないな」
ルシードには受けなかったアイディアだが、他のメンバーは面白いと思うに違いないと、ホープは話す。
更にはここで最後の取っておき――三つ目のアイディアで度肝を抜くことにする。
セラフでもベルでもない。ホープこそが今夜の主役なのだ。一番目立つ必要がある。
「そして三つ目は――」
「いえ、もう結構です。ホープさんが迷探偵ということを思い出しました。……私としたことがすっかりそのことを忘れ、愚かにもに尋ねてしまうとは……皆さん申し訳ありません」
ホープが三つ目を教えようとしたその時、セラフがホープを遮るようにして口を開いたせいで出鼻を挫かれてしまう。
どういう意味だろうか……名探偵に聞いて愚かだとはおかしな話だ。名探偵に答えを聞くのではなく、自分で答えを導き出さねば意味はないと悟ったのだろうか……いや、きっとそうに違いないと、ホープは一人納得する。
「いいのよ、セラフ。私も忘れていたわ。どうせ三つ目のアイディアとやらも、壁を壊してとか言うつもりだったんでしょう」
そこへセラフの隣に座っていたアルマリーゼがセラフを慰めるようにして肩を抱きながら言うが、失礼なやつだ。
「待て待て、早まるんじゃない。壁を壊しても横からでは部屋の中央に置かれた宝石を回収するのは至難の業ではないか。ボクでなくても、それは無理だということくらいわかる」
「……それじゃあ、聞くわ。あなたの考える三つ目の方法は何?」
少々邪魔が入ったが、逆にホープへの感心が高まったのは間違いない。今度こそ三つ目の方法を述べるべく、ホープはニヤリと笑う。
「ふっ、聞いて驚け! 三つ目の方法。それは……催眠術だ! 怪盗ディセプションはマリオ氏に催眠術をかけて宝石を取りに行かせ、部屋どころかドアにさえも触れることなく宝石を盗み出したのだ!」
ホープは言い放って目を瞑る。
ここでホープを称えるように喝采が起こるはずだ。
だが、ホープの期待とは裏腹に、待てど暮らせど喝采は起こらない。
不審に思い、目を開けたホープへ、アルマリーゼが訝しげな目を向けながら口を開く。
「……どう思う?」
「ないな」
「ないわね」
「ここにきて催眠術はないじゃろ」
「所詮は迷探偵。常人の考えが及ばない域にある」
「当然です。推理物において、催眠術は禁じ手と言っても過言ではありません。きっと思いもよらぬ方法を取ったはずです」
喝采が起こるどころか、問いかけたアルマリーゼとルシードを除いたメンバーは、ホープの案にダメだしをしてくる始末。
「……そうよね」
それを聞いたアルマリーゼも、ホープから目を離して言う。
これにはホープも愕然とするしかない。
ホープなりに一生懸命考えたのだが……やはり怪盗と名のつく者の手ではないのだろうか。更には禁じ手とまで言われて、ホープは肩を落とす。
最後に頼みの綱とばかりに、唯一、口を開かなかったルシードへと視線を向けるが、ホープはルシードにさえもそっと視線を外されてしまった。
どうやら虎の子の三つ目の案もお気に召さなかったようだ。
「流石に床はないだろ。アタシが部屋に入った時にはちゃんと電気の仕掛けが動いてたし、壊せば仕掛けも壊れるだろ? 宝石部屋の下はゴードンの執務室だ。鍵だってかかってるだろうし……いや、泥棒なら鍵くらい開けるかもしれねぇけど、床を壊せば音が出る。ドアの前にいるマリオに一発で気づかれるぜ」
「天井もないでしょ。部屋の中央の天井も変わりなかったし、屋根裏に入れば埃だらけよ。埃は簡単に落とせないし、匂いでわかるわ。当然、壁もないわね。貴重品を置くためだけに設計されたのかバルコニーはないし、そもそも窓がない。横からの線はなしね」
頼んでもいないというのに、最初の二案にまでダメだしをされてしまい、ホープは力なく椅子へと腰を落とす。
ルシードのみならず、他のメンバーにも受けなかったようである。
ホープも流石に最初の二つは怪盗の使う手ではないと封印しようとしていたのだが、話を振られては、面白いことを言えとの前振りだと思ったのが間違いだったようだ。
◇
ホープが広間に設置された時計を見ると、すでに深夜二時に差しかかろうとしていた。
今も話は続いているが、ホープに口を挟む気力はなく、耳だけを傾ける。
ホープは先程の一件で不貞腐れ、早く終わらないかな、と思うばかりだ。
「――でも、マリオさんが怪盗の共犯じゃないとしたら、ハリーさんは除外してもいいんでしょうか?」
「うむ。ハリーは怪盗ではない。ワシが言うのじゃ、間違いはない。ホープのメモ通り、クッキーをくれる良い人じゃ。なかなかの美味じゃった」
セラフの声にベルが同意したその時、
――くぅ。
と、小さな音が鳴った。ホープを含めた全員がなんの音かと音の出所を探すが、誰も見つけられなかったことに、ホープは胸をなでおろす。
音は――ホープのお腹が小さく鳴ったのだ。夕食を抜き、もらったクッキーも食べていないホープは、幼女がクッキーの話題を出したせいで、空腹なのを思い出してしまったというわけである。
ともあれ、犯人はホープだ。
ホープはもう一度メンバー全員を見渡すが、自分も一緒に探す振りをしたことで上手く誤魔化せたと確信する。
このまま最後まで隠し通してみせる。
ホープは誰にも見えないようにお腹をさすり、そう決意した。
「……今の音は、誰かの椅子が軋みでもしたかな? まあ、たいしたことではないようだ。それよりも話を戻そう」
時間も時間だ。そろそろ終わりにしなければならない。ホープは最後くらいは自分が主導権を握ろうと思い、メンバーへと声を掛ける。
「夜も遅い。これ以上、長く住人を待たせるのも気が引ける。そろそろ結論を出したいところだが……ルシード、君にはまだ聞いていなかったな。君は誰が怪しいと見ている?」
会議が始まってからというもの、ルシードは一度も意見を述べていない。
ホープは最後にルシードの答えを聞こうと、隣に座るルシードに問いかけた――。




