064 めい探偵ホープの事件簿 そのいち!
四章長くない? と思われているであろう中、唐突に番外編に突入です。
推理する必要はまったくありません。流し読みするだけでも犯人がわかると思われます。
少しの間だけ、お付き合いください。
◇
今日もまた、名探偵ことホープの物語が始まる。
他のメンバーはそれぞれ住人のところへと向かい、ここにはホープと一人の男――ルシードと名乗った男の二人が残った。
ホープは自分の顔をチラチラと見てくるルシードを不審に思うが、おおよそ名探偵でもある自分に惚れ込んだのだろうと頭を振る。
そこでホープは先程までここにいたメンバーを思い返す。
出会った冒険者たちの数は七人。大人数でパーティを組むのはランクの低い者同士ではよくあることだ。しかし、今回の依頼はAランクであり、彼女たちはB、一人の幼女に至ってはSランクだと言う。だが、変な集団ではあるが、悪いやつらでもなさそうだ。
最初に自分を犯人呼ばわりしたSランク幼女だけは要注意だが……。
しかし、ホープも驚いてばかりもいられない。今日は久々に高揚している。
さて、今夜の事件はどんな展開を見せてくれるのか……非常に楽しみである。
「では、我々も行こう」
「待ってくれ、ホープ」
いつまでも思索に耽っている場合ではないとホープは移動しようとしたが、ルシードに呼び止められ、広間の入り口へと向けていた足を止める。
「なんだ? 時間が惜しい、手短に話してくれ」
まさか、犯人がわかったら教えてくれ、などと言うつもりではないだろうか。そうだった場合、厳しく指導してやる必要がある。
「このあとの話なんだけど……よければ一緒に行動してもいいか? ホープと一緒にいたいんだ」
思惑とは違う言葉が出てきたことにより、ホープは戸惑う。
――この男、まさか……いや、まさかな……。
ホープは頭をよぎった考えを振り払う。
「……ルシード、君がボクの魅力に惹かれる気持ちはわかるが――」
「い、いや、そうじゃなくて……探偵の仕事を間近で勉強したいと思ってさ」
やはりホープの勘違いだったのかもしれない。
しかし、ホープは冗談で言ったつもりだったが、ルシードの態度はなんとも怪しい。まさか本当にホープに気があるのではないだろうか。
「ふむ、いいだろう、ついてきたまえ。ただし、トイレの中にまでついて来るとは言うなよ?」
とはいえ、ホープも悪い気はしない。
それに何より、ルシードが自分の仕事を見たところで、自分の考えに思い至るはずもないのだ。ホープは問題はないと判断し、受け入れた。
「それはもちろんわかっている。それじゃあ、お言葉に甘えてご一緒させてもらうけど、その前に二つ聞いておきたいんだ」
許可を出した途端に質問とは、ホープが気を許したとでも思ったのかもしれない。ホープはあまりつけあがらせるのも面白くないと考える。内容によっては主従関係をはっきりしておかねばならないだろう。
「時間が惜しいと言った。聞きたいことがあるなら早くしろ」
「それじゃあ、一つ目だけど……すでに怪盗が変装して館内にいるってことはないかな? それだと、これから話を聞きに行っても、相手が怪盗の変装した人物だった場合、誤魔化されてしまっても気づけない。住人の協力が得られればいいけど、協力してもらった人物が怪盗だった場合はどうしようもないってことだ」
ホープはルシードが意外と考えていることに感心し、答えることにする。
「それはありえないな。怪盗ディセプションは変装していない。それに、怪盗ディセプションは予告状に夜と記した。それならば、怪盗ディセプションはその時間まで決して住人には手を出さない。今までの経験からしても、何かあるとすれば夜……そうだな、夕食以後と断言しよう。これから話を聞く分には、ここの住人ということだ。これから会いに行くのは住人の人となりを知るためだ。ただの世間話でもいい。そして、君たちの仕事は夕食前と夕食以後で様子の違う人物を見つけ出す、といったところか……」
「……なるほど。変装しているとなると夕飯時から紛れ込んでいる可能性があるってことだな。それじゃあ、変装はしていなくても、すでに潜入している可能性は?」
「……それはある。怪盗ディセプションは情報を集めることを重視している。館のどこかに潜み、情報を集めている可能性は高い」
「そうか……なら、二つ目の質問。宝石が置かれている部屋の仕掛けは怪盗の想定内だったのかな? ゴードンさんは今回のために導入したと言っていたし、認証しないと入れない扉は、怪盗にとっても想定外だったのでは?」
今度の質問も着眼点がいい。ホープは答える。
「そうだな。確かに今回のためだけに導入されたのであれば、怪盗ディセプションも知らない情報だっただろうな。しかし、ボクに言わせれば、あのドアには抜け穴がある」
「……それは?」
「ドアがダメなら天井、もしくは床を壊して――」
ホープがまだ喋っている途中にもかかわらず、ルシードは馬鹿にしたような表情でホープを見る。
「……なんだその目は! 何か言いたげだな!」
「いや、別に……」
おかしい。ホープは面白いアイディアだと思ったのだが、ルシードには受けなかったということか。最初だから少し笑いを取り入れておこうとホープは楽しませるつもりで口にしたのだが、どうにもお気に召さなかったようである。
しかし、それも当然か。ルシードがホープの考えに及ぶはずも……いや、そもそも『怪盗』を名乗る者が使う手ではなかったかもしれない。ドアのトラップさえも華麗に突破してこその怪盗だ。今度は冗談で言うにしても、怪盗でも使える冗談を用意しておいた方がいいかもしれないと、ホープは思う。
「ふん。もう質問はないな? おかげで余計な時間を使ってしまった。行くぞ」
「ああ、ありがとう。それじゃあ、行こう」
ルシードはホープのうしろについて歩いてくるが、ホープの一挙手一投足にも注意して見ている感じだ。ホープの動作から探偵を学ぼうとしているのだろう。だが、ルシードがホープを見習いたい気持ちはわかるが、形から入ろうとするとは馬鹿な男だ。先程意外と頭が回ると思ったのも、ホープの勘違いだったに違いない。
形から入るというのなら、ボクのように吸いもしないパイプなど……と、ホープが考え込んでいるうちに警備員マリオのところへ到着したようだ。ホープは話を聞こうと口を開く。
「マリオ氏、何か変わったことはないかな?」
「いいや、さっきあんたらが帰ってから誰も来てないよ。宝石もちゃんとある」
「そうか。では、一つ聞きたいのだが、先程のゴードン氏の話では、あなたは元Bランクの冒険者という話だった。冒険者を辞めたとはいえ、警備の仕事に就くくらいだ。腕には自信があるということかな?」
「ああ、今年で三十五になるが、この館に勤めて十年、どんな泥棒も撃退してきた。Aランクになれるようなやつらはみんな、もっと大きな街や、魔大陸に行くからな。実質この街じゃBランクが最高と言ってもいい。そんじゃそこらのやつに負ける気はしないな」
「怪盗ディセプションがAランク以上の実力を持っている可能性はないのですか?」
「ふむ、いい質問だ。それにはボクが答えよう」
ルシードの疑問も当然だ。マリオがこの街の実力者だとはいえ、他の街からAランクがやってこないとも限らない。実際、ホープは怪盗ディセプションがAランクの実力を持っていることを知っている。だが――
「怪盗ディセプションは力で奪うことを好まない人間だ。力よりも相手との知恵比べを楽しんでいる。だからこそ、予告状を出し、犯行に及ぶのだ」
怪盗ディセプションは力押しを良しとはしない。ルシードの質問は聞くだけ無駄ということだ。
「なるほど……力で押し切るのは最後の手段にでもしているのかな……」
ルシードはホープの言った意味がわかっているのだろうか。せっかくホープ自らが解説してやったというのに……なんとも頼りない。
まあ、いいだろう。ホープは他を回るためにも時間が惜しい。
「では、もう一つだけ質問を。……宝石の確認は一時間ごとと言っていたが、例外はあるのかな? たとえば……家族が見たいと言ってきた時などは?」
「いや、今日に限ってはありえないな。いつもは館中を歩き回って警備しているが、今日はこの部屋だけを守るよう言われている。たとえ家族の誰かが中を見たいと言っても、見せてはいけないと仰せつかっている。そうだな……もしも、国王様が来たって見せはしないさ」
「ふむ。そうか、ありがとう。良い情報を聞けた。では、これで失礼する」
マリオならば問題はない。ホープはそう結論づける。
「また何かあったら来てくれ。俺も一人で退屈してる。ここからは動けないが、話相手くらいにはなるよ」
ホープはマリオに別れを告げ、廊下を歩く。次はまだ会っていないハリーの情報も手に入れておきたかった。ホープはハリーの情報を求め、ハリーのいる客室へと向かうことにする。
「次はハリー氏のところへ行こう。彼の情報が欲しい」
「わかった。ついて行くよ」
ホープはルシードを引きつれ、宝石のある部屋とは真逆の位置にある客室へと向かう。
ドアをノックして待つと、ゴードンの古い友人であるハリーが出迎えてくれた。
ホープは開いたドアの隙間から覗き込むも、見える範囲からはたいした情報は得られない。気になることと言えば、部屋の中にいる冒険者組の幼女が椅子に座って何やら食べているくらいだ。それに、ハリーが怪しい物を持っていたとしても、隠しているだろう。
「今度はどなたかな?」
挨拶より先に相手の情報を得ようとするのがホープの悪い癖だ。つい探偵らしさが滲み出てしまったかもしれない。
しかし、これではいけない。ホープは声の主――ハリーに怪しまれないよう向き直る。
「これは失礼した。ボクはホープ……探偵だ。今夜現れる怪盗ディセプションの件で調査をしている。こちらは冒険者のルシード」
「おお、そうでしたか。先程この子からも聞いたところです。どうぞお入りください。私に手伝えることがあれば、手伝いましょう」
ハリーがドアを完全に開き、部屋の全貌が明らかになる。
部屋の中に怪しい物は……あった。ホープは目ざとく、鍵が三つ付いたトランクケースがベッドの下に隠すようにして、布がかけられているのを発見する。更には、幼女が座る椅子の正面、机の上に美味しそうなお菓子があるではないか。幼女が食べていたのは、あのお菓子で間違いないだろう。
ホープは気になるが、ここからではよく見えない。もう少し近くへ行こうと足を進める。
「あれれ? ベッドの下に何かあるよ? 何かなー?」
ホープがお菓子に気を取られたその時、幼女が何やら騒ぎ立て、ベッドの下へと手を伸ばしていた。
ホープはその様子をチラリと見て、これはチャンスだと笑う。ホープの中ではお菓子七、トランクケース三の割合だったが、これでトランクケースの中身がわかりそうだ。
そうとわかればホープも行動しなければいけない。
ホープは幼女の行動を横目に、お菓子の確認を急ぐ。
クッキーだ。しかも、多くの街を回ったホープでさえ、見たことのないクッキー。どこかの名店で買った物だろうか……甘いものが好きなホープは味が気になる。
「ま、待ちなさい。それに触ってはいけない」
ホープはハリーの声で我に返る。自分が注意されたのかとも一瞬思ったが、どうやら違うようだ。ハリーは幼女を止めていた。焦るような声からして、トランクケースにはよほど大事な物が入っているとみえる。このまま幼女が自分の好奇心を抑えられず強行手段に出れば、トランクケースの中身がわかりそうだ。
「こら、ベル。ダメだろ、勝手に人の物に触れたら」
しかし、幼女がベッドの下のトランクケースに触れようとしたところで、ルシードが幼女の首根っこを掴まえてしまった。ルシードめ、余計な真似をするな、とホープは憤る。
だが、この幼女。おおかた子どもながらに好奇心に負けたのだろうが、ホープたちが来た途端に行動に移すとは運がない。
そもそも、ホープたちが来るまで椅子に座っていたということは、トランクケースが丸見えだったはずだが、どうして今になってトランクケースが気になるなどと言い出したのだろうか。
それに、先程ホープと話していた時と性格が変わっている気がする。ホープと話していた時は老人のような言葉遣いだったが、まさか多重人格ではあるまい。
そこでホープは幼女への思考を断ち切り、考える。
どうやってあのクッキーを手に入れたものかが問題だ。ホープ仕事中、何も口にしないようにしている手前、欲しいとは言い出せない。
ホープはどうしたものかとハリーに目をやると、トランクケースを大事そうに抱える姿が目に入る。
そこで、ホープの探偵としての部分に火がついた。クッキーが手に入らないのであれば、せめてあのトランクケースの中身だけでもわかればいいと。
「す、すまない。これはゴードンのやつに見せようと持って来た物なんだ。あまり人に見せられるような物じゃなくてね」
「いえ、悪いのはベルですから、気にしないでください。ほら、ベルも謝って」
悪いのは君だ、ルシード。君がいなければ、今頃トランクケースの中身がわかっていたかもしれないものを……、とホープは思わずにいられない。
「はい、お兄ちゃん。ごめんなさーい」
だがそこで、ホープは信じられない言葉を聞いた。
まさか、この二人……兄妹だったのだ。髪の色から瞳の色まで、まったく似ていないが、腹違いというやつだろうか。
いや、今はそれよりもトランクケースだ。
「はははっ、いいんだ。小さい子のやったことだしね。悪気もない。私の家ではないからたいしたおもてなしもできないが、ゆっくりしていってくれ。ああ、椅子が一つしかないから、君たちはベッドの上にでも腰掛けてくれればいい」
「ありがとうございます」
ベッドということは机から離れてしまう。ホープはやはりクッキーを諦めるしかなさそうだ。
ハリーは抱えたトランクケースを椅子近くの壁際へ、ルシードはベッドに腰掛けた。ホープもルシードの隣に行こうとして――気づいてしまった。
幼女が悪さをしないためだろう。ルシードは幼女を抱えて座っているが、当の幼女はご満悦だ。
まさか、先程トランクケースに触れようとしたのは、この展開を狙ってルシードを待っていたのではないだろうか……。
やはりこの幼女は油断ならない。一見幼女に見えて、なかなかの策士だ。ホープは幼女にいっそうの注意を払うことにする。
「どうかされましたか?」
「い、いや、なんでもない。……それでは少しの間、話を聞かせてくれ」
こんなことで変に怪しまれるわけにもいかない。ホープはそそくさとベッドへと移動、ルシードの隣に座り、質問を開始する。
「それで、ハリー氏はゴードン氏の古い友人と聞いたが、本当かな?」
「はい、あいつとは幼馴染なんです。この街の学園に通っていた時に出会いましてね、この街の富豪の息子だと聞いた時には驚いたもんです。それを鼻にかけることもなく、今でも一般家庭で育った私と仲良くしてくれる、良いやつですよ」
「なるほど。それで、その……トランクケースの中身を見せるために来たと?」
「え、ええ、事前に約束をしていたのですが、まさか怪盗の予告日と被ってしまうとは思ってもみませんでした」
ホープはそれとなくトランクケースの話を出してみたが、ハリーはトランクケースの中身を話すつもりはないようだ。ホープならばベッドの下にあった状態からなら、順序だててトランクケースを開ける方向へと向かえたのだが、こうなってしまっては仕方がない。諦めるしかないだろう。あまり追求すると、煙たがられ、情報を隠されてしまうかもしれないからだ。
「すみません、カバンの中身を聞いてもいいですか? 今夜来るという怪盗ディセプションは変装するらしいのです。カバンの中身が変装道具……という可能性もあるわけでして。中身を見せられないなら、せめてどんな物が入っているかだけでも構いません。あとで同じ質問をした時に、同じ答えを返してもらえるだけでいいんです」
ルシード、やはりこいつは馬鹿に違いない。ホープは探偵だと名乗っているのだ。嘆かわしいことだが、最近の探偵は浮気調査なども頻繁に行っているとホープは聞く。探偵は秘密を暴く者。巷ではそう呼ぶ者も珍しくない。そんな直接的な聞き方をして、ハリーも素直に――
「ああ、そうでしたか。それならば、話さなくてはなりませんな」
答えると言う。
馬鹿な……これはどういうことだ。ホープは信じられないとばかりに、ルシードを見る。
その赤い瞳から、ルシードが何か秘密を喋らせるような魔眼でも使っているのかもしれないと考えたからだ。
だが、ホープがルシードの目を見るも、ルシードの赤い瞳には、魔力が宿っている気配はない。
「これは私とゴードンの子どものころの品なのです。子どものころに書いた本や絵、一緒に遊んだ品など……家の掃除をしている時に出てきましてな。懐かしくなって持ってきたのです。……ですが、子どものころの物とはいえ、流石にこの年でこの中身をお見せするのは恥ずかしく、隠していたというわけです」
「あー、黒歴史ってやつだね。あるよねー若気の至り」
「う、うん。まあ、そんなところだよ。ベルちゃんは難しい言葉を知っているね」
「えへへー」
「そうでしたか、ありがとうございます」
ホープは騙されはしない。ルシードと幼女は信じたようだが、遂にハリーはトランクケースを開けなかったではないか。ホープたちを煙に巻くための嘘だろう。だからこそ、素直に話そうとしたように見せたのだ。……そうに違いない。
「ありがとう、今聞けた話で十分だ。ルシード、次に行くぞ」
夕食まで時間もない。他も回らなければいけないことからもホープはルシードを急かすが、ルシードは何やら幼女に耳打ちをしている。
「うん、わかったー」
次にハリーに向き直ったかと思うと――
「すみません。そこのお菓子、一袋もらってもいいですか? 実は甘いものに目がないもので……」
幼女にお菓子の味を聞いていたのだろう。ホープが狙っていたお菓子を欲しいと言う。
「ん? ああ、構わないよ。家内が多めに作ってくれたもので、土産にと持って来たんだ。先程ベルちゃんには美味しいと言ってもらえたが、君の口にも合えば嬉しい」
「ありがとうございます。では、一袋もらっていきますね」
ルシードだけは絶対に許さない、とホープは心の中で秘かに思う。自分の狙っていた獲物を横から攫って行かれることが許せなかったのだ。
「悪い、待たせたな。それじゃあ、行こう」
「……いや、いい。では、次へ行くぞ」
だが、ホープは今はまだこの怒りを抑えておくことにした。ルシードを叱っていては、他のところを回る時間がなくなってしまう。今ので少々時間を取られすぎた。館の主人ゴードンなら、先程も宝石の部屋を案内してもらう時にも話したことだ。ホープは会う予定から外すことにする。
ホープは次もまだ面識のないレベッカに会いたいところだが、レベッカは事前に入手した情報からも、体が弱いらしいと得ている。サーシャはどうなったかは不明だが、ライザに会って許可をもらった方がいいだろう。レベッカはあと回しだ。
「待ってくれ、ホープ」
ホープが早足で歩を進めたその時、またしてもルシードに呼び止められる。やはりここらで一度、厳しく言っておいた方がいいかもしれない。ホープは口を――
「ルシード、君は――」
「これ、ホープにやるよ」
開きかけたところで、ルシードが何やら手に持った物を突き出してくる。ホープがそれに目をやると――クッキーだ。先程、ルシードがハリーからもらったクッキーがホープの目に前に突き出されていた。
ホープは意味がわからず尋ねる。
「……どういうつもりだ?」
「どうって、欲しかったんじゃないのか? 部屋に入ってからずっとお菓子の方を気にしてたみたいだからさ」
「……な、何? 気づいていたのか?」
ホープは気づかれていたことに動揺する。細心の注意を払ってクッキーの確認を行っていたのだ。気づかれるはずがなかった。
「ああ、ほら、受け取って」
ルシードはクッキーを数個包んだ袋をホープの手に握らせる。
気づかれたことに驚くも、ホープは重大なことに気づいてしまった。
ホープが最初に思った通り、ルシードは――ホープに気があるのだ。
ホープの行動を逐一見ていることもそうだが、プレゼントまで用意するとは抜け目がない。
しかし、ホープは自分で口にするのも恥ずかしいが、今年で十七になり、身長が伸びないことと少年に間違われることが悩みではあるが、なかなかの美形だ。六人の女を連れ歩く男までもを魅了してしまうとは、ホープもつくづく罪深い。
「……こ、これはありがたく受け取っておく。しかし今は仕事中だ。あとでいただくよ」
ホープは冷静なつもりだったが、男からの好意を受け、少し声がどもってしまったようだ。
少し顔が赤くなっているかもしれない顔を、被っている帽子で隠し、クッキーの袋を上着のポケットに仕舞う。
「では、行こう。次はライザ夫人のところだ」
だが、今はルシードよりも大事なことがある。ホープは気を引き締めなおすと、ルシードをうしろに引きつれ、二階の宝石の部屋から近い位置にある夫婦の寝室へ移動した。おそらくここにライザはいるはずだ。ホープはドアをノックして待つ。
少ししてドアが開くと、冒険者の一人、アルマリーゼ……と名乗ったか、黒ずくめに赤い瞳が印象に残る少女が顔を出した。




