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精霊再起の簒奪者  作者: 芹沢歩
第四章
63/154

063 名探偵登場!?

 ◆


 名探偵。その言葉に、ルシードは胸が高鳴る。

 ホープこそが依頼を出した探偵で、更に言えば名探偵なのだ。怪盗に加えて名探偵までやってくるとは、ますます本格的になってきた。

 言われてみれば、ホープの姿はいかにも小説に出て来る探偵の衣装に見える。それに、名前もいい。ホープとは『希望』という意味があったはずだ。これにはホープが怪盗を捕まえる希望に見えると言っても過言ではない。勝負のこともある。ここは一緒に行動して探偵の仕事を勉強を学びつつ、怪盗捕獲に貢献したいと、ルシードは考える。


「犯人は貴様じゃ!」


「な、なんだ、君は!? ボクが誰だか、わかって言っているのか!?」


 ルシードが名探偵に思いを巡らせていると、ベルは何を思ったか、よりにもよって名探偵を犯人呼ばわりするではないか。ルシードは慌てて止めに入る。


「す、すみません、この子ちょっとアホの子なので……」


「こ、これ、ルシード、何をするか。このタイミングで現れたとなれば、犯人しかおらんではないか!」


「いいから、ちょっとこっちに来い」


 そんな理由で名探偵を犯人呼ばわりするとは、まったくもってけしからん。ルシードはベルを抱き上げ、ホープから離れる。


「おい、ホープってあれだろ?」


 ルシードがホープから離れたところで、ルーファが口を開いた。ルーファはホープのことを知っているようだ。


「はい、間違いないかと……」


 セラフも知っている。そのことから、ルシードはホープがかなりの有名な探偵とみる。


「何? 有名人なの?」


「ふん、ワシはそんなやつは知らん」


 アルマリーゼとベルが知らないのは当然だろう。ルシードは無視する。


「有名……って言えば有名かな」


 ミラの言い方に、ルシードは少し気になるものがあるが、やはり名探偵は存在したのだと確信。


「迷う探偵ホープ」


 そう迷探偵……ルシードとアルマリーゼ、ベルが最後に口を開いたサーシャへ、バッと振り向く。


「……今、なんて言った?」


 ルシードは聞きたくない言葉が聞こえた気がしたが、聞かないわけにはいかない。


「迷探偵ホープ。彼の係わった案件は、すべてが迷宮入りしている」


 ルシードは絶望した。本当に存在したのだ……迷探偵は。


「……なるほど、それで今回の依頼にはペナルティがないのかもしれませんね」


 ルシードはセラフが呟いた言葉に、納得してしまいそうな自分が嫌だった。


「これが依頼書だ。ゴードン氏の印もある」


 そうこうしている間にも、執事のセバスチャンとホープの会話は進んでいた。ホープがゴードンから依頼を受け、ルシードたちが受けた助手の依頼書を作成した探偵に間違いなさそうだ。


「迷探偵なのに、なんでか依頼を受け続けてるんだよな」


「私としたことが、依頼の内容に舞い上がって依頼主の名前を確認していなかったようです。どうしてギルドも断らないのか、不思議でならないですね」


「あー、そういや、ここに来る前にちょっとだけ情報を探ってみたんだけど、ホープの名前がよく出てたわ。なんでも怪盗ディセプションの現れるところにホープあり、とか……『怪盗ディセプションはボクの獲物だ』って公言してるそうよ」


「大問題。嫌な予感しかしない」


「ふふっ、甘いわね。名探偵ならここにいるわ」


「うむ。ワシのことだな」


 ルシードは身内二名から嫌な予感しかしない。


「では皆様、どうぞこちらへ。お部屋へ案内いたします」


 どうやらセバスチャンとホープの話も終わったようで、部屋へと案内してくれるようだ。

 ルシードたちはセバスチャンのあとにつき、館の中に入る。


 ◆


「この部屋でお待ちください。ただいま旦那様をお呼びしてまいります。メリーさん、お客様にお飲み物をお願いします」


「はい、かしこまりました」


 ルシードたちは一階の広間に案内され、椅子に腰掛けると、メイド――メリーが飲み物を用意してくれる。


 ルシードの隣の席では、アルマリーゼとセラフが『メイドが怪しいわ。きっと双子よ』『はい、私もそう思っていたところです』などと話している。あの小説を読んだ直後だからか、小説の犯人だったメイドが怪しいと見ているようだ。

 そこで、ホープが注目を集めるように立ち上がる。


「君たちがボクの依頼を受けた冒険者だな。知っていると思うが、ボクはホープ。名探偵だ。君たちの自己紹介も聞いておきたいところだが、まもなくゴードン氏が来る。話はゴードン氏から説明を受けたあとにしよう」


 やはりホープが今回の依頼主で間違いはないようだ。

 ルシードは館の主人が来るまでの時間つぶしにと辞書を取り出し、さっそくディセプションの意味を調べる。すると『騙す』『まやかす』『欺く』といった感じの言葉が出てきた。ルシードが最初に思った内容と間違いはない。間違いはないが……ルシードはとんでもないミスを犯してしまったかもしれない。


 チラリ、とルシードが視線を向ける先では、ベルとホープが何やら会話しているようだった。先程犯人呼ばわりしていた癖に、もう仲良くなっているようである。

 ルシードはついでに、と『誑かす』の意味も調べた。ベルと話していた時に、ベルが大笑いしたのを思い出したからだ。

 だが、『誑かす』の意味では、ルシードの言いたかったことと少し違ってしまう。ルシードが言いたかったのは『丸め込む』の方だった。『誑かす』では、まるでルシードが嘘と誤魔化しで騙しているようではないか。これではルシードが善人ぶった悪人ということになる……いや、まさかベルはルシードが女性を誑かすなどといった意味と取ったのではないだろうか。どちらにしても不名誉なことに変わりない。

 ルシードは訂正すべきかとも思ったが、相手に自分の思い通り行動させようとしている時点で、誑かすでも合っているのかもしれないと、訂正しないことにした。

 しかし、この点でいうと過去にも間違った使い方をしていた可能性も出て来る。だが、ルシードにできることは、自身が知らないうちに変な失言をしていないことを祈るのみであった。


 ともあれ、気にしていても仕方がない。今はそのことよりも、このあとのことをどうするかがルシードには問題だ。いったい、どうしたものかと考える。


「お待たせしてすみませんな。私がこの館の主人のゴードンです。こちらは妻のライザ」


「皆様、ようこそおいでくださいました。今夜はよろしくお願いいたします」


 ルシードが怪盗のことを考えていたところへ扉が開き、この館の主人――ゴードン、それに続いて奥方――ライザが待合室へとやって来た。ルシードの隣から聞こえる『最初に殺される夫人よ』『その次に、殺される予定になかった友人の方ですが、どこにいるのでしょうか……』『犯行を見てしまったせいで殺されてしまうハリーのことね』の声に、ルシードは突っ込むべきか真剣に悩む。今回は殺人ではなく、探偵の助手として怪盗を捕まえることが目的なのだが……彼女たちは本当にわかっているのか心配だ。


 ゴードンが名乗りを終え、次にルシードたちも座っていた椅子から立ち上がり、それぞれ名乗りを終えると、次に宝石が置いてある部屋へ案内してもらう流れになる。


「ここが夜明けの太陽の置かれている部屋です。扉の前に立っているのが警備員のマリオ。うちで住み込みで雇って十年になる、元はBランクの冒険者です。彼には今日一日、この扉の前を守ってもらい、一時間ごとに扉を開けて宝石の所在を確認する役目でもあります」


 ルシードたちが案内されたのは、宝石が置かれているという、二階の一番奥にある部屋だった。扉の前に立つ警備員――マリオが被っていた帽子を取り、笑顔で会釈してくれるので、ルシードたちもそれに会釈で返す。


「あとはここにいない私の古い友人であるハリーと、娘のレベッカがここと同じく二階におります。それで今夜は全員です」


 ゴードンの口から出た名前に、ルシードはドキリとする。本当にいたのだ……友人ハリーが。アルマリーゼとセラフの目も、いっそう輝いて見える。


 それはさておき、ルシードはゴードンの話から、館に着いてから出会った人たちを思い出す。

 最初に出会ったのが執事のセバスチャンと、今は忘れてしまいたいが……迷探偵ホープ。館の中に入って出会ったのが、メイドのメリー。最初に案内された部屋で、館の主人であるゴードンと、その奥方のライザ。今紹介された警備員のマリオに、犯行を見てしまったせいで殺されるハリー……ではなかった。まだ出会っていないが、ゴードンの友人ハリーと、ゴードンの娘レベッカ。これで全員だ。ルシードは小説をなぞるつもりはないが、小説の登場人物とほぼ被っていることに動揺は隠せない。警備員はいなかったが、ハリーなどは名前まで同じだ。


「それで、その夜明けの太陽とやらはまだ見せてはもらえないのか? 実物を見ておかないことには、守るにも守れんではないか」


 口を開いたのはホープだ。ホープは咥えていたパイプを手に取り、ゴードンに向けて言った。


「おお、そうでしたな。これは失礼した。では、少しお下がりください。扉を開けますが、決して中には入らないようにお願いします」


 宝石に近づくなということだろうか。冒険者と言えど、出会って間もないのでは信用が低いのも頷ける。

 ルシードがそう思って見ていると、ゴードンが扉の取っ手に手をかけたところで、何かが光った。


「……今のはなんです?」


 ルシードの問いにゴードンはにっこり微笑み、ルシードたちに向き直る。


「防犯装置といったところでしょうか。登録していない者が扉に触れると、体に電気が走ります。まあ、電気と言っても殺傷目的ではなく、体の意思伝達を阻害するためのものですが、今回、夜明けの太陽を守るためだけに導入した最新設備ですよ。館に住んでいる者は全員が登録しています。この扉に登録していないのは、皆さんとハリーだけです」


 ゴードンの説明に、ルシードはテオを思い出す。テオが電気について説明してくれていたのだ。雷を人工的に作り出し、それを燃料にして動く仕掛けがあると言っていたはずだ、と。ゴードンはその人工的に作り出した雷で動く仕掛けが、この扉に施されていると言う。


「どなたか試してみますかな? 大丈夫、殺傷力はありません。少しの間、体が痺れる程度です」


 ゴードンの提案に、全員がルシードを見た。その意味は考えるまでもなく、ルシードにやれということだ。

 確かに、この場で登録をしていない男は、ルシードとホープしかいない。まさか、探偵にやらせるわけにもいかないだろう。これもやむなしと、ルシードは手を挙げる。


「では、俺が……」


 ルシードは他のメンバーを押しのけて前に出る。ゴードンが扉の前を譲ってくれたところで、おそるおそる扉の取っ手に手をかけ――


「――ッ!」


 バチッ! という音を立ててルシードの体に何かが走った。これが電気か……と思ったのも束の間、体は痺れ、言うことを聞いてくれない。

 うしろに倒れそうになるルシードの体を、マリオが支えてくれた。なんとか途切れそうになる意識を保つのが精一杯だ。


「あ、ありがとうございます」


「いえ、私も以前試してみましたが、慣れようとして慣れられるものでもありませんからな。初めてとなれば尚更です」


「だ、大丈夫か?」


「あ、ああ、大丈夫だ。けど、少し体が痺れて動けそうにない。セラフ、悪いけど治癒魔法をかけてくれないか?」


 魔力の流れが阻害されているのか、ルシードは自分で治癒魔法を使える気がしなかった。ろれつが回らない舌でなんとか言葉を繰り出し、セラフに治癒魔法をかけてくれるようにお願いする。


「申し訳ありません、好奇心に負けてしまいまして……」


「俺も好奇心に負けたってところもあるしな。誰かを責めるつもりはないよ」


 ルシードはセラフにかけてもらった治癒魔法でだいぶ楽にはなったが、全快というわけでもない。しかし、歩く分には問題はなさそうなので気にしないことにする。しばらくすれば元に戻るだろう。


「いや、申し訳ない。少し度が過ぎましたな」


「いえ、気にしないでください。貴重な体験ができました」


「そう言っていただけると助かります。では、中へご案内しましょう、部屋の床も扉と同じで、登録していない者が中にいなければ電流が流れる仕組みになっています。扉が開いていたとしても、登録者が一緒でない場合は、決して中に入らないようにしてください」


 ゴードンが説明とともに扉を開け、部屋の中があらわになる。

 部屋の中は様々な壺や、絵画、宝石が展示されており、部屋の中央にはガラスケースに入った宝石が一つ置かれていた。部屋には窓がなく、天井と床は至って普通だ。他の部屋のものと比べても同じだとわかる。壊そうと思えば壊せそうではあるが、仮にも怪盗を名乗るならば、床や天井を壊して盗み出すような真似はしないだろう。それでは怪盗ではなく、ただの強盗だ。

 次に部屋の中央に置かれた宝石に、ルシードは目を向ける。黄金に輝いているところから、夜明けの太陽とみて間違いないだろう。確かに綺麗な宝石だ。

 ゴードンが部屋の中へと入り、ガラスケースの隣に立つ。

 ルシードは先程の扉のこともあり、少し躊躇しつつも部屋に足を踏み入れるが、問題はなかった。

 それを見て、全員が部屋へと入るのを、呆然と見送る。どうやら今回も人身御供にされたようだ。ルシードが隣にいるセラフに視線を送ると、不自然に目線を外された。


「これが我が家に代々受け継がれてきた夜明けの太陽、大金貨八十枚はすると言われる宝石です」


 ルシードの思った通り、部屋の中央に置かれた宝石が夜明けの太陽だったが、ゴードンの説明に気になるところがあり、他のメンバーに聞こえないよう、セラフに耳打ちする。


「大金貨って、十枚で王金貨じゃなかったっけ? 大金貨八十枚ってことは王金貨八枚ってことだよな?」


「い、いえ、王金貨は大金貨百枚で一枚ですよ」


 急に話しかけたせいだろう。セラフは体を震わせて耳を押さえると、顔を赤くして言う。


「え、あ、そうだったのか。わかった、ありがとう」


 言われてみればマーカスもそう言っていたかもしれないと、ルシードはマーカスの顔を思い出す。

 となると、シエラの言葉を信じるなら、常夜の雫は大金貨百枚以上の価値があるということだ。いや、何枚積まれても売らないとはそれ以上か……。

 ルシードはそれに驚くが、王金貨よりも宝石を選んだルーファにも驚く。普通、大金貨百枚と言われれば、そちらを選びそうなものだが、変わったやつだと不思議に思う。まあ、値段を知ったところで今更返せと言う気もないが……。


「他にも価値のあるものはありますが、家宝でもあるこの宝石が一番大切なことに変わりありません。怪盗ディセプションは予告したものしか盗まないと聞きますし、他の物は放っておいても問題ないでしょうが、盗られてしまったとしても諦めはつきます。ですが、この宝石だけは、何代にも渡って受け継がれてきた物です。……どうかお願いします」


 館の主人に頭まで下げられては、なんとしても守りたいところだ。ルシードだけでなく、皆が頷いた。


「次は皆さんのお部屋を伝えておきます。場所はこの部屋の隣に用意させました。夜は長く、いつ怪盗が現れるかもわかりません。休憩したい時などは、その部屋をお使いください」


 休憩できる部屋まで用意してもらっているとはありがたい。ルシードはゴードンの心遣いに感謝する。


 宝石も確認したところで、ルシードたちは先程の広間へと戻ることとなった。ゴードンとライザは自分たちの部屋へと戻り、セバスチャンとメリーも、夕食の準備をすると言い残し、広間を出て行った。

 ルシードたちはとりあえず全員で作戦会議をしようということで集まる。

 椅子に腰掛けたルシードは、ホープはどうするのだろうかと視線を移したところで、ちょうどホープが口を開いた。


「ところで君たちは七人いるようだが、君たちのランクはいくつかな? ちなみにボクはAランクなわけだが……」


 ルシードたちが七人いても自分には勝てないとでも言いたいのだろうか。しかし、こうも堂々と言われればルシードには何も返せない。ホープの紅茶を飲む姿も様になっている。しかも、冒険者だったこともそうだが、Aランクというのがこれまた驚きだ。BとAでは壁のようなものがあるとミラも言っていたことから、Bランク冒険者が束になっても勝てるだけの実力があるのかもしれない。

 だが――


「Sじゃが、何か問題があるのか?」


 空気を読まない者がそこにいた。

 言われたホープは飲んでいた紅茶で咳き込み、落ち着こうとしているのかパイプを咥える。しかし、ルシードは気になっていたが、どうやら咥えているパイプに火は入っておらず、煙も出ていない。案外見た目から入るタイプなのかもしれない。実際、煙草など吸ったことがないのではないだろうか。

 そこでやっと落ち着いたのだろう、ホープはパイプから手を離した。


「そうか……Sか。まさかボクより上がいたとは……いや、問題はない」


 ルシードたちにではなく、自分に言い聞かせるように言ったホープは、今度こそルシードたちに向き直ると、続けて口を開く。


「すまない、本題に入ろう。今回君たちに任せたいのはボクの助手だ。怪盗ディセプションによって犯行が行われるまでの間、館を駆けずり回り、住人の怪しい行動などがあれば教えて欲しい。それをボクに報告するまでが仕事だ。ボクは犯行後、君たちの情報を元に、誰が怪盗ディセプションかを推理しよう」


「……なるほど」


 ホープの言葉に頷き、言葉を発したセラフに注目が集まる。


「ホープさんの言いたいことはわかりました。これは小説ではありません。自分の目で文字を追って物語を進めるのでなく、事態は終わりに向けて刻一刻と迫っています。もしかすると、今こうしている間にも怪盗は事を進めているかもしれません」


 全員がセラフの声に聞き入る。確かにその通りだ。


「小説のように怪しい人物の動向がわかるなら問題はありません。ですが、現実には無理があります。語り手がいなくてはヒントもありません。ここは、どこからか情報を得る必要があります。そこで私たちが助手となり情報を集め、推理するということですね」


 セラフが口を閉じたところで、全員が感銘を受けたように身震いした。


「ふっ、ボクが言いたかったのは、まさにそのことだ。実を言うと、そろそろ一人では限界を感じていたんだ。今日まで一人で依頼をこなしてはきたが、一人では住人全員の動向を確認するには体が足りない。……一度、助手を作ろうとしたのだが、誰もボクの助手を続けたがらない。やっと助手を見つけたと思ったら、何故か急に辞めたいと言い出す。そこで君たちのような冒険者に依頼を出し、手伝わせてきたのだ……きたのだが……」


 ホープは大きな溜め息をつき、肩を落とす。


「……最近ではボクの出した依頼を受けない冒険者が増える一方だったのだ……ボクはただ、頼まれた依頼を完璧に終わらせたいだけなのに……依頼の失敗を恐れてか、ボクの助手依頼を受ける者がいない。現に、今日も二チームまでと依頼を出していたが、もう一チームは登録されていなかった。それはここへ来る前にギルドで確認済みだ。……しかし、今回は君たちが来てくれた。しかも七人だ! これほど嬉しいことはない。……そうだ! 今回怪盗ディセプションを捕まえることができた場合は、報酬はすべて君たちに渡そう。ボクの目的は怪盗ディセプションの捕縛のみだ。君たちが捕まえたと公言しても構わない。君たちにも悪い話ではないだろう?」


 ホープは被っている帽子のつばを上げ、ニヤリと笑って言う。部屋の中なのに帽子を脱がないところから見ても、見た目を大事にするタイプなのだろう。ますます迷探偵に拍車がかかる。

 しかし、ホープはいったい、どういうつもりなのだろうかと、ルシードは考える。


「いいわ。けれど、一つお願いがあるの。情報が集まったあと、私たちにも推理させてくれないかしら?」


「ワシも同感じゃ。助手を引き受けるのは構わん。だが、ワシも一人で怪盗とやらの正体を暴いてみせたい」


 アルマリーゼとベル、おそらく他のメンバーも乗り気だろうが、ルシードは一つの懸念を抱えている。このままアルマリーゼたちの案に乗っていいものだろうかと悩む。


「それはボクも歓迎だ。たまには誰かの推理を聞いてみるのも悪くない」


 ホープはニヤリと笑って続ける。


「決まりだな。ボクは君たちが集めた情報を元に推理を行う。ボクはまとめ役になるが、最後は君たちも推理してみるといい。推理合戦といったところだな」


 アルマリーゼの提案に、ホープも乗り気だ。これではルシードが余計な口を挟むだけ無駄というものだろう。


「では、このあとの夕食までの間、それぞれ別行動といくかの」


「だな。まずは住人の人となりを知っておかねーとな」


「それなら、最初は誰が誰を見に行くかだけ決める。被るとつまらない」


「それでは、メイドさんは私が担当します」


「なっ! 大本命じゃない、ずるいわよ、セラフ」


 誰が誰に会いに行くかとなったところでセラフが何食わぬ顔で言い、そこにアルマリーゼが食いついた。


「別にいいじゃないか。セラフの一言がなければこんな流れにはならなかっただろうし、譲ってあげなよ」


「……仕方ないわね。それじゃあ、私は第一被害者の夫人、ライザに会いに行くわ。このあと殺される時間だったはず。私が最初の殺人を止めて見せるわ」


「……殺人? 怪盗ディセプションは人を傷つけたことなどないが?」


 今度は意気込んで言うアルマリーゼに、ホープが口を挟んだ。


「いや、気にしないでくれ。それじゃあ、アルマはライザさんを頼むよ」


「では、ワシはその次の被害者ハリーじゃ」


「わかった。ベルはハリーさんね」


 また何か口を挟みそうになったホープより先に、ルシードが口を開く。これ以上、無駄に時間を浪費したくはない。


「そんじゃ、アタシは執事のとこでも行ってみるか」


「んー、私はゴードンさんにするかな」


「私は娘さんにする」


「レベッカ嬢は体が弱い。会う前にゴードン氏かライザ夫人の許可を取ってくれ。あまり体力を使わせるようなこともしないように」


「わかった」


 ホープがサーシャに注意を促したことで、ルシードはレベッカの体が弱いことを知る。今夜の騒動で体調を崩さないか心配だ。


「では、ボクは最初に警備員のマリオ氏に会いに行き、そのあと他の場所も回るとしよう。君はあまったが……どうする? 先程のドアの電気でまだ本調子ではないだろう? ここで休んでいるか?」


「本調子でないのは認めるけど、俺もマリオさんに会いに行ってみるかな。聞きたいこともあるし」


「そうか。では、ボクとともに行こう」


 ホープの了承が得られたことに、ルシードは胸をなでおろす。ルシードには抱える懸念もある。ホープといれば、自然とそれが解消されるはずだ。


「何か怪しい行動があればボクに伝えてくれ。ボクがまとめて皆に伝えよう。まあ、犯行は夜だ。夕食以降までは何もないが、油断はしないでくれ。それまで一時的な報告も必要ないだろう。夕食時には全員が集まる。その時に一度集まり、報告し合おうではないか」


「わかりました。では、皆さんそのように」


「腕が鳴るわ」


 そこで会議は終了し、全員が立ち上がる。

 館の主人――ゴードンをミラが、

 夫人――ライザをアルマリーゼが、

 その娘――レベッカをサーシャが、

 執事――セバスチャンをルーファが、

 メイド――メリーをセラフが、

 館の主人の友人――ハリーをベルが、

 警備員――マリオにルシードとホープが、それぞれ会いに行くこととなった。


「それでは、ここから先はこのボク、名探偵ホープが指揮をとる!」


 最後に、ホープが高らかに宣言した。

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