062 負けられない戦い
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セラフを先頭に、ルシードたちは一つの洋館の前で立ち止まる。
「ここが今回、怪盗に狙われているゴードンさんの住む館ですね」
「それじゃあ、入る前に内容の確認をしておきましょうか」
ミラの声に、全員の注目が集まる。
「今回の依頼は探偵の助手よ。最低二人って話だったけど……ま、まあ、七人いても文句は言わないでしょ。人数が多い方が見張りやすいしね。それで肝心の内容だけど、このゴードンさんの館に、三日前、夜明けの太陽をいただくって予告状が来たらしいわ。予告の日付は今日。夜明けの太陽っていうのは、ゴードンさんの家に代々受け継がれる宝石の名前よ」
ミラの説明に、ルシード、アルマリーゼ、セラフ、ベルの四人はニヤリと笑う。やはり怪盗を名乗るからには、予告状の一つも出してくれないと面白くはない。
「で、私たちの仕事だけど、今夜の住人の情報を集め、犯行が行われたあと、探偵に報告するのが主な仕事よ。盗まれるのを待つ理由は、怪盗の正体が誰かわかってないらしくって、現行犯じゃないと逮捕できないそうなのよ。それで探偵が雇われたってわけ。私たちが集めた情報を元に、探偵が怪盗を探し当てるそうよ」
「怪盗の正体がわかってないってのはなんだよ? 詳しい情報はないのか? 本人の顔とかさ」
「それが変装の名人らしいのよ。老若男女、誰にでも変装できて、盗みに入る家の雇われた従業員や家族、依頼主に化けていたこともあるそうよ。実際、犯行の瞬間を目撃した者もおらず、姿を見た者もいない。男か女かもわかってないそうなの。だから宝石が盗まれるのを待って、館の住人に変装した怪盗を見つけ出すってわけ。わかっているのはディセプションと名乗っていることくらいね」
ルシードはディセプションという単語を思い出す……確か、『騙す』とかの意味だったはずだ、と。変装して騙すということだろうか。ルシードはあとで辞書を引いて確認しようと決める。本人が名付けたとすれば、何か意味があるはずだ。
「変装……ねぇ。なんだか本格的になってきたじゃない。面白くなってきたわ。……そうだ! 誰が怪盗を捕まえるために一番貢献したか、勝負しましょう? 判定するのは私たちを雇った探偵よ」
「勝負? 流石にギルドの依頼でそれはまずくないか? 失敗したら何か罰金とかあるんだろ? それだと、依頼した探偵に悪い」
「いえ、それが不思議なことに、今回の依頼にはギルドもペナルティを科してないんですよ」
「クハハ、それではよいではないか。ワシもアルマリーゼに乗ったぞ。賢者、それすなわち頭が良いということを証明してやろうではないか」
「ちょっと、待ってよ。勝負ってことは何か賭けるってことでしょ? 私はついて来ただけみたいなものだから、怪盗にはあんまり興味ないんだけど……」
「私も神様が行くと言うから来ただけ」
「……アタシも、怪盗には興味ないかな」
三人が反対するのも当然だ。ルシード、アルマリーゼ、セラフ、ベルは本を読んだからこそ怪盗に興味があるが、ミラ、ルーファ、サーシャは別だろう。
「そうだな……それじゃあ、三チームに分かれたらどうだ? 依頼も最低二人ってことだし、二人組の三チームに分けて、それぞれが探偵に報告したら問題ないだろ? 一人あまるから、どこか一チームは三人組になるけどさ」
「ダメよ、それだと争いが起こるわ」
「は? なんで? たかがチーム分けだろ?」
それならばと、ルシードはチームを組むことを提案するが、アルマリーゼはダメだと言う。
何故チームを分けるだけで争いが起こるのか、ルシードは不思議でならない。
「組みたい相手と組めなかったら、争いになるでしょう? 少しは察しなさい」
しかし、アルマリーゼの説明で、ルシードはチーム分けで争いが起こる理由を理解する。
セラフはかなりの本を読んでいそうなことからも推理物の知識は高そうであり、そうでなくてもアルマリーゼは物知りだ。ベルは……置いておいて、ルシードも少しは読んだことがあるが、それでも村に入ってくる本で推理物というのは微々たるものだ。実際に読んでいる最中も、犯人を見つけたことは一度としてない。誰もがセラフかアルマリーゼと組みたいと思うだろう、と。
当然のことながら、二人組と聞いて、自然とルシードに視線が集まったことなど、気づくことはない。
「こうしましょう。勝負は何かを賭けるのではなく、勝利者に報酬を与えるというのではどう? そうね、他の人もやる気になりそうなのは……」
アルマリーゼの言いたいことは、ルシードにもわかる。何かを賭けるよりも、報酬をもらえるとした方がやる気は出るだろう。
しかし、アルマリーゼの意地悪な笑みから、ルシードは嫌な予感しかしない。
「……勝利者――怪盗を捕まえた者、もしくは怪盗の正体を暴いた者には、ルシードからキスがもらえる、ということにしましょう」
「……は? おい、アルマ、何を――」
「わかった、やるぜ」
「一番貢献して神様ゲット」
「え? ちょ、ちょっと、そりゃ私も少しは興味あるけど、いきなりは……」
「別にミラは勝とうとしなくていいんですよ?」
「む、それはそれで負けたくないわ」
「クハハ、決まりじゃ!」
ルシードが口を挟もうとしたところで勝手に話が進む。何故か他の三人までやる気を出しているではないか。
「ちょっと来い、アルマ」
ルシードはアルマリーゼの腕を引いてみんなから離れる。
「……何よ?」
「何よ? じゃないだろ? 何を考えているんだ? だいたいキスって、意味がわかって言っているのか?」
「当然よ。逆にあなたが知っているのか疑問だったくらいだわ」
ひどい言われようである。しかし、ルシードもキスの意味くらいは知っている。
「それくらい知ってるさ。けど、まだ旅の途中だ。子どもができてしまっては……いや、そもそも俺は――」
「子ども……? 何が言いたいのかわからないけれど、嫌ならあなたが勝てばいいじゃない。それとも何? 自信がないの? 怪盗を捕まえるために、一番貢献する自信が」
ルシードの言葉を遮るようにして、アルマリーゼはニヤニヤと笑いながら言う。
ルシードを挑発しているのだろう。挑発して勝負に乗せようと。
しかし、ルシードはそれほど甘い男ではない。アルマリーゼの思惑に気づいたルシードを、甘く見てもらっては困る。
「……いいだろう。怪盗は俺が捕まえる。俺が名探偵になる瞬間を見せてやるよ」
「ふふっ、いいわ。しっかりと見届けてあげる。勝つのは私だけれどね。……さあ、戻りましょう」
おかしい。ルシードは思ってもいない言葉が口から出た自分に驚く。やる気のあるメンバーの中では、ルシードが一番今回の依頼内容が助手だとわかっていたはずなのに、探偵を差し置いて名探偵になるなどと……。
アルマリーゼは先にみんなのところへと戻ってしまった。ルシードは渋々あとを追う。こうなってしまってはどうしようもない。
ルシードは決意する。
そうだとも。探偵がなんだ、俺が名探偵になればいいだけの話だ、と。
たとえ、ルシードが勝った場合の報酬がないとしても、そうするしかないのだ。
そもそも何故、自分のキスが報酬になるのかが、ルシードにとって一番の疑問ではあるのだが……。
「そうそう、今回は定員が二チームだったから、私たちの他にもう一チーム来るはずよ。誰が来るかはわからなかったけどね」
ルシードが戻ったところで、ミラが口を開いた。ギルドの依頼は何パーティか同時に受けられるものもあるようだ。
「誰が来ようと問題ない。捕まえるのは私」
「クハハ、捕まえるのはワシじゃ! ワシがこの手で怪盗とやらを捕まえてみせるわ!」
みんな探偵の助手だという自覚はないのだろうか。ルシードはこれから会う探偵を不憫に思う。
「はいはい。それじゃあ、行くわよ、呼び鈴を鳴らすわ」
ミラが玄関の鈴を鳴らすと、ほどなくして一人の老紳士が現れた。
「ギルドから依頼を受けて来たわ。これが依頼書よ」
ミラは老紳士に依頼書を見せて言う。
「お待ちしておりました。わたくし、この館の執事を勤めております、セバスチャンと申します。どうぞ中へ――」
「待たせたな!」
その時、新たに現れる人物があった。ルシードたちがそちらへと振り返ると、そこに一人の青年がいる。
全身を覆う外套、頭には鹿撃ち帽、手にパイプを持っている姿は、ルシードがいつか読んだ推理物の登場人物のようだ。
「ボクが来たからにはもう安心だ!」
「失礼ですが、どちら様で――」
「ボクか? ふっ、ボクはホープ。そう、名探偵ホープとはボクのことだ」
現れた青年――ホープは、『名探偵』と、確かにそう名乗った。




