047 責己自反
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「……うん、悪くない」
ルシードは作った物の出来ばえに納得し、時計を見る。時刻は――十三時五十八分。ギルドを出てから、だいたい四時間近く経ったことになる。
「しまった、集中しすぎた。イングリッドたちは――」
ルシードは疲れた体を奮い立たせ、イングリッドたちを捜すと、すぐに見つけることができた。
三人とも集中しているのか、皆が皆、魔法の練習に励んでいるようだ。休憩するためにも声をかけようと立ち上がり、机の上に乗ったある物に目を留める。机の上は作り上げた物で散乱し、見られたものではない。出来ばえの良い三つを残すと、他の粗悪品を広場にばら撒き、土魔法で土に戻した。
これで机周りは片付いたと三人を呼ぶ。
「おーい、こっちに集まってくれ!」
ルシードの声に気づいた三人は足早に集まり、席につく。
「調子はどうだ?」
「えっと……だいぶ上達したと思います!」
「うん。二人とも壁を作る速度もあがりましたし、泥沼もバッチリです」
「そうか、頑張ったな。イングリッドは?」
ルシードは笑って喜ぶエイミーとローラから、イングリッドに視線を移す。
「ふふふ、やりましたわ。物にしましてよ?」
腕を組み、胸を張って言い切るイングリッドに、ルシードは驚く。
「……本当に?」
「ええ、今ご覧に入れますわ」
自信満々に言うイングリッドは椅子から立ち上がり、心臓のあたりに魔力を集めると、体全体に均等に張り巡らせて始点へと戻らせた。確かに肉体強化の魔法は成功しているようだ。
「おお、すごいじゃないか」
「コツを掴めはすぐでしたわ。体に漲るこの力……ふふふ、もう怖いものはありませんわ」
「イングリッド。もう一度言うけど――」
「わかっていましてよ。この力を自分から他人を傷つけることに使うつもりはありませんわ。この力は守るための力。そのためだけに振るいますわ。ルシード……先生に誓って、違えるつもりはありませんわ」
ルシードはイングリッドの言葉に満足し、椅子から腰を上げてイングリッドの頭をなでる。
「ちょ、ちょっと、子ども扱いは止めてくださいまし」
言葉とは裏腹に、イングリッドは離れようとはしない。
「先生、イングリッドちゃんだけずるいです!」
「私もお願いします!」
小さく頬を膨らませ、立ち上がって頭を差し出すエイミーとローラの頭もなでてやる。
「疲れただろ? お腹減ってないか?」
「そういえば、魔法の練習で集中してたから忘れてたけど、お腹空いてるね」
「魔法を使ったからかな? いつもより減ってる気がする」
「そうですわね。全身に魔力を流す魔法は魔力の消費が激しいのか、流石のわたくしも疲れてしまいましたわ。あまり多用できる魔法ではありませんわね」
ルシードは魔力での全身強化は魔力を循環させていることにより、魔力の消費は少なくてすむのではないかと判断したが、イングリッドは違うのだろうか。
いや、アルマリーゼの剣を使っていたルシードとは違い、操れるようになったばかりの魔力を使ったことで、そう勘違いしているだけかもしれない。魔力が体に馴染むにつれ、自ずと理解するだろうと、ルシードは触れないでおいた。
「そうか。それじゃあ、何か食べに行くか。いつもはどうしてるんだ?」
セラフからもらったおにぎりが冒険者カバンに入っているが、いくらなんでも四人で食べるには量が足りないだろう。ルシードは普段どうしているのかと尋ねる。
「ローラのお母様が料亭を営んでおりますから、いつもはそちらで食べていますわ。……あ、あら? もうこんな時間でしたの? 早く行かないと心配させているかもしれませんわね」
「なら急いだ方がいいな。俺は広場を直してくるから、水でも飲んで待っていてくれ」
ルシードはそう言って、机の上に置かれたコップに水を注ぐ。それは先程完成したガラスのコップだ。苦労はしたが、イングリッドたちが魔法の練習をしている間、ルシードもガラスのコップを作れないかと試行錯誤して完成させたのだ。珪砂、ソーダ灰、石灰石を探り当て、熱を与えて溶かし、コップの形に整えたあとは冷却させて完成だ。
とはいえ、それなりに苦労もあった。
砂から一粒一粒を厳選し、砂の中から素材を探し当て、大量に複製するまではよかったが、熱はかなりの高温が必要なのか、溶かすまでが大変だった。ルシードは氷と雪ばかりの村で育ったこともあり、物を溶かすイメージというのがなかなかできなかったのだ。ルシードも自分の魔力がごっそり抜けるのを感じながらも魔力を注ぎ続け、やっと必要な温度を作り出すことに成功していた。
しかし、やっとの思いで溶かすことに成功したのもつかの間、今度は別の問題が立ちふさがった。ガラスを固めようと氷魔法で冷却させるとガラスが割れてしまうのだ。そこから新たに試行錯誤を重ね、均等に、更には徐々に冷却させていけばいいことに気づいたルシードは、工夫に工夫を重ね、ついに完成に漕ぎ着けることができたというわけである。
魔法は脳を使って使用していることもあり、作る工程を理解したからだろうか、使用する魔力量は同じようだが、一度作ったものは過程を飛ばして使用できるのが嬉しい。今ではガラス細工も自由自在だ。
問題は魔力の消費だけ、高温を作り出すのために毎回かなりの魔力を持っていかれてはたまったものではない。一度火山というものを見たいと、ルシードは思うのだった。
しかし、昨夜風呂場で水を生み出し続けて一時間しか持たなかったことから考えるとそれ以上に魔力を使っているはずなのに、不思議なことに魔力枯渇の症状が現れることはなかったという疑問が残る。
ルシードは思考が逸れたと反省し、その汗と涙の結晶であるガラスコップに水を注ぎ終え、席を立つ。エイミーとローラが作った泥沼をそのままにしていては、広場を利用する人に迷惑がかかるだろうと判断したのだ。
「いただきますわ」
「私も!」
「いただきます」
ルシードは三人の声を背中に泥沼の方へと歩き、泥沼の出来ばえを見て感心する。泥沼はなかなかのものだった。軽く手を差し込んでみると、十センチは沈み込んでいく。これなら足止めにも十分使えそうだ。
ルシードは頷き、泥沼に干渉しようとして、手を止める。相手は土魔法を使うのだ。ならば、泥沼に干渉して足場を直すのでは?
そう思い、土魔法で泥に干渉して砂に戻すが、元に戻ったのは土の部分だけだ。水には干渉できておらず、分離された水が再び浸透し、またしても泥に変える。
「そうか、干渉できるのは自分の使える属性だけだよな……これなら相手が土魔法と水を取り除ける水か火の使い手でもない限り、問題なさそうだ」
結果に納得し、水をどうしたものかと考える。ローラが出した水はかなりの量で、泥を砂に戻しても次から次へと泥へと戻ってしまう。これではキリがないと思い、他の方法を考え、実行する。
「よし、うまくいった」
ベルが塔を崩した時のことを思い出したのだ。街一番の高さを誇っていたはずの塔は、土も残らず消えていた。おそらくベルは魔法で作り出した土を魔素へと還したのだ。その時のことを鮮明に思い出したルシードは、それと同じことができるはずだと思い、今回は土ではなく、魔法で作り出された水に干渉した。
その結果は成功だ。水が分解された泥沼は、すぐさまサラサラな砂へと戻された。あとは魔法で平らになるようにだけ動かし、次の泥沼へ移動する。
それにしても、三人ともなかなかに優秀だ、とルシードは感嘆する。
全員が魔力の扱いを一回で覚えてしまった上に、成長も早い。ルシードも慢心すまいと思っていたが、すぐに魔法を使えたことで自惚れていたところもあったかもしれない。
だが、三人の成長を目の当たりにして、間違いだったことに気づく。この程度は当たり前だったのだ。今回でルシードもまた少し魔法に関してレベルアップできたが、まだまだこれからだろう。精進を怠ってはいけない。
ルシードは思いを胸に、すべての泥沼を修復、三人のもとへと戻った。
「それじゃあ、行こうか」
「ええ、それよりこの水はなんですの? 飲んだことがないほど美味しい水ですわね」
「故郷の水を再現してみたんだけど、美味しいだろ?」
「はい、美味しいです」
「もう一杯お願いします!」
「水魔法はイメージで味が変わるみたいなんだ。ローラもこの味を覚えられれば、再現できるかもね」
ルシードは故郷の水を褒められたことに上機嫌でコップに新しい水を注ぐ。
「頑張って覚えてみます。そうしたら、お母さんのお店で出せるかも……」
「そうだね。……さ、休憩は終わりだ。ローラのお母さんのお店に行こう」
「わかりましたわ。案内しますので、はぐれないでくださいまし」
先頭を歩くイングリッドに続いて、ルシードはローラの母がやっているという店に移動するべく歩き出す。




