023 両手に花?
◆
ルシードはシャルニアと一緒に宿泊所へと戻って来た。
扉を開け、シャルニアと二人で中に入ると、テオたち三人が集まっているのが見える。
「ルシードさん、シャルを見ませんでしたか!? あの子、出て行ったきり帰って来なくて!」
そこでルシードに気づいたであろうセフィーリアが、慌ててルシードに駆け寄ってくる。
「ルシードも捜してくれませんか? 少し目を離しすぎてしまったようです。いつもなら、一人になってもすぐに帰って来てくれるのですが、今日はまだ帰っていないようなのです」
テオは村長のところから帰って来たばかりだろうか。セフィーリアの隣に並んで言う。
そんな二人をよそに、アルマリーゼはある一点を見たあと、テオとセフィーリアを不思議そうに見ている。
「……え? どうして――」
「だ、だから、シャルがいなくなっちゃったんですって!」
「僕は外を捜してきます。ルシードも外を捜してくれませんか?」
ルシードが気にしたのはアルマリーゼのことだったが、それよりも今は目の前の二人だ。テオとセフィーリアが外へ捜しに行ってしまっては意味がない。
ルシードはテオたちのうしろへと回り込んだシャルニアに視線を送ると、シャルニアは目を金色に輝かせ、少しばつが悪そうにしていた。これにはルシードも流石にやりすぎたかと苦笑い。促すように頷いた。
そこでやっとお許しが出たとばかりに、シャルニアはテオとセフィーリアの腰に手を回して抱きつく。
「きゃ、何!?」
「え!?」
背後からシャルニアに抱きつかれた二人は、いきなりのことに目を丸くして自分の腰へと視線を落とし、そこにシャルニアがいたことでもう一度驚く。
「――え? シャ、シャル? いつの間に?」
「兄さん、姉さん、心配かけてごめんなさい。私は――もう大丈夫だから」
二人には何が起こったかわからないだろうが、ルシードがテオたちを驚かせようと画策していたのだ。
内容は至って簡単。ルシードが正面から彼らの注意を引き、宿泊所に入る前から使用していたシャルニアの魔眼を使って背後から驚かせるといったものだ。
シャルニアは少し渋ったが、ルシードの提案となれば断ることができず、受け入れた。
ルシードには何故かアルマリーゼが気づいていたことが不思議だったが、本命はテオとセフィーリアだ。問題はない。
せっかく魔眼を制御できるようになったのだからお披露目ついでに驚かせてやろうとしたのだが、テオとセフィーリアの心配する姿を見て、少し後悔しなかったわけではないが……。
「シャル……君、目が……?」
ここでテオは何が起こったのかと考え、シャルニアが魔眼を使用していたことに気づいたようだ。
その様子に、シャルニアはルシードを一度チラリと見て、テオとセフィーリアへと視線を戻す。
「う、うん。実は一人で練習してて……さっき、魔眼が制御できるようになったの」
シャルニアの言葉に、ちゃんと約束を守ってくれるようだ、とルシードは胸をなでおろす。
「ほ、本当に? シャル……よかった、よかったよぉぉ」
「やったじゃないか、シャル! おめでとう、頑張ったね」
テオとセフィーリアは感極まったのか泣いてしまう。
そんな二人を見て、シャルニアの瞳からも涙があふれた。
「ありがとう、兄さん、姉さん。今までごめんね」
「何言ってるのよ、双子でしょ? 迷惑だなんて、思ったこともないわよ」
「うん、僕もだよ」
三人は抱き合い、喜びを分かち合っている。
ルシードはそんな兄妹を嬉しく眺めていると、アルマリーゼがゆっくりとした足取りでルシードの横に並び立つ。
「何かやったでしょ?」
「……何も?」
小声で話すアルマリーゼに、ルシードも三人に聞こえないよう声を落とした。
「それより、どうしてアルマにはシャルが見えていたんだ?」
テオたち同様、アルマリーゼも魔眼の範囲内にいたはずだ。にもかかわらず、アルマリーゼはシャルニアを目で追っていた。それがルシードには不思議でならない。
「シャル……ねぇ。ふふっ、いつの間にやら仲良くなったじゃない。まあ、詳しい話はあとでしましょう。あなたも、あの二人には聞かれたくはないでしょう?」
ルシードがシャルニアを愛称で呼んだだけで、アルマリーゼはもうわかったとばかりに含み笑い。
「わかった。それなら、部屋に行こう」
「あら? あの三人はいいの?」
「長年の問題が解決したんだ。こういう時は当事者だけの方がいいよ」
「それもそうね。行きましょうか」
今は三人が落ち着くのを待とうと、ルシードはテオたち気づかれないよう自分の部屋へと移動した。
「それで、何をしたの?」
「これと言って特には。少し話をして、友達になっただけだよ。元から制御できるだけの力はあったんだ。練習だってしてただろうし、不思議じゃないだろ?」
「それはそうかもしれないけれど……まあ、いいわ」
アルマリーゼは疑っているようだが、ルシードも嘘は言っていない。
「それよりも、どうしてアルマには魔眼が効かなかったんだ? テオは魔力抵抗が高くても容易にレジストできないって言っていたけど……」
「そうね。私の魔力抵抗は高いけれど、高位精霊の私でも、あの子の魔眼を準備せずにいきなり防ぐのは無理でしょうね。でも、テオたちを驚かせようとしたのはあなたでしょう? あなたは魔眼の対象にしないで、他のメンバーだけを対象にした。……違う?」
「む、確かにその通りだけど、それとアルマがレジストできたことに、関係があるのか?」
「ふふっ、レジストはしていないわ。最初から私も対象外になっていたってだけ」
「え?」
「私とあなたは、契約を通して繋がっているのよ? 流れる魔力を調節しているけれど、あなたの魔力を私は少しずつもらっているわ。指紋がそれぞれ違うように、人が持つ魔力――魔力紋も違っているの。おそらく彼女の魔眼は、対象外にする魔力を選んでから、範囲内にいるその他の魔力を持った者に対して効果があるのよ。だから、あなたの魔力が流れる私も、対象外になっていたってところかしら」
「なるほど、それで……」
アルマリーゼの説明でやっとルシードは理解する。ルシードとアルマリーゼは契約を通じて繋がっており、シャルニアがルシードを対象外にしたことでアルマリーゼも対象外になったということだ。
と、言うことは、シャルニアが相手の姿を見る必要がないと言っていた点は、正確には間違っているのだろう。一度でも目にしたことがある相手の魔力紋を識別し、それを判別して魔眼を使用しているということだ。おそらくは魔眼の制御に成功していなかったことから、自身の能力を詳しく判断できていなかったに違いない。
「それで、その手に持っているものはどうしたの? なかなか可愛らしいじゃない」
アルマリーゼが示したのは、ルシードがシャルニアに借りた冒険者カバンだ。テオたちに見つかるまいと上着の下に隠していたが、取り出したところで目ざとく見つけたようである。言われてみれば、女の子向けのデザインかもしれない。
「これはシャルが貸してくれたんだ。冒険者ギルドに登録すると、無償で貸してくれるそうだよ」
「ふーん。でも、これじゃあ、ほとんど何も入らないじゃない」
「まあまあ、見てなって」
ルシードは部屋にあった椅子に近づくと、冒険者カバンの口へと近づける。すると、椅子は吸い込まれるようにして冒険者カバンの中へと入っていった。
「え? 何、今の? 手品?」
「いや、俺も詳しくは説明できないんだけど、なんでも入るカバンらしいよ」
「たった五十年で進化しすぎでしょ、私の時代からじゃ考えられないわ」
アルマリーゼは素直に驚嘆しているようだ。まあ、自分の寝ていた間に世界が変わってたら、驚かないわけがない。
「でも、なんでも入るって言うなら、完全犯罪とかできそうね」
たまにアルマの思考が怖いな、とルシードは身震いする。
「い、いや、生きてる物は入れられないから誘拐には使えないし、何を入れていたかの履歴も残るから、定期的にギルドに見せる時にバレるらしいよ」
「あら、そうなの? でも、カバン一つで旅ができるなら、楽になるでしょうね」
「だろ? 俺も街に行ったら、冒険者ギルドに登録してみようかと考えてる」
「そうね、それがいいわ。私も登録しようかしら、影の中に入れておけるけれど、食べ物を地面から出すのはどうかと思うし」
ルシードがいない間にセフィーリアと何か食べたのだろうか。すっかり食欲の虜になっているようだ。
「ちょっと私にも使わせなさいよ。どうやって使えばいいの?」
アルマリーゼはルシードの手から冒険者カバンを奪っていく。
「いや、ギルドに貸し出された本人と、本人に許可された人しか使えないみたいだよ」
「大丈夫よ、私にも使えるわ。おそらくこれも魔力紋を使っているはず。ああ、さっきも言ったけれど、魔力の指紋のことね。だからあなたが使えるのなら、自動的に私も使えることになるわ」
確かに同じ原理なら、アルマリーゼにも使えそうだ。
実際にルシードが使うところを見たせいだろう。自分で使えるのが嬉しいのか、ワクワクしているのがルシードにもわかる。
「入れる時は対象のイメージを思い浮かべてカバンへ、出す時は順序を逆にだよ」
「わかったわ」
アルマリーゼは何も持たずに冒険者カバンの口へ手をやると、さっきルシードが入れた椅子が出てきた。
「へぇ! 出す時に重さを感じないなんて凄いじゃない! 今度は入れてみるわ」
初めての体験が楽しいのか、何度も出し入れしている姿は子どものようだ。
「いいけど、借り物なんだから壊さないでくれよ?」
「わかってるわよ」
アルマリーゼはよほど気に入ったのか、時間も忘れて部屋にある物を出し入れしていたが、扉が軽く数回叩かれたことで、扉へと振り返る。
「テオです。今、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「もう! いいところだったのに!」
頬を膨らませるアルマリーゼを尻目に、ルシードは扉を開けてテオを迎い入れる。
「もういいのか?」
「はい、先程はみっともないところを見せてしまいました」
「そんなことないよ。今までの苦労が報われたんだ。みっともないことなんて何もない」
「ありがとうございます。セフィがそろそろお昼にしようと言うのですが、用意してよろしいですか?」
「もうお昼だったのか。ありがとう、行くよ。何か手伝うことはある?」
「いえ、セフィとシャルが作ってくれるそうなので特には。料理ができるまで待つ間、今後のこともありますので、僕が村長のところで聞いた話でもしましょう」
「わかった、聞くよ。アルマはどうする?」
「私とセフィは、テオが帰って来た時に簡単に聞いたから必要ないわ。セフィたちの様子でも見てることにする」
「わかった、何か決まったらあとで報せるよ」
「ええ、お願いね」
「では、話は下でしましょう。セフィとシャルはキッチンです」
テオのうしろについてルシードは居間へ、アルマリーゼは台所へと向かう。
ルシードがテオと向かい合って座ると、テオが話を始めた。
「村長に聞いた話の前に、一つ朗報があります」
「朗報?」
「はい。直接会えてはいないのですが、村長の家から戻る前に村の入り口の様子をみておこうと足を運んだ際、門番の方から話を聞きまして、オークウッド村からの使者が、野盗がすべて退治されたことを伝えに来たそうですよ」
「へ、へぇ、それはよかったね」
朝一でオークウッド村を発ったのだろうか。地図上では距離はそれほど離れていないことからも、半日はかからないはずだ。それだけルシードが森の中で迷っていたのだろう。
「はい、これで森の魔獣へと集中できそうです」
「……誰かに仕事を取られて悔しいとかは?」
「ふふっ、おかしなことを聞きますね。そんなものはありませんよ。人が苦しんでいるのです、誰かがやってくれたというのなら、それだけ早く苦しみから解放されて、良いことじゃありませんか。たとえ今回の依頼が野盗退治のみで無駄足になっていたとしても、喜びはすれど、怒ったりなどしませんよ。こればかりはお金の問題ではありません」
一点の曇りもない爽やかな笑顔が眩しすぎて、ルシードは直視できない。本当にテオは英雄向きな性格をしているように思う。
宿泊所でテオたちと出会う前に疑った自分を殴ってやりたいとも。
「そ、そうだね。変なこと言ってごめん」
「気にしないでください。それで、村長のところで詳しい話を聞いてきたのですが、依頼の内容と変わりありませんでしたね。森を監視している者の話によれば、普段目にする動物たちも戻っていないようですし、何か異変が起こっていることは間違いありません。レゾナンスウルフが近くに現れた話もしたのですが、この村まで来たことは、前例がないそうです。やはり森の奥で何かに追われ、このあたりまで来たのかもしれません」
「それなら、森の調査を進めた方がいいな。森に何かあるのは確かだし……お昼を食べたら森に入る?」
「いえ、午後からは僕たちの戦力の確認をしておきませんか? これから一緒に行動するなら、お互いにできることを確認しておいた方がいいでしょう。森の奥へは地図を見る限りでは丸一日近くかかりそうですし、午後から森に入ると、陽も落ちてしまいます。明日の朝一番で向かいましょう。急げば暗くなる前に調査を終えることもできるはずです。まあ、村の周囲の調査だけでもしておきましょうか、近くまで来ているかもしれませんし、何かの手がかりを見つけることができるかもしれませんしね」
「それもそうか。なら、昼食後は少し休憩を取って戦力の確認だな。そのあと村の周囲を調査しよう」
「はい」
今日の予定は決まりだ。
ちょうど料理も完成したのか、良い匂いが台所の方から流れてくる。
ルシードが匂いに釣られて台所の方へと視線を送ると、タイミングよくアルマリーゼたち三人も台所から出てきた。
「お待たせしました。すぐに並べちゃいますね!」
「運ぶの手伝おうか?」
「い、いえいえ、座っててください!」
なんだろうか、とルシードは疑問に思う。
シャルニアはご機嫌だが、セフィーリアは心なしか視線を合わせない。なんだかセフィーリアとシャルニアが入れ替わったような気さえしてくる。
すると、アルマリーゼがルシードの隣へと座り、含み笑い。
アルマリーゼは運ぶのを手伝わないようだ。まさかつまみ食いだけを目的としてセフィーリアたちの方へ行っていたとは思いたくはない。
「何かあったのか?」
「さぁ? 料理が来れば、わかるんじゃないかしら」
何かあったことは間違いないようだ。
ルシードはテオを見るが、テオも肩を竦めてわからないと報せてくれる。
「……どうぞ」
「おや? セフィ、腕をあげたね。今回は見るからに美味しそうだ。ははっ、こっちの焦げてるのはシャルかな? 今日初めて料理したにしては上手いじゃないか」
テオは言うが、料理が運ばれてきた時点で、ルシードにはすぐに理由がわかった。
テオは二人の料理を褒めているが、二人の妹の表情を見て本気で言っているのだとしたら、たいしたものだ。
おそらく焦げた方がセフィーリア、上手く作れているの方がシャルニアだろうと、ルシードは推測する。
「あ、あのっ、兄さ――」
「兄さん、逆です」
シャルニアの声を制して、セフィーリアが割り込んだ。
「そ、それじゃあ、席に着いてみんなでいただこう」
底冷えしそうなセフィーリアの声に、テオのなかったことにしたい気持ちをルシードは理解するが、無理がある。セフィーリアの目が怖い。
だが、セフィーリアはこれ以上追及する気はないのか、無言のままテオの隣に座った。
残るはシャルニアだが、シャルニアは急いで自分の席に置かれた料理を対面側へとずらすと、ルシードの隣へと腰を下ろした。
「シャ、シャル?」
「はい?」
「え? いや、えっ?」
どうかしたのだろうか、とルシードは首を捻る。セフィーリアとシャルニア、二人とも意味がわかっていないのか、お互いに小首を傾げていた。
「もう、仕方ないわね。セフィ、席を替わるわ。あなたはこっちに座りなさい」
「――は、はい」
アルマリーゼがテオの隣の席に移動し、セフィーリアがルシードの隣へと移るが、ルシードには今の一瞬で何があったのか理解できない。席くらいどこでもいいと思うのだが、席を替わることに意味があるのだろうか。そこでテオを見ると、笑っていた。おそらくテオとアルマリーゼだけが、理解しているようである。
「何が――」
「まあ、いいじゃありませんか。さぁ、いただきましょう」
テオは強引に進めた気もするが、説明しないというのならたいしたことでもないのだろう。
「あ、ああ。それじゃあ、いただきます」
ルシードは言葉にし、ナイフとフォークを手にしたところで、周囲からの視線が気になった。左右の視線は特に強いが、前方の二人も、ルシードを見ている。
「……みんなは食べないの?」
「いいから食べなさいよ。みんな、あなたの感想を待っているんだから」
味見役なのだろうか。シャルニアは今日初めてと言っていたが、まさか毒見役ではあるまい。
ルシードは意を決してシャルニアの料理へと手を伸ばしたところで――
「ま、待ってください!」
セフィーリアに呼び止められる。
「な、何?」
「シャルのを食べたあとに私のを食べられるのは……その、比較されると困ると言うか、なんと言うか。できれば私の方からお願いします」
セフィーリアの言葉にルシードはシャルニアを見るが、異存はないと頷くのを見て了承する。
「わかったよ」
今度はセフィーリアの料理に手を伸ばし、口に運ぶ。
目玉焼きなのだろうが、やはり朝食べた物よりも焦げている。
「うーん、ちょっと焼きすぎかな」
「ちょっと……ねぇ。はっきり言えばいいじゃない。朝のよりひどいって」
ルシードはわざと控えめに言ったのだが、アルマリーゼに突っ込まれてはどうしようもない。しばらく口を閉じておいて欲しいところだ。
「は、はい。私もはっきり言ってもらえた方がいいですから」
「そ、そうだね。朝のよりかは、焦げているかな」
「だって、セフィったら一つの作業をしだしたら、ずっとそっちにかかりっきりなのよ? それなのに同時にやろうとするものだから、失敗しない方がおかしいわ。フライパンに入ったメインのお肉が、いつ真っ黒な炭になるのかとひやひやしたわよ。シャルが気づいてくれたから、ことなきを得たけれどね」
最初に気づいていたのなら教えてあげて欲しいんだけど、とルシードは思いはしても、口にはしない。今この場では、自分の立場が一番下に感じたからだ。
「す、すみません。私は一つのことに集中すると、他のことに気がまわらないもので……」
「それなら、一つ作り終えてから、次の料理をした方がいいんじゃないかな?」
「ですが、皆さんをお待たせするのも悪いですし……」
「もう知らない仲じゃないんだからさ、ちょっと待つくらいで怒るわけないよ。それに、一つのことに集中って言うなら、戦闘の時とかはどうしてるの?」
一対一ならいざ知らず、旅をしていたなら複数の魔獣を相手にすることもあっただろうと、ルシードは尋ねる。
「戦闘経験はもう二年になりますから慣れっこです。常に全体を見るようにして行動してますよ」
十二歳で戦闘に慣れるというのも嫌なものだが、テオの成人の時からついて来たのだからたいしたものだ。
「そ、そうなんだ。なら、やっぱり慣れじゃないかな。最初は一つの料理に集中して、上手くできるようになったら、他のことも同時にやっていけばいいんだよ。誰だって最初は――」
言いかけたところでシャルニアの料理が目に入り、ルシードの口が止まる。
なるほど、セフィが元気ないのも頷ける、と。シャルニアは今日初めて料理を作ったというのに上手いものだ。
「……最初から上手い人だっている。才能かもしれない。けど、努力だって才能に必ず劣るとは限らないだろう? セフィが努力を続ければ、きっとみんなに喜んでもらえる料理が作れるよ」
「は、はい! 頑張ります!」
どうやらセフィーリアは納得してくれたようだと、ルシードホッとしてアルマリーゼとテオに目配せする。アルマリーゼとテオは気づいただろうが、余計なことを言われるわけにはいかない。
もしもアルマリーゼに『才能があって努力すれば、努力だけの人はどうするの?』とか『努力すれば才能に勝てるって話だったのに、最後はみんなに喜んでもらえるって、才能はどこへ行ったの?』などと口にされず、本当によかったと安堵する。隣に座るシャルニアも気づいたかもしれないが、変に口を挟まないでいてくれたことに感謝しよう。
「それじゃあ、シャルのもいただこうかな」
「はいっ!」
元気がいい。自分の順番を今か今かと待っていたから口を挟まなかったのかもしれない。
シャルニアの料理はセフィーリアと同じく卵料理のオムレツだ。焦げ目もなく、綺麗に作られている。
「えへへ。料理は初めてなのですが、姉さんが持ってた料理本通りに作ってみました。今日は一品だけですが、次はもっと頑張りますね」
シャルニアの次回への意気込みを耳に、ルシードはオムレツを口へと運ぶ。
「うん、美味しいよ」
「ほ、他には?」
美味しいと言ったのに、何がいけないのだろうか。シャルニアは不満気だ。
「……他?」
「えっと、アドバイス……とか」
セフィーリアだけにアドバイスするのが気に入らないのだろうか。しかし、普通に美味しいのではアドバイスのしようがない。
「えーっと、料理本を読んで、そのまま作ったんだよね?」
「はいっ! 私も上手くできたと思います!」
「う、うん。今回は料理本の通りだったからよかったんじゃないかな? 初めての料理で自分の味付けをしようとするのが一番失敗する原因だと思うし、次からもいきなり自分で作ろうとしないで、本の通り作れてから、ちょっとずつ手を加えて自分の味を見つければいいと思うよ」
「はい! 頑張りますっ!」
これでよかったのだろうか、とルシードは頭を悩ませる。まさか毎回コメントしなければならなくなったら大変なことになってしまいそうな予感さえある。できれば今回で終わりにして欲しいものだ、とも。
「むぅ、私も負けません。次は勝ってみせます」
そこで出たセフィーリアの勝ち負け発言に、ルシードはここしかないとばかりに口を開く。
「セフィ、料理に勝ち負けを求めちゃダメだよ。俺は料理は楽しく食べられればそれでいいんだ。勝ち負けにこだわるなら、次からはコメントしないことにするよ」
「う、わかりました。で、でも、美味しくできたら褒めてくださいね」
「わ、私もです!」
「もちろん、ちゃんと美味しいことは伝えるよ」
ニッコリ笑い、付け加える。すべては上手くいった。
「ふふっ、上手くやったわね」
「はい、なかなかの立ち回りでした。僕も見習いたいと思います」
ルシードは前方の二人に睨みを利かせ、余計なことは言うな、と無言で釘を刺す。
「ふふっ、それではお昼を終えたあとは少し休憩を取って、そのあと広場を借りしてお互いの戦力確認といきましょう」
「ああ、そうしよう」
ルシードは気分よく、残った料理を口へと運ぶのであった。




