第二話⑤
その日はまともに仕事が出来なかった。
途中で部長に帰った方がいいんじゃないかと言われたが、この状態で一人でなんていたくなかったから会社に残らせてもらった。
でも仕事に集中できず、頭の中は志保との思い出とあのアプリが駆け巡っていた。
何で志保が死ななければならなかったの…
ただの携帯ゲームじゃないの?それが何で…
答えは出てこない。
そんな私を心配して高宮が時々声をかけてくれた。
そんな一日を過ごし、会社を出ようとした時に携帯が鳴った。
高宮からだ。
「もしもし…」
「お疲れ。田沼もう帰っちゃった?」
「今会社出るとこだけど…」
「んじゃそこで待ってて。すぐ降りる」
そう言うと電話は切れた。
暫くしてエレベーターから高宮が降りてくる。
「お待たせ。田沼が暇なら飲みに誘おうと思ってたんだけどいなかったから慌てて電話したんだ。」
そう言って笑う。
電話…そうだ、ショップへ行かなければ…
その事を思い出し、高宮に告げると高宮はショップへ一緒に行くと言った。
多分志保のことがあって気を遣ってくれてるのだろう。
私は頷くと一緒にショップへ向かった。
どうやって店員に説明して交換してもらおうか歩きながら考えていた。
アプリが消せなくて怖いので交換してほしいと言っても店員だって困るだろうし、交換してもらえないだろう…
ショップについても黙ったままだった私の代わりに携帯の調子が悪いのだと高宮が説明してくれた。
時折「そうだよな?」と振られた事にだけ「うん」と返事をする。
結局高宮がいたおかげで携帯も交換してもらえた。
「ありがとう…」
「何が?」
「携帯…説明してくれて…」
「ああ。気にすんな。」
そう言って笑った高宮と共に近くの居酒屋に入った。
居酒屋に入るとさっき交換してもらった携帯をいじる。
アプリは消えていた。その事を報告しようと手帳を取り出し昨日教えてもらった山田さんのアドレスを打ち込む。
そして携帯を交換したらアプリが消えた事、志保の事を打ちこみ送信した。
返事はすぐにきた。志保の事に対するお悔やみの言葉とアプリが消えた事で安心したとの事だった。
返事をまた返そうか悩んだが、高宮もいるので携帯をそのままテーブルに置いた。
「携帯どう?サクサク動く?」
「ああ、うん。」
「俺もこの間機種変したばっかなんだよ。その前のスマホは初めて持ったやつだったからさ、キャッシュの削除が必要なんて全く知らなくて携帯重くなっちゃってショップ持ち込んだんだけどダメでさ…最初にそういう事教えてほしいよなー」
「そうだね。」
明るく振舞ってくれる高宮に少しほっとする。
一人で黙っていると志保とあのアプリの事しか考えられないからだ。
それでもやっぱり会話が途切れるとその事を思い出した。
「おーい、聞いてるか?」
いつの間にかトイレから戻ってきていた高宮が何かを話していたらしい。
「あ、ごめん…聞いてなかった…」
「やっぱり。もうすぐ終電だからそろそろ帰ろう?」
もうそんな時間なのかと携帯を手にする。
「ああ、本当だ。そろそろかえ…」
帰ろうかと言おうとしたが言葉が出てこなかった。
携帯の画面にあのアプリがあったからだ。
途端、震えだす身体。
震えを抑えたかったのか自分を守りたくてそうしたのかわからないけれど、両腕で自分を抱きしめるようしていた。だが、結局震えは止まらない。
「おい…顔色真っ青だぞ…大丈夫か?」
高宮が心配そうに私の様子を窺っている。
だが、それに答える余裕がない。
「どうして…」
どうしてあのアプリが…消えたはずなのに…
ダウンロードなんてしてないのに…
「病院行くか!?」
その言葉にフルフルと頭を振る。
病院に行ったところでこの不安や恐怖は拭えない。
「うーん…送ってこうか?俺その後タクシーで帰ればいいし。」
その言葉にまた頭を振る。
怖くて一人で家に帰るなんてできない…何が起きるかわからない…
怖い…どうすれば…
「帰れない事情があるのか?それとも帰りたくない?」
事情と言えば事情だし、帰りたくもない。
黙ったまま震えている私に高宮は言った。
「俺のうちくるか?」
その言葉に頷く。
普段なら付き合ってもいない男女が二人っきりで家に帰るなんてとか考えるところだけど今はそんな事よりも恐怖が勝っていた。
私が頷いた事に高宮は困ったように笑った。




