↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話集

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

205/210

ポーションの効果

 効いているのかどうかも分からないまま、ハルは一本目のポーションを空にすると、間髪入れず次の瓶の栓を抜き、腕の中にある光へ惜しげもなく注ぎ続けた。


 透明な液体は淡い光へ触れると、その表面を伝って零れ落ちるのではなく、まるで乾ききった土へ水が染み込んでいくように、吸い込まれるようにして消えていく。それが回復している証拠なのか、それともただ取り込まれているだけなのかは分からなかったが、今は確かめている時間さえ惜しく、ハルは次々と瓶を空にしていった。


 一本、二本、三本。


 怪物がバリアの外側へ纏わりつき、濁った身体を何度も押しつけてくる中、ハルはただ目の前の光だけを見つめながらポーションを注ぎ続け――やがて、ほんの小さな変化に気づいた。


 「……あれ?」


 消えそうなほど弱くなっては、また光る。


 その繰り返し自体は変わっていない。


 けれど先ほどまで、ほんの一瞬だけ光っては長く暗くなっていたはずなのに、今は明るく輝いている時間の方が、少しずつ長くなっているように見える。


 「光ってる時間……増えてない?」


 その一言に、リムとコウが同時に反応した。


 「続けろ!」


 リムはそう言うなり自分の鞄へ手を突っ込み、持っていたポーションを取り出して栓を抜く。コウもすぐさまハルの手元に並べられていた瓶を一本掴み、三人は確かな効果があると信じて、残されたポーションを次々と光へ注ぎ込んでいった。


 考えるより先に手を動かし、一本空になれば次を開け、それもなくなれば別の瓶へ手を伸ばす。


 そうして手持ちのポーションをすべて使い切るまでにかかった時間は、わずか数十秒ほどだった。


 最後の一滴が光の中へ吸い込まれ、空になった瓶をハルが下ろす。


 その時には、もう誰の目にも変化は明らかだった。


 明滅していない。


 今にも消えてしまいそうだった淡い光は、まだ決して強いとは言えないものの、途切れることなく一定の輝きを保ち、ハルの両手の中を柔らかな明かりで照らしていた。


 「……回復、したのか?」


 コウが確かめるように呟く。


 その声が聞こえたかのように、光がふるりと震えた。


 三人の視線が一斉に集まる。


 そして――。


 『……あり……がとう……』


 か細い声が聞こえた。


 先ほど森の中で聞いた時よりも近く、確かにハルたちへ向けられていると分かる声だったが、それでもまだ途切れ途切れで、一つの言葉を紡ぐことさえ苦しいのだと伝わってくる。


 『これで……すこし……なら……』


 光が弱く揺らぐ。


 『……君……たち……にげ……』


 そこで、声は途切れた。


 光そのものは消えなかったものの、言葉を発するだけで力を使い果たしてしまったかのように輝きが少し弱まり、再び静かになってしまう。


 「……まだ足りないのか」


 リムはすぐに自分の鞄へ手を入れた。


 だが、いくら探っても指先に触れるのは使えそうにない道具ばかりで、先ほどまで入っていたポーションの瓶は、もう一本も残っていない。


 「……ここまでか」


 悔しそうに呟きながら、リムが空になった鞄から手を抜く。


 その横では、ハルがまだ諦めずにポシェットの奥をがさごそと探り続けていた。


 「何か……何かないかな……」


 いつもなら必要なものをすぐ取り出せるように整理しているつもりでも、今欲しいのは普段なら薬として数えることすらないような、何か別のものかもしれない。ハルは片手で光を抱えたまま、もう片方の腕をポシェットの奥深くまで突っ込み、使えそうなものが残っていないか必死に探していく。


 その様子を見たコウも、ふと思いついたように自分の腹へ目を落とした。


 「……待てよ。あの空間に何か入ってるかもしれねぇ」


 コウの腹にあるポケットは、ハルのポシェットと繋がっている。


 すぐさま短い翼を突っ込んで中を探り始め、ハルとコウは同じ収納の奥を、何か一つでも使えるものが残っていないかと必死に漁り続けた。


 ポシェットの中を探る指先に何かが触れるたび、ハルは一つずつ取り出して確認していったが、出てくるのは今この場では役に立ちそうにないものばかりだった。


 けれど、不思議と焦りはなかった。


 すぐそばでは怪物がバリアへ濁った身体を押しつけ、いつ破られるかも分からない状況が続いているというのに、先ほど起動したイヤーカフの感情安定機能がしっかり働いているらしく、怖くないわけではないのに、その恐怖が思考を邪魔してこない。


 むしろ――少し、冷静になりすぎている気さえした。


 (もっと、ちゃんと準備しておくんだったな……)


 今まさに怪物に追い詰められている最中だというのに、ハルの頭に浮かんだのは反省だった。


 エリアスだって、何かが起きてから必要なものを揃えようとしても遅いから、準備が一番大切なのだと何度も言っていた。それなのに、これだけポーションを持っていれば十分だろうとどこかで思っていた自分は、やっぱりまだまだだったらしい。


 (帰ったら、持ち物も一回全部見直そう。ポーションももっと必要だし、薬草もあった方がいいかも。それから――)


 そこまで考えて、さすがに今考えることではないような気もしたが、感情を抑えられているせいなのか、頭だけは妙にすっきりとしていて次々に反省点を拾い上げてしまう。


 (そうだ。これがどうにかなったら、セン爺のところにも行こう。ポーション、もっとたくさん譲ってもらわないと……)


 そして――。


 ハルの手が、ぴたりと止まった。


 (……セン爺?)


 そこまで考えたところで――ハルの手が止まった。頭の中に浮かんだその名前が、何か別の記憶を引っ張り出してくる。


 セン爺。


 ポーション。


 薬。


 そして――。


 「あっ!!!! 緊急用!!!」


 突然の大声に、隣にいたリムがびくりと肩を揺らし、同じように収納を探っていたコウまで勢いよく顔を上げたが、ハルには二人へ説明している余裕などなかった。


 「あったはず……絶対、どこかに……!」


 今度は探すものが分かっている。


 ハルはポシェットの奥を夢中で探り、いくつもの荷物を掻き分けていくうちに、ようやく指先が記憶にある小さな瓶へ触れた。


 「あった!」


 勢いよく引っ張り出した手の中にあったのは、一本のポーションだった。


 以前、ハルが魔物に襲われていたセン爺を助け、その小屋へ一晩泊めてもらった時のこと。翌朝、セン爺は旅先で何かあった時に使えと、いくつもの薬草や薬をハルに持たせてくれており、その中に一本だけ、ほかとは明らかに違う瓶が混じっていた。


 小さな瓶に貼られたラベルには、ただ一言。


 『緊急用』


 それがどれほど貴重な薬なのか、どんな傷や症状に使うものなのか、ハルには詳しいことまでは分からない。ただ、セン爺がわざわざ普段の薬とは分けて「緊急用」として持たせてくれたものだから、本当にどうしようもなくなった時まで使わない方がいいのだろうと思い、今日までずっとポシェットの奥へしまっていた。


 瓶の中を満たしている液体は、一般的なポーションとはまるで違う、少し曇った琥珀色をしている。


 しかも取り出してみれば、その液体そのものが、ごくわずかに光を帯びているようにも見えた。


 けれど、ハルは迷わなかった。


 今が、その『緊急用』を使う時だ。


 「これなら……!」


 瓶を握ったまま親指で栓を弾くように開けると、ハルは中身を惜しむことなく、腕の中にある淡い光へ一気に注いだ。


 曇った琥珀色の液体が光へ触れる。


 その瞬間だった。


 「――っ!?」


 ハルは反射的に目を細めた。


 先ほどまで弱々しく輝いていた光が、まるで失っていた力を一気に取り戻したかのように膨れ上がり、三人の顔も、足元も、それどころか周囲を覆うバリアの内側までも白く染め上げるほどの眩い光を放ち始めた。

ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

https://ncode.syosetu.com/n3980kc/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。