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【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話集

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リムとの約束

 「……うお? あっ……え?」


 最初に声を漏らしたのはハルだった。


 助けを求める声が聞こえ、目の前には正体の分からない巨大な魔物がいるという、一刻を争う状況だというのに、頭の中では今までの出来事がものすごい勢いでひっくり返っていく。


 「どういうこと? じゃあ、これ……最初から試験だったってこと?」


 今まで一緒に毒草について調べ、草原を歩き、泥だらけになりながら森までやってきた少年が、実は自分たちの試験官だった。


 あまりに予想外の事実に、ハルの口から出てくるのはそんな言葉ばかりだった。


 隣にいたコウも負けず劣らず混乱しているらしく、何度かリムとハルを交互に見たあと、妙に大きく頷いた。


 「お、おう! いやー……なんつーか、俺もな? ちらっとそうなんじゃねぇかと思ったような、思わなかったような……」


 どう考えても今初めて知った者の反応だった。


 そんな二人を前に、リムは呆れたように眉間を押さえる。


 「お前らなぁ……」


 今はそこを説明している場合ではない、と言いたげに大きく息を吐くと、すぐに表情を引き締めた。


 「試験のことは後でちゃんと説明する。だから今は、とにかく街へ戻ってくれ。俺一人なら何とかなるはずだし、お前たちを守りながら動くより、その方がずっとやりやすい」


 そこまで言われてしまえば、ハルにも反論しづらかった。


 ハルとコウは顔を見合わせる。


 リムが本当にAランク冒険者で、自分たちの試験官を任されるほどの実力者なのだとすれば、ここに残るより言われた通り街へ戻った方がいいのかもしれない。


 けれど――だからといって、リムを一人だけ残していくのも心配だった。


 いくら強いと言っても、相手が何者なのかさえ分かっていない。先ほどリム自身が「あんなものは見たことがない」と言っていたのだから、Aランク冒険者なら絶対に安全だという保証もないはずだ。


 とはいえ、自分たちが残ればリムの足手まといになるという言葉も、おそらく正しい。


 それに、街へ知らせることだって必要だ。


 どうしたら――。


 そこまで考えたところで、ハルの頭に一つの考えが浮かんだ。


 「……ねえ、リム」


 「ん?」


 「僕たちが足手まといになるっていうのは、分かってる」


 悔しいけれど、そこを否定するつもりはなかった。


 「でも、街へ知らせに行くのは、別に僕たちじゃなくてもいいよね?」


 リムがわずかに眉を上げる。


 「……というと?」


 ハルは自分のマントどめへ視線を落とた。


 「僕、POTENと繋がる魔導通信機を持ってるんだ」


 そう言いながら、今度は少し早口になっていく。


 「これを使ってPOTENハウスにいる誰かに連絡して、代わりに冒険者ギルドへ報告に行ってもらう。そうすれば、僕たちがここから街まで戻るよりずっと早く知らせられるよ」


 それだけではない。


 ハルは耳元へ手を伸ばし、ツムギから渡されていたイヤーカフへ触れた。


 「それに僕には、ツムギお姉ちゃんが作ってくれたお守りもある

 これは三回まで、短い時間だけど僕の周りにバリアを張れるんだ。リムが僕の近くにいれば一緒に範囲へ入れるし、戦うんじゃなくて様子を見るだけなら、少なくとも今よりもう少し安全に詳しく状況を確認できると思う」


 リムはすぐには答えなかった。


 ただ先ほどまでとは少し違う目で、目の前のハルをじっと見つめている。


 無謀に「助けに行きたい」と言っているわけではない。


 自分では敵わないことを認めた上で、連絡手段と守りの手段を組み合わせ、自分に何ができるのかを考えている。それならば――。


 リムはほんのわずかな間だけ考え込んでいたが、やがて迷いを振り切るように顔を上げた。


 「よし、分かった」


 先ほどまでとは違い、その声にはもう迷いがなかった。


 「悪いが、すぐにツムギさんへ連絡を取って、冒険者ギルドへの伝言を頼んでくれ。俺たちがいる大体の方角と場所、それから『Aランク冒険者のリムが緊急応援要請を出している』と伝えてもらえば、ギルドならすぐに動いてくれるはずだ」


 そこまで一気に指示を出すと、リムは再び遠くで蠢いている巨大な怪物へ視線を向けた。


 「待っている間に、俺たちはあいつへ近づく。正直に言えば、そのバリアがあるのはかなり助かるな」


 そう言いながらハルの持つお守りへ目を向け、少し考えるように眉を寄せる。


 「ただ、それって俺が借りて使うことはできないのか? それと三回使えるって言っても、一回につきどれくらい保つ?」


 「一回、十分くらい」


 ハルはすぐに答えた。


 「でも、リムに貸すのは無理だよ。僕専用の魔道具だから、僕が一緒にいないと使えないんだ」


 「なるほどな……」


 リムは短く答えると、今度はハルだけでなくコウも含めて二人の顔を順番に見た。


 「分かった。なら悪いが、一回分のバリアを俺に貸してくれ。その十分間だけ、お前たちにも一緒に来てもらう」


 ハルが小さく頷こうとしたところで、リムは片手を上げてそれを制した。


 「ただし、条件がある」


 その声が一段低くなる。


 「最初の一回は、あの怪物へ近づいて状況を確認するために使う。もしその間に何かが起きて、二回目のバリアを使わなきゃならない状況になったら――その瞬間に調査は終わりだ」


 リムはハルの目を真っ直ぐ見据えた。


 「何が見えていようが、誰かの声が聞こえようが、俺が何をしていようが関係ない。すぐに退避を始めろ」


 ハルの表情がわずかに強張る。


 それでもリムは言葉を緩めなかった。


 「それから、三回目は絶対に俺のために使うな」


 「でも――」


 「最後まで聞け」


 反射的に口を挟もうとしたハルを、リムは静かに制する。


 「三回目は、お前自身の命に危険が迫った時だけ使え。それは調査のためでも、俺を助けるためでもない。お前とコウが生きてここから帰るための、最後の一回だ」


 ハルは何も答えられないまま、耳元のお守りをそっと触る。


 もし目の前でリムに何かが起きても、自分だけ逃げろと言われている。その約束が自分に守れるのかと考えれば、簡単に頷くことはできなかった。


 けれど、リムはそんなハルの迷いまで見透かしたように、さらに念を押す。


 「俺に何があっても、だ」


 その言葉には、Aランク冒険者として数え切れないほど危険な場面を経験してきた者の重みがあった。


 「どんな状況になっても、この三つを守れるなら一緒に来てほしい。守れないなら、ここで別れて街へ戻ってくれ」


 それはお願いの形をしていたが、決して交渉ではなかった。


 ハルを同行させる以上、絶対に譲るつもりのない条件なのだと、その真剣な眼差しだけで十分に伝わってきた。

ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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