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【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話集

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森に巣食うもの

 三人は慎重に周囲を警戒しながら、不毛となった斜面をゆっくりと登っていった。


 見渡す限り、草花は茶色く枯れ、枝だけになった木々が無数に立ち並んでいる。本来なら森を彩っていたはずの緑はほとんど失われ、足元に広がるのは黒ずんだ土と湿った泥ばかりだったが、そんな景色の中でも、ところどころにだけ鮮やかな緑色が目に飛び込んでくる。


 ラッカーとエキセモアだった。


 二種類の植物だけは、この荒れ果てた土地でも力強く根を張り、生き残っている。数で言えば、やはりラッカーの方が少し多く、しかも不思議なことに、その周囲だけは土にわずかな潤いや色が残っているようにも見えた。


 ハルはしゃがみ込み、一本のラッカーへそっと視線を落とす。


 「すごい生命力だね」


 思わず感心したように呟く。


 「こんなに植物が枯れちゃってる場所でも、ラッカーとエキセモアだけはちゃんと生き残ってる。それに……やっぱりラッカーの方が少しだけ多いみたい」


 少しだけ苦笑しながら辺りを見渡すと、コウも納得したように頷いた。


 「確かにな」


 近くのラッカーを足で軽く避けながら続ける。


 「こんな場所でも平気で育つんだったら、あの草原で異常なくらい増えてたのも納得できるぜ。普通の草が弱っていく場所ほど、こいつには住みやすいんだろうな」


 リムも周囲へ視線を巡らせながら、小さく笑う。


 「こいつら、本当にしぶといんだよな」


 足元のエキセモアを指差す。


 「エキセモアは食えるから、旅先で食料が尽きた時なんかは結構助けられることもあるし、薬にもなるから重宝するんだけど……」


 そこで隣に生えているラッカーへ目を向けると、露骨に顔をしかめた。


 「ラッカーだけは勘弁だなぁ……」


 思い出しただけで嫌そうに肩をすくめ、痒くもない腕をぽりぽりと掻く。


 「一回かぶれたら、しばらく痒くてたまらねぇんだよ」


 その仕草があまりにも大げさで、ハルは思わず笑ってしまった。


 けれど笑いながらも、ふと違和感が胸をよぎる。


 「そういえばリムって……」


 首を傾げながら口を開いた。


 「僕たちよりずっと色んなこと知ってるよね。植物のことも魔物のことも、それに森の異変もすぐ気づいたし……なんだか長年冒険を続けてきた熟練の冒険者みたい」


 その一言に、リムの肩がぴくりと揺れた。


 「お、おう?」


 一瞬だけ言葉に詰まり、どこか焦ったように笑う。


 「まあ、その……俺、小さい頃から頼れる親がいなかったからさ」


 照れ隠しをするように頭をかく。


 「生きていくためには、自分で覚えるしかなかったんだよ。だから、自然といろんなことを経験したってだけ」


 ハルはその言葉を聞いた瞬間、自分が余計なことを聞いてしまったのではないかと気づき、慌てて両手を振った。


 「ご、ごめん!」


 申し訳なさそうに眉を下げる。


 「そんなつもりじゃなくて……嫌なこと思い出させちゃったよね」


 どうしたらいいのか分からず、おろおろと視線を泳がせるハルを見て、リムは一瞬きょとんとしたあと、思わず吹き出した。


 「いやいや!」


 笑いながら大きく手を振る。


 「そんなに気にしなくていいって。本当に昔の話だし、今はちゃんとこうして暮らせているんだからさ」


 そう言って笑うリムの表情には、無理をしているような暗さはなく、どこか吹っ切れたような穏やかさが浮かんでいた。


 その笑顔を見て、ハルもようやく胸をなで下ろし、小さくほっと息をついた。


 その後も、張りつめた空気の中を慎重に歩きながらも、ときおり交わされる他愛のない会話のおかげで、重苦しい森の雰囲気はほんの少しだけ和らいでいた。


 そんな時間は、不意に終わりを告げる。


 上空で警戒を続けていたコウが、翼を大きく羽ばたかせながら低空まで降りてくると、普段とは違う鋭い声で二人へ呼びかけた。


 「おい!」


 その一声だけで、場の空気が一変する。


 「無駄話はそこまでだ。どうやら……着いたみたいだぞ」


 コウは翼を止めることなく空中へ浮かび、枯れ木が密集する森の奥を鋭く睨み続けている。


 その表情を見たハルとリムも、自然と笑顔を消し、コウの視線を追うように森の奥へ目を向けた。


 枯れた木々の隙間、そのさらに奥。


 遠く離れているにもかかわらず、一目で異質だと分かる巨大な何かが、ゆっくりと脈打つように震えていた。


 それは形だけ見れば、確かにスライムによく似ている。


 半透明のはずの身体は黒く濁り、粘液のような表面はどろりと波打ちながら、時折「ぶるん」と大きく震えている。しかし、その巨体は木々と見間違えるほど巨大で、周囲へ立ち込める禍々しい魔力が、普通の魔物とはまるで違う存在であることを物語っていた。


 まるで森そのものが、黒い瘴気をまとって呼吸しているようだった。


 ハルは思わず息を呑む。


 「……なんだ、あれ」


 声を潜めながら呟く。


 「見た目はスライムみたいだけど……スライムじゃない。なんというか……見てるだけで嫌な感じがする」


 胸の奥を押し潰されるような感覚に、無意識のうちにポシェットの肩紐を握りしめていた。


 隣のリムも目を見開いたまま、その巨大な影を見つめ続けている。


 「俺も……あんなのは初めて見る」


 信じられないものを見るように眉をひそめる。


 「まさか、スライムが大量に合体したのか……?」


 その言葉に、ハルは驚いたようにリムを振り返った。


 「えっ、スライムって合体するの?」


 「するぞ」


 リムは視線を巨大な魔物から外さないまま、小さく頷いた。


 「合体もするし、逆に分裂することもある。スライムって種類がものすごく多くてな、見た目が可愛くて人懐っこい奴は、ペットとして飼われてる個体も結構いるだろ?」


 少しだけ表情を和らげたものの、それも一瞬だった。


 再び目の前の巨大な存在を見据える。


 「でも、その一方で危険な種類もいる。強い酸を出す奴や、獲物を溶かして取り込む奴、人間じゃ相手にならないスライムだって珍しくない」


 ゆっくりと息を吐く。


 「もし……あれが危険なスライム同士の合体だとしたら、ちょっとどころじゃなくまずい相手かもしれないな」


 その言葉を聞いた三人は、それ以上不用意に近づくことなく、その巨大な黒い魔物を静かに見据え続けていた。


 森を覆う静寂は変わらない。


 しかし今、その静けさの中心には、間違いなくこの異形の存在がいた。

ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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