POTENメンバーと毒草
少し遅くなりました。ごめんなさい
ハルは返事をすることもなく、じっと考え込んでいた。
ツムギの話を頭の中で何度も組み立て直しながら、アークノートに書き込んだ情報と照らし合わせていると、ツムギが「あとはね」と思い出したように口を開く。
「さっきの話とも少し似てるんだけど、前いた星では同じ野菜ばかり育て続けると、だんだん出来が悪くなるって聞いたことがあるよ。だから畑では、一つの野菜だけを作り続けるんじゃなくて、違う野菜を順番に育てたりして、土を休ませるんだって」
その何気ない一言に、ハルはゆっくりと顔を上げた。
「やっぱり問題は、採りすぎみたいな人が原因の部分もあるけど、こう聞いてると、土壌そのものが変わっちゃった原因も大きそうだよね」
ツムギも「うん」と頷きながら、テーブルに置かれたノートを覗き込んだ。
「それにしても、エキセモアって素材としてそんなに価値があるんだね。高く売れるなら、みんな欲しくなっちゃうのも分かる気がするなぁ」
ハルは少しだけ考えてから首を横に振った。
「もちろん、それも理由の一つだと思う。でもね、それ以上に大きいのは、ラッカーを採る人がほとんどいないことなのかもしれない」
その言葉に、ツムギは目を丸くした。
「えっ? そんなに人気がないの?」
ハルは「ちょっと待ってね」と言いながらポシェットへ手を入れ、中から二種類の植物を取り出してテーブルへ並べる。
一つは鮮やかな緑色をしたエキセモア。
もう一つは、黒みがかった葉に細かな棘が並び、どこか近寄りがたい雰囲気をまとったラッカーだった。
ハルはラッカーを指差しながら説明を始める。
「これがラッカーなんだけど、葉っぱや茎から出る汁が肌につくだけで、ひどくかぶれちゃうんだ。それに見ての通り棘もあるから、採るだけでも結構大変なんだよ」
そっと葉の縁を指先で示す。
「しかも今のところ使い道も見つかってなくて、依頼でもない限り、わざわざ採ろうって人はほとんどいないみたいなんだ」
少し寂しそうに笑う。
「ギルドへ報告のために持って行っても、そのまま全部焼却処分されちゃうらしいしね」
ツムギとナギ、それにエドも興味深そうにラッカーを見つめていた。
しばらく誰も口を開かなかったが、最初に沈黙を破ったのはナギだった。
「ねえねえ!」
ぱっと顔を上げると、いつもの明るい笑顔を浮かべる。
「だったらさ、私たちでラッカーの使い道を考えちゃえばいいんじゃない?」
みんなの視線がナギへ集まる。
「多少採るのが大変でも、『これが欲しい!』って思えるくらい価値があるって分かれば、エキセモアと同じくらい採ってもらえるようになるかもしれないじゃない!」
その一言に、エドの表情がぱっと明るくなった。
「ナギ、それだ!」
思わず椅子から少し身を乗り出す。
「確かにその通りだよ。この世に何にも使えないものなんて、きっと存在しないはずなんだから」
ラッカーを手に取り、まじまじと眺める。
「初めて見る草だけど、きっと何かには使えるよ。ほら、とろろだって美味しいけど、生のまま触るとかぶれるだろ? でもちゃんと調理すれば立派な食材になるし、もしかしたらラッカーにもそういう扱い方があるのかもしれない」
その話を聞いていたツムギも、嬉しそうに何度も頷いた。
「それ、すっごく面白そう!」
目を輝かせながらラッカーを覗き込む。
「みんなでラッカーを使って、いろんなものを作ってみようよ。最近は依頼や新商品の準備ばっかりで、こういう『まずは作ってみよう!』って時間があんまりなかったから、なんだかワクワクしてきちゃった」
「いいね、いいね!」
エドもすっかり乗り気だった。
「みんな忙しいだろうし、例えば三日間だけって期間を決めてさ、その間に自由に研究してみるのはどう? 料理でも薬でも魔道具でも、とにかく思いついたものを片っ端から試してみようよ!」
「さんせーい!」
ナギは元気よく手を挙げる。
キッチンで後片付けをしながら話を聞いていたバルドも、振り返って豪快に笑った。
「もちろん、わしも参加するぞ!」
木べらを片手に掲げながら胸を張る。
「こういう未知の素材を調べるのは、ものづくりの醍醐味じゃからのう」
食卓は一気に賑やかな空気へ包まれた。
ほんの数分前まで「厄介な毒草」としか思われていなかったラッカーが、今ではみんなの目に「まだ知られていない素材」として映り始めている。
それはPOTENらしい発想だった。
困りごとを見つけると、「どうやって解決しよう」ではなく、「どうやって面白くしよう」と考え始める。
その空気に触れていると、不思議と難題ですら少し楽しそうに思えてくる。
そんな仲間たちを見渡しながら、ハルは自然と笑みを浮かべた。
「みんな、ありがとう!」
嬉しそうに頭を下げる。
「僕は先に草原の土壌を調べてくるよ。ぬかるみの原因が分かれば、ラッカーが増えた理由ももっと見えてくるかもしれないし」
ポシェットをぽんと叩きながら続ける。
「その時に研究用のサンプルとして、ラッカーもたくさん採ってくるね!」
「頼んだ!」
「任せたよ!」
「気を付けてね!」
次々に返ってくる声へ笑顔で頷きながら、ハルは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
草原の異変を追う冒険者と、新しい価値を生み出そうとするものづくりチーム。
気づけば、いつものように二つの道は一つに繋がり、新しい挑戦が静かに動き始めていた。
ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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