薬草と毒草のカラクリ
しばらく考え込んでいたハルだったが、ふと何かに気づいたように顔を上げる。
「僕思うんだけどさ」
アークノートを引き寄せながら、頭の中で整理するようにゆっくりと言葉を続けた。
「そもそもエキセモアは薬草だから、みんな採取するよね。だから数が減るのは当たり前だと思うんだ。でもラッカーは触るとかぶれるし、できれば誰も近づきたくない植物でしょ?」
ノートに書かれたラッカーの項目を指差す。
「だから放っておかれて、そのまま増えたんじゃないかな。実際、こうして依頼になってるのも、放置された結果だと思うし」
リムはその考えを聞きながら何度か頷いた。
「確かに、その理屈はわかる」
そう言いながら椅子にもたれ、腕を組む。
「でも、それだけなら今までも同じだったはずなんだよな」
ハルとコウが顔を上げる。
「この依頼定期的にあるから、俺は何回か受けたことがあるんだけど、ここまで酷くなってるのは初めて見たんだ」
机の上に置かれたラッカーのサンプルを眺めながら、リムは少し考えるように続けた。
「多少増えることは今までもあった。でも今回みたいに、一面を埋め尽くすほど増えたことはなかったはずなんだ」
その言葉に、コウも納得したように羽を組む。
「なるほどな……。だとしたら、放置されてたってだけじゃ説明がつかねぇか」
しばらく机の上の資料を見回しながら考え込み、
「普段から放置されてたのに急に増えたんなら、採取以外に何か別の条件が変わった可能性もあるよな」
そう呟いた。
ハルもアークノートへ視線を落とす。
放置されていたから増えた――それは間違いなく理由のひとつだと思う。
でも、それだけで説明できるなら、もっと前から同じような状況になっていてもおかしくない。
だとしたら何が違うのだろう。
何が、この草原で起きたのだろう。
ハルは新しいページを開くと、小さくペンを走らせた。
《最近変わったこと》
どうやら、本当に探すべきものが少しずつ見え始めてきたきがした。
ハルはアークノートへ視線を落としたまま、ぶつぶつと考えを整理し始める。
「例えば、エキセモアが大量に必要になる出来事があって、この辺りの薬草が根こそぎ採取されたとか……」
ペン先で机をとんとんと叩く。
「それか、エキセモアにとってこの草原が芽を出しにくい環境に変わったとか」
思いついたことを次々と口にしながら、ノートへ書き込んでいく。
すると、その様子を眺めていたリムがぽつりと呟いた。
「……もしくは、その両方か」
その言葉に、ハルの手が止まる。
次の瞬間、がばっと顔を上げた。
「リム!」
机に身を乗り出す。
「そうかも!」
目を輝かせながら続けた。
「いや、きっとそうだよ!」
頭の中で散らばっていた情報が、少しずつ繋がり始める。
「何か一つだけの決定的な原因じゃなくて、いろんな原因が少しずつ重なった結果なのかもしれない!」
ノートを開きながら興奮気味に言葉を続ける。
「薬草が減った理由があって、毒草が増えやすくなった理由もあって、それが何年も積み重なった結果が今の状態なんじゃないかな」
コウも「おお」と感心したように頷いた。
「確かに、その方が自然かもしれねぇな」
リムはそんな二人の様子を見ながら、ふっと小さく笑う。
「そうだな。そうかもしれない」
そして机の上のノートへ視線を落とした。
「じゃあ、その前提で考えてみよう」
穏やかな声で問いかける。
「もし色々な原因が重なった結果だとしたら、どんな理由が思いつく?」
その問いに、ハルとコウは再びノートへ向き直った。
しばらく考え込んでいたコウだったが、不意に何かを思いついたように顔を上げる。
「例えばよ」
翼を組みながら、机の上のエキセモアのサンプルを指した。
「エキセモアは実で増えるんだろ?」
「うん」
ハルが頷く。
「実が食べられるってことは、鳥とか動物に食べてもらうためなんじゃねぇのかな。食べてもらって、そのあと別の場所で種を落としてもらう。そうやって自分の仲間を増やしていくんだろ」
コウはそう言いながら、エキセモアの項目を指先でとんとんと叩いた。
「だけどよ、その前に若葉や根っこを根こそぎ採られちまったらどうだ? 実をつける前に採られ続けるなら、増えるに増えられねぇよな」
ハルの目が少しずつ大きくなる。
「それにラッカーは根っこで増えるんだろ? しかも根が頑丈で、途中で切れたり地面に残ったりする」
昨日の草原を思い出しながら、コウは続けた。
「薬草を採るついでに少し抜かれたとしても、根が残りゃまた生えてくる。むしろ時間が経つほど、どんどん増えていくんじゃねぇか?」
資料室に小さな沈黙が落ちた。
ハルはしばらくノートを見つめていたが、次の瞬間、勢いよく顔を上げる。
「コウ!」
思わず身を乗り出した。
「僕もその通りだと思う!」
慌ててアークノートへ書き込みながら、興奮した様子で続ける。
「エキセモアは増える前に採られて減っていくのに、ラッカーは少しくらい抜かれても根が残って増え続ける。もしそれが何年も続いていたら、少しずつ数の差が広がっていってもおかしくないよ!」
ペンを走らせる音が速くなる。
リムはそんな二人のやり取りを黙って聞いていた。
口を挟むことはせず、ただ小さく頷きながらノートへ視線を落とす。
まるで二人が自分たちの力で答えへ辿り着くのを、静かに見守っているようだった。
ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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