作業効率
ハルはしゃがみ込み、草むらをかき分けながら、一本ずつ丁寧に毒草を見分けていく。
棘の形、葉脈の色、茎の模様。
似た草も多いが、薬草採集に慣れてきていたハルの目は、少しずつ違いを拾い上げていた。
「これが毒草で……こっちは薬草」
小さく確認するように呟きながら、毒草だけを根ごと引き抜いていく。
その後ろでは、コウが抜かれた跡地をぴょこぴょこと移動しながら、今度は状態の良い薬草を選んで回っていた。
「お、これは良さそうだな」
色艶の良い薬草を見つけるたび、器用に摘み取り、お腹のポケットへしまっていく。
ハルはそんな様子を見て、少し嬉しそうに笑った。
「薬草、いっぱい採れそうだね。きっとみんな喜んでくれるよ!」
するとコウが、薬草を抱えながら頷く。
「セン爺にもお裾分けしたいよな。ああいうの、絶対喜ぶだろ」
それから、ふとハルの手元へ視線を向けた。
「……それより、お前大丈夫なのか? 毒草の汁とか飛んでるだろ。腕、ただれたりしてねぇか?」
ハルは自分のグローブを見下ろしながら、ぐっと指を握ってみる。
「うん。今のところ平気みたい」
表面には毒草の汁らしきものがついているが、手の中へ染み込んでくる感じはない。
「やっぱりこのグローブすごいね。ちゃんと毒草も弾いてる感じがする」
感心したように呟くと、コウは「へぇ」と感心しながらも、すぐに真面目な顔へ戻った。
「でもよー、時間経過で溶けてくるかもしれねぇし、油断するなよ?」
そう言いながら、自分もまた草むらへ顔を突っ込んでいく。
「うん、わかってる!」
ハルも返事をしながら、再び毒草へ手を伸ばした。
風が吹くたび、草原がざわざわと揺れる。
地道な作業だったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
黙々と毒草を抜き続けていると、不意にコウが羽をぱたつかせながら声を上げた。
「さすがに、そろそろ休もうぜー」
その声に、ハルははっと顔を上げる。
「……あれ?」
気づけば、太陽はずいぶん高い位置まで昇っていた。朝の涼しさはすっかり消え、じんわりとした熱気が草原を包み始めている。
「うわ、もうお昼!?」
思わず目を丸くする。
「つい夢中になっちゃってた……! すっかりお昼ご飯食べそこねてるね」
慌てて腰を伸ばしながら、ハルはえへへと苦笑した。
「よし、お昼にしよう!」
そう言って荷物へ向かいながら、心の中では少しだけ不思議な感覚を覚えていた。
(草むしりって……なんか無心になれるなぁ)
一本ずつ見分けて、抜いて、分けて。
単純な作業の繰り返しなのに、不思議と頭がすっきりしていく。
そんなことを考えながら、ハルは荷物の中からお弁当を取り出した。
包みを開けば、中にはバルド特製のサンドイッチと、甘い卵焼き、それから香草の効いた肉料理まで入っている。
「うわぁ……今日も豪華」
思わず頬が緩む。
ハルはさっそくサンドイッチにかぶりつき、幸せそうに頬をほころばせた。
「やっぱりバルドさんのお弁当、美味しいなぁ……」
そんなふうにほわほわしていると、向かいで薬草を整理していたコウが、ふと真顔になる。
「なぁ、ハル。俺、気づいちまったんだけどよ」
「ん?」
ハルが顔を上げると、コウは草原をぐるりと見回した。
「これだけやって、依頼範囲の……せいぜい百分の一くらいしか駆除できてなくねぇか?」
「……あ」
言われて、ハルも改めて周囲を見る。
確かに、自分たちなりにかなり頑張っていたつもりだった。
けれど、見渡す限り、まだ草原は毒草だらけだ。
コウはさらに続ける。
「しかもよ、いくら丁寧に根っこ掘ってるって言っても、多分ちょっとは残ってるだろ。これ、また普通に生えてくるぞ」
薬草をぽいっと袋へ入れながら、眉をひそめた。
「なんかやり方考えねぇと、終わりそうになった頃には最初の方がまた毒草だらけとか、普通にありそうなんだよなぁ」
その言葉に、ハルはサンドイッチを食べようとしていた手をぴたりと止めた。
「……確かに」
ぽつりと呟く。
「このままだと、コウの言ってる通りになるよね」
視線の先では、風に揺れる毒草たちがざわざわと音を立てていた。
「同じ作業を延々繰り返すのは、さすがに嫌だし……何か考えないと」
そう言いながらも、表情は少し難しい。
「でも、毒草だけ根絶して薬草は残すなんて……そんな都合のいいこと、できるのかな」
考え込むように視線を落とす。
頭の中では、いくつもの方法をぐるぐると試していた。
(いっそ薬草を先に全部抜いて避難させる……?)
(そのあと毒草ごと焼き払うとか……)
そこまで考えて、すぐに首を振る。
(いや、それも現実的じゃないよなぁ……)
量が多すぎる。
薬草を全部無事に移すだけでも、とんでもない手間だ。
ハルは小さく唸りながら、再び草原を見渡した。
風に揺れる毒草たちは、まるでこちらをあざ笑っているみたいに見えた。
ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
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