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【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話集

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別れの朝

 あれから数日。


 ハルとリュカがA級試験の書類にサインをしてから、街は変わらず動き続けているが、俺たちにとっては、ひとつの区切りが静かに訪れていた。


 出発の朝。荷物を整えていると、ハルがぱたぱたと駆け寄ってくる。


 「父さん、この傷薬、すごくよく効くから持っていって! あと、母さんの目薬も忘れないでよ?」


 「ああ、ありがとう。使わせてもらうよ」


 ハルはそれだけでは終わらなかった。ポシェットに手を突っ込み、次々と取り出してくる。


 「あとね、これはPOTENから! ブーツと盾と、あとバルドさんから差し入れのおやつ。結構量あるけど……持っていけるかな?」


 その様子に、ミナがくすっと笑う。


 「父さん、小さいけどアイテムボックス持ってるから大丈夫じゃないかしら? まだ少し余裕あったわよね?」


 「ああ。まだ少しなら入るな。……バルドさんの菓子はうまいからな、置いていく理由がない」


 そう言いながら、俺はコウと一緒に荷物をまとめていく。コウは器用に袋を押し込みながら、ふっと笑った。


 その光景を見て、自然と胸の奥があたたかくなる。


 (……やっぱりな)


 薄々気づいてはいたが——ハルはミナに似ている。誰かのことを思うと、放っておけない。あれこれと考えて、準備して、心配して。きっと、見えないところで何度も確認したんだろう。


 (立派になったもんだ)


 そう思うと、少しだけ誇らしくなる。


 (この分なら……時間はかかっても、試験はきっと乗り越える)


 確信に近い感覚が、胸の中にあった。


 荷物をひと通りまとめ終え、俺は顔を上げる。


 「……じゃあ、そろそろ行くか」


 ミナに声をかけると、当の本人はというと——


 「だからね、ちゃんと栄養のあるご飯を食べるのよ? あと、危ないと思ったら無理しないこと。とにかく安全第一だからね」


 ハルに向かって、いつもの調子で言い聞かせている最中だった。


 「ああもう、わかってるって」


 少し照れたように笑いながら、それでもちゃんと頷くハル。


 そのやり取りに、思わず小さく息をつく。


 (……どっちが子供だか)


 そう思った、その時だった。——コンコン、と玄関を叩く音が響く。


 「迎えに来たわよー!」


 扉の向こうから、ロザの声が明るく届いた。


 「今行くー!」


 俺はそう返すと、手早く荷物をまとめて外へと出る。


 家の前には、すでにロザたちの姿があった。見送りに出てきたハルはというと、


 「はい、これ! みんなの分!」


 手際よく袋を配りながら、アオミネやサイル、クロへと次々に渡していく。どうやら、さっきのバルドの差し入れらしい。


 中身を確認したクロが、ぱっと表情を輝かせた。


 「おお……これは、抹茶尽くしではないか! これは最高の旅立ちのおやつでござるーー!」


 珍しく声を張り上げるクロに、周りが思わず笑う。


 その様子を横目で見ながら、俺とハルは視線を交わす。


 「じゃあ、行ってくるな」


 ハルとコウに向かってそう声をかけると、ハルはぱっと顔を上げて、


 「いってらっしゃい!」


 と、いつもの調子で明るく手を振った。


 そのまま少し身を乗り出すようにして、


 「僕たちも、すぐに合格して、父さんたちに合流するよ!」


 と続ける。


 俺はその言葉に、にやりと口元を歪めた。


 「おう。だがな——お前達の合格より先に、俺たちが母さんの目を治して帰ってくるからな」


 少し挑発するように言うと、ハルの目がきらりと光る。


 「えー! じゃあどっちが早いか勝負だね!」


 コウはそんな二人を見て、くくっと喉を鳴らした。


 「ま、その間は俺が見張っとくからよ。安心して行ってこい」


 「頼んだ」


 短く返し、俺は背を向ける。


 ロザたちと並び、歩き出す。振り返らない——そのつもりだったが、


 「頑張ってねー!!」


 背中に飛んできた声に、思わず小さく笑みがこぼれた。


 村の出口まで歩き、そこで自然と足を止める。ここから先は、それぞれの道だ。


 「いってくる」


 それだけを残して、再び歩き出した。


 街道沿いを抜け、人の気配が少しずつ遠ざかっていく。やがて人気のない脇道へと入ると、自然と足取りもゆるみ、誰からともなく会話が始まった。


 サイルが心配そうに、


 「リュカとハルの試験官、最初は誰になるんでしょうね」


 と口にする。


 ロザは少しだけ考えるように視線を上げてから、


 「それならリュカはダンカン、ハルはリムよ」


 とあっさり答えた。


 その言葉にクロが小さく頷き、


 「それはまた実にぴったりな人選でござるな。リュカは基礎からみっちり叩き込まれるであろうし、ハルはリムの問いかけに気づけるかどうかが肝でござる」


 と静かに続ける。


 アオミネがくっと笑い、空気が少しだけ和らぐ。


 俺はそのやり取りを聞きながら、心の中で小さく息をついた。


 ……あいつは優しすぎる。それがどう転ぶか

 ふ、と口元が緩む。

 まあ、あいつなら……そこまで考えて、思わず小さく笑った。


 「……さて、そろそろ行くか」


 軽く肩を回しながら声をかけると、全員の空気がすっと切り替わる。


 アオミネが周囲を見渡しながら、


 「ここなら大丈夫そうだな」


 と低く呟いた。人気はなく、風が草を揺らす音だけが響いている。


 全員が自然と手首へと意識を向ける。


 「——コール・シグナ」


 ほぼ同時に声が重なり、次の瞬間、それぞれの手首に淡く光を帯びた銀色の輪が現れた。装飾のない、ただ静かに存在するだけのブレスレット。


 一瞬の静寂。


 そして——


 「——リターン・ステラリス」


 五人の声が重なった。


 空気がわずかに歪み、次の瞬間にはその場には誰の姿もなかった。まるで最初から何もなかったかのように、風だけが通り過ぎる静かな側道が残される。


 ——こうして、彼らは姿を消した。

ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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